真白な花
シチュエーション


彼女に初めて会ったのは、13の夏だった。
子どもに恵まれない叔父がその領地の一部を貴族の末子である彼に
譲ってくれることになり、叔父は国境の端に位置する山深いその場所へ
連れていってくれたのだ。

”なんと荒れた土地なのだろう・・。”

いずれ自分が領主となるその地を見て、初めて漏れた感想がそれだった。
夏なのに風は冷たく、冬ともなれば深い雪に閉ざされるに違いない。
剥き出しの岩肌とようやく馬一頭が歩けるだけの勾配の急な山道。

”ここは山岳地帯そのものだ”

国の首都から馬車で3日。麓の街に着き、それから叔父とともに馬に乗って半日。
ようやくたどり着いたその地は貧しい山村だった。

「どうだ、ヴィクトール、綺麗なところだろう?」

見上げれば白く高い峰々の上に空は青く澄み渡っていた。
確かに美しい地ではあるだろう。

「ええ。」

子どものいない叔父は甥である彼を実子のように可愛がってくれていた。
彼も優しいその叔父が好きだった。
その手前、頷いてみたものの、心の内ではひどく失望していた。

”兄たちの継ぐ広大な小麦畑や肥沃な大地、葡萄のたわわに実る丘陵地に比べ、
なんとも貧相な土地だ。末っ子の自分にはこんなところしか残ってないのか。”

ヴィクトールの失望に気付くことなく、大柄な叔父は微笑んで頷き、
彼を村の長の館へ連れて行った。

「ようこそ、領主殿。そしてこちらがヴェクトル坊ちゃまですね。」

実直そうで素朴な山男が、さしても大きくない家の前に立っていた。
その家にも失望する。兄の継ぐ領地の壮麗な城とはなんという違いだろう。
これではただの山荘だ。
それでも彼は愛想よく慇懃に馬を下りて、地主に挨拶する。

「よろしく、ヴィクトールです。」
「よろしゅうにお願いします。ヴェクトルさま。」

男の言葉には明らかな隣国の訛りがあった。この地は国境に近い。
軍事的には要地にあたるため、たやすく手放されることはなかったが、
隣国との長い抗争の中では、何度もやりとりされてきた領地なのであった。

「お疲れになったでしょう。すぐ食事を用意します。」
「ああ、ありがとう。ヴィクトール、ここの山羊の乳のチーズは
絶品なのだよ。」

予想はしていたが、食事も貧しいものだった。
それでも精一杯に用意されたものなのであろう、カモシカの肉を煮込んだ
シチューと山羊のチーズ,特別に開けられたと思われるワイン。
叔父は村長とは懇意の仲らしく、王都にいた頃の優雅な面持ちを崩し、
いたって寛いだ格好で山の話などをしている。
小さな山荘に見るべきものもなく、13歳の彼はすぐに退屈した。

「叔父上。」

叔父が甥を振り返る。

「外を見てきてもよいでしょうか?素晴らしい山峰だったので。」
「おお、良いとも。」

叔父は喜んで、村長に話しかけた。

「アステルも、もうずいぶんと大きくなったことでしょう。」

アステルという名からてっきり少年だと思っていた。
村長の子どもだというアステルが山羊追いをしているから
案内をしてもらうといいという叔父の言葉に従って、山荘を出て
白く続く山峰への道を歩き出した。
標高の高い土地、尾根の道は雲を下に見るような絶壁である。
ふいに上から、小さな石が転がってくるのを感じ、振り仰いだ。

そこに彼女がいた。
歳の頃は彼と同じくらい。後で聞いたら、彼より一つ上の14歳ということだった。
細身で白に近い金髪を肩まで垂らした少女が、崖の上に立っていた。
薄い水色の瞳で鋭い目つきの娘がじっとこちらを見ている。
肌は白く、鼻の上には雀斑が散っていた。
その立っているところときたら、およそ人が行ける場所とは思えないところだった。
どうやったらそこへ登れるのか、怖ろしく急な斜面の突き出た岩の上に
カモシカのような足で立っている。ローブと前掛け姿の村娘の格好でなかったら
およそ人でない妖精のようなものに出くわしたかと思うほどだった。
あっけにとられて見ていると、娘は口に指を入れて口笛を吹き、山羊たちを集めると
ひらりと驚くほどの高さからローブの裾を翻して、飛び降りてきた。

「ようこそ、ヴィクトール坊ちゃま。」

それがアステルとの出会いだった。

その年の秋に、彼女は王都の屋敷へ侍女として行儀見習いのためにやってきた。
叔父が村長に頼まれたのである。王都の華やかな地で短い期間でもその空気に
触れさせてやってほしいと。

「あんなんで大丈夫なのか?」

13歳のヴィクトールが心配する間もなく、案の定、彼女は侍女たちの間でつるしあげをくった。
兄たちですら、彼女の山育ちを馬鹿にする。それはそうだろう。兄たちの領地からやってきた
侍女らはその領地の代官の娘たちだ。その領地ではそれなりの城に住んでいたのである。
比べものにならないほど洗練されているし、およそ銀の食器さえ扱ったことのないであろう
アステルが馬鹿にされ苛められるのも無理はなかった。

「あの山猿が、今日もね。」
「え?今日は何をしたの?昨日はナプキンのたたみ方も知らなかったのよ」

容赦のない侍女たちのひそひそ話にうんざりとして、乳母と母に頼み、
アステルを自分づきの侍女の一人にしてもらった。

「ありがとうございます。ヴィクトール坊ちゃま。」
「坊ちゃまは止めてくれないか?」
「はい。では、何と呼べば。」
「ヴィクトールでいい。なんなら、君の土地の言葉でヴェクトルでも。」
「それは嫌です。」

貴族の末子に生まれた彼は、彼女のおよそ侍女らしくない物言いに驚いた。

「嫌だって?」
「私はここへ行儀見習いに来たのです。土地の言葉で話したくはありません。」

”なるほどね。”

頭を真っすぐに上げ、目線をそらさずに話す彼女を見て、彼は思った。
誇り高い痩せっぽちの野生の獣のようだった。頭もいい。
こんな侍女ではさぞかし苛められるだろう。

「それで、君は何を覚えたいの?アステル?」

彼はもう充分に彼女に魅かれていた。

結ばれたのは彼女が15、彼が14の時だった。
アステルという名は、雪割り草のことで高貴な白を表す古語だと
ヴィクトールは彼のラテン語の家庭教師から聞いた。

「君にぴったりの名だね。」
「ヴィクトールさま」

その頃になると、覚えの良いアステルは貴族の館の一通りのことを
知り、扱えるようになっていた。
それだけでなく、ヴィクトールはこっそり夜、自分の部屋にアステルを呼び、
侍女では知らないような高度な本も一緒に読んだりした。
アステルは好奇心が強く、一度覚えたことは忘れることはなかった。
思春期の少女と少年が知りたがることといえば決まっている。
先に手を出したのは少女の方だったかもしれない。
膨らみかけた胸に少年の手が触れた時だった。

「あ・・」
「あ、ごめん。」
「いえ、いいんです。」
「いいって・・。」

少女は少年の手を取って、自分の胸にあてる。
薄い水色の瞳は閉じられていた。
気の強い野生の少女の唇がかすかに震える。
ヴィクトールは引き寄せられるように、その唇の自分の唇を押し当てていった。

一度、そういう関係になるとあとはもうなし崩しだった。
少女は綺麗だった。白っぽい金髪の綺麗な髪の毛が長く流れ、
肩から鎖骨への魅力的な傾斜にこぼれ落ちている。
無駄な肉はなく、そのひきしまった躯はそれこそカモシカのようで、
清潔感があって、なのにそこだけ存在を主張している乳房は
形がよく、柔らかかった。
何者にも怖じ気づかない芯の激しさがあり、なめらかな肢体を
からめてくる彼女。
彼女は小さく喘いだ。
初めはぎこちなかった少年と少女であったが、いざ、そこを超えて
しまうと、二人とも驚くほど大胆になった。

「・・・面白い、ここ・・。ヴィクトールさま・・。」

最初はいやいやという気配もあったが、さわっているうちに興味を覚えたのだろう。
生まれ持っての好奇心でアステルはヴィクトールの股間に触れてきた。
アステルの愛撫がいつのまにやら実験をしている気配を漂わせはじめたのを感知して、
彼は憮然とした。

「待て。・・・もういい」
「ヴィクトールさま?」
「僕にさせろ。」
「あん・・」

彼女の腰の後ろを抱きとり、ゆっくりとその太腿の間に入り込む。
細い腰に丸い小さな尻。しなやかな躯がかすかにのけぞった。
押しいれられた花の芯から熱い蜜が溢れて少年のそこにたっぷりとまつわりつく。
彼女の中は熱くてきつくてとてつもなく気持ちいい。
ゆっくりと始めた動きが早くなっていくのに、さして時間はかからなかった。
何度もヴィクトールの名を呼び、彼が突き上げる時々に漏らす喘ぎも声も、
切羽詰まって切な気でとても可愛かった。

「あ、あっ、ヴィクトールさま、だめっ・・もう・・」

熱く叫んで全身をしならせ、震えながら、彼女の中が彼を絞った。

そんなふうにして、ヴィクトールはアステルを気に入りの侍女として
もっぱら傍に置いていた。
一度はこっそり彼女を連れ出し、秘かに貴族の子女のドレスを着せて
宮殿の舞踏会へ一緒に出かけたこともある。
17歳になったばかりのアステルは美しかった。
どこの貴婦人かと聞く友人たちには、叔父の遠縁のお嬢様だと嘘をついた。
誰も怪しまないほど、アステルは気品があった。

別れがきたのは彼女が18歳を迎えた時だ。
3年の月日を彼らは共に過ごしていた。
身分の違いは容赦なく若い恋人たちを引き裂いた。

「お別れです。ヴィクトールさま。」
「なんだって?僕が嫌いになったのか?」
「そうではないのです。私はここへ来て本当に幸せでした。
山猿と呼ばれた私を教えてくださって・・・。
でも、私は帰らなければなりません。」
「どうしてだ。ここにいろ。僕の傍にずっといろ。」
「私もできることならそうしたいのです。
でも、ここに3年いても坊ちゃまの御子を身籠ることは
できませんでした。代りに、私の妹がやってきます。」

ヴィクトールはアステルを抱きしめて叫んだ。

「僕はお前がいい。」
「ありがとうございます。でも、私は私の土地に
帰らなければなりません。幼馴染の従兄との結婚が
決まったのです。父方の従兄なので、血縁はありませんが。」
「なんだって?」
「私はヴィクトールさまと血が近いので、それで御子を身籠れなかったの
かもしれません。妹は父の子なので、きっと御子を授かることができるでしょう。」
「何を言っているんだ?」
「さようなら、ヴィクトールさま。貴方のことを一生忘れることはありません。」

翌日、叔父がアステルを迎えにきて、きちんと正装した彼女を馬車に乗せた。
ヴィクトールは、叔父と彼女がよく似ていることに気がついた。
薄い金色の髪。水色の瞳。
アステルは彼の従姉だったのだ。
彼女の母は若い頃、叔父の屋敷に仕えていた。年頃になって今の彼女のように
故郷の山へ戻り、村長と結婚したのだ。

数か月が経ち、アステルの妹がやってきた。茶褐色の髪の色の黒い純朴な娘だった。
短い少年の時は終わり、幼かった貴族の末弟にも宮殿に仕える日々が
迫っていた。
険しい山岳地帯の厳しい風雪に耐えて、崖の上に咲く雪割り草の白い花のような
彼の彼女は二度と帰って来なかった。






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