シチュエーション
朝から心ここにあらず・・・頼姫は朝からうきうきと人待ち顔である。 頼の父は大河と山陽道と瀬戸内海を結ぶ交通の要衝を押さえて小さいながらも山城をかまえ一国を治めている。 頼姫は今年、数えで十五になった。上に総領息子である兄虎正と、隣国に輿入れした姉ゆうがおり、末娘としてのびのびと育てられた。 姫が落ち着かないのは、父の命で京に使わされていた、幼馴染で乳兄弟でもあるたきが帰ってくるからだ。 主家のために隠密に働く草の一族の出で、同年代で唯一の友達であるたき。 いつも自分のために、ここでは見られないような珍しい、美しい土産を携えてきてくれる。 頼姫は一生足を踏み入れることがないであろう京の様子を面白おかしく教えてくれるに違いない。 「・・・遅い」 京からの一行は一昨日国境を越えた、と先に馬で戻った兄から聞いたのに、いくらなんでも遅い。 本丸の私室で待つのに飽きてしまい、頼姫は城口まで迎えに出ることにした。 収穫の時期にあたる秋は城内に人影も少なく、絶好のお忍び日和である。 途中、兄に見つかるとしかられるので、兄の居室のある二の丸を避けるため山城の城壁沿いにつくられた石畳の通路を行く。 「・・・ぅ」 うめき声が聞こえたのは気のせいか。 「ぁ・・・若」 気のせいではない。しかも城内で「若」と呼ばれるのは兄だけだ。 一人歩きを叱られる、と頼姫はあわてて弓場の影に身を潜める。 そっとあたりを伺うと、城内ではなく城壁の外に、人の気配がある。以外に近い。 頼姫は息を詰めて射掛け窓からのぞいてみた。 そこには。 一段下の狭い足場に、兄がいた。 そして。兄の肩脱ぎにした逞しい上半身と城壁の大岩の間に、たきがいた。 兄が、たきの細い両手首を握って城壁に固定し、うしろから押しつぶさんばかりに密着しているのだ。 顔はたきのうなじにつけられているので、その表情は分からない。 たきの顔は上を向いているので、頬を真っ赤にして、泣いているのか、目が潤んでいるのが分かる。 ときおり、くぐもったうめき声がもれてくる。さっき聞いたのは、たきの声だったのだ。 頼姫も、夫婦が子を作るためにまぐわうことは、知識として知っていた。秘め事である、と聞いている。 まして、間近で、よく知っている2人だ。早くこの場を離れなければ・・・と思うが、足が動かない。 着物の端からのぞく、たきの白い胸元や足から、目が離せなかった。 兄がたきを抱き上げ、体勢を変える。 頼姫の視線に胡坐をかいた兄の男根が見えた。それは隆々とそそり立ち、天を仰いでいる。 かるがるとたきを男根の上に座らせると、その白い胸元に顔を埋めている。 たきもおずおずと兄の背に手を回し、身体を支えている。 「・・・動け」 兄の要求を、たきは嫌々をするように力なく首を振って、拒絶している。 「たき」 兄の声は低く抑えられているが、頼姫の耳にもしっかりと届いた。頼姫を、真剣に叱る声に似ている。 「たき」 再度の要請に、たきは抗いきれず膝をつき、兄の身体をささえにして腰をくねらせ始めた。 「・・・っふ、う、ぅ」 動くたびにたきの口からうめき声がもれる。そのたきの口に、兄が唇を重ねた。 貪るような深い接吻を頼姫は初めて見た。 その間にも兄の手は休むことなくたきの白い身体をまさぐり続ける。 「ゃあっ・・・ぁあぅ・・う、ぅっ」 兄の唇がたきの乳房の頂に移動したとき、たきが不意にがくがくと震え始めた。 「気をやるか?」 兄の問いに答えるように、たきが白い手を兄の身体にまわしてしがみつく。 たきのみずみずしい乳房が、兄の手で滅茶苦茶に揉みしだかれている。 「若・・・ぁ、ぁ・・・あ、あ 」 四肢を小刻みに震わせ、眉根を寄せた恍惚のたきと、満足げな兄の顔が、頼姫の脳裏に焼きついた。 ぐったりと脱力して兄に寄りかかるたきの顔が、頼姫のほうを向いている。その顔は知らない大人の女に見えた。 兄がまたしても体勢をかえてたきを組み敷いた。 白い足を押し広げ、その間で盛りのついた馬や犬のように腰を振りたてている。 その腰に、そっと白いしなやかな手が回されるのを、頼姫はみた。 「果てるぞ」 兄の低い声に確かな官能を感じ取り、頼姫は思わず身震いをした。 獣じみた一声のあと、兄の動きが緩慢になる。 たきの乱れた髪を撫で付けながら、一言二言なにかささやいたようだが、それは聞き取れなかった。 兄が離れた後、横たわるたきの兄が納まっていた場所から、とろりとした白いものがこぼれるのがはっきりと見える。 たきは身を起したものの、岩に寄りかかってぼんやりとしている。 兄は自分の身支度を済ませ、たきの着物を直してやり始めた。 「今宵、二の丸へ来い」 困ったようにたきが兄を見上げる。 「お前に否はない」 その声は穏やかだが、有無を言わせない強い意志を感じさせる。たきを見てにっこりと笑う兄を、頼姫は恐ろしい、と思った。 もとよりたきは主人の命に逆らうことなどできないのだ。 立ち上がった兄が城壁を登ってくるかとおもい、頼姫は我に返って身を硬くした。 が、兄はたきに接吻を与え、先に城壁から送り出す。 さすがにたきは草の一族である。一跳びで気配が消えてしまう。 続いて兄も、たきとは違う方向へ、わずかな足がかりで軽々と跳ぶように降りていってしまった。 2人の気配が遠く消えさった瞬間、その場に取り残された頼姫の緊張の糸がふつりときれ、へなへなと座り込んでしまう。 頼姫が立ち上がることができたのは、居室にいない姫を心配して養育係の常盤が探しにきてからであった。 居室に、たきが来ているという。・・・どんな顔をして会えばいいというのだ。 結局、日差しに当てられ調子が悪いと横になってみたのだが、たきの顔を見ると先ほどのことが思い出されかぁっと頬が熱くなった。 その様子はたきや常盤に発熱と誤解され、臥所に押し込められて、たきがそばに控えてくれることとなった。 おかげで、兄とともにとる事にしている夕餉に出向くかずともよくなり、頼姫は安堵した。 甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるたきは、頼姫がよく知っているたきで、先ほど出来事は夢であったのだろうか、と思う。 だが、夜半にそっと気配をけし、明け方戻ってきたたきを感じ、やはり本当のことであったのだ、と再び顔を火照らせた頼姫であった。 SS一覧に戻る メインページに戻る |