渇いた愛
シチュエーション


商家の紹介で入ったという、両親を流行病で失った小さな少女。
元ガヴァネスの娘らしく躾が行き届き、年齢の割にはしっかりとした子で。
雇い入れる面接で彼女を初めて見た時は、こんな娘が持ちたいという印象を受けた。
私は沢山の子が欲しかったが、子供はただ一人息子のリスティンだけ。そんな息子に弟妹を作ってあげたかった。
しかし妻と私の描く家族の在り方は違った。妻はもう子など産みたくないという態度で。
息子を産んでから、ベッドの上での睦ごとは子供が出来ぬよう形骸化されていただけだった。
両親を失ってもなお、しっかりと生きようと「お役にたつように努めます」と年齢には不相応な礼儀正しさで、私に頭を下げた少女はいじらしく。
この少女ならリスティンの良い友達にもなってくれそうだと、私は思った。

面接のときの印象は当たっていた。少女は身分をわきまえ、息子に敬意と距離感を持つことも忘れずに。
しかし子供ならではの柔軟さでリスティンとまるで姉弟のように仲良く、ほほえましかった。
息子も少女を姉のように慕い、メイド長も少女をまるで自分の娘のように優しく、時には厳しく指導し、少女が段々と大きくなっていくのを
――淡く父親のような気持ちで見ていた。

少女に姉のように尽くされる、息子を少しうらやましいと思いながら。

そんなある日。馬車で街から屋敷へと帰ろうとした私の目に留まったのは、大荷物を抱えてよたよたと轍の道筋を歩く少女だった。
御者に声を掛け、馬車を止め窓から声を掛けると、そんな大荷物を持っても尚、お辞儀をしようとする少女にほほえましさを感じる。
どうやら休日ということで、先輩メイドからついでに色々と買い物を頼まれたようだ。
少女も買いたいものをつい買ってしまって、乗り合い馬車に乗るお金もなかったらしい。
年頃の娘らしい、理由。無駄遣いはいけないな、と父親代わりらしく嗜め笑いながら馬車に乗せてあげた。
そのお礼にと、書架にいる私に少女は休暇中にも関わらず、お口に合わないかもしれませんがと前置きし、彼女が作ったという焼き菓子を持ってきてくれる。
それは私の大好物なエッグタルト。それはコックが作るような繊細な味ではなかったが、素朴さが美味しいと感じさせる。
それを茶うけに、二人きりになった。
探していた外国の本がなく、それもまた探すのを手伝わせてくださいと、にこやかに笑い手伝いを買って出てくれる。
少女は少し外国語が読める。それは亡くなった母親からの教育と、更にリスティンが復習と称して彼女にこっそりと教えていたのを黙認していたからだ。
私はこれ幸いと手伝ってもらうことにした。

「あ、旦那様。こちらにありました!」

その嬉しそうな言葉で振り向くと、少女は一生懸命に、溢れそうになるほどぎちぎちに詰まっていた本棚の本を、精いっぱい背伸びして取ろうとしていた。
すぽっと、その本が抜けた反動で、少女がよろめいた。バサバサと本と書類が舞い落ちてくる中。
私は彼女の体が――すでに少女から大人になりかけていることがわかるほどに抱きとめた。
密着している胸は意外と豊満で。そして図らずも触れてしまった肉付きのいい臀部。
私の腕の中で緑色の柔らかい目を驚きで見開き、途端にそれが涙で曇る。
自分の身よりも、私の心配をしてくれるのか?
掛け値なしに、心配されているそれは、何と、心地よい気持ちなのだろうか。
その心配げな言葉を紡ぐ唇に、キスがしたい。
自然と、手が少女の唇をなぞる。落ちてきた書類で切ったのだろうか、彼女の唇には血がにじんでいた。
きょとん、とした無垢な顔で小首を傾げられれば、ふと我に返って愕然とする。しかし何もなかったかのように体を離すと怪我をしていると誤魔化した。
本当はその血を拭うだけではなく、そのふっくらとした唇を舌で舐め、口の中まで蹂躙しようとしていたくせに。
少女は私のそんな邪心を知る事無く、その誤魔化しにあっさりと納得し、謝罪とお礼をいいつづける。
なんて純粋で、無垢で愛しい存在なのだろうか。
世慣れた宮廷夫人なら、今の仕種だけでこちらの欲望を読み取り、駆け引きが始まるだろうに。

私が大丈夫だとわかると、ほっとこちらが癒されるような笑顔になる少女。
その笑顔に衝動がまた沸き起こる。彼女をこのまま自分のものにしてしまいたい。このまま質素な服を剥ぎ取り、生まれたままの姿が見てみたい。
瞬間。下半身に熱が点り、その思いを行動に移しそうになる。

――何を、馬鹿な。

娘のように見守っていて、そして両親を亡くした少女にこっそりと親代わりだと思っていた。
そして少女も尊敬と信頼のまなざしを向けてくれる、のに。
そのはずの自分が、親子程年下の少女を不埒な目で見てしまった思考に、罪悪感を感じる。
何事もなかったように、探し物を再開しながら、私は混乱していた。しかしそんな心を表さぬように表情は平静を装える、貴族として生まれた私にはお手の物だった。
そして他愛無い話を沢山しながら……彼女が今日馬車に乗れなかった本当の理由を聞く。
彼女は相手が私だからと、気を抜いて話してしまったのだろう。
少女が無駄遣いをしてしまった理由は、自身の物を買ったからではなく、文通相手に送る誕生日プレゼントを買って送ったからという。
相手は何度か屋敷にも遊びに来たことがあるリスティンの友人の青年ロルフ――いつの間に。じりじりと、胸が焼けつくような気分に陥った。
それを隠し「大事な人なのかい?」と尋ねると「いいお友達です」と、恥らいながら少女ははにかむ。その心情が友情なのか愛情なのかは計り知れない。
彼女に男が近づくことが妙に気になるのは……親代わりが娘の将来を心配するのは当然の事だろう。
そう私は彼女に欲情したことを棚に上げ、無理矢理自分に言い聞かせた。
それからどれだけの時が流れたのか。彼女と、息子の親友ロルフの仲は気になっていたが、それを息子に尋ねるのは気が咎めた。
その間にもあの彼女との時間。その感触が、忘れられない。妻に期待しなくなってから何人かの女性と関係してきた。
それなのに、キスもしていないただ抱きしめただけのそれがいつまでも残っているような気がするのは、何故だろうか。
彼女の感触、温かさ、香水のように押し付けがましくないよい香り、そして何よりも慈愛溢れる眼差し。
それを忘れたい――私は彼女の親のつもりなんだから。娘にこんな感情を持つことは間違っている。
何となく彼女に会わせる顔がなく、屋敷を留守にし、社交にのめり込み色んな女性と関係した。
いつもの私なら妻を慮って乗ることはない妻の敵視している夫人の誘いにも乗ってしまう。
そのことで妻を不機嫌にさせてしまうだろうが、それはもうどうでもいいことに思えた。
私は違うものに溺れたかった。でも溺れようとすればするほど、本当に溺れたいものの価値を突きつけられてしまう。

妻の婚家から連れてきた使用人頭が、いつものように屋敷の使用人たちの勤務態度と品行を報告する。
この使用人頭は有能で、どこで調べたのかという程に様々な事情に精通し、事実を淡々と感情を交えることなく報告していく。
素行を探るというのは嫌な仕事だが、雇う側としてはこの家にふさわしくない人間をそのまま雇っているわけにはいかない。これは雇い側としての義務だ。
いつもと変わらぬ報告かと思えば今回はその報告に驚くべきものがあった。彼女が……男と交際している、と。
若いメイドが男と付き合って身持ちを崩し……その男に貢ぐため屋敷の金品を盗むなどの被害があったりするのはよくあることで使用人としてはマイナス要素だった。
使用人頭も彼女がそういった問題を起こすとは思ってもみなかったのだろう、珍しく私的な感想をこぼす。

「まぁ恋というものは時期を逃せば永遠に手に入らないもの……ですからね。
燃え上がってしまうのは仕方のない事ですが、こちらとしては急に駆け落ちでもされては困りますから、解雇されて次の使用人候補の面接を――」
「駄目だ」

鋭い声で、その提案を遮る。使用人頭は少し驚いたのか、目を瞬かせた。それもそうだろう、そういう報告は何度もあり、そして解雇を言い渡したことも何度かある。
今回は唯一の例外だ。私は雇用主としての顔を取り繕う。

「いや、彼女は両親を失い小さい頃から雇っている。解雇したら頼る当てもない……もう少し様子をみてやってはどうかな」
「旦那様がそう仰るなら」

すでに使用人頭は冷静な顔に戻って、次の報告を再開していたが、私の頭の中には入ってこない。
使用人頭が報告を終わり、部屋から出ていくと、私はすぐに子飼いの弁護士を呼ぶ。ロルフの身元調査をすぐにするように命じた。
次の日の夕方にはそろえられたそれは、清廉潔白でケチのつけようもなく、彼女との交際に何ら問題がない。
それどころか、彼女を妻と望んでも申し分ない身分だ。父親代わりとしては諸手を上げて送り出せる相手。
彼女を妻にして、ずっとそばにとどめ置くことが出来る権利を初めから持っているなんて。嫉妬に狂いそうだった。
しかしこの時までは、私は自分に父親代わりとして娘を心配していると……誤魔化せていた。

そしてその日の夕方、私は心を渦巻く何かを振り払うように散歩していた庭園で見た。
ひっそりと隠れるように密会している二人の男女。
彼女が幸せそうに……私が彼女から欲してやまない眼差しを、ロルフに与えている所を。
そしてあの時、渇望してやまなかった彼女の唇が青年のそれと重なる所を。
そしてそれが離れた時の、真っ赤になって恥ずかしがりながらも、恋するもの独特のとろけるように微笑む表情を。

一瞬、目の前が暗くなったような気がして、脳裏に使用人頭の言葉がふとよぎる。

――恋というものは時期を逃せば手に入らない。
このままでは二度と、手に入らない。
――では、自分で時期を掴みとることが出来たら?

もう認めよう私は彼女が好きだ……いや、愛している。そして、誰にも渡したくない。
年の差がなんだ。父親代わりとしての妻帯者としての公徳心も全てどこかへ吹き飛んでしまう。
私はその夜、誰にも気づかれないよう彼女を書斎に呼び出すことにした。

――彼女を自分のモノにしよう。

恨まれるかもしれない。しかし私は本気だ、本気で愛し続ければ通じるはず。

そう決心した自分が知らずに浮かべていた笑みが――どんなものなのか分らずに。

いくらリスティンが交際を認めていようとも、雇主は私と妻だ。
彼女を書斎に呼び出すと――あの男との交際を咎められると、覚悟をしていたようだった。
それでも尚、あの男と交際したかったのだという事実が私を苦しめる。
そしてお許しくださいと謝罪する彼女を、カウチにとりあえず座るように申し付け、そのまま押し倒した。書斎には招き入れた時、施錠している。
一瞬何が起こったかわからない顔で彼女から見上げられると、求めてやまなかったその唇にキスを落とす。

「あ、の……旦那……さま?」
「他の男の所になど、いかせはしないよ」

あの男とのキスを見ていた。触れるだけのキスだけであの初々しい反応。だったら全てを奪ったらどういう顔を見せてくれるのか。
茫然とした顔の彼女の唇に、またキスをする。今度は唇をなめとり、その反動で何か言おうと開いた口に舌を滑り込ませる。

「んっ……んん!!」

混乱している彼女の口内を蹂躙するのはいとも容易かった。舌を絡め……彼女の空気を奪い尽くす。
やっと口を離すと彼女のモノとも自分のモノともわからない唾液が糸を引いた。
肺の中の空気を吸われて、ごほごほと咳き込む彼女の肌は朱色に染まり、涙ぐみ霞む緑の目は欲望を掻き立てる。
そして彼女の火照った首筋に舌を這わせ、右手で胸のボタンを外し、左手ではスカートのすそを太腿に手を添わせ捲り上げていく。

「嫌っ……嫌ですっ!!」

下着を剥ぐと、ぷるんと、こぼれるような胸が現れた。
鮮明なピンクの突起が外気に触れたせいでつんと立っている。それを食む。
やはり、握れば意外と手に余るほど大きく、若いので張りのある硬さの弾力。
呼吸を整えた彼女は、さすがにこれから何が始まるのか理解して暴れ始めるが、上になった私を押しのけられるはずもない。
しかし暴れた彼女の爪が私の首筋をかすめて、血がにじんだ。自分が何をしたのか彼女ははっと我に返る。

「も、申し訳……」

彼女の瞳が罪悪感に曇った直後。私は彼女のひざ裏を掴み。両足を押し上げて開脚させる。弱い部分を全開にされて彼女は身動きが出来ないようだった。
靴下止めの間にあるのは、粗末な布の下着。薄く栗色の茂みが透けて見えるそこにすぐに触りたいが、その周りに口づけをし、舌を躊躇なく這わせる。

「や、やぁ……です。お許し、下さ……」

感じているというよりも、こそばゆいのと羞恥ためか、彼女は足をびくびくと震わせ体をくねらせた。
彼女のその何者にも染まっていない態度に喜びがおさえきれなくなる
粗末な下着を破るように脱がせると、後で最高級のモノを買ってあげようと囁く。イヤイヤと彼女は首を振った。
メイド服を全部脱がして堪能したかったが、彼女は処女だ。最初からそんなに要求するのはいけないと思い、胸と大事な所を露わにするだけで、作法通り着衣のままで妥協することにした。
勿論、私は今日だけで終わるつもりはなかったので、我慢できること。
彼女のそこは、まだ誰にも触れられていない証の様にぴったりと閉じられ一筋の線だった。
そして、純潔を表すかのごとく、色も初々しいピンク色。

「お、おやめ……くださいっ……そんなぁ!場所は嫌っ……汚……ぃ」

足を閉じようとしても、小刻みに与える快楽で力が入らないのか。舌を惜しみなく使って奉仕すると、拒否する声音がまるで歌うようなソプラノに変化する。

その私の唾液で濡れた割れ目に指を入れ、中を慣らしていくが、あまり濡れない。それさえも痛がる彼女を見て、初めてだと身に染みて満足した。
蜜壺を徐々に慣らしながら指を増やす、顔をそむけて拒否する彼女をこちらを向けてキスをする。
彼女は茫然とした体で、抵抗はしないが受け入れてもいない。ただなすがままになっていた。段々と愛液があふれてくる。
ぎちぎちと狭い彼女の中に自分の形を覚えさせたくて、ゆっくりと突き入れた。誰にも侵入されていないそこは私だけの場所。
男性器と女性器を剣と鞘とはよく言ったものだ。彼女の中を私専用の鞘に作り変えていく。

「やめっ……か、はっ!んん」

痛みをこらえるためか、彼女は言葉を話すこともままならないようだった。目を硬くつむり、手もぎゅっと握っている。
その手で私に抱きついてほしかったが、私も彼女とつながっている。それだけで今までに経験したどんな交合よりも素晴らしい昂ぶりが収まらない。
年甲斐もなく、まるで盛りたての若者のように突き上げたい。しかし、痛がる彼女を見ているとそれも躊躇らわれる――が、難しい。

「や、やぁ……ん。ひっ!や、誰か……助け……母様、とうさま……痛っ……」

彼女が失ったという家族を呼ぶ声にさらに良心の呵責がこみあげてくる。しかし、そう余裕があったのは彼女の次の言葉を聞くまでだった。
「ロ、ル……さま……ん、ひっ!ひっん!はっ!」

あの男の名前を呼ぶ声に。もう一切の躊躇いを捨てて、私はその名前を聞きたくないとばかりに彼女に遠慮なく最奥まで突きつけた。
途中、引っ掛かりを覚えたが、彼女の中は形をとるかのように私を締め付け、襞でうねうねと蹂躙し、そして昂ぶりを推し進めて行く。
溶け合いたい、混ざり合いたいというかのごと、結合部からく響く水音。
夢中になって彼女と交わる。

――私のモノだ、私の……私の。

「私はっ……君を、愛してる……」

そう囁きながら、私は彼女の中に己のうちにある熱いものを気持ちとともに解き放つと。
まるで私の全てを受け取ってもらえたような錯覚を起こした。



破瓜の痛みでぼうっとしている彼女をつながったまま抱き起し、そのまま抱きしめた。
彼女の体は脱力し、まるで人形のようにカクリと、私にもたれかかる。
キッチリと結っていた豊かな栗色の髪はすでにほどけ、それを撫でて、何度もキスして……抱き合っていると、胸の中ですすり泣く音がする。

「どうして……こんな……旦那様、信じられ、ません」
「愛しているから」

両手で顔を覆う彼女の手をゆっくりと引き離す、乱れた髪が涙で張り付き、目は真っ赤だ。その涙を舌で拭い、まぶたにキスを落とす。
彼女が泣き終わるまで、私は子供をあやすように抱き続けた……その姿は淫らな姿のままだったけれど。
後ろめたさよりも彼女を手に入れたという充足感の方が強かった。むしろこれは必要な事だったのだ。
やっと泣き終わった彼女から精を吐き出し萎えた自身を抜いた。ゴポリと私の欲望と、彼女の処女の証が混ざった液体が彼女の中から出てくる。
その様子に怯えている彼女の処理を私がし終えると、彼女は焦点の合わない目で服を整え、私が声を掛けても無言のまま礼をして退出していった。

その次の日からは、彼女は急激な私の変化が信じられないらしく、私を泣きたそうな目で見るか、あからさまに避けた。
私には妻もリスティンもいるから、清純な彼女には私を受け入れるのは難しいのだろう。
しかし、そんなことは私は許さない。
勤務体制を少し書き換えて不自然にならない程……夜に私の世話を担当にした。
彼女は出来るだけ他のメイドと勤務を変えてもらっていたようだが、流石にそれも難しくなり私は逃げ腰な彼女を腕に閉じ込め、何度も何度も愛した。
毎日ベッドの上で睦合いたかったが、それは難しい事だった。二人の逢瀬は書斎のカウチの上でだけ。
他の人間にこの秘め事が気づかれて、邪魔をされるのだけは避けたかった。

――彼女のすべてを感じたい。

限りある逢瀬の時間。強欲から交わりに関わるすべての行為を彼女と経験したくて。
その可憐な唇で、男性器への奉仕も頼んだ。嫌がったが"お願い"すると、拙い舌使いで私の言う通りソレを舐め、咥え、扱く。
その後。そのまま口の中に出し、ケホケホと咳き込む彼女にキスをせがむと、精液塗れの口に軽く嫌悪感を募らせキスを躊躇っていた。
それは不快などころか、まだ閨での行為に染まらない清純さで、私はそれからの行為は必ず口での奉仕を頼んだ。
相変わらず、あの男と会った居るようだから。
そうすれば、彼女はあの男に――キスできない。
彼女を渡したくない。
あの男と会った後は、私は彼女の服を必ず破るように脱がした。
あの男に抱擁されたぬくもり、匂いを感じるのが不快だったから、その後は新しい服を用意する。
彼女は拒否していたが、私が脱がした服は着て帰れるものではないので、用意した服に躊躇しながらも袖を通していた。
メイド服は他のメイドと差別化するわけにはいかないので質素だが、下着は私好みの最高級のモノを用意した。私しか見ないのだから問題ないだろう。
そうやって彼女を私の色に染めていきたい。
挿入することには慣れ、痛がることは少なくなったが、まだ彼女をいかせた事はない。

そう日々、幸せを噛みしめ考える中……彼女の様子がおかしい事に気が付く。



彼女が荷物をまとめて出て行こうとしている。
そう気が付いたのは逃げる準備をしているのを偶然にも見たからだ。


逃げられると、思っているのか。逃げたとしても私は持ちうる全ての力を使って探し出すというのに。
この家に来た時と同じトランク一つを持って、びくびくしながら人目につかないように裏口から逃げようとする彼女。私は先回りした。
屋敷からでて、裏庭でほっと一息つく彼女に声を掛け、恐れる瞳を気にせず腰を抱き死角になる薔薇の茂みに誘導する。

「お見逃しください……こんな、こんな関係。いけないことです」
「そういう割には……君のココは私を喜んで迎え入れている」

服の上から彼女の下半身を触る。それは服越しだろうが野外という場所柄とても卑猥な行為だった。
彼女は羞恥のため首筋まで真っ赤だ。それに舌を這わせたい。ここがどこだろうが、私の欲は尽きない。

「そんな事……そんなあんまりな事おっしゃらないで下さい、旦那様」
「君こそ、何も言わず逃げるなんてあんまりじゃないかな?」
「そ、それは……でも。旦那様には奥様もリスティン様もいらっしゃいます」

彼女への愛を証明するためにどんな手を使ってでも、後ろ指を指されようとも妻とは離縁しようとした。
そして彼女を秘密裏にどこかの貴族の養女にしてしまえば、いい。
貴族の社会とはそう薄っぺらいものだ、身分という肩書さえどうにかしてしまえば問題は無くなる。
リスティンも話せばわかってくれるだろう。
しかし、少し考えてみると……彼女が私の正式な妻になるということは公的な場に出なければいけない。
貴族として生活をさせて、彼女が変わってしまうのは好ましくないと考える。
そして同時に押し寄せてくる彼女を他の誰にも見せたくない。独占欲が、沸き起こる。
公式な場に行くということは人々の目を集めるという事だ、しかも私の妻ならなおの事注目されるだろう。またロルフのような男が出て来たらと思うと。
彼女を独り占めするためには――妻には矢面に立つために居てもらわなければならない。そう考えたのだが。

「そんなに妻と別れろというのなら、別れよう」
「ち、違います……私はそんな恐ろしい事考えてはおりません」
「なら、今のままで。君が出ていくというのならここで抱いてもいいんだよ」
「そ、そんな……」
「どうして欲しい?」

私は別にここで彼女を抱いても一向に構わない。恥ずかしがり屋な彼女はそうではないだろうけれど。

「お屋敷に戻りますから。どうか、せめて……書斎で」
「書斎で?」
「わ、私を抱いてください……」

泣きそうな顔と消え入りそうな声で、少女はやっとそう言った。

その日私は彼女を執拗に休みなく追い込み、いつまでも解放しなかった。
その日初めて彼女は私と繋がりながら、快楽の頂点に上り詰めた。
それが嬉しくて、いったばかりの感じやすい体をさらに追い立てていく最中、舌を噛み切ろうとされたが、それを阻止し、彼女に囁く――。

「私は君を失うと何をしてしまうかわからない」

それは、彼女の行動を縫いとめる、とても便利な言葉。
勝手に最悪の想像をしてくれる。駆け引き。でも、嘘ではない。本当に何をしてしまうか私はわからない。
彼女がするその想像よりも遥かに罪深い事をすることさえも厭わない。
この関係が……とても神に背くことだとしても私の愛はもう止まらない。
彼女が私を――そう変えた。

幾度となく体を重ね、体が私を受け入れ喜ぶようになっても。
やはり妻と息子の名前をだし、行為をはねつけようとする彼女。
そんなに負い目があるのなら、愁いを無くすため、まずはリスティンに理解を求めようと言うと、彼女はとても嫌がった。
ではロルフに話そうか、この関係を見せつけてやろうかと言うと――なんでもしますからそれだけは、と懇願される。

「ではあの男と別れてくれるね……私だけを見て欲しい」

私の望むとおりに、彼女はあの男と別れた。
私は口での奉仕を辞めさせた。もう必要もない。それに口などではなく彼女の中に出したいからだった。
彼女との子供が欲しい。それも沢山。
一度女としての喜びを覚えた彼女の体は、彼女を存分に乱れさせ、そしてそれが私を煽る。
キスをするだけで熱を帯びるようになったし、初めは私を追い出すようだった締め付けが、今では奥へ奥へと誘うように解れ、私を夢中にさせる。

そんな淫らな彼女に、私をまた更に深い部分で受け入れてくれたと嬉しくなって逢瀬を重ねる。
場所は書斎だけだったのが私の寝室でもするようになり、彼女の部屋にまで行くようになった。
そしてある日、彼女の部屋での逢瀬を見られていたらしく息子のリスティンに、彼女との関係がばれてしまったようだ。
私には意外だった。彼女とこういう関係になってから、妻には何も詫びることなどない。
が、あのように彼女を脅しつけたが、息子には少し罪悪感を感じていたし、知られたくなかった。
彼女と息子を秤に掛けると……彼女の方を優先してしまうのは否めない。
しかし、出来るなら比べたくないのだ。それほど息子を私なりに愛している。

――もしやリスティンも彼女の事を?

息子ではあるが彼女に関しては譲るつもりはない。しかしどうやら息子は、家族として彼女の行く末を心配しているようだった。
その真っすぐな瞳に、少し動揺するが持ちこたえる。
彼女を愛しているのは揺るがないし、これは一時の戯れではなく、一生にしたいほどの本気で、心配することは何もないと言ってやる。
リスティンも母親について何か思うところでもあるのだろうが、私にはもう妻には思うところはない。
それは息子も感じ取っていただろう、だからこそ妻については何も言われる事はなかった。
今までも妻は気にしなかったのだ。これからも私が誰と関係しようとも気にしないだろう。

そして息子にこの関係が受け入れてもらってから、私は彼女への気持ちを抑えるのをやめた。
リスティンという心配の種がなくなると、私のタガはあっけなく外れる。
私と彼女の秘め事はもう秘密でも何でもなくなってしまったのだ。
まるで蜜月のように彼女を求めることばかりしか考えなくて。
彼女が屋敷の他の使用人から、どのような扱いを受けているか、辛い思いをしていることに迂闊にも気が付かなかった。それほど多幸感に酔いしれていた。

――彼女は妻子ある男を誑かす、身持ちの悪い女だと。

しかも私との関係で下種な勘繰りをした男使用人が、彼女に体の関係を迫っていたのを使用人頭からの風紀の乱れの忠告とともに報告される。
その男使用人達は、言い訳も聞かず即刻屋敷から追い出した。
しかし私の怒りはそれだけでは治まらず、彼等が他の屋敷では働けないようにさらに手をうって。

やはり彼女を人目に晒しておく訳にはいかない。
彼女を安全な場所に匿わなくては。
それはこの屋敷では難しい事に思え、彼女の為に屋敷から少し離れた領地に新しいヴィラを用意した。
一度同僚だった人間に仕えてもらうのは彼女も心苦しいだろう。信頼の置ける筋から彼女のための新しい使用人を用意し、彼女の為に新しい環境を整える。

私にはこの程度の出費など取るに足らない事だったが、慎み深い彼女は喜んでくれなかった。
それともあの男に会える可能性のある、この場所から離れたくないのだろうか。
別れたと言うのに未練たらしく彼女に手紙を出し続けていたようだったが、目障りなのでリスティンの手前、匿名の篤志家を装って海外に留学させた。
それでも頻度は落ちたが手紙は着ていた。私はそれを握り潰す。
彼女は私のモノだから、心を揺らす可能性の有るものは廃除したかった。
そして手紙はこなくなる。

――あの男の彼女への愛は、その程度だったということだ。

私は連れ去るように彼女をヴィラへと移した。そしてそちらにばかり、入り浸る。
もう、辛いメイド仕事などしなくても、優雅に私の傍で微笑んで過ごしてくれるだけでいい。
メイド服などではなく、着せたいと捧げたいと思った最高級のもので、惜しみなく彼女を飾る。
侍女も付け、身なりを整えた彼女は、どこに出しても恥ずかしくない淑女だった。
礼儀作法や趣味の教師もつけるし、望むものはなんでも与えよう――自由以外は。
この場所に連れてきてからは、彼女は従順で、私を迎え入れる。
温かい家庭を持ったように感じるが、いまだに彼女の心は、瞳は完全に解れていないことは薄々感じ取っていた。
これで子供さえ生まれれば……彼女の瞳は私に愛を向けてくれるだろう。
子さえ出来れば、優しい彼女の事だ。その子供を愛し、そしてその子を通じて夫婦らしくなっていくだろう。妻にはなかったその愛で。

「奥様はきっと旦那様の事が……お好きなのです」

ある領地見聞から帰ってきての久々の逢瀬。
あの冷え切った夫婦関係を見ていたのに。そんなありえないことを言うなんて、心優しい彼女はやはり妻に負い目があるようだった。

「妻と別れろというのなら別れよう、そんな泣きそうな顔をしないでくれ」

キスをしながら囁く。

「違います……。奥様は、旦那様の事を愛してらっしゃいます」

手首に舌を這わす。その行為を避けるように手を彼女は引くが私はそれを許さない。
感じているのか私の手が触れるたびに彼女はびくりと震えた。
その日は何故かこのヴィラにきてから初めて明確な理由もなしに拒まれた。
しかし、理由がないのなら……と、私は構わずに彼女を組み伏せる。
そして彼女の体に、転んだだけでは説明しようがない場所にある痣を見つけて、違和感が拭えなかったが、その疑問もすぐ解明した。
妻が私の不在中、このヴィラを訪れていたのだ。
一度夜会のエスコートを断った程度の事で、当て付けのように妻が彼女を売りとばす画策をしていたことを、使用人頭から聞いた。

――いつものように、好きなだけ勝手に社交にでも励んでいればいいものを。
これが妻の「愛」というのなら、私にはもう妻は不必要なものでしかない。厭わしい存在。
妻を私の邪魔をすることが出来ないように使用人頭に任せて対処すると、彼女には心配がなくなったと説明する。

「妻は夜会でたちの悪い病にかかってね、私の妻としての役割は果たせなくなったから君は何も気にしなくていいんだよ」

それを聞きなおも妻を心配し、お側についていておあげくださいと言う彼女。真に心配なのは彼女の方だ。
こんな心優しい彼女をいたずらに心配させるわけにはいかず。妻の掛かった「悪い病気」の真実など語れるはずもない。

彼女はどんなに酷い事をされても、妻の事を告げ口などしなかったのに。
それに妻には使用人頭が付いているからむしろ何も心配することはない。

ある日、彼女が倒れた、生きた心地がしない程取り乱した私に、医者からもたらされたのは――子を身籠ったという幸せだった。
待ち望んでいた、心躍る報せ。

その日、彼女を抱きしめて幸福に酔いしれて眠りたかった私は、お腹の中の新しい命の為に行為を拒まれる。
代わりに口でしますという彼女を制して、その唇は生まれてくる子にキスするための唇だと、ついばむようなキスをした。
初めてベッドを共にして愛し合わなかった。
しかし心は満たされる。
彼女を後ろから抱きしめながらお腹を撫でた。それはまだ、存在を感じれる程大きくはなかったけれど。

それから私は領主として彼女との時間を過ごすのがままならず。
比較的自由に彼女に会いに行け、かつ彼女の信頼を勝ち取っている息子に嫉妬と軽い苛立ちを覚えていた。
リスティンが彼女を姉だ家族だと主張して、そしてその気持ちが態度で目に見えるからこそ、彼女に会うのを許していたにも関わらず。
そして馬鹿な事を呟く。

――――もしかして、リスティンの子ではないか?と。

それを聞いた瞬間に彼女は驚きと絶望の為、真っ青になって私の腕からすり抜ける。

「私、私は、旦那様としかこういう事……して、ません」

少し嫉妬を含んだ冗談のつもりだったのに、彼女にそう震える声で反応されて、とっさに動けず。
彼女は自分の部屋へと駆け込むと、ベッドの上で忍び泣いていた。
私はその姿を見て、嫉妬に駆られて、愚かな事を口走ったと悟る。
今彼女は私の愛だけに支えられて、生活をしているのだ。私がそう囲い、すがれるのは私だけなのに。
そんな私だけになってしまった彼女に、彼女の不義を詰ることは彼女の全てを否定してしまうことに外ならない。

――しかしそれでもなお、彼女は私にはすがらない。

感じる軽い苛立ち。どこまでも追い詰めてしまいたい衝動にも駆られるが、それは意味のない事だった。
傍に寄ると伏したまま、顔を上げずに私に訴える。

「やはり、いけないことです、私を解放してください……こ、子供は一人で育て……」
「何を馬鹿な事を……言うんだい?」
「奥様にも、リスティンさまにも……顔向け、できません。これ以上は、どうか……この子は私だけの子で」

私は強引に彼女を抱き起こし抱きしめる。
けれど今までにないほど腕の中の彼女からは全身で伝わる拒否。子供を守ろうとする母親としての彼女だった。
私はその反応に狼狽えながらも、内心満足感を感じているのを否めない。

「やはり、妻やリスティンが邪魔かい?」

腕の中の彼女が、弾かれたように私を見る。その瞳は怯えていた。

「いいえ、いいえ……」
「では君は私から、子を奪うというのかな?君の子というだけじゃない、この子は私の子でもあるのに」

首を横に振る彼女のお腹を優しく撫でながら、そういうと、彼女はびくりと震える。
私の胸先三寸で母子の未来は決まる。彼女は子の将来を不安がっているようだった。
このままでは私たちの子は不本意ながらも『愛人の子供』と、世間の非難を受ける事になってしまうだろう。
私生児には暮らしにくい世の中だ。
ならばその不安を消してやろうと、前々から考えていた事を口に出す。

「この子は私と妻の子……として育てよう」
「そ、それはっ……」

子供を取り上げられると思ってか、腕の中の彼女は更に身を硬くし瞳が益々不安げに揺れ動く。

「でも安心してほしい。それは表向きの事だよ」

私は彼女を安心させるように微笑んだ。

「子供はここで、二人で育てよう。妻は……子育てもできない状態だ」
「……」
「この子を……私生児にするわけにはいかないよ、私の子だ」

"私の子"という言葉に力を込めると、彼女は諦めたように首を縦に振った。

彼女はふさぎ込んでしまい、まだ迷っているようだった。
その間に、時折監視させていたあの男が結婚したと報告が届く。
彼女の外界との未練を完全に断ってやろう……そして私だけにすがってほしい。

腹の中の子が安定し、影響がない程度に、私はまた彼女と睦合う事を再開した。
彼女と睦合いながら、それを言うと「幸せに暮らしているのでしょうか」という快楽のために虚ろな問い掛けに「子供も生まれるらしい」と、私は上機嫌で答えた。
彼女の体も心も我に返ったように快楽から冷めるけれど、構わず私は彼女の体を弄ぶ。

――だから、もう君は私だけのものだ。
それで私の憂いはなくなった。
これで完全に彼女を手に入れたのだ。

彼女は子供を産むという初めての経験に、喜びよりも恐れと不安を抱き、不安定だったが。
段々とお腹が大きくなるにつれて、母親としての強さで落ち着いたようだった。
細くくびれていた腰が丸みを帯び、大きくなったお腹を摩りながら、子供に話し掛けたり、子守唄を歌っているその姿は慈愛に満ちた……私の欲していた妻そのもので。
この子が生まれさえすれば――すべてが上手くいく。
お腹の中の子が大きくなり、動きを感じるほど育ち始めると、その気持ちは段々と確信に変わっていく。
私はあまりにも幸せで楽観視しすぎていたのかもしれない。

彼女が臨月になると、私はほとんど彼女の傍から離れなくなった。
しかし王への謁見という、どうしても拒むことのできない貴族としての義務が、彼女のそばに居る事を許さない。
このところ体調が悪い彼女からはなれるのは、身を引き裂かれる想いだったが、彼女は微笑み見送ってくれる。
どうか私が帰ってくるまでは無事でいてくれと、腹の子にも彼女を守ってくれと祈り私は後ろ髪をひかれる思いでヴィラを後にした。
気もそぞろに儀礼をすませ、急ぎ帰った私に待っていたのは――埋葬も済ませたという赤子の墓だった。
どうやら一睡もせず亡骸から離れず泣き崩れる彼女を心配し、リスティンが私が帰るのを待たずに葬儀を済ませたらしい。
リスティンは私に一目でも会わせなかった事を苦しげな表情で詫びる。それもそうだろう、子供は息子の弟でもあったのだから。
私は息子の労をねぎらうと彼女の部屋へと急いだ。
ベッドで泣きじゃくり、赤ちゃんの事を詫び、ごめんなさいと誰ともなく何度も何度も呟く彼女。
その顔は憔悴しきっていて、私は言葉を掛けられず、ただ抱きしめる事しかできない。
医者の話では、次の子を産むのは非常に困難だと言う事だった。

それを聞いて不思議だったあれほど子供を欲していたのに。
彼女が無事だとわかれば、それはもうどうでもいいことに思えた。

彼女が産めないとわかっても失望などない。むしろ彼女を失うぐらいならいらない。
幸いにも、後継ぎはリスティンがいる。
泣き崩れる彼女を胸に抱き、私は思い至った。

――そうだ。煩わしいタイトルなど、息子に譲ってしまえばいいのだ。

王への謁見という煩わしい義務のせいで、彼女が子供を失うという大変な時に側にいれなかったのだ。
領地を潰そうともそれはどうでもいい事に思えるが、私が立派な公爵でありつづけなければ彼女が気に病むだろうからそれだけは避けたい。
それにはリスティンに任せてしまえばいいのだ。
妻の事は使用人頭にまかせればいい。
今だに妻をお嬢様と呼ぶあれは、やっと手に入れた妻を決して自由にはさせないだろう。私が彼女を手放せないのと同じく。
聡いリスティンには、その能力が親の欲目を引いても十分備わっている。
初めは世間を知るために、数年ほど外遊をさせようと考えていたが、その予定を繰り上げよう。
一人前にするには五年か、いや集中して教え込むのは一年でいい。段々と権利を譲っていきあとは相談に乗ってやればいいだろう。
私は隠棲して彼女との夫婦生活を想い描く。
そのためには何をする必要があるのか……と、それを実現させるための幸せな繁雑さに思いを巡らせた。






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