教授と助手20
シチュエーション


「医局旅行?」

またベタな提案を。医局長はこの手の行事が大好きだ。
教授室までやってきて医局員の親睦を深めるとか日頃の疲れを癒すとか、医局旅行の意義について色々ともっともらしいことを
並べたてる。本音は飲んで騒ぎたいだけなんだろう。酒好きの医局なのは否めないが。
面倒くさい。面倒くさい。まったく気が乗らない。

「俺がいたら皆の気が休まらないだろうから……」

断りかけてはた、と気付く。

「これは全員参加かな?」
「あ、はい、その予定にしています」

聞けば近場の温泉旅館とか。いかにもな選択だが、旅館、温泉、全員参加か。
夜には宴会になるだろうし、そんな場所なら浴衣を着るだろう。それなら話は別だ。不承不承の体を装って頷く。

「分かった。予定を空けておこう」

医局会で告知がなされ宿の予約もされて当日を迎えた。大学組は医局に集合だ。
彼女も病棟に寄ったのか白衣を着たままだったがそこにいた。
貸切バスで移動だとか。顔が見られる近くの席だといい。
色々期待しながら、医局旅行も悪くないなどと思っていた。
出発時間になりバスに乗り込む。

あれ?

なんで彼女は乗らない?なぜ白衣を着たままなんだ?なんで手を振っている?
合点がいかずに医局長に尋ねる。全員参加、だよね。医局長は

「病棟医長だからって一人当直を引き受けてくれたんです。おかげで下の先生も参加できることになりました」

当直?ああ、そうだね、ここは大学病院で各科必ず当直体制だ。
下のことを考えるその姿勢はすばらしいよ。でもできれば俺のことも考えて欲しかったよ。

バスなので途中で一人抜ける訳にもいかず、翌日自棄酒で二日酔いの状態で戻ってきた。
教授の機嫌が悪くて翌年から医局旅行は中止になった、らしい。
あんな肩透かしを食わされれば、誰だって機嫌が悪くなると思う。

浴衣姿、見たかった。


終わり?


ほんのちょっと顔をだしてカルテのチェックをして、ボックスのあれこれを持ち帰るつもりだったのに。
彼に見つかってしまった。
休日出勤、仕事に熱心なその姿勢は尊敬できる。けれど今日の姿はあまり見られなくなかった。
彼は案の定、目を丸くしている。

「どうしたの?それ」

今日の格好はおよそ病院とか医局にそぐわない。

「友人の結婚式に出ていましたので」

とはいってもレストランウェディングだったので振袖でも訪問着でもなく、すこし改まった小紋だが。
眼鏡をコンタクトにして、化粧もして余所行きの顔になっている。
彼に上から下まで見つめられると気恥ずかしい。

「着物、着るんだ」
「あ、はい茶道をやっていたので着付けも自分で」

そう言った私に彼は目を輝かせる。

「助かった。君、英語はできるかな。ちょっと来て欲しい」

教授室に手を引かれて入るとスカイプで誰かとビデオ通話をしている最中だったようだ。
彼が早口で相手に何かを言っている、日本文化の体現とか聞こえた気がした。

「俺の部下を紹介するよ」

そう言って彼が私をカメラの前に立たせる。条件反射のように挨拶して自己紹介をし、相手を見る。
この顔は見覚えがある。世界的に有名な教授だ。どうしてこんな人とアクセスしているんだ、と思いそういえば彼もこの世界では
有名だったと今更ながらの事実に気付かされる。

あちらの教授はカメラの向こうで矢継ぎ早に質問してくる。それにできる限りの知識で答えてゆく。

「どうやってそれを着ているのか?」

そう尋ねられたとき彼から着付けを見せてやって欲しい、と頼まれた。
下が畳ではないしと渋るとシートを持ってくるから、とあちらの教授に5分ほど準備の時間を要求した。
あちらでもご家族を呼んでくるからということになった。

「シートのほかに何か欲しいものは?」

姿見になるような鏡があれば、あとは机もあるし大丈夫だろう。
彼に見ないで下さいと釘をさし長襦袢姿になる。
紐や伊達締め、帯揚げや帯締め、帯枕を順番に並べ、ご家族を連れてくるのを待った。


「これは長襦袢といって映画などではナイトガウン代わりに着られたりしています」

着物の色や模様について説明した後、襟を重ねていく。
丈を調節して紐と伊達締めで固定して視線を外していてくれた彼にもう大丈夫です、と合図する。
帯を見せるとその長さと模様に興味津々だった。

「結婚式に着たので吉祥模様という日本のめでたい柄になっています」

長さを調節して肩にかける。鏡を見ながら体に巻いてゆく。
カメラのほうに背中を向けて帯をひねり、おりあげてお太鼓をつくる。
向こうで折り紙みたい、と声が上がりくすりと笑ってしまった。
帯枕でふくらみをもたせて帯揚げで包み前で結んで帯と着物の間におしこむ。

「最後に帯締めで帯がゆるまないようにします」

きっちりと組まれた精緻な帯締めを後ろから前に渡して結んで、両脇にはさみこんで着付けは終わった。

あとは袱紗や扇子、懐紙や根付、かんざしなどの小物の説明をする。
ご家族はきゃあきゃあと歓声をあげている。彼にこれでよろしいでしょうか、と首をかしげてみる。
彼はゆっくりと頷いて流暢にあちらの教授と会話しだす。

「着物には日本文化のさまざまな要素が含まれている。それを着る女性も日本の精神性を表す素晴らしい存在だ」

彼の言葉に何かを感じてその横顔を見る。

「いや素晴らしかった。今度日本に行ったら是非実物を見てみたい。その時は案内をお願いするよ」
「彼女にはさせないぞ。大事な部下だ」

彼がぶっきらぼうに言ってあちらの教授が笑い、再会を約束して遠く離れた両者のやり取りが終わった。


「仕事の話のはずが雑談から、お互いの国の文化自慢になって。どちらも引くに引けなくなってしまった。
待ってろ、日本文化を見せてやるっていきまいて部屋を出たんだけど。学内で日本文化っていっても見当たらない。
さてどうしよう、って思っていたから本当に助かった」

拝まんばかりに感謝されてかえって面映い。気まぐれも役に立ったらなによりだ。

「それなら良かったです。では私はこれで失礼します」

部屋を出ようとすると引き止められた。

「髪の毛に何かついている」

そう言われ、立ち止まる。鏡を見ても自分では良く分からなかった。彼が背後から近づいて手を伸ばす。
うなじのあたりに彼の指が触れた、と思ったらつい、と耳たぶに触れられそこに唇が寄せられた。

「教授」

彼の片手が身八つ口から胸元に忍び込んだ。襟元からは手が入れにくい和服の構造を知った上での行動だ。
手はためらうことなく肌襦袢の上から胸をもんできた。指で乳首を挟まれて動きが止まる。

「やめてください」

机と彼に挟まれ逃げ場がない。
彼は片手は胸元に入れたまま、もう片手で器用に帯を固定していた諸々を外していく。
さっき着付けを見ていたからか脱がすのも手順が分かっているようだ。

「こんな姿を見せられて、我慢できるとでも?」

足元にほどかれた帯がしゅるり、と落ち、着物もはだけられた。
無理に抗うと着物が破れそうで、帯や小物を踏んで汚しそうで。

何より彼の目に宿る熱に射すくめられて動けない。

何故この人はこんなに器用なのか。その手際の良さにそんな場合ではないのに感心してしまう。
伊達に教授はやっていない、か。
着物を脱がすために彼は一旦手を抜いた。帯と着物を椅子にかける。長襦袢に手がかかる。
この時点で彼は私を向かい合わせにして唇を重ねてきた。
彼の口付けは気持ちがいい。うっとりとしているうちに長襦袢がはだけられる。

「これ、着たままでいい?」

襦袢を身に着けたまま?洗える絹のだから大丈夫ではあるけれど。
補正のための布もはずされた。襦袢は伊達締めもはずされて紐一本だけでかろうじてまとわりついている。
私は足袋と長襦袢、肌襦袢を身に着けているだけになっていた。

裾を割られ彼の手が足の付け根をさぐる。彼の目が丸くなった。
頬が火照るのがわかり、横を向く。

「和服の時には下着はつけていないんです」

彼に触られたことでそこは既に反応し潤んでいた。彼の指を抵抗なく受け入れて淫らな音を立てる。
乳首を舐められ軽く噛まれるときゅっと彼の指をくわえこんだまま収縮してしまう。
開いた襟元、鎖骨に彼が唇を寄せて内側から外側へとなぞられる。軽く歯をたてられ息が止まる。
下ではくちゅっと音をさせて指が引き抜かれその液が入り口に塗り広げられる。
陰核に指が触れる。指先で嬲られ息が乱れていく。

「は、あっあぁ……」

ずるい、私ばかりが乱されている。

そう思うとたまらなくなり彼の頭を抱きこむ。彼が胸から顔をあげてまた口付ける。
彼の刺激で私の声は甘くなってゆく。それを彼に絡めとられる。
指が中で襞をこすって押し広げて、彼を受け入れる準備を整えると共に、私にこの後の指より――ずっと、もっと気持ちのいいそれ、
が入る心積もりをさせる。とろりと溢れる粘液に体が期待しているのを思い知らされる。
身をよじって彼から逃れようとするがわずかに口が離れただけだった。

「教授っ、お、願い、もう……」

初めて彼にねだってしまった。彼は息を飲んで私を机に浅く座らせて中に入ってきた。

「あぁ、あ……あっ」

その圧迫感に声が上ずる。いつもと違う状況だからか私もいつもより彼をはっきりと感じる。
熱くて硬くて、中を押し広げられる感覚にぞくぞくとした震えがはいのぼる。早く奥まで来て欲しい。私をいっぱいにして欲しい。
繊細な指でポイントを攻められたあとでの彼のものは私には圧倒的な存在感だ。
奥の子宮口をぐり、と押されてのけぞるとそのまま腰を回して入り口をこねられる。
同時に陰核を指で擦られて、ぎゅうっと彼を締め付けてしまう。中がひくひくと動いてそれは意志では止められない。

「そ、んなに、締めるな」

かすれた彼の声が私を煽る。
昼間の部屋は明るい。そこにこんな姿をさらして彼に見られるなんて。きっと濡れてすごいことになっている結合部を思うと
羞恥でたまらなくなる。彼にねだったのも恥ずかしいのに、いつまでも彼に穿たれていたいと矛盾する欲望が生まれている。
彼が小刻みに私を揺らす。

「ふぁっ、んう……ん」

抜かないで中を撹拌される感じに、締め付けてひくついていく自分に、粘液がまた出てくる感覚に淫らな自分を思い知る。
彼におぼれては駄目だ。そう思いながらも体は目の前の快楽にとらわれてしまう。

「君の中、すご、い。もっていかれそう」

彼の手が足袋と、足首をつかむ。机の上に押し倒され彼が奥まで突いてくる、それに感じてしまう。
彼はぎりぎりまで抜く時に私の中の弱い部分を狙ってこすりあげる。かき混ぜられて緩急をつけられて。
それだけで蕩けてしまうのを感じる。なんて、なんて……

「気持ち、いい?」

彼に尋ねられても、もう言葉では返せない。必死に頷いてしがみつく。膝で彼の腰をはさんでしまう。
足先の白い足袋が彼の動きに合わせて淫らに揺れて空間に踊っている。
おかしくなりそうだ。私が私でなくなりそうで、怖かった。

「き、教授。だめ、です。も、う、ああっ――」

その瞬間弓が引き絞られるように頂点へと急激に上り詰める。繋がっているところが痙攣する。
彼をはさむ力が強まる。目の前が白くなり、ただ気持ちがよくて私はその波にさらわれてしまった。

頬を柔らかくたたかれて覚醒する。私は……

「大丈夫?ちょっと意識が飛んでいたみたいだ」

まだ私の中にはいったまま彼が間近で見つめていた。

「あ……」

まだぼんやりとして彼を見上げる。彼は微笑んで口付けをくれた、それを素直に受け入れてしまう。

「俺もイっちゃった」

彼が始末をしてくれた。まだ私は力が入らずに机に横たわっている。
私を抱き上げてソファに座らせてくれた。なでてくれると、その手の感触に身を委ねてしまう。
ようやく人心地が戻ってきたように思えた。


「休日には、しないって決めていたのに」

ぽつりと呟くと背中を大きな手で撫でられる。
それが心地よくて私の中からゆるやかに何かが溶け出してしまいそうで、なぜか泣きそうな気になってくる。

――錯覚してしまいそうになる。とっさに口走りそうになりそんな自分にはっとする。
しばらくそうやって撫でられてようやく私は落ち着いて立ち上がり、着付けを始める。
髪の乱れも直して、草履をはいて元の姿に戻った。

「では、これで」

彼は私の頬に手をあてた。

「今日はありがとう。気をつけて」

彼に一礼して部屋を後にする。後日彼にバーのママが会いに来ていた、という噂がたった。
その方が都合がいいので話がでても何も言わずにいた。

陰干しと風通しのために吊るした着物を見ると、胸が苦しい。私は何を言おうとした?


終わり?


おまけ

しまった。良いではないかあれ――、とかやってみたかった。
彼女にうっかり言ってしまい、氷点下のような視線を浴びてしまった。
でも着物ってすごくそそる。あれもしたい、これもしてみたいって妄想を掻きたてられる。
衣擦れの音とか、色鮮やかな着物と帯を脱がせてゆく感じとか、病み付きになりそうなくらいに刺激的だ。

例の教授からは一度メールが届いた。
あちらの言語で書かれた和服の本を入手したことが書かれていて、続きに
『あの部下はとても魅力的だった、君の恋人か?』と。
俺と、彼女の関係か。少し苦いものがこみあげる。






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