シチュエーション
![]() 「いつもと違うことをしてみるか」 そう言って、ニンマリと笑ったデュラハムに、ファムレイユは嫌な予感を隠せなかった。 おおよそ、デュラハムがこんな顔をする時は、きまって良からぬ事を企んでいるからだ。 勿論、デュラハムにしてみれば、別段悪巧みでも何でも無いのだが、ファムレイユとの認識の違いは、付き合い始めて三年が経過した今も、微妙にズレたまま。 それに気付いていながら、互いに修正しようとしないのは、結局の所、二人にとっては、大した問題では無いのだろう。 デュラハムの手がファムレイユの背を撫でる。 優しい愛撫にゆっくりと吐息を漏らしたファムレイユは、デュラハムの首筋にすがりついた。 「デュー……あの」 「ン?」 先ほどから、デュラハムはファムレイユに、それ以上の刺激を与えようとはしない。 繋がるまでは、いつも通りの情事だったのだが、普段よりも時間を掛けた愛撫のあと、ファムレイユの中に自身を埋めたデュラハムは、ファムレイユを抱き起こすと、それ以上動くでもなく、ひたすらにファムレイユを撫でていた。 時折、瞼や鼻先に唇を落とす以外は、唇にすら触れようともしない。 普段ならば――言葉は悪いが――快楽を得ようと、ファムレイユを気遣いながらも事を進めようとするのに、だ。 「いつもと違うって……」 「ん、そゆこと」 ファムレイユの背骨に指を這わすデュラハムは、ニンマリと笑ったまま。 その僅かな刺激にも、ファムレイユは体を震わせるが、デュラハムは気にすることなく、首筋まで滑らせた手を、またゆっくりと下へと下ろした。 「いつもいつも時間がねぇからって、こうやって抱き合う事もなかったろ? たまには、こう言うのも良いんじゃねぇかと思ってよ」 「んっ……」 腰に下りた手がくすぐったい。 更に強くすがりついたファムレイユの胸が、デュラハムの厚い胸板に押し当てられて、形を変えた。 今まで数え切れないほど、ファムレイユはデュラハムと共に夜を過ごして来た。 けれど、これほどまでに緩やかな時間は、ファムレイユの記憶には殆ど無い。 むしろ回数ばかりが記憶に残り、今日も恐らく、最低でも三回は、デュラハムは欲望を吐き出そうとするだろう、と、そう考えていたのだが。 腰をなぞるデュラハムの手がファムレイユの太腿へと下りる。 そのまま足を持ち上げられるのかと思いきや、デュラハムはまた再び、なぞる手を腰へと滑らせた。 「デ、デュー……」 「ん?」 「……あんまり……撫でないで」 体の中に感じるデュラハムの熱は、未だしっかりとした質量を保っている。 なのに、普段と違うデュラハムの動きは、確実にファムレイユの熱を煽っている。 「嫌か?」 「違う、けど……」 「なら良いじゃねえか」 ファムレイユの頬に唇を落とし――それも、酷く優しい、軽く触れる程度のキスだ――、デュラハムは身動きもせずに、ファムレイユを撫で続ける。 その眼差しは、楽しんでいると言うよりも、慈しんでいるそれに近い。 これもまた、普段とは違うデュラハムの表情である。 「……ずるい」 ポツリ、と。こぼれた言葉は無意識だった。 聞き取れなかったらしいデュラハムが手の動きを止めたが、ファムレイユは、今度ははっきりと、自分の意志で同じ言葉を繰り返した。 「ずるい」 「何がだよ」 唇を尖らせたファムレイユに、デュラハムは眉尻を下げて笑う。 「デューばかり……触るのが」 口にしてしまえば、自身の不満が自覚出来て、自分でも思わぬことを望んでいたと知ったファムレイユは、何となく目を合わせ辛くなり、デュラハムの肩に顔を埋めた。 色事に身も心も溺れてしまった時などは、自分でも意外な事を口走ってしまったりするのだが、今はまだ、理性が勝っている。 それでも、己の中にある欲望に、戸惑いながらも口にする事で、少しだけ何かが軽くなったような気がした。 「じゃ、お前さんも触れば良い。遠慮すんな」 軽い口調のデュラハムは、ファムレイユの頭をぽんぽんと叩くと、両手をファムレイユの背中で組んだ。 それっきり、動こうともしない様子に、ファムレイユは暫し沈黙し。けれど、口にしたからには、何もしないのも妙だと思い直して、そっとデュラハムの背に手を回した。 筋肉質なデュラハムの体は、間もなく四十を迎えると言うのに、無駄な贅肉はない。 同じ筋肉でも、男と女というだけで、こんなにも違うのか……と、そんなことを考えながら、ファムレイユはゆるゆるとデュラハムの背を撫でた。 顔を傾ければ、デュラハムはファムレイユの動きに目を細め、何処か楽しそうに唇を弧に描いている。 その顔が何だか憎らしくて、かぷりとデュラハムの首筋に噛みついてみる。 一瞬、デュラハムは眉を動かしたが、やはり口元の笑みは変わらず。 ファムレイユが甘噛みを繰り返すと、デュラハムの口から吐息が漏れた。 「成る程な」 「何がです?」 「お前さんが鳴く理由が、何となく分かった」 一瞬、殴り倒してやろうかと思った。 が、それも今更。 喉の奥で笑うデュラハムに、軽い睨みを利かせて、ファムレイユは唇をゆっくりと滑らせた。 首筋から喉。喉仏を通り、鎖骨へと、薄く開いた唇から舌を覗かせ、優しく舐める。 反対側の首筋までをつぅとなぞると、胎内の熱がひくついた。 「美味いか?」 「何でそう言う事を訊くんですか、貴方は」 目線だけで見下ろすデュラハムの言葉に、ファムレイユは鼻先に皺を寄せる。 けれどデュラハムは、片口角を引き上げると、ファムレイユを抱く腕に力を込めた。 「俺は、ファムを美味いと思ってるから」 さらりと返されれば言葉も無く、ファムレイユは唇を尖らせた。 「こう言う行為、食うとか食われるとか言うけど、本当だな」 再び、背中を撫で始めたデュラハムは、ファムレイユの首筋に唇を寄せながら、ぽつりと呟く。 その言葉は、普段、ファムレイユが情交に対して持っていた感想だったので、何処か可笑しくもあり、ファムレイユは目を細めて小さく笑った。 「私、もっと前から気付いてましたよ」 「何で言わねえんだ?」 「態々言う事でも無いじゃないですか」 忍び笑うファムレイユに、デュラハムは動きを止めて少しばかり閉口したが、直ぐに苦笑混じりの笑みを浮かべ、ファムレイユの背中をなぞり始めた。 背骨を押すように、二本の指が窪みを伝う。 同じように、ファムレイユもデュラハムの背をなぞろうとするが、それよりも先に淡い刺激が全身を巡り、身を震わせる。 こんなにも丁寧に背中を刺激された事など無くて、意外なほどに敏感になった背中は、デュラハムが小さく爪を立てるだけでも、快感を呼び起こす。 知らず吐息を漏らしたファムレイユは、デュラハムの背を撫でるのを諦めて、目の前にあるデュラハムの耳に舌を伸ばした。 耳の裏から、耳たぶをなぞり、いつもデュラハムがするように、ぱくりと耳たぶを口にくわえる。 唇で軽く引っ張って、複雑な形を示す軟骨を舌先でなぞれば、デュラハムの口からくっ、と、うめき声にも似た声が漏れる。 それに気を良くした訳でもないが、ファムレイユは舌先を尖らせると、ちろちろと丹念にデュラハムの耳を舐めた。 「ちょっと、タンマ」 「ヤです」 「ずりぃ」 くすぐったいのか、感じているのか、微妙な所ではあるが、何かしらの刺激にはなっているのだろう。 笑みを浮かべながら制止を掛けるデュラハムに耳を貸さず、ファムレイユは手を首筋に添えると、反対側の耳元を指先でなぞった。 妙な征服感が胸の内に起こっている。 デュラハムの顔を伺い見れば、目を眇めて熱い吐息を漏らしている。 けれどその左手は、ファムレイユの背を上下に撫で、右手は密着させたままの胸元に伸ばそうとでもしているのか、脇をやわやわとさすって来る。 「意外だな」 「何がですか?」 「お前さんも、結構いじめっ子って事だよ」 「日頃のお返しです」 耳元から唇を離し、デュラハムの顔を覗き込む。 僅かに離れた隙間を縫って、デュラハムの右手はファムレイユの胸を覆ったが、それ以上動かす事もせずに、デュラハムはこつんと、ファムレイユの額に己の額をくっつけた。 「そんなにいじめてるか?」 「いじめてます」 問いかけに答えれば、デュラハムの顔が僅かに苦笑の色を帯びる。 密やかに笑い合い、触れるだけのキスを何度も交わして、また抱き合う。 胸を覆う手は身動き一つもしないが、暖かな温度に、心臓を掴まれているような錯覚に陥る。 無精髭の生えた顎に唇を這わせ、時折やんわりと歯を立てる。 舌を伸ばせば、ざらりとした感触が舌を刺し、それもまた、言い知れぬ快感へと繋がっていく。 愛しいと、素直に感じる。 「ファム」 名前を呼ばれ、顎に唇を押し当てたまま、視線を上げると、デュラハムが顔を傾けて、その唇を己の唇ですくい取った。 開かれた唇から舌が差し込まれ、僅かに煙草の味が滲む。 いつもと変わらぬキスの筈なのに、絡め取られた舌は普段よりも敏感で、きゅう、と下半身に力が籠もった。 いつしか、心臓を掴むデュラハムの手は、胸の頂を優しく撫で始めていて、全身が熱に包まれていく。 指先で固くなった頂を摘まれ、ファムレイユは思わず唇を離した。 「や……っ……」 想像以上の刺激に困惑するが、デュラハムの手は休まない。 「ちょ……ま、待って」 「駄目だ」 制止の言葉を掛けようとしても、デュラハムの唇が再び迫り、残る言葉は声にも出来ず、デュラハムの口に吸い込まれる。 繋がったまま、律動もなく愛撫を受け続けた体は、普段よりもずっと過敏になっているらしく、触れられた訳でもないのに体の奥から蜜が滲み出るのを、ファムレイユは口づけを交わしながら感じていた。 背後に回された手は、尚も優しく背筋をなぞる。 その指先が腰に下りたかと思うと、するりと脇腹を伝って、右の胸もデュラハムの手の中に収められた。 やんわりと揉みしだかれるその刺激は、飽くまで優しく、常ならば物足りないと感じるほどなのに、不思議と充足感に包まれる。 何故か泣きたくなったファムレイユは、呼吸の隙間に僅かに顎を引く。 デュラハムはそれ以上迫ることをせず、ペロリと己の唇を舐めて、ファムレイユを見下ろした。 「っ……ふ、……う」 見下ろす眼差しは変わらない。 言葉も無く見下ろされて、普段ならば多少なりとも何を考えているのか気になる筈なのに。 愛されている。 何故かそう、断言出来る。 「う……うぅっ」 「ちょ、え……どうした?」 愛しい、と。愛されている、と。 紛れもなく感じたファムレイユの目から、熱い雫がこぼれ落ちる。 突然泣き出したファムレイユに、当然ならがデュラハムは目を丸くし、訳が分からず当惑しているようだった。 「ふぇ……っ……す、すみま、せ……」 ファムレイユとて、泣きたくて泣いている訳ではない。 けれど、止めようとしても止められないのが、現状で。 日頃、感情を押し込める節があるだけに、一度緩んだ涙腺は、簡単には元に戻りそうもない。 「いや、謝るな。謝られたら、俺が悪いことしたみてぇじゃねぇか。……それとも、俺が何かしたか?」 ぼたぼたと涙をこぼすファムレイユの頬を、両手で拭いながら、困り顔のデュラハムが問いかける。 そうではない、と首を振ろうとしたファムレイユだったが、デュラハムの手の暖かさにそれも出来ず、すん、と鼻を鳴らした。 「ちが、ます」 しゃくりあげるファムレイユは、上手く言葉に出来ない。 しかしデュラハムは、それを承知しているかのように、うん、と小さく頷いた。 「ただ、わた……すご…っ…幸せだなって」 デュラハムと出会い、騎士を志し、直接言葉を交わせるばかりか、こうして共に過ごせる時間を得られた。 考えてみれば、ファムレイユの初恋は、十六年前から始まっていたのだ。 本人に、初恋の自覚があるかどうかは別として、ファムレイユが騎士を志すきっかけとなった騎士は、常に彼女の心の中に居た。 その相手を、愛し、愛される、その喜びが、こんな形で表になるなど、三年前までは予想も出来なかったことだ。 否、つい数刻前、デュラハムが部屋を訪れた時すらも、そんなことは露ほども予感していなかった。 「わたし……、デューが、好きで……っ……本当に、幸せで……」 頬を拭う手に自身の手を添え、ファムレイユは声を絞り出す。 ともすれば嗚咽に変わりそうなその言葉に、デュラハムの目は、ますます見開かれた。 「だから……デューも、っ……そう、想ってくれてるんだ、って……っ。……そう思ったら……何か……っ……」 「分かった」 声を詰まらせるファムレイユに、デュラハムは親指の腹で涙を拭い、鼻先がくっつくほどに顔を近付けた。 「うん、俺も好きだ。泣かせて悪いって思うぐらい好きだし、泣いてくれて有り難うって思うぐらい好きだ」 「ふ……ぅ…っ」 至近距離なのに、水の膜はデュラハムの表情をぼやかせる。 けれど、淡々と紡がれる言葉は、ファムレイユの胸の内に、すとんと収まった。 まるで、欠けていたピースがハマるかのように。 瞼を伏せるファムレイユの目から、熱い雫がこぼれたが。それは滲みを形作ることなく、デュラハムの手によって払われた。 「愛してる」 「……ん」 「愛してる?」 「……うん」 告白に理解を。 問いかけには肯定を。 小さく頷くファムレイユに、デュラハムは穏やかに目を細めた。 「あい、してる……」 それは恐らく、ファムレイユが初めて口にする言葉で。 笑みを浮かべたデュラハムは、その言葉を紡いだ唇に、優しく己の唇を重ねた。 「一つ、提案があんだけど」 「……っ……?」 ファムレイユが落ち着くのを待って、頬に、唇に、瞼に、キスの雨を降らせていたデュラハムが顔を上げた。 まだ僅かに横隔膜を痙攣させながらも、ファムレイユはデュラハムを見上げた。 「家、買わないか?」 「家……ですか?」 「そう。俺と、お前さんとで住む、家」 何の話をしているのだろう、と、ファムレイユは首を傾げる。 けれど。 「それって……あの……」 「こんな時に言い出す話でも無いだろうって苦情はパスな。今思いついたから」 「……っ……」 騎士団の隊長職以下、副隊長補佐までの役職を持つ面々は、各個人に私室が与えられている。 基本的には、そこが生活のスペースとなり、家を持っている者は数少ない。 強いて挙げるならば家庭を持つ者だが、言い換えれば、家庭がなければ家を持つ必要もないと言うことになる。極論ではあるが。 しかし、それが騎士団員や関係者の間では通説と言うか、ほぼ不文律にもなっているのも事実。 深読みなどしなくても、意図することは分かると言う物である。 「本当は、もっと別な文句も考えてたんだが」 「……例えば?」 「嫁に来い、とか。結婚しよう、とか」 それもそれで、どうかと思うが。 思わずこぼれた笑みは、ファムレイユの表情を明るくする。 その姿にデュラハムは少しばかり眉を寄せたが、直ぐに気持ちを切り替えたか、くっと喉の奥で笑いをこぼした。 「まあ、家を持ったら持ったで、大変だろうが。お前さんと、三人四人で暮らすにゃ、ここじゃ手狭だからな」 「三人……四人?」 ニヤリ、と口角を上げた笑みを見せたデュラハムに、ファムレイユは笑いを収める。 しかし、言葉の意味を理解するより早く、デュラハムはファムレイユを抱きしめて、ベッドに倒れ込んだ。 「ひゃっ…!」 「子どもは二人。嫌か?」 「っ……ヤじゃ、ないですけど……気が早くありませんか?」 繋がったまま、体を起こしたデュラハムは、ファムレイユの体に手を伸ばす。 穏やかになっていた筈の体の熱は、それでもしっかりと感覚を残していて、ファムレイユは甘い声を上げそうになったが、息を飲んで、それを堪えた。 「そうか?」 「そうです。それに私、まだ返事してませんよ?」 徐々に熱を帯びる吐息に言葉を乗せる。 途端、デュラハムの動きがはたりと止まった。 案外、押しには弱いのかも知れない。 「そう言や、そうか」 「そうです」 思案含みの顔付きになったデュラハムに、ファムレイユは笑いかける。 両腕を伸ばし、先ほど、デュラハムが自分にしてくれたように、両の頬を包み込むと、デュラハムは少し苦笑して、ファムレイユに顔を近付けた。 「俺と、生涯を共にしてくれないか?」 その眼差しは、何処までも真っ直ぐで、子どもの頃に見た、あの騎士の眼差しと、今も変わることがない。 喜んで、と。 呟いた声は、口づけによって、二人の間に密やかに仕舞われた。 何かを確かめるように唇を重ね、舌を絡める。 デュラハムの手が、ファムレイユの額に掛かる髪を掻きあげ、より深く、より強く、唇が重ねられる。 同時に、ゆっくりと胎内を擦り始めた熱に、ファムレイユはくぐもった声を上げた。 押し付けるように体の奥に擦り付けられるデュラハム自身に、閉じた瞼の裏で火花が散る。 呼吸が出来ない苦しさと、じりじりと焦がされる欲望に、全身が熱を帯びてくる。 絡め合う舌は酷く熱くて、なのに、絡めても絡めてもまだ足りない。 貪るような口づけは、ぴちゃぴちゃと濡れた音を響かせる。 デュラハムの手が、再びファムレイユの体をなぞり始める。 首筋から肩を通り、ゆっくりと胸を掴まれる。 ほんの僅かな刺激にも、体の奥が溶け出しそうな快感を覚え、密着させた秘所からは蜜が溢れる。 ぶつけられる欲望は、いつものような激しさは無いのに、それ以上の快感で。 もっと欲しいと切望する心のままに、ファムレイユは腰を浮かせて、デュラハムにすがりついた。 それが合図になったようで、ぬちゃりと淫らな音がする。 半ばまで引き抜かれた肉棒が、再びファムレイユの胎内に埋められ、最奥にぶつけられたその衝撃は、ファムレイユの目を見開かせた。 声にならない小さな悲鳴が口を吐く。 弾みで離れた唇ははくはくと、水辺に揚げられた魚のように震えるが、デュラハムの動きは更に勢いを増した。 「ひっ、あ…あああっ!」 体を起こしたデュラハムに痛いほどに両の胸を掴まれ、体の奥をえぐり出されるような動きで、律動が繰り返された。 固く尖った頂を指で摘まれ、ぐりぐりとこね回される。 同時に、僅かに引かれた欲望は、強い衝撃を伴って、体の奥の奥にまでぶつけられる。 その度に、悲鳴にも似た鳴き声を上げて、ファムレイユはすがりつく手に力を込めた。 自分自身の体なのに、別物になってしまったかのようで。 頭も体もぐちゃぐちゃに溶けて無くなりそうなのに、けれど、それが不思議な充足感にすり替わる。 気付けば自ら足を開き、デュラハムの動きに合わせて腰を動かす。 普段ならば、それこそ三度目の情交でなければしないようなことなのだが、そんな事を考える余裕もない。 「ファム…っ」 掠れた声で名前を呼ばれる、それだけで、もう幸せで、嬉しくて。 笑みを浮かべたファムレイユは、知らず涙を溢しながら、何度も何度もデュラハムの名を呼んだ。 膝を持ち上げられ、勢い良く抜かれた肉棒が、全身を擦るように埋められる。 突き上げられる律動で、溢れる蜜が太腿を汚し、ぐちゅぐちゅと籠もった音が絶え間なく響く。 「や、あっ、デュー! …っ、やあああっ!」 頭の中が真っ白になっても、デュラハムの動きは止まらなくて、一瞬気を失ったファムレイユだったが、それも直ぐに快感によって現実に引き戻される。 「やぅ…ら、あ、らめぇっ! も、ああっ!」 呂律の回らない口がだらしなく開かれ、意味を成さない声だけが、ファムレイユの喉を震わせる。 そんなファムレイユの姿に限界を感じたのか、デュラハムは持ち上げた膝をファムレイユの胸に押し付けて、今までに無い強さで、ファムレイユの体を突き上げた。 「ファム……愛してる…っ」 「あぁぁっ、んあ、あい、して…っ…!」 愛している。 譫言のように互いの口からこぼれる、その言葉の意味を全身で感じるファムレイユは、デュラハムの声と熱に、再び全身を震わせて。 体の奥に吐き出された、デュラハムの欲望の熱に、緩やかに気を失った。 数ヶ月後。 王都の、住宅地の一角に設けられた新居に、王都の守護を担う王都騎士団が住んでいる、と噂されたが。 周りに住む住民からは、年の離れた仲の良い夫婦が住んでいる、との認識で。 噂のほどは、定かではない。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |