旦那様×メイベル4話目・前編
シチュエーション


彼らの滞在先は、少し人里から離れた小高いところにあった。
彼は夕食の後、応接間のソファに座り、仕事を片付けていた。
どこに行こうと仕事は山のようにあり、彼の後を追いかけてくる。
今ではそれを嘆くことすらなくなった。
ふと仕事の手を休め、窓の外をぼんやりと見やる。
無数の家々が立ち並んでいるのが見える。どこまでも連なる窓の灯り。
人の生活。
ぼんやりとここに来るまでの道行きのことを思い返す。

車は坂をずいぶん長い時間をかけて登った。
クリフは迎えの車の後部座席で、メイド服を完璧に着込んだ彼女が、自分の隣で景色を見ていることに不思議な感覚を覚えたものだ。
彼女に疲れなかったかと問うと、メイベルはそっと否定し、お気づかいありがとうございますと頭を下げた。
仕事中の彼女は影のようにどこまでも静かであった。
めったに屋敷から出ることがない彼女は窓の外の風景に、彼女はすっかり心を奪われていたようだった。
その瞳は無表情のまま、流れる景色を絶え間なく追っている。
ふ、と。そのとき窓から視線をはがした彼女と目と目が合う。
メイベルは、一瞬で表情を硬くすると、目を逸らし慌てて窓の方を見やった。

―ちょっと、いじめすぎたかな。
彼は部屋の高い天井を見上げ、胸の内で苦笑する。
彼女は一週間前のクリフの一言をずっと意識しているらしく、あれ以来、時々ああやって不自然な態度をとることがあった。

素直な子だ。自分のこととなると、すぐにパニックになってしまう。
その表情の変化が見たくなり、つい、からかいたくなってしまう。
彼女はクリフの中の実にさまざまな感情を掻き立てた。
自分にはあまりないと思っていた独占欲、嗜虐心。
とうに枯れたはずと思っていた、焦りや嫉妬心。そして。
彼は自分の変化を不思議に思う。

―もう、誰かのことをこんな風に思うことなんて、ないと思っていた。
そこまで考えたときに、ノックの音がした。

ドアを押しあけ、メイベルが紅茶を運び入れた。
その豊かな香りに、彼の意識が反応する。

「あ、紅茶」
「ええ」
「今日は何?」
「アッサムティーでございます」

彼女の給仕は、どこであろうと変わりなく、どこまでも淀みがない。

「おいしい」
「ありがとうございます」

つるりとした、作りたてのような白い頬。濡れたような瞳。
小さな唇にはまだ幼さが宿っており、思わず触れたくなるような魅力を放っていた。
今日の仕事は、ほとんど終わった?」

「全てというではございませんが、あらかたは」
「じゃあ、僕の話相手になってもらえる?」

ほほ笑みかけると、彼女は抵抗なく肯き、一礼する。

「はい」

座るよう勧めると、彼女は対面のソファに腰を下ろそうとする。

「あ、そうじゃなくて」

彼は努めて優しく、彼女に言う。

「横においで」

メイベルは少し頬を赤くし、黙って席を立つと彼の横に腰を下ろす。
仕事中から2人の時間への切り替えが彼女はいまだに苦手な様子だった。
どのように言葉を発してよいのか分からないのか、時に、こうして黙る。
彼はそんなところもほほえましく思う。

「遠くまできて、疲れた?」
「いいえ」

“仕事用”とおぼしき答え方に、彼はメイベルの顔を覗き込む。彼女ははっと気がつき、訂正した。

「すみません…本当は、少し、疲れました」
「だよね。僕も遠出はいまだに疲れる」
「でも、旦那様のお仕事なさっているところを拝見するのは初めてで…」

クリフは滞在先に荷物を置く前に、メイベルを連れ、仕事の取引相手の屋敷に寄っていた。
そこで、相手と商談をするのを彼女は見ていたのだ。

「どうだった?」
「…やはり旦那様はすごい方、なのだと思いました」
「君だって、相当すごいと思うけど」

彼女はその間、石のように微動だにせず、ドアのそばに控えていた。その完璧な気配の消し方に、彼は感心したものだ。

「私など、そんな」

メイベルは驚いたように否定する。不思議そうな表情。彼女はこの頃二人の時間に慣れ、こうして徐々に表情を示すようになった。

「何をやるにも丁寧でとても早い。何より控えめだし」

そこで彼女は顔を曇らせた。

「でも…今日は出すぎた態度であったのかと思い、反省しておりました」
「出すぎた?」
「あの、お屋敷を出るときに…」

彼女がくちごもると、クリフも先ほどの苦々しい出来事を思い出した。
話をまとめ、屋敷を出ようとした時に、その中年男はメイベルに視線をやり、まるで舌舐めずりをするようにして言ったのだった。

―良いメイドですな。

「ああ、あれ?」

彼女に向けられた脂っぽい目つきを思いだし、彼は再び喉の奥に不快感がせり上がってくるのを感じる。しかし、彼はそれを表に出さない。
「なにか、失礼をしたのかと…」

あの種の人間は、使用人を褒めるようなことはしない。
彼女はそれを知っていた。メイベルに性的な興味をそそられていたのに違いなかったが、彼女はそれには気がつかず、その言葉を何かのあてつけのように感じているでようだった。
あえて事実には触れず、彼は軽く笑ってみせる。

「実際君は、いいメイドだよ」
「でも」
「君は何も悪いことはしてない、褒め言葉は素直に受け取っておけばいい」

そうでしょうか、と彼女は視線を下に落とす。まつ毛の下に長い影ができる。
確かに。彼は思う。彼女は、このところ以前よりずっと美しくなったと。
揺るぎのなかったはずの堅い瞳は潤い、隙のなかったはずの視線は、蝶のように所在なく彷徨う。そこには不思議な色香が漂っていた。好色な中年の目にとまるのも無理からぬことかもしれない。
メイベルは、うつむいたまま険しい表情で考え事を続けている。
クリフは一人考えにふけっている彼女の顔を両手で挟み、顔を近づけて覗き込む。

「また君の悪い癖」
「だ、旦那様…!」

我に返って驚くメイベルの額に、彼は自分の額をそっとあてる。

「やっぱり自分が何か失礼をしたからだって考えてるね?」

彼女は自分に自信がないのか、自分の思い込みに必要以上にとらわれるところがあった。
言いあてられ、彼女はぎくりとする。

「言ったよね?僕の言うことをちゃんと、信じること」
「は…はい、ご、ごめんな、さい」

彼女は顔を真っ赤にし、どぎまぎと返答する。何度もこうして顔を近づけてきたはずなのに、彼女はそのたびにこうして恥ずかしそうにする。その様子は、何度見ても吹き出してしまいそうになるくらい微笑ましく、愛くるしい。
彼は口の端をあげて笑うと、囁く。

「大体、ここに連れてきたのだって」

彼女の唇を、親指で優しくなぞる。

「なんのペナルティだったか、忘れてないよね?」

彼女ははっとし、ただでさえ紅潮していた頬がますます赤くなる。

「…申しわ、け…ありません」

彼は自分にできる最上級の微笑を作ると、彼女に口づけをした。
彼女の唇から吐息が零れる。それが彼の気持を煽り、彼はメイベルの頭を片手で支えると、舌を絡め、さらに深く口づける。
メイベルは、小さく声を漏らし、それを受け入れる。クリフは長い時間、彼女の唇を貪るようにして、味わう。
唇を離すと、彼女は潤んだ目をわずかに開きうっとりとした表情でクリフの顔を見上げた。ぞくりとするくらい、色っぽい表情だった。いつから彼女は、こんな顔をするようになったのだろう。そう考えると、仄暗い欲望が、刺激される。

「ねえ、ちゃんと、考えてきた?」

その囁き声に、彼女はぎくりと反応し、体を堅くする。メイベルは彼の言葉の意味するところに、明らかに思い当っているようだった。1週間前の、彼の言葉。

―2週間、ふたりきりってこと。どういう意味か、よく考えておいてね。

「…あ、あの、それは、その…」

彼女はどぎまぎするが、そのまま言葉に詰まる。彼がしばらく黙って彼女の様子を見ていると、
メイベルはクリフのシャツの襟元をそっと掴み、目を潤ませながら、小さな声で抗議した。

「お願いですから…あまり…意地悪を、おっしゃらないでください…」
「僕としては、可愛がってるつもりなんだけど」
「私には、楽しんでいらっしゃるように、見えます…」

あの一件以来、彼女は今までよりずっとこうやって自分の話や気持ちを話すようになった。
その伝え方はいかにも意識的でぎこちなかったが、彼はその変化を快く思う。

「でもね、きちんと自分の意志で決めてほしかったんだ。
君が、僕の言われるままに流されてしまわないように」

彼はメイベルの頭を優しく撫でながら、ゆっくりと話す。
メイベルは、恥ずかしそうな表情で考え込み、ぐるぐると視線をあちこちに彷徨わせる。

「あの…私は…」
「ん?」
「…私は、旦那様を、お慕いして、います…ですから…嫌だとか…そういう、事は…」

言葉に詰まる。彼は苦笑すると、優しく彼女の頬に触れ、そっと訊く。

「抱いてもいいかな?」

彼女は視線を背け、恥ずかしそうに小さく肯いた。

「よかった」

クリフはにっこりと笑うと、独り言のように呟いた。

「嫌だって言われても、きっと、我慢できないと思ってた」

その言葉で彼女が表情を変えるよりも早く、クリフは彼女の体を抱えあげ、軽々と持ち上げた。
軽い、と彼は思った。彼女がただの小さな娘にすぎない事を思い出す。彼女を両手に抱えたまま、クリフは器用にドアの扉をあける。

「だ、旦那様…!待ってください、あの!こんな…い、いきなり…」

彼女は慌てて抵抗する。彼の足は寝室へと向かう。

「暴れると、落ちるよ」
「でも、あの。じ、自分で、歩けます、から!」
「嫌?」
「嫌ではない、の、ですが…旦那様に、こんなことを、していただくわけには…」
「メイベル」

彼は彼女の言葉を遮って言う。

「君の性格上、気にするなと言っても無理かもしれないけど」

彼女の目を覗き込み、言い聞かせるようにして、話す。

「二人でいるときは、僕は君のことを使用人とは思ってない。君もそうしてくれると嬉しいんだけど」

メイベルは、はっとしてクリフの目を見つめ返す。
何かを投げかけるたび、真面目な彼女はいつもこうして、立ち止まって考え、そして時間をかけて返答をする。

「…努力、します」

彼はにっこり笑う。自分の笑顔にいかにメイベルが弱いかを、彼は経験的に知っていた。メイベルが、おずおずと彼の首に両手を回す。

「よくできました」

そして彼女の体を、寝室のベッドの上にそっと下ろす。
彼女は、自分の体が、マットに沈むと同時に、ぎゅっと堅く目を閉じる。見るからに肩に力を込めたその姿に、クリフは苦笑する。

「そんなに緊張しないで」
「でも…あの、わ、私は。その。こ、こういうことは、その、初めてで…」

彼女は泣きそうになりながら、早口に、ひどく混乱した話し方をした。

「あの、いいんでしょうか。わたしなんかが、あの、旦那様の…」

クリフは言葉を続けようとする彼女の唇を、キスでふさいだ。メイベルの肩がこわばり、びくりと大きく跳ねる。
彼はメイベルの体に覆いかぶさり、頭を優しく撫でながら長い時間キスをする。
遠慮がちに開かれた唇から舌を差し入れながら、手のひらで、出来るだけ優しく、首から肩にかけて、そっと撫でてやる。
か細い肩。震える白い喉。彼女の体から力が抜けたのを確認し、唇を離す。

「君こそ、僕でいいの?」
「…旦那様でなければ…困り、ます」

彼女は熱に浮かされたような、ぼんやりとした表情で彼を見上げた。

「君は、本当に可愛い」

クリフは冷静さを失いそうになりながらも、壊れものを扱うように丁寧に、彼女に触れる。
頬に、喉に、耳に、無数のキスを浴びせる。
メイベルは味わったことのない恥ずかしさにじっと耐えるようにして、口を左右に引き結び、それを受け入れる。
唇は首から鎖骨に降り、彼は、ゆっくりと彼女の制服の、ボタンに手をかける。

「あ、だ…旦那、様」

彼女は困ったような表情を浮かべる。

「嫌?」
「嫌では、ない、ですが…恥ずか…んっ」

首筋に舌を這わせると、彼女は言葉を続けることができず、ぞくりと体を震わせて声をあげる。

「可愛い」

クリフは耳元で囁くと、舌で耳を愛撫する。服を脱がせながら、熱を持った薄い耳に、舌を絡ませると、彼女の体は面白いようにびくびくと震えた。
彼女はされるがままになり、あっというまに下着だけの姿になる。

クリフは唇を離すと、熱のこもった目でその姿態を眺めた。
メイド服に守られていない彼女の体。細い手足。全く日に焼けていない白い絹のような肌。そして、小さな下着に無理やりに押し込められるようにしている、豊かな胸。
腰や、太ももの滑らかな曲線。
彼女の髪留めを外すと、長い髪が、こぼれおちるようにシーツの上に広がる。普段からは想像できないような姿。

「あの、あまり、見ないで…ください」

彼女がおずおずと口を開く。

「僕はずっと見たかったけど」

彼が言うと、メイベルの顔に恥じらいの色が滲む。クリフは彼女を安心させるように目を細めてほほ笑むと、彼女の指に指を絡ませる。
力を入れると簡単に折れてしまいそうな、小さく細い指。肩にかかる、彼女の髪に唇をつけながら下着の上から胸に触れる。
彼女の慌てるような声が聞こえると、彼は口づけをして塞ぐ。胸に触れると、早鐘のように鳴る彼女の鼓動と熱が伝わる。
下着をずらすとはち切れそうな胸が現れた。

「だ、旦那、様」

体つきからは想像できないような大きな乳房。彼女は顔を真っ赤に染め、泣きだしそうな表情でクリフを見上げる。愛しい女。
その視線につかまり、彼は頭の芯が痺れるようになり貪るように口づけをする。手のひらで両方の乳房を、優しく愛撫する。水風船のように柔らかく、熱い。

すこし触れられただけで、身体がびくりとこわばる。熱に浮かされたような瞳。
困惑したような表情を浮かべている癖に、その小さな甘い舌は物欲しそうに絡んでくる。
彼女の熱い吐息を感じ、胸の内に加虐的な欲望が湧く。
いっそのこと、めちゃくちゃにしてしまおうか。
無理に押さえつけて、激しく腰を打ちつけたら、どんな声をあげるだろう。
彼はよぎった考えに支配されるまいと必死に理性をつなぐ。

「あっ…」

キスで口をふさがれたまま、乳首を指で責められると、彼女は声をあげる。
これまでに感じたことのない、何かに貫かれるような快感。
クリフの舌と指先で責められると、メイベルは両手で口をおさえ、
その感覚に必死に耐えている。

「我慢しないで。声、出して」
「あ、で、でも…」
「いいから」

彼は両手を押さえつけると、乳首の先端を口に含み舌で転がすようにして責める。

「んっ…」

弾かれたように身体がびくりと震える。

「あ、だ、旦那さ、ま…!だめ、です…あぁ」

口を塞ぐ手段を失い、彼女は声を漏らす。
メイベルは自分の体が意志とは関係なく動くことに困惑しているようだった。
甘い痺れに翻弄され、彼女は身を捩る。

「…ぁ…はぁ…あっ…あぁ」

彼の指の動きは次第に激しくなる。
胸を上下に揉みしだき、舌先や指先でちろちろと嬲るように責め立てると、さらに彼女の息が荒くなり、乳首が堅さを増す。

「あぁ、はあ、あっ…」

彼は指を下腹部に伸ばす。下着の中に指を滑り込ませると、メイベルの表情が固まる。

「あ…あの、旦那様、そこ、は…」
「大丈夫。痛くしないから」
「で、でも…」

割れ目に添ってそっと指を滑らすと、指先が、ぬめっとした感触に行きあたる。
彼女が声をあげる。

「痛い?」
「…い、いえ…」
「力、抜いて」

クリフは彼女の体を抱きしめると、下着の中で指を滑らせる。初めは優しくなぞり、ゆっくりと感じる部分を探す。
メイベルは、クリフの肩にしがみつくようにして顔を押しあてる。膚にうっすらと汗が浮かんでいる。

「んっ…」

次第に彼女の奥が緊張からほぐれていくのを確認し、彼は、指を立てる。

「あぁっ…!」

爪先でクリトリスを刺激され、その瞬間、彼女はひときわ大きな声をあげる。
彼女は体に走った初めての快感に驚きを覚え、慌てて訴える。

「だ、だめです…そんな、ところ…」
「ここがいいんだ?」

低い声でささやかれ、彼女の体は、神経を直接撫でられているようにぞくぞくと震える。

「ん…っあ!あああ!あっ!だめ、だめ…ぇ!!」

与えられる快楽に、ただ呑まれることしかできず、体がビクビクとしなる。

摘まれ、指先で転がされるたびに、電気がはしるような感覚を覚える。
すでにメイベルはまともな思考ができなくなっていた。
彼は責め続けながら、激しいキスをする。唇を舐め、頬張るようにして口づける。

「ん、んん…!…ぁあ」

唇を離すと、生ぬるい唾液が混ざり合い、糸を引くが、彼女の口からは、おさえることのできない喘ぎが零れ続ける。

「感じやすいんだ?」

目にいっぱいに涙をためながら、彼女はクリフのシャツの襟元を握りしめ、いやいやをするように否定をする。

「そんな、こと…ぁ…ああ、あっ!」
「すっごく可愛い」

彼は言うと、指の動きを速めた。もう片方の手で乳房を責め、舌は耳を這う。
ねっとりとした刺激が絡み合い、何度も何度も、繰り返し、彼女の肢体を苛む。

「ん、あっ、あ…!旦、那さまぁ…わ、わたし…だめぇ、もう…」

彼女は助けを求めるように激しく体を捩り、クリフの首に腕を巻きつける。

「いやぁ、変に、なっ、ちゃう…!あぁ、もう…あ、ああ!だめ、だめぇ」

まるで溺れているような荒い呼吸。羞恥心と快楽が同居した淫らな表情。上りつめてゆく声。
次の瞬間、彼女の秘部がビクビクと激しく痙攣する。

「あ、あん、ああ、あああああああっ!」

叫びにも近い声をあげ、彼女は行き果てた。






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