教授と助手18
シチュエーション


久しぶりの呼び出しに柄にもなく緊張している。そんな私に彼は笑いかける。――眩しい。

「こっちに来て、座って」

耳に熱い息と舌を感じて身を震わせてしまう。耳朶を噛まれて外耳を舐められるとぞくぞくする。
彼は背後から私を抱きこんでいる。はあ、とついた息が熱くて湿っている。体が――熱くなる。
背中に彼の体温を感じ、そして服の下でもまれている胸を思うとたまらない。
やんわりとでも絶妙の力加減で触れられ、時折掠める先端への刺激に息が詰まる。
彼は耳から唇を離し楽しそうだ。

「折り紙をやるよりも指先の鍛錬になるね、君の反応は実にいい」

乳首を指先で挟まれ揉みほぐされるとのけぞって、彼に体を預けてしまう。
晒した喉に服の下から彼の手がはいのぼる。

「……あ」

すい、と指が上行する。指先と爪の感触は掠めるようでそれよりは強い力だ。その掻かれる感覚に体が疼く。
彼に触れている手指に力が入る。
彼に抱かれるといつもこうだ。いいようにあしらわれてしまう。私の感じるところを私以上によく知っていて、繊細に、
でも時には少し強引に快感を引き出してゆく。
右手は変わらず胸を刺激しているが、左手は喉から体の前面正中をさがって腹部に下りている。
そこで服から彼の手が出てくる。
私を狂わせる、仕事の時には神の手と称される、大きくてしなやかな手。今だけは私のものだ。

スカートの上から大腿を手の平でなでられる。
右手が反対の胸に移り、彼は少し体をずらして私の右側から首筋に唇を滑らせる。
一箇所の刺激でも巧いのに、同時に何箇所もされると……

「あ……やっ」

とろり、と中から漏れ出るのを感じる。彼の膝の上で足を開かされ手がスカートの中に入り込む。
大腿を指先でかかれ少しずつ中心へと移動していく動きに、熱がそこに集まってくるのを感じる。

「座り心地はどう?」

快楽に蕩けそうな私に吹き込まれる問いに首をめぐらし彼を見る。

「俺の、教授の座り心地」

彼の椅子で背後から抱き込まれ彼の膝に乗っている。

「――『教授』も、『教授の椅子』も、どっちも……いい、です」

こんな関係でなかったなら決して座ることはない場所だ。ご褒美とばかりに彼の手が足の付け根に到達する。
布の上から上下に掻かれてびく、と体がはねる。何度か上下し、円を描くように動かされる。
濡れて形が浮き出た突起を爪先でなぞられる。

「ん……あぁ……」
「布越しでも分かる、随分濡れているね」

耳が熱い。きっと頬も赤いに違いない。布越しの刺激は、しかしそのうちに物足りなさで私を苛む。
彼の指が引っかくたびにその欲望が大きくなる。

「腰、揺れているよ」

揶揄するような彼の声に違う、とかぶりを振る。でも違わない。
もっと強い刺激を、もっと直接的な刺激を待ち望んでいる自分がいるのに否応なく気付かされる。
彼の指が下着の縁を思わせぶりに行き来する。
焦らすのが上手だ。分かっているくせにわざとやっている。
彼と私のどちらが、言い出すか行動にでるか。まるで我慢比べのようだ。

でもたいていは私が負ける。彼に体をおしつけて彼に触れている手にきゅっと力をこめる。
それだけで、彼が満足そうな雰囲気になって彼の指が下着の横から直に触れてくる。

「んっ……はぁっ、あっ――」

ぐち、と耳を打ついやらしい音も、彼の指の感触の前には何ほどでもなくなってしまう。
いつから、私はこんなになってしまったんだろう。彼に触れられて蕩けて呆けて。
中に入った彼の指でかき混ぜられて、こすられて。陰核にも刺激を加えられ彼の膝の上で達してしまう。
頭が真っ白になって体が痙攣する。
彼が片腕をぎゅっと胸周りに巻きつけ膝から転げ落ちないようにしてくれた。
でも中に入っている指は駄目押しとばかりに陰核を押しつぶす。
波が引いて少し動けるようになったときに、彼が下着を取り去る。

「まだひくついている、君のここ」

少し声が上ずっているようなのは、彼も興奮しているのだろうか。
促され今度は向かい合う形になって彼の大腿を外側から挟みこむ。
くつろげた彼の下半身から、固くなったそれを入り口にあてがわれる。快楽の予感に喉がなる。

「そのまま、腰を落として、ゆっくりと」

淫らな命令に逆らえずに自分の体重で彼のものを埋めてゆく。全て入った時に知らず詰めていた息を吐いた。
中に感じる彼は熱くて、その存在を主張している。

「気持ち、いいですか?」

彼は耐えるように眉根を寄せている。

「うん、すごく、いい。君は……可愛い」
「可愛くは、ないです」
「俺を疑うの?」

繋がったまま交わす言葉。この後はもう会話にならないのをお互い知っているから。

彼はゆっくりと私を持ち上げ落とす。私も体重をかけて結合を深くする。互いを求め一時なにかを共有する。
彼に貫かれ壁をこすり上げられる。腰がゆれて彼のものを中心にこね回すような動きをしているのに気付いて、恥ずかしいのに
奥からは粘液が溢れてくる。

「俺を咥え込んでいる」

彼の言葉に身を捩って逃げたいのに、少し角度が変わって中が刺激されるとそれがまた快感を呼び込む。
顔を見られるのが恥ずかしくて彼の首元に顔を埋める。

「顔、見せて」

ふるふると頭を振るのに彼が腰をつかんで下からぐり、と突き上げると呆気なく背中がしなって顔が離れてしまう、かすみそうな
視界に、彼の唇が笑みの形を作っているのが見て取れる。

「そんな顔も、そそる……」

自分でも定かではない気持ちの代わりにか私の中は収縮して、彼を少しでも留めようとするかのようにうごめく。
必死で漏れそうになる声を抑える。指でも噛みたいけれど傷を作ると感染源になるのでできない。
両手で口を塞ぐと彼の上から落ちそうで、片手を彼の首にまわしてこぶしを作った片手の甲を口に押し付ける。
自分ではうまく動けず、彼にゆすぶられている。
追い上げられて彼をくわえ込んでいる中が一瞬の弛緩の後に収縮する。

「――っ」

もう、いってしまう。
その時に声を我慢できたかはよく覚えていない。
彼にしがみついたのは、そして彼が何度か突き上げて脈動し、私の中が満たされたのはきれぎれに感じた。

荒い息が落ち着いて彼に体を預けているのに気付く。頭や背中に彼の手を感じ目を閉じる。
彼は抱きしめてくれて、撫でてくれて、柔らかく口付けをしてくれる。

「やっぱり、可愛い。すごく良かった」

どうして終わった後も彼は優しいんだろう。彼はもう目的を果たしたのに。

――気持ちが良くてずっとここにいたい。
でもいつまでもこうしてはいられない。動けるようになったら、彼から離れなければ。

終わった後の彼に、私は必要ではないから。

いまだ繋がっているそこにタオルをあてがい腰を上げる。
その時にはいつも虚無感におそわれる。温かいものが離れていく感覚。
後始末にティッシュは使わない。ゴミ箱にそんなものがあれば不審を招く。
とりあえず拭って服の乱れを整えた後でタオルを彼の部屋の洗面台で洗う。別の濡れタオルで彼と体液で汚れた椅子をふく。
それも洗って私は部屋を出る。
呼び出される時を別にして、私には用事がなければ近寄らない、近寄れない部屋を。

私はいつまであの部屋に行かなくてはならないのか――いや、行けるんだろうか。
いつまで彼の腕の中にいなければいけないのだろうか――いや、いられるんだろうか。
私には答えは分からない。ただ終わった後のむなしさだけが身内を浸す。
どうして彼の部屋に行くのを辛く、空しいと感じるんだろう。無意識に手首の時計に触れる。
彼が笑うたび、彼が笑いかけたあの可愛い人のことが頭に浮かんでしまう。
どうしてしまったのだろう、何やっているんだか。自嘲する思いがわきあがる。
私の中でなにかが変わってきている。






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