お嬢様と使用人
シチュエーション


白河家は辺り一帯の大地主で、古くは領主として名を馳せ、宮家の血筋を継いでいるとも言われている。
だが昨年当主の孝三郎が亡くなってからは、あれだけ人の声の絶えなかった大きな屋敷から、音が消えたようになってしまった。
白河の後を継いだ孝三郎の長男が、ニューヨークを拠点に動く実業家であるからでもある。現当主とその妻は、古い因習に囚われたまま

のようなこの屋敷を嫌い、一年のほとんどを外国で過ごしていた。
しんと静まり返る広い敷地で、厳しい門扉がそっと動いた。
セーラー服姿の少女が、まっすぐな黒い髪を風になびかせながら、門の向こうへ歩いていく。続くのは長い石畳だった。
ようやく古い木造の母屋へたどり着き、引き戸を開ける。長身の男が頭を下げたまま言った。

「おかえりなさいませ」
「ただいま」

そこに存在するものが棚か何かでもあるように、少女は視線を向けずに靴を脱いだまま上がっていく。
少女は現当主の一人娘で、名を桜子という。なるほど頬は薄く紅をはいたような桜色で、美しい容貌をしていた。
だが醒めたような目は少女らしさよりも妖艶なおんなの色を湛えていて、体つきは既に成熟している。そんな桜子が紺色の制服と白いハ

イソックスに身をつつむ様は、一種のエロチックさを醸し出していた。

桜子は部屋にあがって、今しがた玄関ですれ違った男のことを考えていた。
雨宮という男。いつからこの家にいるのかもわからない。物心ついたときには白河家に仕えていた。
いつも仮面を貼り付けたような無表情で、何を考えているのかわからない。この家には近所に住む家政婦を抜かせば桜子と雨宮だけしか

いないのに、数えるほどしか会話を交わしたことがない。
だが桜子は気づいていた。学校で、街中で、よく男たちから向けられる視線と同じ温度を、たまに雨宮から感じることを。それを思うと
、彼女の自尊心は少し満たされる。私にかしずかない男などいないのだわ。
少女の肉感的な唇は端を上げた。心の中に意地悪な衝動が集まりだす。

「雨宮!」

桜子は声を上げて男を呼んだ。

「お呼びでしょうか」

少しも経たないうちに、桜子の部屋のドアの向こうから声がした。

「入って」

失礼いたします、と声がして、ゆっくりとドアが開けられる。ついぞ招き入れられたことのなかった部屋におずおずと足を踏み入れる男は、しかし感情を見せることはなかった。
桜子は椅子から立ち上がり、雨宮の正面に立ってその顔を眺める。年の頃は23、4くらい。まだ欲望の盛りであるはずなのに、自分に見つめられても妙に落ち着いた物腰が気に障る。
手を伸ばして、男の手を掴むと、さすがに面を喰らったような顔になった。
それに勢いをつけられ、桜子はそっと男の手を自分の胸元に這わせる。

「お、お嬢様……」

引き下げられようとする手に力をこめ、逃さないようにする。桜子は雨宮の目をひたと睨みすえた。

「知っているのよ、雨宮。お前がいつも頭の中で私を犯していることを」
「何を……」
「だから私を気持ちよくさせなさい」

呆気に取られて力を失った手を、桜子はセーラー服の上衣の下から滑り込ませた。肌にじかに触れるその手は、冷たくて骨ばっている。滑らかな柔肉に導かれて、びくっと雨宮が神経を張り詰めさせたのがわかる。

「できないの?」

鼻で笑うような、挑戦的な態度。それは桜子の美貌を際立たせ、いっそうこ惑的に見せていた。
雨宮はしばらく理性と闘っていたが、掴まれたままの手が下着の中まで導かれ、胸の頂点を感じると、膨れ上がった欲望に押しのけられるようにして陥落した。

「ああん…」

ぴちゃ、ぴちゃと水音が響き渡る。そのまま雨宮は桜子の細い躯にむしゃぶりつき、制服と下着を持ち上げてよく育った双丘をあらわにし、舌を這わせていた。
桜子は立ったままで、雨宮はひさまずいている。その体勢のまま、執拗に胸を愛撫し続ける。
舌で頂点を転がされ、口に含まれ、片方の胸は雨宮の大きな手に優しく揉まれたまま、人差し指で先の部分を擦られる。

「ん…あっ…」

無愛想な使用人が落ちたという喜びと、ねっとりとした快楽に、桜子は興奮を抑え切れず、甘い声を出していた。
雨宮は無言で、これも仕事だと言わんばかりの丁寧さで愛撫を続ける。先をすぼめた舌先で硬くなった頂点をつつき、唇で甘噛みをすると、今度は平らにした舌全体で胸を舐め上げる。

「あああっ」

つぼを心得たような舌使いに、桜子はどんどん乱れていくのを感じた。
足の力が入らない。休むことのない攻めに、腰までとろけそうになりながら、しかし桜子は不安を感じていた。

――この男は、本当は私のことを憎んでいるんじゃないかしら。
黙って奉仕しているだけで、心のなかでは馬鹿にしているとしたら……

目を閉じて快楽に没頭したい誘惑を振り切って、桜子は眼下にある雨宮の顔を見つめた。
予想に反して、男は赤子のように恍惚とした表情を浮かべて、愛おしげに乳房に顔を寄せている。
そのひたむきさは、桜子の胸を打つものがあった。彼女は再び快楽に体を委ねる。

「あ…はぁ…雨宮ぁ…」

ぴちゃ、ぴちゃ。舐める音が返ってくるだけで返事は聞こえない。

「もっと…もっと気持ちいいこと…しなさい……」

「はい、お嬢様」

いつものように礼儀正しい返答がされたが、雨宮の普段暗い目は、熱に浮かされたような色を帯びていた。
立ったままの桜子をベッドに座らせると、しゃがみ込んだ雨宮は、広げられた脚の間に指を這わせた。

「あ」

スカートのなかで雨宮の細長い指が、柔肌の感触を確かめるようにゆっくり動く。ふとももの内側をなぞっていくのを、桜子はじれったく感じて身をよじった。
やがて指は敏感な部分にたどり着く。下着の布越しでもわかるほどに、桜子のその部分は濡れていた。

「お嬢様…」

はじめて雨宮が感情をあらわにした。スカートをまくりあげ、顔を近づけて指を動かす雨宮の声には、間違いなく喜びがあった。
つつつ、と筋の部分を触られると、先程の愛撫で体が熱くなった桜子の腰が上がる。

「ああん…直接触りなさいよ…」

言われたとおりに指が薄い布の隙間を伝い、なかへ入っていく。待ち侘びた感触に桜子は歓声を上げる。雨宮の指は、蜜の量を検分するかのように蠢いて、襞を弄ぶように触る。

「はぁ…あぁん」

ひとしきりの快楽を与えられたところで、指は引き抜かれた。次はそこに熱い息がかかる。

「あぁぁっ」

焦らすように舌の先が触れる。桜子はたまらなくなって腰を動かした。薄い布は柔らかい舌の愛撫を伝え、もっと強烈な快感を望ませる。雨宮も興奮が高まったのか、息を荒くしたまま桜子の脚を持ち上げて、その部分に口を近づけじゅっと音を立てて吸った。

「ひゃあん」

いやいやをするように、桜子の白い臀部が震える。下着がずり下ろされていく。脱がしやすいように桜子は腰を浮かした。
ひんやりとした空気に濡れたところが晒されたかと思うと、すぐに生暖かい舌に蓋をされた。

「んん…あ…」

柔らかい感触が電撃のような快感となって体中に走っていく。先程愛撫された乳房の突起にまた硬さが生まれる。浮き上がりそうな意識を懸命に残し、耐えるような顔で桜子は喘いだ。
少女の愛液を、雨宮は一心不乱に味わっていた。献身的な舌の奉仕は緩急をつけて、猫がミルクを飲むような音を響かせて続く。触れるか触れないかというタッチから、肉芽を結んだ唇で嬲るように触り、溢れた蜜が零れないように吸い尽くす。
桜子の腰は浮いたままで、いやいやをするように揺らしては雨宮の顔にそれを押し付ける。長い舌に蹂躙尽くされて、意識はもう飛びそうだった。

「い…ちゃうぅ」

悲鳴のような声が上がる。それに勢いをつけたのか、舌の動きはますます強まっていく。

――この男、私にこんなことをするのをいつも想像してたんだわ…

股の間に顔を埋める雨宮を見下ろして、桜子はなんともいえない高揚したものを感じていた。

目の前が白くなってきた。無意識に桜子の手が自らの胸の膨らみに伸び、先端をつまんで擦り合わせる。
それに気づいた雨宮が、股間から顔を離さないままに腕を伸ばし、胸の愛撫をも代わる。桜子は両腕をベッドに置いて、いやらしく蠢く

雨宮の頭と、たわわな乳房が揉まれて形を変えていくのを、恍惚とした目で眺めているだけでよかった。

「あんん…はぁぁ……っ」

すっかりスカートはまくれ上がり、胸もはだけ、忘我の淵にいる桜子は、雨宮の舌の動きにあわせて腰を動かしていた。
達したい願望が伝わっているかのように、肉芽を重点的に攻められる。怠惰な快感が突き上げ、どんどん腰が上がっていく。雨宮はしっ

かりとふとももを押さえつけ、にゅるにゅる、ぴちゃぴちゃと意識的に音を立てながら、攻撃を緩めることをしない。

「ぅぅん…くぅん…」

長い舌が上下にいたぶる。

「あ…あ…あ…あん…」

平らにした舌が舐めあげる。ざらついた感触に桜子はまたひときわ大きな声を上げた。
それからは持続的な肉芽の往復だった。

「あ…ふあ…あーーーーっ!!!」

開脚したつまさきまで力が漲り、白い光が見えたかと思うと、桜子は絶叫して、頂点に達した。その間も唇は離れない。

「はあ…ん」

びくびくと痙攣した場所から、雨宮は顔を上げた。

「失礼いたしました」

少女のはだけた着衣を整え、いつもの様子で立ち上がろうとする雨宮の様子を見て、桜子の胸はちくりと痛んだ。
このまま押し倒されるものだと思っていたからだ。
そして快感を頂点まで迎えた桜子のそこは、足りないものを補いたくてひくついていた。

「途中でやめるの?」

心なしか、桜子の声は普段と違い、弱々しく響く。
乱れた髪を直しながら、ドアに向かおうとした雨宮は振り返った。その目には充足感と、根の深い諦めが浮かんでいた。

「これ以上お傍にいると、私は自分を抑えられる自身がありません」

きっぱりとした物言い。その言葉に、桜子はいまの行為によって雨宮がこの家を去ろうと考えたことを悟った。
お嬢様のわがままで、奉仕させられたに過ぎないというのに。
気持ちよりも先に、体が動いていた。

「やだっ」

ベッドから駆け下りて、背中に抱きつく。戸惑った雨宮が向きを変える気配がある。

「お嬢様……」
「抱いてくれなきゃやだっ」

駄々っ子のように頭を振る少女に、青年はふっと無表情を解いて笑みをこぼす。

「どうされたのですか、一体……」

桜子は答えず、雨宮の胸に埋めたまま顔を上げなかった。自分でも信じられないことに、泣いていたのだ。
彼の胸はあたたかく、やがて優しい指が降りてきて髪を撫でた。
そうだ、ずっとこれを望んでいたのだ。
雨宮の腕が細い肩にまわる。顔を上げると、見たことのない優しい目が、桜子を包み込んでいた。

「桜子様、私は孤児です。先代に3歳の時に拾われてから、20年間、この白河家を守ることだけを考えて生きてきました」
「それがどうしたのよっ」
「かたや桜子様は白河家のお嬢様。触れてはならない場所に触れたばかりか、この先も進めるなど、してはならないことです」
「なんで?」

あどけない瞳で見上げる少女は、いつもの傲慢さを忘れていた。その様子に愛しさという感情を揺すぶられた使用人の男は、精一杯優しく彼女の顔を手で包むと、抱きしめた。

「お嬢様はいつかは身分の高い男性のもとへ嫁いでいく身。その前に私のようなものがお体を汚してしまっては、亡くなった先代に申し訳が立ちません」
「ちょっと、いつの時代の話をしてるのよっ」

抱きしめられてぬくもりを味わいながら、ストイックな考えに囚われた雨宮に桜子は腹が立った。

「いいこと、雨宮は私がもしどこかへお嫁に行っても、一緒についてくるのよ!どうせ嫁がされるのは金持ちじじいとかなんだから、あなたがこの体を悦ばせるのよ。わかってる?!」

平生の勢いで命令をする桜子に、雨宮は驚いて体を離した。その隙を逃さぬよう、桜子はぴったりと密着させる。

「雨宮が私を頭の中で犯していたように、私だって頭の中で雨宮に犯されたかったんだから…」
「お嬢様…」

しおらしくうなだれた桜子の姿に、雨宮は欲情を再び灯されて、腰に手を回した。
潤んだ黒目が見上げる。どちらからともなく唇が引き付けあい、お嬢様と使用人はくちづけを交わした。

「んっ…」

雨宮の熱い唇に塞がれて、桜子はまた悩ましげな声を上げた。
彼の軟体動物のような舌が、桜子の口内を味わいつくすように舐めまわす。
唇が離れると、熱い吐息が漏れる。雨宮は桜子の体を難なく持ち上げ、ベッドへと運んだ。

「お嬢様、本当によろしいのですか…」
「もう…くどいわよ」

戸惑ったような雨宮が、仰向けに横たわった桜子に覆いかぶさる。桜子は腕を首に回して、その唇に唇をあわせた。

「んぅ…はぁ…」

青年の手が器用にセーラー服を脱がせていく。素肌を指が通るたびに、敏感になった桜子の体は反応する。
カッターシャツを脱ぎ捨て、無駄のない滑らかな胸板が桜子の膨らみに合わさる。

「雨宮ぁ…」
「桜子様…」

雨宮の息が桜子の耳にかかり、柔らかに耳朶を噛まれる。耳まで流れ込むような熱い吐息は、仮面を脱ぎ捨てた青年の燃え盛るものを表現していた。
慈しむようなキスの雨が体中に振り、桜子はまたその部分が蜜でいっぱいになるのを感じた。
体が熱い。胸に感じる青年の鼓動と、初めて知った彼の温もりに幸福感を覚えながら、桜子は吐息と共に希望を口にした。

「はやく…欲しいの…」

着衣の上からでもかわるほど張り詰めていたものは、下着まで脱ぐと赤黒くそそり立った姿をあらわした。
それが桜子の濡れた茂みに這わされると、狙いを定めたようにゆっくりと侵入する。

「あぁっ…おっきぃ……」

桜子は歓声を上げる。
雨宮はその様子で彼女が初めてではないことを確信し、複雑な気分になる。しかし痛みを訴えられようものなら、自分にそれ以上進められるかはわからない。そんなもやもやする思いも、桜子のなかで動かすにつれ、快楽に飛んでいった。

「うっ…」

思わず雨宮が呻き声を上げるほど、少女のなかは窮屈で、滑らかだった。まるで怒張したものを吸い尽くそうとしているようだ。

「あぁん…ぅん…」
「く…」

腰をゆっくり動かし、粘液が音を立てる。少しの動きでもお互いの声が漏れてしまう。
雨宮の抗えない衝動が腰の動きに激しさを加えていく。桜子はかきまわされるような快感に再び頭の中を真っ白にさせ、動きにあわせるように嬌声を上げる。深い緑に包まれた広大な屋敷にいるのはふたりだけ、音を聞かれる恐れもない。

「ああっ…あ…いぃ……」

ぬぷ、ぺちゃ。

体液が摩擦にいやらしい音を添え、全身を桜色に染めた少女は、布団に沈み込むようにして侵入を味わっている。その様を見てさらに高められた雨宮の腰は、溶け合おうとするかのように桜子を貫き、肌と肌がぶつかり合う。

「雨宮ぁ…あ…ぁあ…いいのぉ…」

切なく歪む少女の口内にまた舌を這わせると、激しい力で吸われ、渇きを癒すかのように切実に求め合う。

ぱす、ぱす。

腰の動きはいよいよ勢いを強めていた。桜子を抱く雨宮の腕にも力が入り、顔を上気させている。

「あはぁ…あぁ…」
「いっ…」

腰が完全に溶け合うような感触。舌を絡めたまま、貫くそれはもう限界をむかえそうになっていた。

「はぅん…」
「く…」

雨宮のあえかな悲鳴と共に、真っ赤になって張り詰めたそれは引き抜かれ、急いで手にしたティッシュに包まれたまま精を放った。
ぴしゅ、ぴゅしゅと勢いをつけて飛ぶそれは、自らの手には収まりきれずに、熱い白濁とした雫を桜子の腹に落とす。
法悦に浸りながらも興味深そうにそれを眺めていた少女は、ゆっくりと指の腹でこぼれたものを掬い上げる。

「ああ、桜子様…」

雨宮の上げる悲鳴も空しく、彼女はそれを口に含んだ。唇の端が妖艶につりあがっている。

「おいしい」






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