シチュエーション
![]() 「あ、あ…」 天蓋付きの、豪奢なベッド。 自分が一生身を横たえることなどないと思っていた場所。 そして、自分の膚に唇を埋めているのは、手の届かない存在と思っていた、主。 「だ…旦那、さ…ま」 眼鏡を外した主は、いつもよりすこし若く見えた。女性のように長いまつ毛。 がっしりとした広い肩にはうっすらと汗が浮かんでいる。 彼は愛撫を続けながら、彼女の耳元に口を寄せる。 長くて華奢な指は彼女の皮膚を這いまわり、直ぐに彼女の敏感な個所を見つけだす。 その度に、彼女の奥は何度でも溢れ、とろけそうな感覚に苛まれる。 「可愛い」 彼の低い囁き声は、媚薬のように彼女の情欲を掻き立て、耳の奥でどろりと溶けてゆく。 「ん、んんっ…あ…」 指で、舌で、言葉で。時間をかけて快楽を刻みつけられてきた彼女の体は、 意志とは関係なく、敏感に反応するようになっていた。 今まで経験したことのないような、気の遠くなるような疼き。 限りなく優しく、そして執拗に、繰り返される刺激。 彼は指を差し入れる。ずぶり、と自分の奥に異物が入る感覚に、彼女は声をあげる。 「あ…っ」 すでに彼女の蜜壺は溢れ、彼の指の動きに合わせて物欲しそうな音を立てた。 幾度となく責められた膣の中は、すでに痛みを感じることもなくなっている。 「ん、あ、あああ…、あっ」 彼女は自分の体の変化に困惑しながらも、快感に揺られ、どうすることもできない。 指を立て、壁をこするようにして中をかき混ぜられると、体の芯に焼けつくような刺激が走る。 思わず腰が浮く。 「い、やぁ…あ、あ…ああ!」 クリフは舌を太ももに這わせたまま、上目づかいにこちらを見上げる。 その表情は、鳥肌が立つくらい艶めかしく、彼女の心をさらにかき乱す。 「ここがいいんだ」 「んあ…、ああ、あああっ」 「気持ちいい?」 「あ、あ…っ、もう、わ、たし…」 メイベルは快感から逃れようと、足を閉じ、膝と膝をこすり合わせる。 しかし、中に深く突き刺さった指は、彼女の敏感な部分を巧みに刺激しつづける。 ぐちゅぐちゅと音を立てて、彼の指が絡みつく。 「あ、だめ…だめ…です、あああああっ…」 彼の指は動き続ける。 どこをどんな風に触れば、彼女の体がどんな風に悦ぶかを知りつくしているかのように。 「だ、旦那さ、まぁ…あ、だめ、だめっ…!!」 快感が渦のように広がり、メイベルを高みへと導いてゆく。我慢が出来ない。 「ん、んんんんっ…!!」 メイベルはびくびくと手足を震わせ、何度目かの絶頂に達した。 夢なのか現実なのかもわからないまま、彼女の体は力が抜け、シーツに埋まる。 クリフはその様子を満足そうに眺めると、ゆっくりと、彼女に覆いかぶさる。 「…入れても、いいかな?」 ぼんやりと呼吸を整えていた彼女は、視界にはち切れそうな彼のものをとらえ、我に返る。 そそり立った主の男性器は想像するよりもずっと大きく、彼女は漠然とした恐怖を覚える。 「少し痛いと思うけど、我慢できる?」 彼の瞳はいつにない情欲に燃えた色を宿していた。 その野性的な視線に彼女の胸の奥はえぐられるように疼く。 こんなにも、わたしは旦那様のことが好きなんだ、と彼女は思う。 愛しい主を満足させたい。彼女は心から、思う。 「…はい」 彼女はこみ上げる恥ずかしさをおさえながら、小さな声で言う。彼は静かにメイベルの膝を割り、足を広げさせる。茂みの奥に屹立したそれをそっとあてがう。 「嫌になったら、ちゃんと、言うんだよ」 刹那。 彼女の体に、引き裂かれるような感覚が走った。 「…ん、ああっ!!」 鋭い痛みにメイベルは思わず顔を歪める。体が強張り、動かすこともできない。 「ごめんね、痛い?」 「…は、い…すこし…」 かつて感じたことのない痛みに冷たい汗が流れる。 「無理しないで。ちょっとずつでいいから」 先端を入れたまま彼は動きを止め彼女の頭を撫でる。 彼女は激痛の中ですら、その手の温度に、この上ない安心感を覚えた。 「旦那、さま…大丈夫ですから…」 「無理しないでいいよ、まだ痛いみたいだし」 「でも、一度に入れてもらった方が、きっと痛くないと…思います」 彼は苦笑する。 「ホントに君は真面目だね」 「だって…旦那様に、早く…」 彼女は小さな声で続ける。 「し…して頂きたい、です…」 彼はきょとんとした顔で彼女の顔を見下ろしている。 言ってしまってから彼女は、どうしようもなく恥ずかしくなり、目を背ける。 なんて、はしたないことを言ってしまったのだろう。 後悔し始めたとき。 ずん、とさらなる激痛が体を貫いた。 「ん、あああ…っ!」 彼女は叫びに近い声をあげる。 彼は体を密着させてメイベルを抱きしめる。その時、彼女はようやく、彼のものが奥まで埋まったのだと気がつく 「ごめん。あんまり可愛いから、我慢できなくて」 メイベルは意識が遠のくような痛みの中、体を締めつけるように抱きしめられたのを感じる。 「考えてみたらいつもこうだね」 彼は独り言を言うように、つぶやく。 「始めてキスした時のこと、覚えてる?」 メイベルは腕の中でがくんと頷く。きつく抱かれているので、彼の顔は見えない。 耳の横に感じる、彼の吐息。 「あの時も我慢できなくなってキスをした。君と居るとすぐ理性が利かなくなる。これでも冷静な方なんだけどね、俺は」 そして彼は。唐突に言った。 「愛してる」 メイベルは一瞬で痛みを忘れてぽかんとする。 それは、主の口から初めて聞く言葉。 ―今、何て、言ったんだろう? その言葉の意味を咀嚼することができず、完全に彼女の思考は停止する。 彼は腕の力を緩め、彼女の顔を覗き込むように見た。 「ごめんね、まだ、痛い?」 彼は困ったように言うと、そっと指で彼女の瞳の下を拭う。 そこでようやく、彼女は自分が。 涙をこぼしていることに気がついた。 「ごめんね、こんな思いをさせて」 主は、彼女の涙を痛みのためだと思っているようだった。 「慣れるまで、少し我慢して」 そうして、彼はゆっくりと動き始めた。 徐々に中の痛みは薄れ、その動きは滑らかになってゆく。 彼女は揺られながら、必死に思考を纏めようとする。 「…旦那…さま…」 「まだ、痛い?」 「…さっき、何て…」 何度も差し入れされ、彼女の秘部がじわりと熱を持ち始める。 彼は動かしながら、クスリ、と笑って彼女の目を覗き込む。 「わからない?」 彼の熱いものが、奥に当たり、膣の内側が擦れ、ぎゅうっと絞り出されるような快感が中を駆けた。彼の動きが少し早まる。何度も、繰り返される波のような快感。 甘いしびれが少しずつ、彼女を支配する。 「んっ…あ…」 「よくなってきたみたいだね」 「…う……っあの、あの…」 「どうしたの?」 「さっき、何、て」 彼女はもう一度、聞いた。すでに体は快感に呑まれ、感情がとめどなく溢れ、彼女はすっかり自分を見失っていた。 「愛してる」 意識がぐらつき、彼女は思わず、彼の肩にしがみつく。 「ん…あ、あっ!」 「気持ちいい?」 「は、…あっ……は…ぃ…」 彼の端正な顔は険しく乱れていた。荒い呼吸。 いつも静かで余裕のあったクリフは、今やただの欲情したひとりの男だった。その激しさに触れ、彼女は一層の愛しさを覚える。 「…あぁ、んっ…ああ、ああ!」 腕を伸ばし、彼の頭を抱きしめる。その髪は汗で濡れ、彼女の腕に張り付く。 快感と感情の高ぶりとがないまぜになり、彼女はわけがわからなくなって、主に訴える。 「わたしも、わたしも…すき…っ…すき、です、クリフ、さま」 溺れる者が必死に助けに縋るように。 「クリフ、さまぁ…」 自分のその声はまるで泣き声のように曇っていた。 彼女の吐き出すような言葉に、彼の動きが激しさを増す。 「あ、あ、ああああぁっ…!!」 悲鳴に近いような喘ぎ声が彼女の口から漏れるのも構わず、せきが切れるように。 彼はきつく腰を打ち付ける。 叩きつけられるような、激しいそれに、意識が薄れてしまいそうになる。 「…駄目だよ…メイベル」 彼女の華奢な体ががくがくと揺り動かされる。 「あ、あああっ…あああ!」 「そんな風に呼ばれて」 それは、妙に無感情な声だった。 「俺がまともで居られると思う?」 楔のように奥を打ち付けられ、意識が火花のように飛び散る。痛いほどの、強い抽送に、子宮の奥に何度も刺激が走り、前後すらわからなくなる。 「あ、あああああ…!」 「可愛い、おかしくなりそうだ」 彼の乱れた呼吸。甘い声。激しく、むちゃくちゃに動かされ、彼女は助けを求めるように喘ぐ。 胸を乱暴に掴まれ、激しく揉みしだかれる。強く吸われた皮膚が、焼けつくように熱くなる。 「可愛いよ、俺の、メイベル」 「…やぁ…!あっ、あ、あ!だんなさま…ぁ…!!」 「そうじゃ、なくて」 背筋がぞくぞくと震え、正気が保てなくなるような、絶え間のない衝撃。 「もう一度、名前で呼んで」 彼女は暴力的な程の快感にただ犯されながら、彼の名前を何度も呼んだ。 体の疼きが止まらない。呼吸も、声も、自分でコントロールすることができない。 シーツを掴もうとしても、その指先にももはや力が入らない。 「クリフ様…クリフ、さ、まぁ…!!あ、あ…あああああっ!!」 好きで好きでたまらなかった主の指に、唇に、舌に、皮膚に、匂いに。 激しく体を貪られて、どうしていいかわからなくなる。 自分のものとは思えないような声。彼女は逃げ場を失ったようにもがく。 瞬間、体がふわり、と浮くような奇妙な感覚を覚える。 一瞬の空白。 「いや、あ、あっ、あああああああっ!」 体に電気が走ったような衝撃を覚え、彼女は獣のように哭き、激しく達した。 薄れてゆく意識の中で、中にどくどくと、熱いものが注がれるのを、現実感もないまま感じていた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |