シチュエーション
深艶なる夜の支配者たる吸血鬼にとって、血を分けた血族は子であり、兄弟で あり、家族であり、恋人であり――僕だ。 「我慢ならない?」 少女が言った。 その言葉に若い女は、小さく身悶え、痙攣するように頷いていた。 「はッ――ぁ、あう、あ…………ううっ……チを……血をください」 スカイブルーの瞳は熱っぽく潤み、口唇の端からは涎がだらだらとこぼれてい る。顔は真っ赤に染まり、動悸は激しく荒々しく、その度に胸が脈打つ。 生まれ変わったばかりの身体は、触れるもの全てが快感にかわりそうで、全て に陵辱されている錯覚に陥る。 今まで抱いてきたどの男よりも巧みに、血――少女の一部は。中から女を犯し てくる。 女は少女により、今日転(吸血鬼)化した。 少女――真祖混沌の血を受け継ぎし、破滅を免れし者の始祖でもある、既に名 を失い。代わる名を世界から拝謁した大吸血鬼は。どこまでも卑猥に、扇情的に。 「血がほしい?ならもっと淫売らしく、イヤラしくしなさい」 少女はくすりと笑み。 「そしてこう言うの――」 女は言った 「保守」 言ったものの女は 「――い、意味が分からないんだけど」 そう訊かずにはいられなかった。 少女の右眉が跳ね上がり、整った顔立ちが怒色を示す。――女は本能的に危険 を察し、身を竦ませていた。 「わからないの?」 少女の言葉は冷たい。 「吸血鬼の本質とは肉ではなく、血。 血なのよ」 月明かりの元、歌うような少女の声が言う。 「あたし――いえ、あたしたちはいくら肉体を滅ぼされようが、血さえ遺っていれば甦れ るの」 「…………はあ」 「だから、あたしたちにとって『保守』って言葉は。なにより重く大切な言葉なのよ― ―わかった」 「あ、……はい」 女の返事に少女は満足したように、にへらと頷き。 「ならばよし」 ――満足したからいいけど、やっぱり意味が分からないなぁ…… そう思う転び立て吸血鬼。 SS一覧に戻る メインページに戻る |