シチュエーション
彼が海外の学会に行く。一週間ほど主が不在になる医局で、最近作ったデータベースに症例を記録していた。 完成すれば症例をまとめるのも論文や発表のネタ探しも楽になる予定だ。 彼が不在の間は大きな手術も入らないし少し時間に余裕がでる。入力をこの期間に進めるつもりにしていた。 そこに彼からの呼び出しがあった。きりのいいところでシャットダウンして彼の部屋へといく。 彼はパソコンの画面でなにやらチェックしている。机の前に立って、その様子を眺めていた。 彼も作業を終えてUSBにおとした後でこちらを向く。 「ごめん、お待たせ」 机の向こう側に招かれ彼のところにいく。彼は座ったまま私を引き寄せ腰に手を回す。 「何をしていた?」 「データベースに入力していました」 彼は、ああ、と頷く。 「あれはいい出来だと思う。完成したら随分仕事がやりやすくなるだろう。ご苦労だったね」 作成の労をねぎらわれると素直に嬉しい。知らず緩んだ頬に彼の手が触れる。 「一週間会えないから充電させて」 「普段でもそれくらいは会っていないです」 「……君は時々意地悪だ」 少しすねた口調で彼は私の眼鏡を外す。ことりと机の上に置いて、私をソファに導く。 三人がけの大きなソファは忙しい時のベッド代わりだと言っていた。毛布とクッションが置いてある。 唇を深く貪られながら胸をもまれて乳首をつままれるとひくん、と体が揺れる。 吐息は彼に絡め取られてしまう。 片膝は立てられて下着はとっくに脱がされている。随分と性急に体を開かされて、追い上げられる。 「入れるよ」 分け入ってくる彼に、いつも最初は圧迫感を感じる。そのうちにたまらない快楽の源になる。 バイオリンの弓と弦の角度を微妙に変えるように、彼は角度や深さを変えて私を翻弄する。入り口付近を ぐりっとこねられると息が詰まりそうになるし、奥まで突かれると子宮口を刺激されて痺れる感じになる。 でも引く時に膣の上側の一点をこすられると、たまらなく良くて腰が揺れるのを止められない。その時には 膣が彼を締め付けて、我知らずもっととねだっているかのように反応してしまう。 ゆっくりと彼が動いて中の弱点を意図的に刺激され、それだけでもいいのに私から溢れた粘液を指に絡めて 彼が陰核をすり、と撫でる。 「ふっ、んう」 勝手に背がしなり腰が浮く。それをソファに押さえ込まれて奥へとねじ込まれる。逃げ場なく否応なく 繋がっている所を意識させられる。嬉々として彼を咥え込みうごめいて快楽を貪る器官を。 なんていやらしい。 でもこんな強烈な感覚は、快楽は彼しか与えてくれない。その快楽を逃すまいとするかのように、 彼の腰を膝で挟んで大腿に力をこめて、手も彼の背中に回し全身でしがみついてしまう。 もう、駄目。浮き上がるような落ちるような、相反する感覚の後に燃え尽きてしまった。 彼が早い心拍を確認するかのように横に向けた顔をのせる。その重みも心地よくて、彼の頭をかかえて 髪の毛の間に指をすべらせる。しばらくその姿勢でいた後で、彼が頭を起こして私の胸に唇をつけ吸い上げた。 胸に鬱血斑を認める。彼に痕を付けられたのは初めてだ。視線を向けると 「虫除けと置き土産。消えないうちに戻ってくる」 ……私に言い寄る人などいないのに。普段と違って遠く離れることに思うところがあるのだろうか。 怒って消えるものでもないし、人目に触れない位置なのでまあ仕方ないか、と思う。 「お土産は何がいい?」 「いえ、別に何も」 張り合いがない、と不満げだがブランド品に興味はないし身に付ける場所もない。アクセサリーは仕事の 邪魔になるし、香水も付けられない。爪も短いのでネイルなども論外だ。本当に欲しい物もなかった。 「そうか。分かった。じゃあ行ってくる」 「お気をつけて」 戻った彼が土産だ、とくれたのは出版されたばかりの専門書だった。しかも著者である教授のサイン入り。 「二冊ちゃんと購入しようと思っていたのに、本人がくれた」 そう言って同じ本を見せてくれた。デジカメには仲良く二人で写っている姿までおさめられていて、 著者の教授を尊敬している私にとってはうらやましい限りだった。 「ありがとうございます。大事にします」 「ん、しっかり勉強して。いつか連れて行きたいから、向こうで発表できるように頑張りなさい」 教官の口調で激励してくれたのに、痕は残っている?と胸を覗こうとする仕草で台無しだ。 「俺がいない間、寂しかった?」 思いがけない質問にしばし詰まる。全然、ともすごく、とも言えなかった。 「……少し」 海の向こうというその距離感は私にも何らかの影響を及ぼしたようだった。本当は結構寂しかった気がする。 SS一覧に戻る メインページに戻る |