旦那様×メイベル4話目・後編
シチュエーション


「あ、あ…」

天蓋付きの、豪奢なベッド。
自分が一生身を横たえることなどないと思っていた場所。
そして、自分の膚に唇を埋めているのは、手の届かない存在と思っていた、主。

「だ…旦那、さ…ま」

眼鏡を外した主は、いつもよりすこし若く見えた。女性のように長いまつ毛。
がっしりとした広い肩にはうっすらと汗が浮かんでいる。
彼は愛撫を続けながら、彼女の耳元に口を寄せる。
長くて華奢な指は彼女の皮膚を這いまわり、直ぐに彼女の敏感な個所を見つけだす。
その度に、彼女の奥は何度でも溢れ、とろけそうな感覚に苛まれる。

「可愛い」

彼の低い囁き声は、媚薬のように彼女の情欲を掻き立て、耳の奥でどろりと溶けてゆく。

「ん、んんっ…あ…」

指で、舌で、言葉で。時間をかけて快楽を刻みつけられてきた彼女の体は、
意志とは関係なく、敏感に反応するようになっていた。
今まで経験したことのないような、気の遠くなるような疼き。
限りなく優しく、そして執拗に、繰り返される刺激。
彼は指を差し入れる。ずぶり、と自分の奥に異物が入る感覚に、彼女は声をあげる。

「あ…っ」

すでに彼女の蜜壺は溢れ、彼の指の動きに合わせて物欲しそうな音を立てた。
幾度となく責められた膣の中は、すでに痛みを感じることもなくなっている。

「ん、あ、あああ…、あっ」

彼女は自分の体の変化に困惑しながらも、快感に揺られ、どうすることもできない。
指を立て、壁をこするようにして中をかき混ぜられると、体の芯に焼けつくような刺激が走る。
思わず腰が浮く。

「い、やぁ…あ、あ…ああ!」

クリフは舌を太ももに這わせたまま、上目づかいにこちらを見上げる。
その表情は、鳥肌が立つくらい艶めかしく、彼女の心をさらにかき乱す。

「ここがいいんだ」
「んあ…、ああ、あああっ」
「気持ちいい?」
「あ、あ…っ、もう、わ、たし…」

メイベルは快感から逃れようと、足を閉じ、膝と膝をこすり合わせる。
しかし、中に深く突き刺さった指は、彼女の敏感な部分を巧みに刺激しつづける。
ぐちゅぐちゅと音を立てて、彼の指が絡みつく。

「あ、だめ…だめ…です、あああああっ…」

彼の指は動き続ける。
どこをどんな風に触れば、彼女の体がどんな風に悦ぶかを知りつくしているかのように。

「だ、旦那さ、まぁ…あ、だめ、だめっ…!!」

快感が渦のように広がり、メイベルを高みへと導いてゆく。我慢が出来ない。

「ん、んんんんっ…!!」

メイベルはびくびくと手足を震わせ、何度目かの絶頂に達した。

夢なのか現実なのかもわからないまま、彼女の体は力が抜け、シーツに埋まる。
クリフはその様子を満足そうに眺めると、ゆっくりと、彼女に覆いかぶさる。

「…入れても、いいかな?」

ぼんやりと呼吸を整えていた彼女は、視界にはち切れそうな彼のものをとらえ、我に返る。
そそり立った主の男性器は想像するよりもずっと大きく、彼女は漠然とした恐怖を覚える。

「少し痛いと思うけど、我慢できる?」

彼の瞳はいつにない情欲に燃えた色を宿していた。
その野性的な視線に彼女の胸の奥はえぐられるように疼く。
こんなにも、わたしは旦那様のことが好きなんだ、と彼女は思う。
愛しい主を満足させたい。彼女は心から、思う。

「…はい」

彼女はこみ上げる恥ずかしさをおさえながら、小さな声で言う。彼は静かにメイベルの膝を割り、足を広げさせる。茂みの奥に屹立したそれをそっとあてがう。

「嫌になったら、ちゃんと、言うんだよ」

刹那。
彼女の体に、引き裂かれるような感覚が走った。

「…ん、ああっ!!」

鋭い痛みにメイベルは思わず顔を歪める。体が強張り、動かすこともできない。

「ごめんね、痛い?」
「…は、い…すこし…」

かつて感じたことのない痛みに冷たい汗が流れる。

「無理しないで。ちょっとずつでいいから」

先端を入れたまま彼は動きを止め彼女の頭を撫でる。
彼女は激痛の中ですら、その手の温度に、この上ない安心感を覚えた。

「旦那、さま…大丈夫ですから…」
「無理しないでいいよ、まだ痛いみたいだし」
「でも、一度に入れてもらった方が、きっと痛くないと…思います」

彼は苦笑する。

「ホントに君は真面目だね」
「だって…旦那様に、早く…」

彼女は小さな声で続ける。

「し…して頂きたい、です…」

彼はきょとんとした顔で彼女の顔を見下ろしている。
言ってしまってから彼女は、どうしようもなく恥ずかしくなり、目を背ける。
なんて、はしたないことを言ってしまったのだろう。
後悔し始めたとき。
ずん、とさらなる激痛が体を貫いた。

「ん、あああ…っ!」

彼女は叫びに近い声をあげる。
彼は体を密着させてメイベルを抱きしめる。その時、彼女はようやく、彼のものが奥まで埋まったのだと気がつく

「ごめん。あんまり可愛いから、我慢できなくて」

メイベルは意識が遠のくような痛みの中、体を締めつけるように抱きしめられたのを感じる。

「考えてみたらいつもこうだね」

彼は独り言を言うように、つぶやく。

「始めてキスした時のこと、覚えてる?」

メイベルは腕の中でがくんと頷く。きつく抱かれているので、彼の顔は見えない。
耳の横に感じる、彼の吐息。

「あの時も我慢できなくなってキスをした。君と居るとすぐ理性が利かなくなる。これでも冷静な方なんだけどね、俺は」

そして彼は。唐突に言った。

「愛してる」

メイベルは一瞬で痛みを忘れてぽかんとする。
それは、主の口から初めて聞く言葉。

―今、何て、言ったんだろう?

その言葉の意味を咀嚼することができず、完全に彼女の思考は停止する。
彼は腕の力を緩め、彼女の顔を覗き込むように見た。

「ごめんね、まだ、痛い?」

彼は困ったように言うと、そっと指で彼女の瞳の下を拭う。
そこでようやく、彼女は自分が。
涙をこぼしていることに気がついた。

「ごめんね、こんな思いをさせて」

主は、彼女の涙を痛みのためだと思っているようだった。

「慣れるまで、少し我慢して」

そうして、彼はゆっくりと動き始めた。
徐々に中の痛みは薄れ、その動きは滑らかになってゆく。
彼女は揺られながら、必死に思考を纏めようとする。

「…旦那…さま…」
「まだ、痛い?」
「…さっき、何て…」

何度も差し入れされ、彼女の秘部がじわりと熱を持ち始める。
彼は動かしながら、クスリ、と笑って彼女の目を覗き込む。

「わからない?」

彼の熱いものが、奥に当たり、膣の内側が擦れ、ぎゅうっと絞り出されるような快感が中を駆けた。彼の動きが少し早まる。何度も、繰り返される波のような快感。
甘いしびれが少しずつ、彼女を支配する。

「んっ…あ…」
「よくなってきたみたいだね」
「…う……っあの、あの…」
「どうしたの?」
「さっき、何、て」

彼女はもう一度、聞いた。すでに体は快感に呑まれ、感情がとめどなく溢れ、彼女はすっかり自分を見失っていた。

「愛してる」

意識がぐらつき、彼女は思わず、彼の肩にしがみつく。

「ん…あ、あっ!」
「気持ちいい?」
「は、…あっ……は…ぃ…」

彼の端正な顔は険しく乱れていた。荒い呼吸。
いつも静かで余裕のあったクリフは、今やただの欲情したひとりの男だった。その激しさに触れ、彼女は一層の愛しさを覚える。

「…あぁ、んっ…ああ、ああ!」

腕を伸ばし、彼の頭を抱きしめる。その髪は汗で濡れ、彼女の腕に張り付く。
快感と感情の高ぶりとがないまぜになり、彼女はわけがわからなくなって、主に訴える。

「わたしも、わたしも…すき…っ…すき、です、クリフ、さま」

溺れる者が必死に助けに縋るように。

「クリフ、さまぁ…」

自分のその声はまるで泣き声のように曇っていた。
彼女の吐き出すような言葉に、彼の動きが激しさを増す。

「あ、あ、ああああぁっ…!!」

悲鳴に近いような喘ぎ声が彼女の口から漏れるのも構わず、せきが切れるように。
彼はきつく腰を打ち付ける。
叩きつけられるような、激しいそれに、意識が薄れてしまいそうになる。

「…駄目だよ…メイベル」

彼女の華奢な体ががくがくと揺り動かされる。

「あ、あああっ…あああ!」
「そんな風に呼ばれて」

それは、妙に無感情な声だった。

「俺がまともで居られると思う?」

楔のように奥を打ち付けられ、意識が火花のように飛び散る。痛いほどの、強い抽送に、子宮の奥に何度も刺激が走り、前後すらわからなくなる。

「あ、あああああ…!」
「可愛い、おかしくなりそうだ」

彼の乱れた呼吸。甘い声。激しく、むちゃくちゃに動かされ、彼女は助けを求めるように喘ぐ。
胸を乱暴に掴まれ、激しく揉みしだかれる。強く吸われた皮膚が、焼けつくように熱くなる。

「可愛いよ、俺の、メイベル」
「…やぁ…!あっ、あ、あ!だんなさま…ぁ…!!」
「そうじゃ、なくて」

背筋がぞくぞくと震え、正気が保てなくなるような、絶え間のない衝撃。

「もう一度、名前で呼んで」

彼女は暴力的な程の快感にただ犯されながら、彼の名前を何度も呼んだ。
体の疼きが止まらない。呼吸も、声も、自分でコントロールすることができない。
シーツを掴もうとしても、その指先にももはや力が入らない。

「クリフ様…クリフ、さ、まぁ…!!あ、あ…あああああっ!!」

好きで好きでたまらなかった主の指に、唇に、舌に、皮膚に、匂いに。
激しく体を貪られて、どうしていいかわからなくなる。
自分のものとは思えないような声。彼女は逃げ場を失ったようにもがく。
瞬間、体がふわり、と浮くような奇妙な感覚を覚える。
一瞬の空白。

「いや、あ、あっ、あああああああっ!」

体に電気が走ったような衝撃を覚え、彼女は獣のように哭き、激しく達した。
薄れてゆく意識の中で、中にどくどくと、熱いものが注がれるのを、現実感もないまま感じていた。






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