夜伽
シチュエーション


湯浴みをして寝台へと追いやられ、しぶしぶその身を横たえた時にノックの音がした。

「入れ」

ドアを開けたのは宰相だ。落ち着いた眼差しをしている。

「何用だ」
「殿下が十四歳になりましたので、新たな教師をつけたいと思いまして連れてまいりました」

こんな時間に教師だと?眉根がよるのを自覚する。
第一もう寝る時間だ。明日にしてくれ、と言いかけたのを封じたのは宰相の影に隠れるような小柄な姿だった。
それはつ、と宰相の横に来て膝を深く折り礼をする。

「この者は?」

その言葉に許しを与える前に伏せた顔を上げた女はかすかに笑って口上を述べる。

「はじめまして。殿下の夜伽をつとめさせていただきます」

長いこと女を見ていた気がするが、実際にはそれほどでもなかったのだろう。

「……どういうことだ?」

宰相への質問に、彼は落ちついた口調でかえしてくる。父王の懐刀は自分の教師役でもある。

「聞いての通りです。殿下も十四歳、男女のことを知る年齢になったと判断いたしました。
この者がお教えしますので。では私はこれで失礼いたします」

そう言い置いて宰相は部屋を出て行った。あとには自分と女の二人しか残らなかった。
呆然としている自分に女が呼びかけてくる。

「殿下。勝手に発言するご無礼をお許しください。これよりしばらくの間、夜にお側にあがります」
「そのようなことは要らぬ。そなたも部屋を去れ」

女はしかしドアへは向かわずに寝台に寄ってくる。それをただ見ているしかなかった。
その女は自分より年上のようだ。美しい部類に入るだろう。今まで見かけたことはなかった。

「殿下に男女の理をお教えするのが私の役目です。殿下にお仕えいたします」

そう言って頬にのばされた女の手を一生忘れないだろうと思った。

「名はなんだ」
「ありません、好きにおよび下さい」

女は言いながら寝台に腰掛けて自分を抱き寄せる。身内以外の異性と接近するのに、緊張してしまう。
くすり、と笑われて頬に血が上る。

「女性を抱く時には雰囲気作りが大事です。相手が物慣れた方ならどうとでもなりますが、経験のないような女性なら
怖がらせないよう、ゆったりと抱き込んでください。決して力任せにしないように」

手本を見せるかのように背中に手が回る。
突然現れた正体のしれぬ女に主導権をとられるなど我慢ならないので、同じように女の背に手をおいて抱き寄せる。
力を入れないようにこわごわとだが、初めて異性を腕におさめる。

――女は柔らかく、華奢で甘い香りがした。

「お上手です。次には目を見て、相手を欲しいとお思いになり触れてゆきます。髪や頬を撫でるのは効果的です。
手はその段階では背中から腰までです。その下へは下ろしませんようにご注意ください」

女は髪をなでで手の平を頬に滑らせそして首筋におろした。そこから後頭部に手をもってゆく。
その顔が近づき、心臓が早鐘をうつ。こっそりと酒を飲んだ後のようなふわりとした気分になる。

「まずは口付けを交わします。唇同士を軽く重ねることから始め、何度かそれをしたら少しずつ深くしてゆきます」

下から女が少し顔を傾けて唇を合わせてきた。目は閉じている。それを見ながら女のまつげが長いと思った。
啄ばむように口付けられていたそれがだんだん強さを増してくる。息苦しくなってきたとき、唇が離れた。

「息を止めずに鼻で呼吸なさってください。あとずらした口からでも結構です」

そして深く口付けられ思わず開いた唇の間から女の舌が入り込んだのを感じた。舌は自分の唇を舐め、歯や歯茎を
さわり自分の舌に触れて絡みついた。目を丸くしていると女は目を開け、少し目を細めた。
絡んだ舌はぬめぬめと動き、唾液を飲み下す。その間に器用なことに女は自分の夜着に手をかけて脱がせてゆく。
舌を吸われめまいのような感覚に襲われる。
唇が離れたとき、大きな息をはいてしまった。

「今度は殿下からなさってください。同時に私の服も脱がせてください。姫君などは緊張なされているでしょうから
あくまで優しく、です」

そう言ってねだるかのように目を閉じた女に、唾を飲み込んで顔をよせる。さっきの女の舌使いを思い出しながら
震える手で女の服をくつろげてゆく。女は自分の首に指を這わせて撫でさすっている。

「あ……」

女が出した声で慌てて体を離す。女は苦笑していた。

「殿下、お上手です。気持ちがいいと女性は、男性もですが声がでます。演技なのか本心からなのか見極めることは重要です。
この時に声が出たことを女性に認識させるのも駆け引きの一つです。
羞恥心を煽ったり、今後への期待を持たせたりですわ。
可愛い、とかもっと聞きたいなどおっしゃるとよろしいかと思われます。
またその際も手は愛しげに相手の体に触れていてください。触れ合う場所が多いほど、殿下への親愛の情が増します」

女の唇が顎から首をたどって鎖骨に来る。同時に熱く湿った息も感じて自分の体が熱くなってくる。
手の平が胸をつつみやんわりともまれる。そして先端を指でいじられる。

「胸は女性の性感帯の一つです。柔らかくもんだり、適度に押しつぶしたりしてください。この先端は特に敏感です。
はじめは掠めるように、指でつまんだり撫でさすったりしてください。きゅっとつまむのも効果的ですが痛くしないよう
気をつけてください。ここは時間をかけて可愛がるとよろしいですわ。口でも、です」

平らな自分の胸を片方は指で、片方は口をつけて愛撫してゆく。もう片方の手はわき腹や背中、下腹を撫でさすっている。
確かに多方面から刺激されると気持ちがいいような気がする。

「余にもさせよ」

女の胸は大きくてやわらかく、手ですくうとふにふにと形が変わる。先端は自分のより大きいが綺麗な色をしていた。
それに口をつけると女が身じろぎした。

「感じると、そこはかたくしこります。試してみてくださいませ」

女の指導に従って胸を指や唇で試してみる。男にはない感触と反応に熱がだんだん下腹部に集まってくるのがわかる。

ここで女に押し倒された。

「足をなでて、ここ、に手を持ってきます」

下穿きの上を触られて体がはねる。自分のそれはもう固く反り返っている。それをゆっくりと上下に触られると腰に
電流が走る気がする。

「ふっ、くう」
「お可愛らしいですわ。まずは布越しにゆっくりと、時々強くしたり周辺を触ったり。口や手で胸や他の場所もずっと触って
いると相手の反応も確かめられて効果的です。よろしいですか?」

女の指使いは魅惑的で、上から見下ろす視線は自分を捕らえてはなさない。
指で胸の先端を弄ばれ、舌は臍を舐めている。布越しの自分は痛いくらいにはりつめている。根元をきゅっと握られ
たまらずに精を吐き出してしまった。
羞恥にまみれ荒い息がなかなかおさまらない。女を恨みがましい目で見つめてしまった。

女は下穿きをはずして布で始末する。女の目にさらされたことで再びそこに熱を感じ大きくなってきた。

「ふふ、お若いのでお元気ですね」

目を細めて女は手でそれを握り先端に口をつけた。温かくて濡れたものに包まれ呻きそうになる、腰が抜けそうに気持ちよかった。
唇で舌で包まれて吸われる。くびれや裏を丁寧に舌の先端で刺激され飲み込まれる。女の頭が上下して口全体で愛撫され
その気持ちよさに、初めて見る刺激的な眺めに目が離せなかった。

「私の口に出しますか?」

この淫らな申し出にごくりと喉がなる。それを見て女はうすく笑って自分を奥までくわえ込んだ。瞬間背筋に痺れるような感覚
が生じ女の口の中に出してしまった。脈動のたびに女がタイミングを合わせて飲み下す。
あまりの気持ちよさにものも言えなかった。
丁寧に最後まで飲み干すと女は愛しげに力を失ったそれを撫でた。

「これでこの後は落ち着いていられますでしょう?」

女は柔らかく言って手を夜着の、足の付け根に導く。下着ごしのそこは湿っていた。

「女性は反応したり感じたりすると、中から液がでてきます。少ないと男性にも苦痛となります。まずは液をあふれさせるよう
努力なさいませ。布越しの刺激、横から直接の刺激もよいのです。相手の反応を見ながら触ってください」

女に手を重ねられそこを触る。指のはらで、指先で、爪でいろいろと触っていくと湿り気が増して濡れたようになってきた。
うっすらと向こうの形が浮き上がってくる。

「こんなに濡れて、とか感じているなど耳元で囁くと女性の羞恥心を煽ります。腰を浮かせて下着を取ってください」

膝を閉じて抵抗しようとする場合の対処なども教えられつつ、女の下着を取り去る。夜着も脱がせて寝台に横たわる女の姿を
まじまじと眺める。女の裸はきれいだった。
女が膝をたてて足を開く。その付け根の自分とは違う器官を凝視する。複雑な形をしたそこは赤みを帯びて濡れ光っていた。
女が指で開くそこは扇情的なながめだった。

「ここに殿下は挿入されることになります。ただこの上にある小さな突起ですがここは女性にとって大変に気持ちのよいところ
です。胸の先端以上の性感帯です。経験の少ない女性はまずここで気持ちよくなります。胸と同様に優しくしつこく、せいぜい
可愛がっておあげなさいませ」

誘われるように女が指で広げて見やすくした突起とやらに顔を寄せる。

「ここも手や口でか?」

頷かれこわごわと触れる。赤い豆のような外観だ。さわっていくうちに胸の先のようにかたく大きくなってきた。
女は自分から出る液を指先にとってそれに塗りつける。その時女の腰が揺れた。

「こ、んなふうにして指で。口でされるときっと女性はよがります。そればかりは自分ではできないことですから」

身分を考えると滑稽な気がするが女の足の間に顔を埋める。そっとし舌の先端を付けると女はあ、と小さな声をあげる。
胸と同じように舐めたりかるく噛んだりすると女の様子が目に見えて違ってきた。
それまでの余裕のある物言いから顔を紅潮させて汗ばみ、身をよじっている。

「なるほど、よがっているのだな」

初めて主導権を握った気がして女を刺激するのに専念する。

「ああ、お上手です、そこを吸いながら、中に指を入れ、てかき混ぜてください。まずは一本から、です」

上ずりそうな女の声に惑乱しながら、指をそっと入れてみる。坩堝にいれたようにそこは熱く濡れていた。
外観もだが中も複雑な形状をしているらしい、襞やあちこちに盛り上がった壁を感じる。

「そう、ゆっくり往復させて、上下や左右をあちこち。中がなじんだら、指を増やしてください」

女のそこはきついように思えた。きゅうきゅうと動いて指に絡んでくる。

「こんなに狭いところに本当に入るのか?」

女に反応してまた大きくなっている自分のそれ、と女の中はあまりに不釣合いに思えた。
女は笑みを浮かべる。

「大丈夫でございます。はじめは痛いですが、そこは子供の通り道でもあります。殿下のものを受け入れられますとも」

その言葉に指を増やしてみる。
何度も往復させていると、女が指導してきた。

「中の腹側のほうに感じる場所がございます。指を少し曲げて、ざらついているところを探してください」

言われるまま指先を壁に沿わせる。女が息をのんだ場所を探り当てた。

「そう、そ、こです。あまり強くなくてよろしいのです。リズミカルに振動させて、あぁ、そう、んんっ」

女の感じている様子を見て、ますます自分が張り詰めてくる。その時には女のそこは液が溢れていた。

「殿下、もうそろそろ中に入れてもよろしゅうございます。初めての方相手には優しく、です」

女に導かれるままに女の中に挿入する。口よりも気持ちよく全体が包まれている。

「はじめはゆっくり、時々は少し乱暴でもよいですが、最奥は女性には慣れないうちは当たると苦痛ですのでお気をつけて。
そのうちに奥も良くなってまいりますので、そうなればもう女性は蕩けることと存じます」

女は腰を揺らし、自分に合わせてくる。その腰使いに長くは持たずに女の中に精を放った。
女が汗ばんだ顔をほころばせて自分を抱きしめ唇をよせる。その柔らかさに女の体に溺れそうな自分を感じた。

それから女は夜陰に紛れ部屋に来た。きっと宰相が人払いをしていたのだろう。

「あぁ、でん、か、私、もう、ああっ」

女が自分の腕の中で果てたのはいつごろか。その姿はひどく美しかった。果てるときの女の中の動きに我慢ができるはずもなく
中に勢いよく精を放ち、女の上にくずれおちた。

「お前は何者だ?何故こんなことをする?」

今更ながらの疑問を口にする。名前も素性も明かさない、夜しか会えない謎めいた女。年上で初めてではなく物腰などからは
卑しからぬ身分の女に思える。
女は潤む瞳で見つめてくる。少しかすれた甘く低い声は耳に心地よかった。

「私は殿下にお教えするために遣わされた卑しき者にすぎません」
「余の側におきたい」
「身に余るお言葉でございます」

後始末をして、女は優雅に腰をかがめた。

「明日も参れ、待っている」

女は微笑んだ。それが最後だった。翌日からもう女がくることはなかった。

宰相に詰め寄って言われたのは冷徹な一言だった。

「あれの役割は終わりました。殿下には縁談がございます」

やりきれぬ思いだけ残し、女は消えた。
しばらく後に隣国の姫をめとり女の指導のせいか仲むつまじく過ごすことができた。
子も生まれ王位を継いで政務を果たす、そんな日が続いた。
宰相は自分の婚儀に先んじて再婚していた。相手を尋ねると年齢も離れておりますので、とはぐらかされた。子もできたとの
ことでそれを父王や自分にからかわれて、宰相には珍しく執務中に照れたような笑みを浮かべたのを覚えている。
そんな宰相が病に倒れたのは自分が王位について何年か経った頃だった。
見舞いに行くと病床にありながら恐縮され無理に体を起こそうとするのをとどめて色々と話をした。宰相は年の離れた妻と
まだ年若い子供の行く末が気がかりらしかった。安心させるつもりで二人の今後について手厚くすると約束した。
宰相の目には名状しがたい何かが浮かんでいた。

「くれぐれも、よろしくお願いいたします。陛下」

長くないと自覚していたのだろう、仕事や領地の引継ぎは完璧に済ませていた上で宰相は静かに息を引き取った。
その葬儀も終え、しばらくしてから再び宰相の家を訪れた。喪服に身を包んだ後妻が挨拶に出てきた。

「陛下にはご機嫌麗しく、ご尊顔を拝し奉ること恐悦至極に存じあげます」

非のうちどころのない口上と仕草の後妻に顔を上げるようにと、そしてそれに応えた顔はあの日の夜の女のものだった。

「そなた」
「お久しうございます。わざわざお越しくださりこの上なく名誉なことと存じます」

あれから何年経っていても女は美しかった。

「今度こそ身分を明かしてくれるか?」
「私は没落した伯爵家の未亡人です。本来なら一族全てが路頭に迷うところだったのですが、宰相様のご厚意で私がおつとめ、
をすることで爵位は返上、領地は没収ですが国内でたちゆくことができました」

側に控えている侍従に聞かれてもよいように話をぼかしている。頭の良い女だ。
名前を聞いてそういえばそんな伯爵もいたか、と思い出した。

「おつとめを終えたあと、宰相様にとどめおかれてそのうち求婚されてという次第でございます」

宰相とは随分年齢が離れているし、没落貴族の未亡人ということでひっそり再婚したようだった。

「幸せだったか?」

この問いに女、宰相の後妻は夢見るような眼差しになった。

「はい、とても」

それだけ聞けば十分だった。城に戻ろうとしたところに子供が母親の元によってきた。

「これ、陛下の御前ですよ。きちんとご挨拶なさい」

母親の顔になった女に注意され、少年になるかの子供が顔を上げる。そこに見た面差し。
愕然と女に目をやると女は微笑んだ。それは最後の夜に見せた全てを受け入れ明かさない笑みだった。
それで宰相はこの女を留めたのか。そして自分に妻と子供の行く末を託したのか。

「よい、顔だ。父のような立派な宰相になれ」

子供は頬を紅潮させて深く礼をする。
その子を愛しげに見やり女は礼をする。自分の初恋、自分のはじめての……
城へと奪い去りたい欲求を押し殺しきびすをかえす。
あの子供が出仕するその日まで国内を安定させるのが自分の義務だと心に誓った。
甘い香りがかすかに漂った気がした。それはあの日の女の香り。






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