教授と助手2(非エロ)
シチュエーション


憧れは遠くにありて思うものなのかもしれない。

医学部も5回生になると病院実習が始まる。全ての科を回り臨床の現場を学んでゆく。そうして自分の進路を決めるのだ。
18の時に職業は選択した。医学部に入ったからには医師になるのは当然だ。
そして5から6回生で初めて進路の選択に頭を悩ませるのだ。
どの科を選択するか、どの病院で臨床研修を受けるのか。
学生は数人のチームで各科を回る。どの科も忙しくそして誇りを持って仕事に当たっている。
その中で自分の適性や興味を吟味して、選んでゆく。一生のことなので真剣だ。

実習の中には当然手術の見学も含まれる。学生と分かる術衣を着てマスクをかぶり手術室で邪魔にならないよう、清潔な場所に
触れないように注意して術野の周囲で踏み台の上に立って見学する。
そして私は教授の手技を目の当たりにしたのだ。
ピンと張り詰めた空気の中入室した教授は、流れるような鮮やかな手つきで病巣を周囲から離して切除した。
その見事さは私達を指導してくれていた医師がため息をつくほど、そして自慢するほどだった。
私もその手の動きに魅入られてしまった。見ている間中頭の中にすごい、すごいという単語しか浮かばなかったのを覚えている。
きついとか色々言われているその科に、私は迷わず入ることを決めた。研修も大学病院で受けることに決めた。
医局長に連れられて初めて教授に挨拶にうかがった時、彼は私を上から下までじっと見て

「君、物好きだね。うちは大変だよ」

彼の物言いに局長が慌ててやりがいがあって勉強になる科です、と言葉をかぶせた。
医局長としてはせっかくの獲物に逃げられてはたまらないのだ、と今なら思う。そして教授の方が正直だったのだと。
それでも教授の下で勉強して一人前になりたかった私の決心は揺るがなかった。その時は。

晴れて医師免許を取得して働き始めた私は一番下っ端で実務は何も分からず右往左往していた。
同期と一緒に色々な検査の手順や器具の使い方を学んだり、指導医について病棟や外来、検査や手術を経験したり。
初めての医局会で新入医局員として紹介された時、拍手の先輩方の中で教授だけがご愁傷様とばかりの手つきをした。そしておもむろに
何かを取り出して机の上で作業を始めた。凝視しているとその手の中で見る見る物体が構築されていった。

折り紙の鶴だった。

この人は何をしているんだろう。そう思いながら見ていると彼は鶴の羽を広げ指の上に乗せて真剣にそれを眺めていた。
新入医局員以外はこの光景をなんとも思わないようで、医局会は淡々と進行していった。
教授が究極のマイペースで唯我独尊で天上天下な人なのだ、と程なく私達は気付かされた。手術室で神様のように奇跡の手技を振るう
のなら、そこを出た後では悪魔のように堕落して面倒くさがりなのだ、と。
下っ端のうちは被害を被ることはほとんどなかったが、時間が経過するにつれだんだんと、それはもう多種多様の……
そして現在、女性に声をかけてそこまで持っていくのが面倒だから、という理由で私は彼に抱かれている。

「そんな時間があったら他の事したいじゃない」

にこりと笑う彼に私は呆れてものが言えない。どうしてそれに甘んじてしまったのか、ずいぶんな侮辱を受けているはずなのに。
そんな言動も彼なら仕方ない、言っても不思議ではないと分かってしまっているから、だろう。

「他のことって何ですか?」
「うん、上は内視鏡を応用した新しい検査法の考案から下はそうだなあ、明日の会議を逃れる理由をひねり出すとか」

はあ、とため息をつく私にでもね、と

「今は君と一緒に気持ちよくなりたい」

そう言われて耳たぶを弄ばれる。彼の手を体に感じた際にふとある考えが頭をよぎった。

私はカモ、なんだろうな。
やっぱり憧れの存在は遠くからみているべきだったのだろうか。






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