お堅い従者×ツンデレお嬢様
シチュエーション


「ん・・・・・・あっ・・・」

とある豪邸の一室にて男女が絡み合っていた。
女は17才の娘であり、年頃としては少女なのだが。
しかし少女とは思えない程に酷く妖艶であったのだ。
かわいらしい、よりも美しいが相応しい。
男の大きな掌で包み込んでも有り余る豊かな乳房。
胸、腰、脚へかけてのくびれのライン。
そして流れるように美しい銀髪の髪。
男は勿論のこと女ですら溜め息をついてしまう美貌を持つ少女の名はノウェレ。
屋敷を含め、山や近くの街などの広い地域、アーヴァナルド地区を治める領主の一人娘であり、
候爵の階級を持つ父親の娘という肩書きもあった。
気高いお嬢様という通り名でこの地区に住んでいる者の間では有名でもある。
そのお嬢様を押し倒し、四肢に愛撫している男の名はヴェルナーク。
大事な一人娘の身を安じた父親が雇った護衛の男である。
年は24と、ノウェレより7つも年上の男。
護衛として雇われただけあって背の高く、適度にがっしりとした体格の持ち主。

「・・・・・・ノウェレ様、これ以上はできません」

愛撫を終え、後は挿入だけだというのにヴェルナークはそう告げた。
紫紺の瞳は真っ直ぐノウェレを捕らえながら。

押し寄せる快楽の波に翻弄されているノウェレは、
その言葉を聞くとぼんやりとしていた頭が一気に覚醒した。

「・・・どういうことだ、ヴェルナーク?」

ベッドから上半身を起こし、睨むようにして相手を見据える。
しかしヴェルナークの方はノウェレの視線も大して気に止めることなく頭を左右に振る。

「本来、俺は貴女に触れてはならぬ身。これ以上は度が過ぎます故・・・」

黄緑色の頭を下げ、彼は答える。
相変わらず外見に似合わない生真面目さにノウェレは頭痛を感じた。
外見からは戦場を駆けるこの男、傭兵のようなどこか荒々しい性分ではないかと言った印象を受ける。
しかし意外にも中身は礼儀を弁え、教養もある生真面目な男であった。

「いまさら何を言っている。私を女に変えたのはお前だろう?」

ただの気紛れの戯れだと言い張り初めての経験をヴェルナークに任せたのは記憶に新しい。
あくまでも、ただの気紛れだと言い張って手慣れているかのように振る舞った。
しかし彼は気付いていたのだろう。
気付いていてもなお、女主人に忠実な従者として抱いたに違いない。
それが何故いまさら止めると言い出したのか。
ノウェレは不思議で仕方がなかった。

「俺はこれ以上、己の手で貴女を汚すと思うと心苦しくて仕方がありません」
「・・・・・・・・・」

ヴェルナークは手早くシーツの上に放り投げられていたガウンを手元に引き寄せ、
ノウェレの細い肩にかけた。
いつもならば彼女の性分からして直ぐさま抗議の声を上げるが、
言葉通りに少々困惑している風である相手を見ると反論できずに言葉を飲み込んだ。

「罰であればなんであれ受けるつもりです。ですから・・・」
「もっと身を大事にしろと言うのだろう?とうに聞き慣れた」
「・・・分かっていただいたのなら幸いです」

半ば乱暴に肩にかけられたガウンを身に纏う。
このまま簡単に引き下がるのも借なので何か皮肉でも言ってやろうかと考えを巡らせる。

「・・・ヴェルナーク」
「は」
「今夜はこのまま諦めてやろう。だが、一つ貴様に命ずる」
「何なりと申し付け下さい」

ノウェレとは異なり、上半身のみ空気にさらけ出していたヴェルナークは着込んでいた手を休める。
ノウェレが命じたことであればノウェレ自身が傷つかぬこと以外は何だろうと聞き入れる。
忠誠は厚く、ノウェレにとっては良き飼い犬でもあった。
無論、ノウェレが彼に恋心を抱く以前であればの話なのだが。

「私に相応しい花を持ってまいれ」
「花ですか・・・」
「そうだ。朝までに私の元へ持って来るのだ」

この男はどのような目で私を見ているのだろうか・・・
それが些か気になりつつも言葉では表すことが出来ない己の不器用さを嘆いた。
今の時期、大地の恩恵を授かる春ではないので咲いている花は数種類しか存在せず、
ヴェルナークはどうするのかという単純な好奇心もあった。

「承知致しました」

いつも何か命令を下した時となんら変わらぬ素振りで私の愛しい男は頭を下げるのであった。










コンコンと部屋の扉をノックする音で目が覚めた。
未だ眠気の残る身体をゆっくりと起こして室内に入ることを許可する。
部屋に入ってきたのは屋敷で下働きするメイドの一人であった。
起こしに来たという風でもなさそうで、
それが分かるのは彼女が水瓶を抱えていたからなのか。
メイドは「おはようございます」とお辞儀をするとテーブルの上へと水瓶を置いた。

「・・・それは?」
「今朝、ヴェルナーク様がこの花をノウェレ様の部屋に飾るようにと要請がありまして・・・」

昨夜のやり取りを思い出して早い仕事に満足する半面、
早く終わらせたことに何とも言えない苛立ちが湧きあがる。
己の心情が理解できぬまま不愉快さを表情には極力出さないように心がける。
瞼を擦り、そちらに視線を向ければ水瓶の中に生けてある白く小さな花が見えた。

「これが?」
「はい」

肌蹴ているガウンを着直してメイドから手渡されたカーディガンを羽織った。
広いベッドから降りると素足のままテーブルに近寄り、花に触れる。

「・・・・・・何故このようなものを」

小さな白い花は一見、野分きに生えていそうな野花に見える。
一瞬その類だと思ったがよく見ればそうではない。
人の手によって手入れが施された、それこそ温室か何処かで時間をかけられ育った花である。
その証拠に白い花弁が一枚一枚鮮明な色合いをしており、
野分きに生えている草花よりも、花屋で売られている花よりも愛らしい花であった。
思わず普段花などに興味のないノウェレも花に見入った。
しかし、とある考えが思い当たって視線を外した。

「私はこれから出掛ける」

メイドに告げればドレッサーからワンピースを取り出して素早く着込むのだった。

身支度を適当に済ませた後、朝食をとることなく馬車に乗り込む。
屋敷の者には先程のメイド以外誰にも告げておらず、
護衛であるヴェルナークにも当然のことながら告げていない。
・・・1番告げてはならない気がした。
思考を巡らせれば巡らせる程に彼のことだけを考えてしまう自分に思わず自嘲する。
その間にも馬車は特定の場所へと向かうのであった。
彼が花を持って来たと思われる場所に。
確信めいたものがノウェレの中には存在した。
その場所がノウェレ自身も通い慣れた場所であるが故にか。
しかし、一々場所のことを考えている余裕は彼女の中には存在せず。
淡々と思想を深めるのは何故あの男があの花を贈った理由のみ。




「マリエッタはいるか?」
「あら、ノウェレ」

辿り着くなりノウェレの屋敷にも負けない大きな屋敷。
屋敷の使用人達は突然の客に戸惑っていたがすぐに主人の元へと通す。
壁もアンティークも緑色に統一されたその部屋には純白のワンピースを着た少女が一人。
持ち上げていたカップをテーブルの上に置く小さな動作すら優雅なもので。
金色の肩にかかる程度の髪はウェーブがかっており、
ノウェレとどこか対称的でもあった。

「こんなに朝早くから・・・何かご用かしら?」

やんわりと微笑み、髪と同じく金色に輝く瞳はノウェレを映す。
突然の客にも慌てずに一先ずは向かいの椅子に座るよう勧めるのか。
そして一度は下げたティーカップを再び持ち上げ、ゆっくりと紅茶を味わうのだった。

「貴様があれに花を渡したのか?」

しかしノウェレの方と言えば優雅にお茶を楽しむマリエッタと異なり、
彼女に近付くものの椅子には座らず、座っている彼女を見下ろすように率直に尋ねた。

「あらあら、挨拶もなしに唐突ですね」

慣れてはいるけれど、と言葉を付け足してマリエッタはのんびりとした口調で答えるのだった。
彼女自身、このような調子で答えればノウェレの苛立ちが増すのを知っていて答えるのだが。
予想通りノウェレは苛立ちを隠さなくなった。
隠せなくなったと言っても過言ではないのであるが。

「いいから答えろ」
「ノウェレ・・・私、貴女の怒った顔は見たくありません。笑って下さい・・・ね?」

母親が子供をなだめるかのように、そっと手を伸ばしてノウェレの頬に触れるだろうか。
掌で頬の柔らかさを確かめながら何度か撫でてやればノウェレは小さく溜め息を零す。

「・・・・・・」

漸く冷静になったのかノウェレは当初勧められた席に腰を下ろす。
気だるそうにテーブルに肘をついて額を押さえた。
その姿は己の失態を恥じているようでもある。

「それにしても、何がそんなに気に入らないのです?」

白く小さい花だから?と付け足しながらマリエッタは不思議そうな面持ちで尋ねた。
やはりノウェレの考えていたことは正しかったようで、
ヴェルナークはマリエッタに花を分けてもらったのだと確信した。
それもその筈、ちらりと視線を窓の外に向ければ大きな温室が見える。
マリエッタの部屋からも見えるそこはマリエッタ専用の温室と言っても過言ではない。
それにマリエッタはノウェレと交友が深い、いわゆる幼なじみという間柄。
加えて常に、誰に対しても穏やかな性格。
何か困っている人がいれば手を貸す彼女の手をヴェルナークは借りたのだった。
ノウェレはマリエッタに対して首を小さく左右に振り否定を表す。

「そのような訳ではない・・・」

あれが貴様の手を借りたというのが嫌だ。
一瞬、そう言葉を思い描いたがあえて口に出すことなく言葉を飲み込んだ。

「貴女も強情ですね」

それとも、頑固というのかしら?
一人でマリエッタは呟きながらもノウェレは否定できずにいた。
己の可愛いげのない性格にはよく理解していた。
治せるものならば治したい。
だが、現状としてはとてもじゃないが治せそうには思えないのだった。

「・・・ヴェルナークさんがわざわざ此処まで出向いた理由を理解したらどうです?」
「それは私が命じたからだろう?」

主人の命令には絶対服従。
奴の忠誠は何によるものか。
傭兵時代、上官に対してもあのような対応だったのか。
上官がいたのか定かではないのに、
私は、マリエッタの次には見えぬ奴の上官を想像しては苛立ちが増していくのか。
私以外の人間に服従しているのを考えれば考えるほどに。
それは酷く。

「貴女はあの方がいないと随分と不安定なのですね」
「不安定・・・私が?」

馬鹿を言え、と鋭い視線を向けるが彼女は臆することはない。
それどころか余裕そうにティーカップを持ち上げた。
一つ年下の幼なじみは落ち着いていて年相応の少女には到底思えない。






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