教授と助手15(非エロ)
シチュエーション


院を卒業し助手になった。今では病棟医長も兼任している。
病院業務として教授外来は週に一度、午前中に行われている。
その際は若手と中堅どころの医師が一緒について、カルテの入力や検査の手配などをやることになっている。
今日は私が中堅どころとして外来に付いた。
教授外来の日は、外来スタッフも患者さんも心なしか緊張しているように思う。彼は決して怖くない、はずだ。
なのに存在感はすごくて、入ってくるだけであたりを払う雰囲気が感じられる。
リスト順に患者さんをインターホンで呼び出し、彼の外来が始まった。
主に術後最初の外来の方、彼が医学的に興味を持っている方、そして紹介の方などを診察してゆく。
彼は患者さんにも態度を変えることはなく、気さくな態度で接している。
医局員には何を考えているのかと意図が読めずに不気味がられている点も、患者さんには偉ぶらずに接してくれる
有難い先生として映るようだ。

特に問題なく外来が終了してほっとした空気が漂ったその時に、私に他科の医師が相談に来た。
他科にすすんだ同級生だ。懐かしくて声が弾む。

「あれ?大学にいるんだ」
「ああ、先月に戻ってきた。うちの科の患者さんの症状がどうもこちらの範疇らしいので、診てもらいたいんだけど」

同級生の要請だ。カルテを表示して確認する。症状や検査結果は確かにうちのようだ。
入院と緊急ないし準緊急の手術が必要と思われたので教授にも了承をもらって、病棟の空きベッドを思い浮かべる。

「じゃ、混合病棟のベッドで入院させます。落ち着いたら退院かそっちに転科でいいですか?」
「そうしてもらえると助かる。こっちの基礎疾患については薬剤は継続でかまわないから」

話はまとまり、師長に連絡して救急外来からそのまま入院の運びになる。主治医は私だ。

「そういえば、学内に残っている同級生で今度会おうかって話になっているけど来る?」
「うーん、どうなるか分からないけど連絡してもらえると」
「分かった。アドレスは変更ない?じゃそれに連絡いれる。お邪魔しました。よろしくお願いします」

元同級生はそう言うと忙しいのだろう。慌しく外来をあとにした。

入院の指示を入力しながらふと気付くと、腕組みをして不機嫌そうな顔がそこにいた。

「教授、なにか?」

普段なら外来が終わればさっさと引き上げる彼が珍しく残っている。
若手医師と看護師はすでに潮が引くようにいなくなっていた。

「あの先生ともつきあいがあったの?アドレス教えているんだ」

そう言われて目が丸くなる。

「え、と学生の時に講義や試験などの学内通達用に、大学から学籍番号を使ったアドレスをもらっています。
それのことですが」

今もそれに大学からの連絡などがメールされている。
私の返事に彼はちょっと慌てたようだった。

「あ、そう、なんだ。そっか。うん。じゃ、俺はこれで」

そそくさと立ち去る彼をコンピューターの前に座ったままで見送る。
らしからぬ姿に首をかしげるが、気を取り直して画面に向かう。

件のミニ同窓会は日時を知った彼のあてつけのような呼び出しで阻まれてしまった。
全くわがままで子供っぽい人だと思っていたけれど。


最近の彼は少し変かもしれない。以前から変ではあったけれどそれとは違うような気がする。
以前より感情の起伏が目に見えるし、なにより部屋での彼の振る舞いが……
抱きこまれる時間が長くなったり、そうかと思うと何も言わずにじっと顔を見たり。
なんとなくこちらの調子も狂ってしまう。






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