教授と助手
シチュエーション


中に人がいるのを確信してノックをし、ドアを開ける。
部屋の主は背もたれの高い椅子に座り窓のほうを向いている。机の前に立ち、呼びかける。

「教授」

振り返ったのはそう呼ばれるにしてはまだ若い。なんにでも好奇心旺盛なところも年齢不詳に見える原因だ、と思う。
若年で教授に選出された有能な彼に比べて、私のほうが年下なのに気苦労からか老け込んでいるのもしゃくな話だ。
彼の手の間には紐が見える。あれは

「教授、何をされているんですか?」
「あやとり。これ面白いよね」

ご丁寧に傍らのコンピューターではあやとりの動画が再生されている。

脱力しつつ持参した書類とメディアを差し出す。自分の上司たるとびっきり優秀で学会内でも有名な彼に。

「今度の雑誌に投稿する論文の最終版です。チェックをお願いします。
あと最近の症例から講義に使えそうな教育的なものを集めましたので、目を通してください」

彼は面倒くさそうにそれらを受け取る。

「俺がチェックしなくても君が了承したらもうそれでいいのに。あ、これ新しい依頼原稿、よろしく」
「教授、それは教授の原稿でしょう?どうして私が貴方の日常コラムのようなものを執筆しないといけないんですか」

彼は悪びれずに私を見つめる。知性と能力は比例しているのに、常識と社会性は反比例している大きな子供のような目で。

「君の役職は何だったかな?」
「助手です」

彼はにんまりと笑う。

「そ、教授を助ける、のが君の役割だよね。だからよろしく。あとこちらに来てくれ」

机の向こう側の彼の所へ、と促され棒立ちになる。
断られることなどみじんも疑わない彼の視線に根負けして、机を迂回して座る彼の前に立つ。
私の手首を捉えて彼は立ち上がる。腰を引き寄せられ唇が塞がれる。

「教授、鍵が」

ひとしきり口の中を貪った後、私の指摘で彼はいそいそと施錠にいく。
普段もこれくらい動いてくれればいいのに、彼が自発的に動くのは手術の時くらいだ。ただそのときの彼は別人、だが。
神の手と呼ばれる繊細で大胆で的確な手技で他所でお手上げとされた困難な症例も見事に切除する。
手術室での彼は天才で神々しいくらいで、その姿に目も心も奪われてしまう。
だからこそ手術室を出た彼の伸びたゴムのような姿に脱力しつつも、教育と研究と医局の運営に尽力しているのだが。

彼の手は大きくて指が長い。しなやかで繊細に動く。今も器用に白衣とブラウスのボタンをはずしている。

「教授なら手近で済ませなくても他に女性がいらっしゃるのに、酔狂な」

首筋に唇を落としていた彼は手を動かしつつおかしそうに言う。

「だって連絡したり食事とかホテルに移動とか面倒だし。俺は白衣の女性が好きなんだ」

ならさっさと結婚して家で白衣プレイでもすればいいのに。
心の中で毒を吐いても体は彼の指で早くも乱されている。
乳首を舐め転がされてそこが張り詰め痛く感じる。もう一方は指でこすられる。スカートはたくし上げられ足の間をかかれている。
前言撤回、手術だけでなく女の扱いも巧い。

「ん、あぁ」

耐え切れずにかすかに声が漏れると、一気に濡れるのが分かる。彼が満足そうな表情でストッキングと下着を下ろしていく。
中途半端に、だけど必要なところは露出されている私と、きっちり着込んだ彼の姿に私だけが乱れて彼に翻弄されているのを
思い知らされて切ない気分になる。
そんな感傷も彼の指が直接陰核と膣に触れると霧散してしまう。指は私の感じるところを執拗に刺激し立っていられなくなる。
そこが充血して腫脹し、指を締め付けるのが分かる。2本に増やされた指を往復されて達してしまった。

「いった?君が乱れているのは可愛いな」

女医なんて可愛げのない女の代名詞だ。
結婚もせずそして長いこと付き合う相手もいない面白みのない私を可愛いなんて言うのは彼だけだ。
それもこうして体を重ねているときだけの台詞だから、リップサービスなのだろう。

「教授は、眼科受診したらいかがですか」

快楽の余韻で語尾がふるえてしまう私に、彼がため息をつく。

「君は、こんな時まで理性的なんだね」

それきりおしゃべりは時間の無駄とでもいうかのように、彼は私に挿入した。

「はっ、くう…」

机にもたれた私を彼は容赦なく突き上げる。部屋の中に響く荒い息と粘性を伴う水音、熱くなる体に五感が刺激される。
彼のもので内壁を擦られ、内部で特別に感じる部分をこすり上げられるとたまらない。
しがみついて彼の肩で口を塞いでみっともない声を上げるのを耐えようとする。
彼に感じても、抱かれてはしたなく反応するのも仕方ないが声だけはと、最後のプライドで抑える。
でなければ彼の体のいい欲望処理係の現状の惨めさに耐えられない。
声を耐える私の体は力が入り、彼を一層締め付けるのが分かる。もうその刺激に持ちこたえられそうにない。
彼が奥を突いた時、眼前が真っ白になり浮遊感が襲う。体の痙攣が止められない。
霞がかる意識の中で彼も達したのをぼんやりと感じる。

服の乱れを直し再び机の前に立つ。

「では依頼原稿は持っていきます。どんな内容になっても文句は言わないでくださいね」

かれは気だるげに頷く。出て行こうをする時、背後から声がした。

「君は…」

なんでしょうか、と振り返る私に何でもない、と低い声が返ってきた。

「失礼しました」

ドアを閉じ原稿を部屋に置いてからピルを飲んで病棟に向かう。
体の中心の熱に嬉しいような泣きたいような、なんともいえない感覚を抱きながら。
白い廊下が目に眩しかった。






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