天衣無縫王子と苦労性従僕
シチュエーション


「殿下ッ!」

悲鳴に近い声を上げて駆け寄ってきた相手を見ることなくアランは溜め息をこぼした。

「シャロン、小言は後だ」

逃げるように手を振って背を向けたアランは歩き出しかけてその足を止めた。

「いいえ、逃がしません」

きっちりと編み、背に流していた髪をシャロンが掴んだからだ。
煩わしさを隠しもせず、アランは振り向いてシャロンを見た。
そして、その眦に涙が浮かんでいることに気づき眉をしかめた。

「勇敢であることと無謀であることは同義ではありません。いくら貴方が高貴な血筋であり神の祝福を得ているからといって無策に敵陣に乗り込むなど無謀以外の何物でもありません。無茶苦茶です」

責める口調のシャロンの言葉はアランの耳にはまったく入らず、アランはシャロンの目に浮かぶ真珠のような輝きにのみ目を奪われていた。
「……泣いているのか」

形のよいアランの指が雫に触れる。

「貴方を、失うかと思いました」
「私を信じていないのか」
「今回ばかりは、無条件に貴方を信じてはいられませんでした。戦況の悪さは理解しています。貴方の無謀さもよく知っています。貴方はいつも私を不安にさせて下さる」

頬に手を触れ、アランは身を屈めてシャロンの眦に唇を寄せる。
頬や瞼にも同じく唇を寄せ、困ったような顔をしてシャロンを見下ろした。

「お前を泣かせた件に関してはすまなく思う。悪かった」

シャロンが何かを口にする前にアランは彼女の唇を塞ぎ、謝罪を込めて出来る限り優しいキスを彼女に捧げた。

「一度戻って、まだやらねばならぬことがあるから……」

唇を離し、アランは名残惜しそうにシャロンの頬を撫でる。

「お前は私の部屋で待っていろ。小言はその時にちゃんときいてやる」

不服そうながらも頷き、シャロンは歩み去るアランの背を見送った。


**********


アランがいかに無謀なことを行ったかを懇々と語っていたはずが気が付けばソファーに組み敷かれるような体勢をとらされており、シャロンは身じろいでアランの緩い戒めから逃れようとする。
やけに体に触れたり唇を寄せてきたりするものだと、真面目に話を聞かない彼に苛立ちはしていたが話が終わる前に押し倒すほど悪びれていないとは思わなかった。
シャロンが怒っている間は一応反省したふりをするくらいの気遣いは常のアランにはある。

「殿下、この体勢はなんですか」

不満たっぷりなシャロンの訴えなど意に介さず、アランは彼女の耳朶に唇を寄せた。

「せっかく二人きりだから、時間は有効に使うべきだろう」
「何を、っ」
「最近させてもらってないし」

ご無沙汰というやつだとアランは言う。
確かにそう言われれば最後に肌を合わせたのは十日以上前のこと。
しかし、拒んでいたわけではなくそれどころではないほど互いに忙しかったことはアランだってわかっているはずだ。

「こんな、日の高いうちから、いけません」
「昼だろうが夜だろうが、始めてしまえばお前はすぐにわけがわからなくなるじゃないか」

行為に慣れていないこと、いつもアランに翻弄されている事実を指摘され、シャロンは意地になってアランの胸を押し返す。

「暴れると落ちるぞ。寝台と違って狭いんだ。しばらく大人しくしていろ」

せめてと顔を背ければ、そのまま体をひっくり返される。
シャロンはクッションに顔を埋める形にされ、アランはソファーとシャロンの間に手を入れて服をたくしあげた。
片手でシャロンの胸を弄り、片手で自身のシャツのボタンを外す。
クッションを掴んで堪えながら耳まで赤く染めるシャロンの後ろ姿を見て、アランは愛おしそうに微笑する。

「お前は、本当に可愛いな」

項に唇を押し付け、アランはシャロンの全身を優しく撫で回し始めた。
始めは声を出さないために頑なになっていたシャロンもアランと向き合うよう体勢を変えられ、彼が乳首を口に含んで愛撫しはじめると僅かながら声を上げるようになっていた。

「っ……ん、ぁ…んんっ」

アランの指が中を掻き交ぜ、シャロンは無意識にその指をきつく締め付ける。
幾度も肌を重ねてきたアランにはシャロンの弱点など目を閉じていてもわかる。
弱い部分を集中的に責め、短い時間で彼女の体を解していく。

「ふぁ、や……ん、っ」

びくびくと体を跳ねさせる彼女がアランの愛撫に感じていることは疑うまでもない。
それなのに、口元に手を当ててシャロンは声を堪える。

「声は我慢しなくていいといっただろう」

それを寂しく思うアランは前を寛げて取り出した屹立を前置きもなしに彼女の秘裂に突き立てた。

「や、あああああっ!」

いきなりの衝撃にシャロンは悲鳴に近い喘ぎを漏らす。
満足げにシャロンを見下ろし、アランはシャロンに口づけた。
舌を絡め、吸い付き、そうしながらゆっくりと腰を動かしだす。
粘着質な水音が動く度に室内に響いた。

「シャロン…っ」

抱きしめるようにしながらアランはシャロンの中を突き上げる。
奥へ、奥へと欲求に素直に何度も強く突き入れる。
呼吸は互いに整わず、乱れた呼吸の合間に名を呼び合う。
生理的な涙を浮かべるシャロンの眦に舌を寄せて、アランは込み上げる愛おしさのすべてを込めて彼女をきつく抱きしめる。

「あっ、あああっ……アラン、さまぁ!」
「……っ、シャロン…シャロン」

久しぶりというのは嘘ではない。
アランは余裕のかけらもなく、荒々しくシャロンを攻めながら頂点へと向かっていく。
早すぎるなと内心苦笑しつつ、アランはシャロンの敏感すぎる突起を指で弄りながら強制的に彼女を高みへ押しやった。
痛いくらいに締め付ける彼女の中でアランは精をほとばしらせる。
ゆるゆると腰を振り、残滓もすべて吐き出してからアランはぐったりと力無くシャロンにのしかかった。


**********


一足先に身仕度をすませたアランは服の乱れを直しているシャロンをけだるげに眺めている。
怒った顔をしたシャロンは体を離してから一度もアランと目を合わせようとしない。

「悪かったといった」

我慢できなかったのだから仕方ないと開き直るアランにシャロンは冷たい視線を投げかけた。
しかし、情事の余韻を残した潤んだ目では迫力に欠ける。

「中は駄目ですといつも言っているのに、ひどいです」
「そういう余裕はなかった」
「子供が出来るかもしれないのに。殿下はもっと先のことを考えてくださらないと困ります」
「子を孕んだら産めばいい」

平然と言ってのけるアランをシャロンは嘆息しつつ窘める。

「簡単におっしゃいますがそんなにあっさり平民に子を産ませては」
「平民だろうが貴族だろうが私はお前が好きだ。惚れた女に子を産ませたいと思うのは生物として当然の欲求だろう。それに、子が出来れば堂々と愛妾にできるしな」

今ですら堂々と閨に連れ込んでいるではありませんかとは指摘するのも馬鹿馬鹿しくて言う気にならない。
好きだと臆面もなく言い切るアランを真っ正面から見ていることが恥ずかしくなり、シャロンは赤い顔で視線をそらした。

「そういうわけだから、今夜は久しぶりに共に過ごそう」

シャロンに目を反らされてもめげないアランは今晩の予定を勝手に決めて立ち上がる。

「さっきので火が付いた。満足するまで付き合えよ。お前が来なければ私が行く」

彼女が異義を申し立てる前にアランはシャロンに満面の笑みを向けて反論を阻止した。

「よもや私から逃げられるとは思ってないだろうな」

反論の為に開いた口を閉じ、過去のあれこれを思い出し、シャロンはうなだれながら頷いた。
シャロンの同意を得られたことに機嫌を良くし、アランは鼻歌でも歌いだしそうな様子で部屋を後にした。






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