ナイーツ
シチュエーション


とある大陸のとある騎士団領。とある騎士団のお城。

もふもふ…

城のすぐ裏手の木陰で、白い毛玉が丸くなっていた。
それは、綿菓子のようにふわふわワッフルの髪の女の子。
丸めた布を枕にして、芝生に横になり小さく寝息をたてている。

すぴー…ほよほよ…ぴふー…

プラチナブロンドの長い髪に包まれ眠るさまは、まるで豪華なペルシャ猫のようだ。
平和に眠りこける少女の元へ、芝生を踏みしめ近付く人影がある。
男だ。しかもかなりデカイ。
男は少女が枕にしている布を見て、前髪をさっぱりと上げたその額に青筋を立てた。

「こんのクソ見習いはっ…」

忌々しそうに呟きながら身を屈め、少女の枕をわし掴む。
そして、

「起きぬか!!馬鹿もん!」

一気に引き抜いた。

「…っ!」

下敷きを引き抜かれた少女は芝生に頭を打ち付ける。白い髪がモサッと地面に広がった。
驚いて身を起こす少女に男は一喝した。

「貴様はどうして毎っ回毎回無断で稽古を抜けるんだ!」

体も大きければ怒鳴りつける声もまた大きい。ビリビリ響く重低音は大の男でも縮み上がる程だろう。
しかし少女は、ブスーッと迷惑そうな一瞥をくれただけで男から顔を背けた。

それどころか説教など完全に無視し、自分の髪をいじくりだした。

「サイアク…汚れた」

自慢のワッフルに絡みついた草や土をちまちま指で払い落とす。

「マシュリ!貴様ぁ!聞いているのか!」

名を呼ばれても気にしない。少女マシュリは優雅に毛繕い中である。
マシュリの態度はさらに男の神経を逆撫でした。
忠義に命を賭す騎士団に、こんな不遜な騎士見習いが居ていいのだろうか。
この男―マシュリの上官である隊長シスレイは、怒りにわななきながらマシュリを睨んだ。
マシュリの厚い二重瞼は常にぼんやりと眠たそうで、やる気も覇気もゼロ。
さらには無表情な上に淡白で、どうにも相手を小馬鹿にしているようにしか見えない。
いや、実際に馬鹿しているのは確実なのだが。

(許っっせん!)

沸騰したシスレイはマシュリの目前に、さっきまで枕だった布を突き出した。

「貴様は何を下敷きにしていた」

それはマントである。
隊長各がその証として左肩に下げるものだ。

「俺が手合わせする間預かっておくよう渡した物だろうが!なぜ上官の物を粗末に扱う?」

そう、一時間程前、修練場でとある新米騎士と手合わせをする前に、マントを肩から外しマシュリに持たせていたのだ。

それが、いざ終わってみたら試合を見学しているはずの見習いは消え、マントを枕に裏庭ですーぴー昼寝。
騎士団創立以来の問題児っぷりである。
怒れる上官殿の詰問に、マシュリはさも面倒くさそうに答えた。

「…芝生に直に寝たら髪が汚れる」
「なっ!」

マシュリさんは、上官のマントより乙女のふわふわヘアが大事なのである。
なんと恐ろしい思想回路をしているのだろうか。シスレイは開いた口が塞がらなかった。

その時、

「おーい、シスレーイ!」

頭上から隊長を呼ぶ声がした。
驚いてシスレイが声の方向を見上げれば、城の二階の窓から美しい女性が手を振っている。
その姿を見た途端シスレイは大いにうろたえた。

「だ、団長っ」
「ははは、お前またマシュリをいじめてるのか?酷い奴だ」

ラランス団長は華やかな笑みを浮かべた。
茶がかかった濃い金色の髪と切長のつり目が色っぽい。

「な、だから俺はいじめてなど」

慌てるシスレイの様子にカラカラ笑い、ラランスは窓枠に足を掛けた。
ラランスの行動にギョッとするシスレイと、いつも通りの無表情でぼーっと見上げるマシュリ。

「受け止めろよ」

シスレイに言うと、ラランスはヒョイッと窓から飛び降りた。

「ちょ!?待…っギャアアア!!」

なんでまた窓から!
血相を変えて駆け寄るシスレイ目掛け、楽しそうに落ちる美女一人。

バムッポヨヨンッ

シスレイの顔面がラランスの巨大な胸で押し潰された。
見事、ラランスは彼の腕の中に着地した。

「む…むがっ」

団服の布地越しでも十分に感じる胸の柔らかさに、シスレイの頭が見る間に燃え上がった。

じー…

マシュリは無言のままその光景を見ている。半月型の目からはまったく感情が読めなかった。

「よーしよし、着地成功。さすがは騎士隊長だぞ!立派立派!」

ストンと地に降りると、ラランスはシスレイの肩をバンバン叩いてやった。

「団長…いつも俺をからかって」

うううと唸るシスレイに楽しげに笑う団長。

じー…

見つめるマシュリ。

「マシュリはまだ見習いになって日が浅いんだから、怒鳴ったりしちゃだめだろ」

そう言ってシスレイを見上げるラランスの顔立ちはどこか狐を思わせる。セクシーで意地悪な笑みだ。

「こ、こいつは本当に性根が曲がってて、少しは怒らないと」

なんとか反論しつつも、間近で見るラランスの美貌に赤くなるシスレイ。


じー…

二人の姿にマシュリは一体何を思うのか。

「お疲れ様です!シスレイ隊長」

昼間に手合わせしてやった新米騎士と宿舎の廊下ですれ違った。
顔にすり傷や痣をこさえた新米は、尊敬の瞳でシスレイを真っ直ぐ見上げてくる。
これぞ“理想の部下”の姿。まるで空に伸びる新芽のように爽やかだ。
シスレイは新米君の眩しさに感動しつつ、軽く手を上げて答えてやった。

「打ち身は痛むか?早く寝て明日に備えろよ」

隊長殿から優しい言葉を掛けられ、新米は感激に全身を上気させる。

「だ、大丈夫ですっ!またご指導よろしくお願いします!おやすみなさいっ」

ビシッと敬礼すると、嬉しそうに小走りで廊下の角に消えて行った。

(はー…可愛いもんだなぁ)

シスレイは羨ましそうにその背中を見送った。
彼とうちのクソ見習いを取っ替えて欲しい。
だが、団長直々に「マシュリはお前の付き人にする。お前が面倒を見ろよ」と言われている。部下のチェンジなど夢のまた夢。
明日も明後日もマシュリに振り回され続けるのだ。

「あー最悪だ…。俺も早く寝るか…」

風呂上がりで寝ている髪を掻き、シスレイはトボトボと自室へ向かった。

全員で六人の隊長の個室は横に三部屋ずつ向かいあって作られている。
左右に並ぶ部屋の、向かって右側の真ん中、シスレイは自室のドアノブに手を掛けた。
ギイと微かに軋みながら木製のドアが開く。
ドアの隙間から覗く部屋の中、備え付けのベッドの上に白い毛玉が――…

バタン

開きかけたドアを速攻閉めた。
シスレイはドアノブを握ったまま数秒考える。
居た。
奴が居た。

(な、ななな、何でだよ!?)

シスレイは意を決し、再びドアを開ける。
部屋に飛び込みベッドを見れば、掛け布団をすっぽり被ったマシュリが頭だけ出してこちらを見ていた。
枕とシーツにプラチナブロンドの長いワッフルがもふもふはみだしている。

「マ、マシュリ…貴様、ここで何をしてる」

軽いパニックに声が上擦る。
マシュリは何の動揺も見せず、眠た気な目のままシスレイのひきつる顔をじーっと観察した。
その小さな唇がボソッと動く。

「ここで寝る」
「だっ、ダメだ!何を言ってるんだバカモン!見習いは別の宿舎だろ、とっとと帰…っ」

シスレイは大声で怒鳴りかけ、自分の口を慌てて塞いだ。
周りに気付かれたらマズイ。
この状況を傍から見たら、部下の女の子を部屋に連れ込んだと思われるだろう。
清廉潔癖な騎士団でそんなセクハラが許される訳がない。
シスレイは大いに焦った。
ベッドに駆け寄り、小声で必死に訴える。

「とにかく帰れって…!ほら、早くベッドから出ろ…!」

マシュリの被る掛け布団を掴み乱暴にひっぺがした。

――布団をペロンと剥かれたそこには、柔らかそうな女の子の素肌があった。

「…」

掛け布団を持ったまま、シスレイは目を真ん丸にして固まる。
マシュリは生まれたままの姿で横たわっていた。
白くきめ細かな肌を惜しげもなく晒しながら、無表情でシスレイを見上げている。

(ギィイャアアアアアァーー!!)

シスレイは声に出せない絶叫を心の中であげる。頭の中で火山がドカーンと噴火した。

「……ふ、…服…は?」

声を押し殺し問うが、マシュリは答えない。
ここは並んでいる隊長室の真ん中だし、廊下を裸で歩いて来た訳はないだろう。
この部屋のどこかに服を隠したのだ。

(こいつっ、テコでもここで寝る気か…!!)

裸のままでは追い出せないし、かと言って男物のデカいシャツを羽織った姿を誰かに見られれば、間違いなくセクハラ隊長の汚名決定である。
いや…落ち着け、落ち着け。
シスレイは自分に言い聞かせた。
この部屋のどこかに服はあるのだから、探せばいいのだ。

(そうだ、服をどこに隠しやがった!)

部屋を見渡そうとシスレイは体を返す。

その時、今まで無言だったマシュリが背中に向かい呟いた。

「…私じゃ、イヤ?…団長じゃなきゃ駄目?」

初めて聞く、消え入りそうに弱い声。
背中に投げ掛けられたその声は、胸にまで染みて何故かシスレイを締め付ける。
ラランス団長の名前が思いがけず上がった驚きよりも、何かがたまらなく歯がゆく、胸がざわついた。
シスレイはゆっくりと振り向く。困ったように眉をよせマシュリを見下ろす。
マシュリは枕に顔を半分埋め、足を抱いて丸まっていた。
親に叱られた子供のように、頼りなく、小さい。

「…何を言ってるんだ。お前じゃ駄目とか、団長がどうとか…そういう問題じゃないだろう」

シスレイの言葉に、マシュリは枕に押し付けた顔を横に振る。

「だって、隊長いつも団長と仲良くしてる」
「あれは、団長が俺をからかって…」
「隊長に叱ってもらってる時だって、団長が横から取ってっちゃう、ズルイ」

ドキン

シスレイの胸が強く高鳴った。
だってこれではまるで、構ってほしいからわざと悪いことをしているダダッ子のようで――

(こいつ、俺に、甘えたかったのか…?)

「なあ、マシュリ…」

頭上から名を呼ぶ声は低く優しい。
マシュリはシスレイと視線を合わせようと、そっと仰向けにる。
転がるマシュリの体に合わせ、胸の膨らみもプルルンと揺れた。
胸の先っぽは汚れも知らないようなベビーピンクで、色っぽいというより可愛いらしい印象のほうが強い。
この見習いがまだお子様な風貌だったため、シスレイは性的な興奮を抑えていられた。

「お前は、その、なんだ。俺のことが…嫌いじゃないのか?」

その問いに、マシュリの眠たげな二重の目がゆっくりと閉じられる。小さな肯定の証だった。
無防備に瞳を閉じたまま、マシュリの唇から吐息のような声がそっとこぼれる。

「隊長が好き」

拍子抜けしてしまうような事実にシスレイは頬を染め、「ああ」だか「うう」だかと不明瞭にうめいた。

(これはまいった…。想定外というか、信じられん…)

なんと、今までのマシュリの素行の悪さは愛情の裏返しであるという。
あの悪意に満ちたサボタージュも、上官に対する敬意がみじんも見られない態度の悪さも、全て子どもゆえのひねくれた愛情表現だったなんて…!
……本当かよ。
キッと表情を引き締めると、シスレイはベッドに片膝で乗り上げた。

ズシリとベッドのスプリングが揺らぎ、寝ころぶマシュリを沈ませる。

「おい、それが本当なら証拠を見せろ」

些か意地の悪いシスレイの台詞にマシュリの目線が険しくなった。

「証拠って言われても…」

とぼやく。

「普段のお前の態度じゃ、いきなり、す、好きだなどと言われても疑うのも当前だ」

シスレイは慎重にマシュリの真意を探ろうとした。
証拠なんて出せないと言われれば、それを盾に言いくるめ部屋から帰らせるつもりだ。
もしこの告白が真実だとしても、今はまだマシュリをどう受け止めていいか分からない。
とにかくシスレイには考える時間が必要なのだ。

お互い意地を張ったように見つめ合っていたが、ややあって「じゃあ、これ」とマシュリがもそもそ動き出す。
何をするのかと見守るシスレイの前で、マシュリは猫のように柔らかな動きで両膝を高く上げた。

「ま、待て!何やって…!」

シスレイの制止も間に合わず、マシュリは足を大きく左右に開く。
足を開けば当然股間も露になる訳で、ふに、と女の子の部分が丸出しになってしまう。
女の子の体の中で、一番恥ずかしいトコロ。
マシュリの恥ずかしいソコが、シスレイの前に大胆に見せつけられる。

ズドッカーーーン!!!

脳内で火山が数十発噴火し、シスレイの全身がボフッと真っ赤に燃えた。
マシュリはたじろぐシスレイをいつもの無表情で見つめる。

「処女膜…、これを隊長にあげる。これが好きだって証拠」

体を折り曲げた無理な姿勢のせいか、囁く声はやや舌足らずだ。言葉の意味を分かっているのか疑わしい程あどけない。
すべすべと白く滑らかな太ももの間、奥の奥に桃色の花びらが柔らかそうに広げられている。周りには毛も生えておらずつるつるだ。
そのすぐ下にはキュッとすぼまった菊の門までよく見え、白いお尻の割れ目をほのかに赤く色付けていた。

(も、桃か…こいつの尻は…)

シスレイの喉仏がゴキュッと上下する。
そのシスレイの反応を欲情と見たのか、マシュリは人差し指と中指で女の子の入り口をさらにふにっと広げて見せた。

ふにー

シスレイの視線をソコに激しく浴びて、ちょっとだけ蜜で潤ってしまっている。
まるで、食べ頃の桃の果実からからピーチジュースが溢れてしまっているようで…。

(ぬ、濡れてる…って見てる場合じゃない!!)

シスレイはやっと我に返った。

「こらぁ」

とやや間抜けな声をあげ、マシュリの両腿を掴んで閉じさせる。

「女の子がそんなトコ見せちゃだめだ!しまえ!」
「…証拠を見せろって言ったのは隊長」
「馬鹿!こ、こういうのを求めてたんじゃない!」

照れまかせに掴んだ足をベッドに叩きつける。
勢いでボヨンとベッドの上で弾み、マシュリは不服そうに目を細めた。

(しかし処女膜とは…本気なんだな…)

シスレイはこめかみにじわりと汗を滲ませる。
処女喪失なんて人生に一度きりの大切なものを捧げるというのだから、マシュリの告白は偽りない本心なのだろう。
ええと、ではこの場はどうしたらいいのだ。シスレイは腕を組んで考えこんでしまった。
動きのないシスレイに飽きたのか、マシュリはまた体を丸め、もふもふの長い髪に顔を埋めた。
拗ねたように呟く。

「隊長…騎士なのに女性に恥をかかせるの?私はここまでしたのに…」

ぐ、とシスレイは顔を苦い顔をする。卑怯な責め言葉だ。
マシュリはさらに追い討ちをかける。

「据え膳食わぬは男の恥…」

うぐ。

「部下の面倒を見るのは上官の義務…」

うぐぐ。
シスレイは困った顔でマシュリに目をやった。
マシュリは怠惰な猫のように瞳だけでこちらを見ている。

「…隊長が処女をもらってくれたら、明日からいい子になれるのに…」

(それは、確かに…)

シスレイは考えた。
確かにここで構ってやれば、自分の気を引きたいがために悪さをすることもなくなるかもしれない。
それに、この生意気娘が今夜を境に自分に懐いたらどうだろうか。
従順になったマシュリを妄想してみた。

―名を呼べば、もふもふと毛玉をなびかせて駆け寄ってくるマシュリ。
―厳しい稽古にも一生懸命励み、頭をなでてあげると喜ぶマシュリ。
―ちょっと叱られると、たちまちしょぼくれ涙目になってしまうマシュリ。

(悪くないな…)

思わずシスレイの口元がにやけた。
可愛いじゃないか。なんだか明るい未来が開けた気がする。

シスレイは覚悟を決め、ベッドに両膝を上げた。
マシュリの頭の脇に両手を着く。

「…マシュリ、いいんだな?」

マシュリの顎がこくんと縦に動く。

「よし…覚悟しろよ」

シスレイはかすかに意地悪な笑みを浮かべた。
この見習いに今までの復讐も込め、たっぷりと教育的指導をしよう。
大人の技巧を駆使し、身も心も上官に懐かせるのだ。

わがまま猫への躾が始まる。


腕の中のマシュリの体はとても柔らかく、しなやかに身をくねらせる姿は正に子猫のようだった。
この気位の高い性悪猫に、頭のてっぺんから爪先までみっちりお仕置きをせねばならない。

(ええい、このっ、ぽわぽわしおって!)

シスレイは支配欲に身を委ね、マシュリのプラチナブロンドに顔を埋めた。
ペルシャ猫に似たもふもふワッフルの白い髪。
こうして頭を突っ込めば、綿菓子に包まれているようで非常に心地良かった。
スウと思い切り香りを嗅ぐと、甘いシャボンが胸一杯に広がる。

「子どもの匂いだな」

香水や化粧品のそれとは程遠い愛らしい香りに苦笑すると、マシュリは赤くなって身をよじった。

「イヤ…恥ずかしから嗅いじゃやだ…」

逃げようともがくマシュリをシスレイはやや意地悪く抱いて拘束する。

「敬語は?」
「…イヤ…デス…」

マシュリは屈伏し渋々従う。
重い二重の目元が紅く染まり、潤んだ眼差しは悔しさを滲ませている。

(うむ、なかなか…)

シスレイの胸にえもいえぬ快楽が広がった。
なるほど、これが意地悪をする悦びなのか。
いつも自分をからかって遊ぶ団長の気持ちが今なら解る。
相手を思いのままに翻弄するのはひどく心地よい。

そして、相手が普段自分に反抗的な人物であるほど、快楽は比例して跳ね上がる。

ご満悦なシスレイは、マシュリの顎を持ち顔を寄せた。
額同士をゴツッとくっつけ、わざと怖い顔で睨んでやる。

「まったく。お前はそんなモサモサした頭をして。騎士なら髪を縛るか切るかしろ」
「だって…」
「口ごたえするな、見習い」

ムスーッと不機嫌になったマシュリがさらに何か言う前に、その小さな唇をシスレイは自らの唇で塞いだ。

ちうっ…

「っ!」

マシュリは驚いたように目を丸くした。
普段眠そうな目をしているが、こんな時はさすがに驚くのかと微笑ましい。
シスレイは口角を笑んだ形に上げて、そのままマシュリの唇を強く吸った。

「っ…むっうぅ」

プリッと弾力のあるグミのようなリップが、男の口に痛いくらいに吸い付かれ、赤みを増す。
シスレイがようやく口を離してやると、マシュリはぷはっと苦しそうに息をした。

「はぁ…は…」

荒い息のマシュリを仰向けに寝かせ、自分は膝を立てて少し身を引いた。
このほうがよく見下ろせる。

「良い子にしていないと優しくしてやらん」

言いながら左手をマシュリの口に伸ばし、人差し指と中指を割り込ませる。

「うっ?あ…ぐっ」

閉じた口を二本の指でこじ開けた。
細かい歯列の感触が指にくすぐったい。
びっくりしたマシュリは口を閉じようと食いしばるが、指の力が勝り口は上下に割かれる。

うにゃー…

小さな口が無防備にあーんと開いた。

「あ、お前キバ生えてるな」

赤い口の中小さな白い歯が形良く並んでいるが、二本の糸切り歯は大きく尖って目立つ。
口中を覗いてからかうシスレイに、ハフハフと言葉にならない声を上げマシュリは解放を訴えた。
しかし、マシュリの両手は体の横でシーツを強く掴むばかりで、シスレイに本気の抵抗ができないでいる。

(本気で抱かれに来たんだな…。まあ、抵抗がないなら都合がいい)

シスレイはやや黒く笑う。
口を開かせた指はそのままに、素早く覆い被さりそこに舌を滑り込ませた。
スルリと熱い舌に侵入され、マシュリはピクピク身を震わせる。
猫のように細くて長いマシュリの舌が、急に攻め入った熱の固まりから逃げるように奥に縮まる。
しかしシスレイの大人の下はそれを捕らえてニュルリと巻き込み、更にピチャピチャと音を立てて味わい出した。

「ふにゃっ…れう、はぐぅ」

開いたままの口からは、中で絡まる舌の音も籠らずに響いた。

マシュリは初めて味わう舌の愛撫に夢中になったのか、両手をシーツから離し、シスレイの首に抱き付いた。
差し入れた二本の指も、舌と唾液で蜜を這わせたように濡れた。

(もういい、か)

シスレイは深くキスをしたまま指を引き抜くと、それをマシュリの下半身へと向かわせた。
シスレイの動きにハッと息を飲み、マシュリはキスを止めた。唇を閉じて舌を拒む。

「…隊ちょ…ぅ…」
「ああ、処女膜をくれるんだろう?受け取ってやる」

マシュリの太ももの間、濡れた指が先ほど晒された花びらをいじる。

「ふあ、あっあ!…んにゃっ」

つつかれ、くすぐられ、たまらずにマシュリは鳴いた。

「なんだだらしない。そんなに声を出して」
「やん、嫌っ。だってっ…」
「だって?」

シスレイはマシュリの小っちゃな突起をクチクチと転がした。

「ひゃあぁっあぁ」

体の中心から痺れが走り、マシュリはビンと両足を突っ張らせた。
シーツに広がる自分の髪の上で顔を嫌々と振り、目尻で光る涙がポロリと溢れた。
甘い刺激と、排泄欲に似たムズムズする感覚でソコが高まってゆく。
敏感さを増す割れ目は、指の動きに翻弄された。
反応を楽しみ、シスレイはマシュリの乳房に頬擦りする。

頬でベビーピンクの乳首を押し潰したり、鼻先で撫でるとその小粒は直ぐに固くなった。

(こいつ基本的にビンカンだな)

シスレイは二つのピンクを交互に口に含んだ。
その間も指の動きと、マシュリの悲鳴は止まらない。

こちょこちょ

…くちゅ

子猫の喉を触るように優しく指でいじり続けられ、マシュリは我を忘れて身をくねらせる。

「きゃっうっ…もう、隊長、ねぇっ…!」

マシュリの女の子の部分が本能で男を求め、もう我慢が出来ない。
必死でシスレイを求めて足をバタつかせる。
しかしシスレイは簡単にはご褒美をやらない。それでは躾にならないのだ。

「そうだな、お前がこれから先、永遠に上官に逆らわないって誓えたら入れてやる」
「誓う…っ」

涙がマシュリの頬を汚す。
いつもの生意気猫の顔じゃない。ぐすぐすと泣いてお願いする情けない顔。

「敬語は?」

ニヤリと笑うシスレイに、マシュリは泣いて叫んだ。

「チカイマス!」
「よし…、今入れてやる」

指を離すと、両手でマシュリの膝を掴み左右に開く。
ぷりっと開かれる桃のお尻。
はしたない入口から溢れる愛液と、塗り込まれた二人の唾液。
マシュリは不安そうに小首を傾げた。

眠そうな二重の目が、じーっとシスレイにすがるように向けられている。

(か…)

シスレイの胸が、その視線にキュンとうずいた。

(可愛い…!)

それは従順で、可愛くて、正に自分の理想とする部下の瞳だった。
調教は成功だ!
シスレイは晴れやかな気持ちでマシュリの花に自らを添える。
そして、一気に太いご褒美を突き刺した。

「いっ…にゃああぁあぁっあぁうっ!!」

きゅうきゅうにキツい処女の蜜壷を男の槍が割った。
大きな物を飲み込んだ衝撃と膜を失う痛みに悲鳴を上げ、マシュリは全身を弓なりに反らせる。
秘密の通り道をニュルルッと滑って突き進んで来る堅い熱。

ニュルッ。

柔らかな壁を力強く開いて奥へ。

ニュルルッ。

一番奥まで。

ニュッ。

収まった。

ニヤリ

涙に濡れたマシュリの目が、チェシャ猫が嘲笑うようにニィと細まる。

「馬ぁ鹿」

唾液と吐息の奥から、マシュリは勝ち誇った声を上げた。

「はい?」

耳を疑ってキョトンと動きを止めるシスレイの腰に、マシュリの両足が固く絡み付く。
マシュリはスゥッと息を吸い、全力で叫んだ。

「きゃあああああーー!!誰か助けてぇ〜っ!!!」

深夜の宿舎を電撃のように走る乙女の悲鳴。

シスレイは自らの置かれた状況を理解し、全身の肌を粟立たせた。

は め ら れ た !!!

「誰か助けてぇ!!隊長、シスレイ隊長が私を襲っていますううう!!」
「うわあ黙れ!ちょっ足離せ!」
「誰か早く来てーー!!」

血相を変えたシスレイが引き剥がしにかかるが、マシュリはシスレイを決して抜かせない。
ベッドの上でドッタンバッタン暴れている内にも、廊下を走る大勢の足音が津波のように迫まって来た。

ドンドン!

外から扉を叩くその音に、シスレイはギクゥと飛び上がった。
腰にくっついているマシュリもつられて飛んで「みゃっ」と振動に声を上げる。

「おい!シスレイ何をしてる!ここを開けろ」

この怒鳴り声は左隣の部屋の女騎士隊長。

「いいから蹴り開けよう」
「よし、私が斧で扉を破る!」
「任せた。ほら、お前ら下がれ下がれ。そんなに集まっていたら危ないぞ」

右隣もお向かいも、その他も大勢お越しのようだ。
正義に生きる騎士達が、女性の危機を見逃すはずはない。
絶句して固まるシスレイの胸にもふもふの毛を擦り付けて、マシュリは赤い舌をチロリと出した。

「やってくれるわね…」

部屋の外。人混みの後ろでラランス団長もまた笑った。
狐を思わせる美貌が、心から楽しそうに微笑む。

女という生き物は、どこまでも甘く、どこまでも性悪である。
スイートな姿に騙されることなかれ。






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