秘密U
シチュエーション


―――こつ、こつ

幾分控え目な感じで扉は叩かれた。
北都は脱ぎかけていたシャツに再度腕を通す。
これから床に就こうとしていたところだった。誰だろうと扉に手を掛ける。

「今、開けます」

かちゃ、と音を立てて扉を開けると薄い闇の中にぼんやりと人影が浮かび上がる。
そこに立っていたのはしどけなく夜着だけを纏った少女。

「――麗葉様…?」

少女は彼が扉を開けると儚げな笑みを浮かべた。
北都は驚きに目を開かせとりあえず部屋の中に招こうとすると彼女は首を軽く振った。

「北都…少し外にでませんか?」
「今からですか?」

突然の訪問に唐突な要求とで戸惑いながら訊ねるとこくりと目の前の小さな頭が動いた。


「ごめんなさい…もしかして就寝中だったかしら?」
「いえ、大丈夫です。それよりどうかされたんですか」

夜着のままだった麗葉は肩に北都の上着を借りて掛けている。
その麗葉は顔をどことなく曇らせながら北都の横を歩いている。
歩くたび彼女の髪が夜風に揺れて微かな甘い匂いが北都の鼻腔を擽る。

「理由がなければ会いに来てはいけない?」
「いいえ、そんなことは…。でもいつもよりお元気がないようですから」

心配になった北都にくすっと麗葉は笑った。
月のあかりが彼女の髪を縁取り淡い光り弾かせている。

「あなたがそばに居てさえくれれば何があっても…私は平気です」

麗葉は頭を北都の胸に預けてくる。
そんな彼女に北都も静かに細い肩を抱く。

「ねぇ…?」

心許なく揺れている彼女の声。

「このまま二人でどこかへ行ってしまわない?」

彼のシャツを掴む微かにその手は震えていた。

「麗葉…?」
「…北都…私は貴方を失いたくない…何があっても何処にもいかないで側にいると約束してくれる」

北都は彼女の背中に腕を廻す。柔らかな髪を愛おしげに撫でる。

「約束します。麗葉…どうかされたんですか?」

いつになく不安げな彼女の顔を両手で包む。

「俺にとってあなたは自分の全てです」

言葉に偽りはない。
いつかの未来、引き離されそうになったとしても変わらず側で寄り添っていたい。
ただ北都は知らなかった。彼女の身に今なにが起きているかを。
彼女の言葉に秘められていた本当の意味に彼はまだ気づいていなかったのだ。
雲が二人の道筋を隠すように月を覆い隠していった。

「こんな所に呼び出して何の用ですか?」

物置部屋には不釣り合いに響く可憐な声。刺々しい口調は麗葉のものだ。
彼女の眼前にいるのは如月。いつもながらの彼女の口調に彼は肩をすくめた。

「麗葉様こそ、昨日はお部屋にいらっしゃらなかったようで。一体どこへいっていたのやら…」

言葉とは反対に検討はついているのだというそぶりな彼に麗葉は目つきがきつくなる。

「なぜあなたにそんなことまで逐一話さなくてはならないのです?!」

怒る彼女を前に如月は余裕の構えを見せる。口元には微かに笑みすら浮かんでいるようにみえる。
しかしそれは少しも優しげには思えずむしろ麗葉に対するいたぶりのようにさえ感じさせる。

「…屋敷の人間が夜中に消えた令嬢を心配するのがそんなに不思議ですか?」
「心配ですって?どの口がそのようなことをいうの…!」

すいっと如月の顔が寄ってくる。唇に彼の感触があたる。
軽く口付けされて麗葉は口元をすかさず拭うように手をあてた。
そして彼はからかうように「この口ですが?」とうそぶいた。

「な…っ…!」
「し…誰か来たようです」

はっと口をつぐむ。物置部屋で二人でいるのを見られたら相手が何者でも不審に思うだろう。
その場に麗葉はかがみ込む。すると後ろから如月が腕を彼女の身体に回し閉じこめる。

(なにを…)

「静かに…」

唇に彼の指があてられる。
入ってきた人間は何かを探しているのかなかなか出ていってはくれない。
いつみつかるかわからない状況のためうるさいほど心臓が鳴っている。
不安で押しつぶされそうだ。そんな時なのに…

「…ぁっ」

胸に如月の指がくい込む。そのため思わず小さな悲鳴が麗葉の唇から漏れた。
もう一方の手が彼女のスカートをまくり上げて下着へと忍び込もうとしていた。
後ろから如月がひっそりと囁く。

「声を出してはおしまいですよ…。堪えられますか?」

身体は彼の腕の中にある。これでは抗議しようにもできない。
如月の長い指が麗葉の下着の中に潜り茂みを掻き分けて敏感なそこに触れる。
状況のせいもありそれだけでも麗葉は気がどうにかなりそうな感じであった。
人の気配はいまだあり早く去ってほしいと彼女は願った。

胸の尖端を弄る指を麗葉は止めてくれるように掴んだ。
それも虚しく下に伸ばされた手は彼女の秘所をさぐりついに指が彼女の湧き始めた泉に突き立てられた。
ぴくっと脚が引きつる。

「…んっ…っ」

声が零れぬように唇を噛む。
それに気づいた如月は胸を弄んでいた指を止めて再度彼女の口にそれを持っていく。
指は噛まれている唇をこじ開けて口の中へ侵入する。
そのため麗葉は唇を噛むことができず彼の指を銜えることになってしまう。

「ふぅ…ぅっ…っ」

気づけば上と下の口を両方とも如月の指で犯されていた。
ちゅぷ…ちゅぷと微かな水音が腿の付け根から漏れている。
口を開けばいつ嬌声を発してしまうかわからないから必死で彼の指を唇で噛む。
口腔を指で確かめるように撫でられて潤んだ視界の中、如月を振り仰ぎ睨む。
ふっと上気した頬に息がかかる。

「…いつも以上に濡れてますが?」

耳元で小声で囁かれ背筋がゾクゾクと粟立ち痺れてしまう。
わざわざ自覚させるように中で掻き回すものだから尚更のこと質が悪い。
泉に沈み込ませた指はそのまま親指で彼女の快楽の芽を押しつぶす。

「…っぅ」

軽い絶頂感が身体を襲う。脱力して如月に背中を預ける。
だがその際うっかり麗葉は近くの箱を足でぶつけてしまった。

(…あ!)

人の気配がこちら側に向く。
足音が近づいてきて麗葉はみるみる血の気が引いていくようだった。
すっと後ろで如月が立ち上がる気配がして麗葉は驚愕する。

「…如月さん?なんでこんなところに…」
「あぁ、見つかってしまいましたね」

如月とはべつに聞き馴染んだ声がしてさらに驚く。

(北都!?…そんな)

乱れた胸元をかき寄せて麗葉は縮こまる。よりにもよって最悪の状況。
この世の終わりのように目の前が真っ暗になる。

「昨夜、徹夜で仕事を片づけていたもので…つい眠気に負けてサボってしまいました」

麗葉の心配をよそに如月は北都にあっけらかんとしてみせた。
微かに北都の笑い声が耳に届く。

「如月さんでもそんなことがあるんですね。しっかりしてるから全然想像できませんでしたけど」

朗らかな会話が二人の間で交わされているようだ。

「何か探していたんですか?」
「あ、ええ。照明が切れたとかで工具を…」
「これじゃないですか?」
「ああ、それです。ありがとうございます」

いままで散々と麗葉を嬲っていた人物とは思えないような青年がそこにいた。

「…私はもう少しここで眠らせてもらいます。できれば秘密にしてもらえますか?」
「ええ。工具を探すのを手伝ってもらったことだしいいですよ。そのかわリ貸しにしておきますね」

そんなやりとりを最後に北都は物置部屋から出ていった。

「行ったようですが…」

麗葉は疲れたように背中を壁につけていた。
如月が彼女を抱き寄せる。再び彼の指が麗葉の乱れた服の中に潜り込む。

「…やぁっ…ん」

一度引いた快楽の波が再度巡ってきて麗葉は眉を寄せて訴える。
しかしその声は鼻にかかったように甘い。
自らの声に麗葉は驚くと同時にそれは北都への罪悪感を呼び起こす。

「北都はまだ近くにいるんですよ。…そんな声をだしたら戻ってきてしまうかもしれませんね」

「ぃやぁ…ぁん、如月…お願い、やめて」

麗葉の下着は既に如月の手によって片足を引き抜かれ彼女の脚に丸くなって引っかかっている。
如月の手が麗葉の両足を大きく広げる。
何も妨げる物がないそこはいやらしくぬめっている。
麗葉は羞恥に全身が熱くなる。
如月の指が熱い滴りをすくい取る。

「…麗葉様、どんなに貴女が否定してもここはこんなに蜜を零して男を誘っている。まるで蝶を誘う花のようだ」

麗葉の愛液をその指でぺろりと舐める

「本当は北都にこそ捧げられるはずの華でしたでしょうが…」
「…ひゃぅっ」

広げられた腿の間に如月が顔をうずめる。
如月の舌が秘裂を舐める。

「ぁあっ…ああん、如月ぃ…だめぇ」

哀願する麗葉の腿に如月の指がくい込む。
舌先で蜜の溢れるそこを掻き出すかのように嬲られる。
止めるどころか尚更火をつけたような動きに麗葉は身体を震わせながら堪えた。
彼が麗葉の秘部から顔を離した頃にはすっかりと麗葉の身体は熱く火照っていた。

「…ごちそうさまでした。なかなか美味でしたよ」

麗葉は荒く息をついている。

「……っ…はぁ…如月」
「はい」

「………――いつものを、して」

敗北の涙が零れた。

「かしこまりました」

如月は物置部屋にあった机の埃を軽く払うとそこに彼女の上半身を預けさせた。
如月にたいして尻を突き出すような姿勢をとらされる。
朦朧とした意識のなか後ろで如月がベルトをはずす金具の音が聞こえた。
麗葉は目を瞑ってその時を待った。
腰を掴む手に力が加わった。

「…ぅううんんっっ」

狭い其処を突き破るように硬いモノが押し入ってきた。
無遠慮に入ってきたそれに膣口がきつく締まる。
最奥に到達すると如月が呻く。

「…ひどく狭い……ですが男にとってはかえって魅力的だ…」

如月はそう言うと動きだした。
熱い体温の放出を背中に感じる。

「くぅっ…うっ…あ、…あっ」

汗ばんだ肉が何度もぶつかる。
そのたびに湿った音が薄暗い部屋の中に響き渡る。

「北都も可哀想に…。こんな悦楽をあの男は知らないなんて」
「ぅっ…く、誰の…せいで……ぁあぁんっ」

小刻みに腰を揺らして麗葉を刺激していたと思ったら今度は大きく擦りあげていった。
麗葉の半開きの口から絶えず艶めいた泣き声があがる。

「はぁっ…き、きさらっ…ぎっ…あっ…あんっ」
「…やはりいつもより…濡れておられますね…何故ですか?」

背中に降りかかる如月の熱っぽい息。
後ろから乳房を揉みしだく。

「そんな…こと…ぁ…ああっ」
「すごいですよ…きつく私を締め上げて離さない…」

内部で異物が脈を打って質量を増す。
激しい突き上げに脚ががくがくと震える。
机を爪で引っ掻き、跡をつける。

「…いけませんよ。爪が割れる」

麗葉の手の上に如月の手が乗りそれを制す。
その間も動きは止むことはない。
麗葉は藻掻くように頭を振る。

「…北都でしょう?そこまで貴女が乱れる理由は」
「何を…?」

なぜその名をこんな時に出してくるのか―

「ほら、また…きつく」
「ぁあっ…いやぁっ…あぁんっ」
「貴女は北都に知られてしまいたくないと言いながら、その本音はまるでこの危うい状況を愉しんでいるみたいじゃないですか」

如月の言葉に麗葉は目を見開く。

「ち、ちが…あっ、…あぁ…は…ぁああんっ」

びくんっと麗葉の背中がしなる。
腿の内側を二人の淫液がつたっていた。

「…違ぅ…そんなんじゃ…」

うわごとのように呟き崩れる麗葉。
如月が彼女の背中を抱き起こす。麗葉の唇が微かに動く。

「―――…」

彼女の乱れた着衣を直していた如月の手が止まる。

「……」

黙って意識を失っている麗葉を見つめていた如月。
やがて彼は奇妙な笑みを浮かべたのだった…

「え…、電球が足りない?」
「ああ、すまないがもう一度物置に行って取ってきてもらえるかい?」

凝ったデザインの照明を見上げる。
確かに照明は一つきりだが電球を取り付ける場所は数個あるように見える。
北都はため息をつき先ほどの物置部屋に戻る。


薄暗い物置部屋に人の気配があった。
おそらく如月がまだ残っていたのだろう。

「如月さん、まだいるんですか?」

すると人影が立ち上がる。

「……北都、まだ何か?」
「ああ、すいません。電球が足りなくて…」
「やれやれ君は…」

呆れ気味に彼は近場にあった電球を放り投げた。
それを慌ててキャッチする。

「そろそろ私も仕事に戻らなくては…」

そう言って如月は北都の横を通り過ぎる。
その時、微かに甘い匂いがしたような気がした。

「…―如月さん」

如月は既に彼と距離を置いて前を歩いていた。

「早く届けに行かないと困ってると思いますよ」

振り向いた如月にそう言われはっとして北都は彼を追い越していった。


如月は早足で通り過ぎていった北都の背中を見ていた。

「北都…、いつか私は君のその『全て』を奪ってしまうかもしれませんよ…」

そして麗葉からも…
彼は微かに笑みを刻んだのだった。
物置部屋では如月の上着を掛布がわりに麗葉がまだ静かな寝息をたてていた。






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