シチュエーション
―失礼、します。 彼女が遠慮がちにそう言ったかと思うと、クリフの視界が突然暗くなった。 細い二の腕の感触、温かな体温。 彼はわずかな驚きを持って、自分が彼女の胸に抱きしめられているのだと気がついた。 細い指が、彼の髪を梳くようにそっと撫でる。 「…ご迷惑、でしたか」 クリフが何も言わないのを心配したのか、彼女はおずおずと言う。 「ううん、全然」 彼はその言葉に、思わず笑った。そのまま、確かめるように彼女の首筋に顔を埋める。 ほのかに香る石鹸と紅茶の匂い。 「なんだか、お疲れのご様子でした、ので…」 紅茶を運び入れてきた彼女は、彼の顔色を見て、そう感じたのだろう。 「ありがとう」 実際、その日の予定は少しハードで、彼はいつもより疲れていた。 彼女に抱かれるままに、眼を閉じて、その温度に溺れる。 不思議なほど落ち着いた。 座ったままの彼に対し、彼女はその傍らに立ったままであったので、彼は背中に腕を回し、ぎゅう、と力を込め彼女の胸元に顔を埋める。 「こういうのも悪くないね」 「そうですか?」 「うん。これからも、たまにしてくれる?」 「…はい」 二人で滞在して一週間。クリフは不思議な感慨にとらわれる。 多少の無理をして、連れてきた甲斐があったのかもしれない。 自分から抱きつくだなんて、かつての彼女からは考えられない。 彼女は少しずつであるが、確実に変化している。 「珍しいね。何か思うところでも、あった?」 「わたし、色々考えました。それで、決めたんです。もっと…」 柔らかい体の感触。彼女の声は、そこで詰まる。 「もっと?」 「…頑張ります。旦那様に、して、頂くだけじゃいけないって、思いました」 して、頂く、と彼は口の中で繰り返す。 「きみはわかってないね」 彼は息を吐く。 「君がどれだけ多くのものを俺に与えてくれているかってこと」 そして、どれだけ多くのものを、奪っているか。と彼は思った。 冷静さと慎重さ。理性と余裕。いままでの生活。そして。 「ん…っ」 彼が腕の力を強め、顔を動かすと、彼女は恥ずかしそうに、小さく声を上げる。 彼女のその声で、クリフの中のある種の感情が刺激された。 「どうしたの?」 「く、くすぐったいです、旦那様の髪の毛、が」 彼の顔はちょうどメイベルの胸のあたりの位置に来ていた。布を持ち上げている、二つの膨らみ。 服の上からでもわかる、豊かな胸に触れ、唇を押し当てる。 「う……あっ…だ、だめです…そんな…」 「君が、変な声出すから」 「…んんっ」 首筋に舌を這わせると、彼女は、そこから逃れようと、ぎこちなくもがいた。 彼女の背中に手をまわし、強く引き寄せる。 「ま、待っ…まってください。私は、そういうつもり、では…」 もう何を言われても無駄だ、と彼は思い、メイド服のシャツのボタンに手をかける。 自分の中のスイッチが入ってしまったのを感じ、彼は少し困惑する。 俺はいつからこんなに我慢が利かなくなったのだろう? 片手でボタンを器用に外しながら考えるが、彼女が声を震わせると、そんなことはどうでもよくなってしまう。 第一ボタンをかけたまま、第二、第三ボタンを外すと、シャツの前が菱型にはだける。 そこから、可愛らしいレースの下着におさまっている谷間が現れる。 「頑張らなくちゃって、もしかして」 彼は、はたと思い当り、彼女の顔を見上げる。 「これのこと気にしてるの?」 「…そ、それだけの意味では、ありません、が…」 その下着は、クリフが彼女に贈ったものであった。 メイベルが制服以外に着るものを持ってきていなかったこと、 あまりに小さな、明らかにサイズに合っていない下着をつけていたので、 見かねた彼が身につけるものを色々と注文したのだった。 日中、彼女が留守番をしている時に届くように手配しておいたのだが、 何もかもサイズがわからなかったので必要以上に多くの量が届いたらしく、 彼女がとても動揺していたのを思い出す。 「お気遣いを頂いて…ありがとう、ございました」 真面目な彼女は、受け取れないと頑なに拒否したものであった。 「でも、このことだけではないんです。旦那様のお陰で、変わらなくちゃ、って」 いいのに、と彼は思った。このままで、何一つ足りないところはない。 しかし彼はそれを口に出すことはせず、話を逸らす。 「それにしても、どうしてあんな小さなものをつけていたの?」 谷間に顔を埋めると、甘い匂いがした。きめ細かい肌。 「その…あまり、大きいと、恥ずかしくて…それに、邪魔なんです」 「邪魔?」 「その、家事をするのに」 彼はそれを聞いて可笑しくなった。年頃の女の子の言葉とは思えない。 もっとも、彼女にとっては、仕事は生き抜くための唯一手段で、よりどころだったに違いないのだが。 「君にはもう少し女の子の喜びというものを、教えてあげなきゃいけないみたいだね」 苦笑すると、柔らかなそこに唇をつける。 意味深な言い方に、彼女はびくり、と膚を震わせる。 「…申し訳ありません…私は、今まで、身なりに構うようなことは、あまり」 「そのままでも君は十分可愛いよ」 彼はさらに下のボタンを外す。 「俺としては心配なくらい」 そういうと、彼は指先をするりとブラジャーの中に滑り込ませた。 指が埋まるほど、柔らかい肉。彼女の敏感な突起をこりこりと刺激する。 「…っあ」 体の奥を突き刺すような甘い刺激に、思わず彼女の声が漏れた。 逃れようとする彼女の腰を強く引き寄せ、舌と指先で愛撫を続ける。 「い、や…こんなところで、だっ、だめです…!」 「硬くなってる」 「ち、違います……あ…おやめ、ください…」 顔を見上げると、メイベルは、むず痒いような恥ずかしがっているような表情を浮かべていた。 彼女は唇を震わせ、熱っぽい声をもらす。責め立てながらも、彼は細心の注意を払う。 なるべく丁寧に優しく、強引に事を進めながらも、傷つけないように。 「…おやめください、お願いですから…」 彼女のその表情にかえって加虐心を煽られる。 舌で首筋をねっとりと舐めると、彼女はまた声をあげた。 「ひゃ…っ」 「ほんとにそう思ってる?」 「…思って…ます…っ」 囁くと、彼は彼女の頭を引き寄せ、キスをした。口蓋や歯列をなぞる。 指を彼女の首から鎖骨そして乳房のほうにゆっくりと下ろしていく。 甘い吐息にうずもれ、窒息しそうになりながら、彼女は必死に呼吸をする。 その表情に無上の愛しさを覚えた。メイベルの体はいつも、彼の愛情に敏感に応える。 うっとりとした瞳。整わない呼吸。彼は自分の頭に血がのぼっていることを感じていた。彼女の乱れる姿を目にし、すでに冷静ではいられなくなっている。 彼は眼鏡を外すと机に置いた。その、かちゃ、という音に彼女はクリフの意図を理解し、顔色をさっと変える。 すなわちそれは、彼がここで、行為を続けようとしているということ。 「だ、だめ…ですっ!」 ブラジャーを上にずらすと、大きな乳房が零れ落ちるように現れる。 両方の乳首を刺激され、彼女は逃げ場を探すように顔を背けるが、 その表情には明らかに快感の色が浮かんでいる。いつもより反応がいい。 「知らなかった。こういう風にされるのがいいんだ」 彼の言葉に、彼女は赤面し、我に返る。 「そ、そんなこと…!い、や…っ…んっ」 「だったらもう少し抵抗してもいいような気がするけど」 彼女は今にも泣き出しそうな顔で、懇願するように言った。 「い、じわる…です…クリフさ…ま」 なんて可愛い生き物なんだろう、と彼は思う。いやらしく反応する体。 胸だけでこんなに感じている癖に。声が上がってしまうほど気持ちがいいのに、 必死にそれを抑えようとしている。 真面目な彼女は、人一倍羞恥心が強く、いつもこうして快楽に抵抗する。 生温かい舌に乳首を刺激され、彼女の足ががくがくと震えた。 力の入らない腕で、必死にクリフの頭を押さえ、自分の体から引きはがそうとしても、 ただ、彼の髪を撫でるような動きになってしまう。 もがくたびに豊かなふくらみが誘うように揺れる。 前がはだけたシャツが肩からずり落ち、肘まで落ちる。 「ん、んん…!」 彼はメイベルの体を後ろから抱きしめると、そのまま膝の上に抱いた。 膝上までの、黒いタイツに包まれた形のいい足。後ろから抱きしめると、彼女の華奢な体がすっぽりと収まる。 体のわりに肉付きのよい腿をねっとりと撫で、指が下着越しに秘部に触れると、彼女の体が跳ねるように動いた。 「あ…っ…ク、クリフ、さま」 薄い布越しに彼女の蕾を爪先でひっかくように刺激すると、愛液がじわりとにじみ出る。 そしてもう片方の手は、彼女の体を彷徨うように這う。鎖骨、胸、脇腹。 逃げられないように強く抱きしめながら、彼女のうなじに唇を押しあてる。 彼女の肢体が、抵抗を忘れて快感に捩じれる。彼女はどんな顔をしているのだろう。 細い指が、彼の腕にしがみつく。 「気持ちいい?」 その声に、彼女は我に返る。 「よ、…よく…なんて…っ」 「ない?こんなに濡れてるけど」 彼は耳元で囁きながら下着をずらすと、唐突に指を入れた。ちゅく、と淫靡な音が立つ。 「い、やあ!……も…だめっ…だめです」 「何?」 「やめて、ください…お願い…」 口ではそういいながらも、彼女の体は従順に反応する。 この一週間、幾度となく体を重ね、クリフが丁寧に、仕込んだ通りに。 「素直じゃないね」 クリフは、メイベルの顎を自分の方に向かせ、その顔を見つめながら指を出し入れする。 「んん…あ…あああ…あ、ああ…っ」 「いい?」 「ち、違…」 「すっごくいやらしい顔してる」 言葉で虐めるほど、彼女の密壺は熱さを増した。 彼女は唇を噛み、必死に耐えようとするが、自分の体を支えることができなくなり、彼の体にもたれかかる。 彼はその彼女の重みを感じ、さらに愛しくなる。指の動きを止めることができない。 ぐちゅぐちゅと音を立てて彼女の肢体が反応する。 乳房を下から持ち上げるようにして揉む。吸いつくような膚。 ぞくぞくと、彼の体の芯に仄暗い快感が走る。 耳を舐めると、彼女は絞り出すような声で言う。 「ん…もう、はぁ…お許しください……」 「駄目」 「…いや…ん…いや…いやぁ…!」 クリトリスを摘ままれ、ひときわ大きな声をあげた。すり潰すように指で挟む。 責め立てられるほどに溢れていく。 「い、やぁ…、あ、あ…ああ」 「可愛い」 「あ、あ…っ、もう、わ、たし…」 メイベルはびくり、とひと際大きく体を仰け反らせる。熱いぬめりが指先に絡みつく。 彼女の息がとまる。 「あ、だめ…だめ…あああああっ…」 その瞬間、彼はかき回していた指を唐突に止めた。 「あ…」 「君がやめてっていうから」 「…っ!」 メイベルはおもちゃを取り上げられた幼い子供のような表情を浮かべ、絶句する。 「…ん…っ…」 「どうしてほしい?」 彼女は顔を横に背け、何かを我慢するようにして眼と唇を堅く結んでいる。 欲しくて仕方がないくせに、彼女の理性はこんなときにも休みなく働いているようだった。 彼女は、淫らな表情を浮かべ、真っ赤なままでクリフの顔を見た。 「どうして…そんなに…い、じわる…するん、ですか…」 投げかけられた言葉に彼は立ち止まる。 それは、不思議な感覚だった。怒りにも似た、動揺にも似た、感情。 「わからないの?」 彼は感情的に口にした。その声は自分でも驚くほど冷たかった。 「俺をこんなにしておいて、わからないなんて」 彼は、指の腹で、中をつつくようにして、小さく動かす。 火照った体が、こんな刺激で満足できるわけがないことを知っていて、焦らすように。 「ん…っ……」 自分が何かに傷ついていることに彼はようやく気がついた。 こんなに人の心をかき乱しておいて、この娘はなんの自覚もなくこんなことを口にする。 自分の魅力にも、どんなに彼が想っているにもまるで気がついていないみたいに。 その無邪気さは時として、どうしようもなく彼を焦らせる。 「悪い子だね、君は」 こつこつ、と指先で中の壁を叩くと、そのわずかな刺激でも彼女の体は疼きを覚える。 「…ひ…ぁ」 子供のわがままだ、まるで。彼は自分の身勝手さに苦笑する。 しかし、暴れるような感情を自制することができない。 彼は自分の声をまるで他人のそれのように聞いていた。 「君が、死ぬほど可愛いからだよ」 しかしまぎれもなく、それは本心だった。 「…ぁ…クリフ、さ、ま…」 「どうしてほしいか、いってごらん」 彼女の頭を優しく撫でる。メイベルは、観念したように小声で言った。 「さ、さっき、み…みたいに…」 彼女は下を向き、おずおずと、口を開く。 「さっきみたいに…し、して…ください…」 彼は彼女の顔を横に向かせると、唇を塞ぐように貪るようなキスをした。彼女の体は、こうして虐められる程に悦ぶことを、彼はよく知っていた。中に入れた指を激しく動かす。メイベルのあえぎ声が、合わせた唇から漏れる。 「よくできました」 「っ!んん、んっ…!」 焦らされた分、感度はさらに増し、それらは渦のように広がり、メイベルを再び絶頂へと導いてゆく。 「ん、んんんんっ…」 メイベルはびくびくと手足を震わせた。 「あっ…あ。あん…あぁああああ!」 大声とともに、彼女は果てた。 激しい絶頂の後に、必死に呼吸を整えている彼女の体を彼は机の上にそのまま、うつぶせに押し倒した。 途中まで脱がされ露出している肩に後ろから口づけをする。 陶器のような肌はまだ紅潮して汗ばんでいる。後ろからスカートをめくり上げると、形のよい尻の奥で、茂みがぬらぬらと濡れているのがわかる。奥に唇を近付けた。 「あ…っ駄目…」 蕾を舌先で優しく舐め、奥に差し入れる。 達してしまったばかりなのに、彼女の秘部は直ぐに熱くなる。 「あ、あ…!…そんなところ…もう、私、ん、ん…」 ぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てて舐めてやると、膣が締めつけられたように締まる。 「あ、もう…やぁっ…クリフ、様」 クリフは彼女の膚に溺れながら、考える。 彼女は変わりたいと言った。しかし。 自分はとっくに変わってしまっている。 感情をコントロールして、慎重に冷静に振舞うことで、 どうにかここまで生き延びてきた自分が。まるで彼女のこととなると見境がなくなる。 そもそもここに連れてきたこともそうだ。 彼女を連れていくと告げた時の、ベティの顔を思い出す。 勘がよい彼女のことだ。きっと、俺の考えていることくらい、簡単に察したに違いない。 少し先走りすぎたのかもしれない、と考えもした。しかし、止めることができなかった。 彼女を責め続けながら、この娘は気が付いているのだろうか、と彼は思う。 余裕があるように見せているだけで、自分の方がずっと深く深く、彼女に溺れているということ。そして。 ―彼が、この上のない恐怖を感じていること。 彼がベルトを外す音で、彼女は肩越しに振り向く。 その顔は熱に浮かされたような色を持っており、ぞくりとするほど色っぽい。 「う、だめです…こんな、ところで…」 いやいやをするように、涙を目にいっぱいにためながら力なく首をふる。 「可愛い」 唐突に怒張したそれが後ろから挿しいれられると、彼女は背中を仰け反らせ、声をあげた。 「あっ…クリフ…さまぁ…だめぇ…!やめ…」 こんな風にじわじわと快感を刻みつけるのは、情欲に燃えているからという理由だけではない。 彼女の体を、自分なしでは居られなくするため。 「ああ、あ、あ!」 ゆっくりと奥まで突くと、子宮の奥がひくひくとからみついてくる。 ぐちゅぐちゅと音を立て、体がしなる。 彼女が嫌がってみせるほどに彼女の体は敏感になり、彼の動きに反応する。 普段はあんなに静かで冷たい雰囲気のこの娘が、自分の体の下で突かれるたびに あられもない声をあげている。 「…あっ…ああ。あああっ、や、だんなさまぁ…あ…やめて」 快感に抗えず、隠しきれないことを戸惑っているような顔。 激しく腰を打ち付けると、彼女は我を忘れたように声を上げる。 動きは次第に激しくなり、彼女のやわらかく滑らかな膚が、こぼれおちそうな乳房がぶるぶると揺れる。 「あ、あ、やっ、いや…あ」 「…好き、だよ…」 「あん、旦那さま……あ、ぁあ!クリフさ、ま…っ!」 彼女の奥がきつく締まった。 「…ん…っ」 彼が呼吸を呑みこむと、彼女はびくびくと体を震わせ、叫んだ。 「あ、あああ…あ、あああああああっ!」 瞬間、彼は体を貫かれるような感覚とともに、達し、そして果てた。 汗ばんだ体を彼女の上におり重ね、抱きしめる。 呼吸を必死に整えながら、しばらくの間彼女はぐったりと机に体を沈める。 彼がそれを引きぬくと、彼女は自分のシャツの前を手で押さえ、 恨めしそうな顔で振り返り、彼を見た。 「…旦那様の……ばか…」 ぎこちない口調。珍しく、拗ねた様子の彼女にクリフは驚く。 彼女は口を尖らせて、怒っている。使用人とは思えない口のきき方。 彼女もまた戦っているのだ、と思った。自分との関係を正しい形で築くために。 「もう、絶対、なでなで…して、あげません…!」 もっとも、純粋に怒っているだけなのかもしれないが。 「嫌いになっちゃった?」 彼が聞くと、長い沈黙のあと彼女は聞こえるか聞こえないかの小さな声で言った。 「…そんなの」 彼女は顔を背けて、続ける。 「…なれる、わけ…ありません…」 彼は優しくキスをした。 純粋で、不器用で、素直じゃなくてどこまでも愛くるしい、この娘。 陽だまりのように温かく、ひたむきな思慕。守ってやらなければと彼は思う。 ―嫌いになれるわけ、ありません。 しかし、彼の奥底の限りなく冷えた部分が、ごく小さな声で囁いた。 ―本当に、そうかな? 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