教授と助手12(非エロ)
シチュエーション


彼女はここにいるのに、俺のものにできる気がしない。

外からの光だけの暗い部屋で、彼女は白い肌を垣間見せる。久しぶりに彼女を腕にできるこの時を堪能していた。
口付けるとすこし唇をあけて応えてくれる。唇はしっとりと柔らかくいつまでも触れていたい。
その雰囲気をぶち壊すようにポケットに入れていた携帯が振動する。
仕事柄、俺も彼女も携帯の電源は切らない。たいていマナーモードにしている。表示される番号に内心ため息をつく。

――今頃、なんの用だ?

無視してポケットに入れたが、なおも呼び出しは続いている。
彼女が俺をじっと見る。

「よろしいんですか?」

こんな電話より目の前の彼女のほうが大事だ。

「……かまわない」

続けようとするのに、振動はしつこく止む気配がない。

彼女は完全に甘やかな情事の空気を消した。こうなってはさすがに出ないわけにはいかない。
電話の相手を半ば呪うような気持ちでしぶしぶ通話操作をする。
途端耳に飛び込む甲高い女の声。彼女が息を詰めたのを感じた。
きゃんきゃんと感情的な、そして一方的な発言に苛立ちが抑えられない。傍らの彼女は身動きをせず、音をたてないように
細心の注意を払っている。その冷静な対処の仕方に彼女が醒めたのを思い知らされる。

彼女を抱くようになってから疎遠になった一人だ。大抵は物分りの良い、あとくされのない女性と付き合ってきたが電話の
主は悪しき例外だ。本人は愛情というが、俺に言わせれば執着以外のなにものでもない感情で俺を縛りつけようとする。
甘え、媚びて、泣き落とす。感情に任せてヒステリックにわめく。
自分勝手な主張を聞いているだけでうんざりする。

俺と彼女の貴重な時間を邪魔する権利などこの女にはない。割り込んでくることすら厭わしい。
愛しているのなどと言いつのる相手に、嫌悪をこめて言ってしまった。

「もうかけてこないでくれるかな。色々忙しいんだ」

多分彼女の前でこんなことになった自己嫌悪も羞恥も混じっている。必要以上に相手に対して怒りを覚えたのはそのせいだ。

聡い彼女はおおよその状況を察したようだ。

「よろしかったんですか?」

この短い言葉にあろうことか電話の相手への気遣いと、ほんの少しの俺への非難をこめている。
その中には嫉妬などみじんもない。今更ながらに彼女は俺のことなどどうでもよいのだ、と思い知らされる。
それでも彼女を手放せない。彼女に触れていたい。彼女を抱きたい。

醒めた彼女を俺に引き付けるべく、失った時間を取り戻すかのように性急に彼女に触れる。
彼女の弱いところを攻めていく。
それなのにまた携帯が振動しだす。俺の邪魔をするな。俺が見ているのは、欲しているのは――彼女だけだ。
体は俺の意のままに開かれ蕩けていくのに、最後まで彼女の芯は冷たいままだった。
それが分かっていながらどうしようもない。体を繋げても俺と彼女の間にはどうしても越えられない壁があった。

携帯はようやく振動を止めた。朝になったら二度と俺に近づかないように対策を講じる。
俺の中から消去する。


どうすれば俺のものになってくれる?
体だけではなく。俺は彼女の心も欲しいと思った。
言えばいいのか?そんなことを言う権利のない俺が。






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