シチュエーション
![]() ―――貴方を失いたくない ―――少女はいつかの夜、そう彼に告げた… 「あっ…、あん…ん…、はぁ…」 冷たい月明かりの差し込む部屋の中。 汗に濡れた白い肢体が月光に晒される。一糸纏わぬ少女の裸体。 その肌…汗に濡れた首筋、乳房には薄紅色の花びらが散っていた。 「んぁっ、…やあぁん…、如月…っ……ひああっ」 汗ばんだ乳房が跳ね上がる身体にあわせ上下に弾んでいる。 男の身体の上に跨りくびれた腰を懸命に振るう少女・麗葉 「はぁぅ…お、奥、…奥に、とどいて…っ…んんっ」 そのたびごとに水滴が双丘の間をつたい落ちて腹へとくだる。 「麗葉様…いつからそんな、厭らしい言葉を使うようになったんですか?」 彼女とは対照的に彼女の腰を支えている男は底の見えない冷めた眼差しで彼女を見つめている。 身体の熱さとは正反対に心は刃物をあてられているかのように冷え切っている。 熱い…苦しい………… 「…ぁああっ…、だめっ…もう…、ぅうっっ…如月ぃぃ…っ」 麗葉の頬を濡らす塩辛い涙が顎をつたい如月の胸の降りかかる。 乱れた黒髪が揺れると汗が零れて弾けた。 腰を降ろしたと同時に如月が下から突き上げて麗葉は息を詰める。 「…ぁぁああ…」 背筋を昇る強烈な快感。麗葉は顎を天井に反らし背筋を痙攣させる。 「…また達してしまわれましたか?」 呼吸を鎮める間も許さず如月が彼女の腰を掴み揺さぶる。 ぐちゅぐちゅと粘液が卑猥な音をだす。それが自らの身体から発するものだとは思いたくもなく 聞きたくないとばかりに頭を振る。 「ぃあぁっっ……やぁっ…ぁ…お願い…もう、許して…壊れちゃ…あぁっっ」 「いえ…許しません。もっと貴女の淫らに狂う姿を見せて下さい」 「はぁああッッ」 ズンっと強烈な突き上げに悲鳴を上げる。 下方から突き上げる感覚にどうしようもなく身体がのたうつ。 麗葉の内部が如月のそれを受け止め妖しく蠢くのを止められない。 「ぁあああっ…ああぁん…はぁっ…ひぁああ…」 思わず腰が浮いてしまい身体をくねらす。自身に埋め込まれた硬い肉棒が弱い内壁を擦りあげてゆく。 与えられる刺激に男根を銜えたそこがひくついて麗葉は苦悶と悦楽に身を酔わせる。 「いい眺めですね」 再度深く沈めた腰を強い力で押さえつけられ最奥まで如月の熱を感じてしまう。 彼の腰を挟んだ足を突っ張らせる。 「ぁあん…、はぁ、」 彼を締め付ける肉が強い圧迫感を受ける。 「…っ…麗葉様…『また』ですか?」 「…ひぃ…ぁ…ぁ…あ…」 麗葉は身に過ぎる感覚にろくに声もだせず絶頂に導かれる。 つづいて如月がまだ硬度をたもったままの己を引き抜く。 麗葉の腹や胸が白く汚されていった。 「…はぁ…っ、…はぁ…」 その感覚すら生々しく麗葉は身体を震わす。 やがて呼吸が緩みはじめた頃、如月の胸に少女の柔らかい胸が被さりようやく休息を麗葉は許された。 「ご苦労様でした…麗葉様」 頭を撫でられ麗葉は目を閉じる。 しばらくそうしていたが、我に返ったように麗葉は下に敷いた男から離れようとする。 だが逆に強引に腕を引かれより身体を彼と密着させられてしまう。 「…離してっ」 抵抗するがやすやすと唇を奪われてしまう。 「…ふ…っ…んんっ」 藻掻くが後頭部に手を廻されて思うようにならない。 月下に照らされ床に映った二人の影が艶めかしく蠢いていた。 枕に頭を沈めたままぼんやりと月を眺めている。 いつまでこんな夜が続くというのか… 涙は流れていない…この胸は既に空虚に等しい。 ただ…北都、あなたはこんな私を知らない。私は怖い。あなたに知られてしまうことも… 『貴女は北都に知られてしまいたくないと言いながら』 いつかの如月の言葉が頭をよぎる。 『その本音はまるでこの危うい状況を愉しんでいるみたいじゃないですか』 (違う…違う違う!そんなこと絶対ありえない) 麗葉は忘れてしまっていた涙を取り戻す。 北都さえ側にいてくれればと思い今まで唇を噛み如月の行為に堪えてきたのだ。 愉しんでいたなんて絶対にない。あるのはそう、苦痛… 救済を求めるように月に手を伸ばす。だがそれもやがてぱたりと音をたてて布に落とされる。 (…北都…) 愛おしい人の顔を思い浮かべ麗葉は眠りに落ちていった。 如月は麗葉が眠ったのを確認し身を起こす。 逃れようとする囚人のように外へ伸ばされた手を引きよせ強く掴む。 「…ぅん」 麗葉が目をつむったまま眉を寄せたのを見てそれを掛布のなかに戻す。 「……」 頬をたどった涙の跡をみて苦々しく如月は顔を歪めた。 翌日、麗葉は本棚から古い絵本を取り出す。本の表面を優しく撫でる。幼い頃、北都と一緒に読んだ絵本だ。 ページを捲っているとその頃の思い出が沸々とわき上がってきて麗葉は目を和らげる。 「…あ」 開け放たれていた窓から風が吹き込んでひらりとしおりがとばされてしまう。 慌ててそれを捕らえようとするがするりと逃げてしまう。 薄くて軽いそれは風に舞って… 「…麗葉」 柔らかい口調で自分を呼ぶ男の声がして麗葉は振り向いた。彼は風に飛ばされたしおりを手にしていた。 思わず麗葉は顔を緩める。麗葉の手にした絵本に気づくと北都も懐かしそうに目を細めた。 「昔よく読んだ本ですね…」 「ええ…。懐かしいでしょう?」 しおりをそっと開いた本に挟ませた。麗葉は目をつむり優しい思い出に心を浸す。 「あの頃は、よくあなたが幼い私に読んで聞かせてくれていた…」 部屋で、または中庭で睦ましく肩を並べて笑っていた。 あの頃、ほぼ同じ高さ並んでいた肩は時が経つにつれ麗葉を追い越して彼女より高い位置にある。 麗葉が女性として身体の線が柔らかい曲線を帯びるのと反対に彼は背が伸び身体のあちこちが引き締められて堅くなった。 幼くて柔かかった手の肉も削げ麗葉よりひとまわり大きいその手は堅く骨張っている。 その手に麗葉は自分の白くて頼りなげな手を滑りこませる。 北都がそれに気づき麗葉と目を合わせて高さの違う肩を並べる。 温かな体温を脇に感じて麗葉は安堵にも似た感情がわき起こる。 「…そういえばこのしおりもあなたが作ってくれたんですよね」 押し花のしおり。麗葉の好きな菫(スミレ)の花。 「身体が弱かったから…部屋に閉じこもっていた私を励ましてこれをくれたんでしたね」 しおりに静かに唇を触れさせる。唇を離して北都の方へ向き直る。 「…北都…私…」 穏やかな北都の眼差しに心が揺れる。 何かを言おうとした唇に北都のそれが重なる。唇がかすかに震えた。 抱きしめられて胸が詰まる。言葉にできぬ想いを抱擁に替える。 深く…深く、互いを求めあい舌を絡める。 「…んっ……ふぅ…」 いとも簡単に砕けてしまう腰に北都の腕が支えとなる。 ようやく唇が解放されてソファーに腰を落ち着ける。 「麗葉……、あなたは俺の全てです」 北都の唇が麗葉の肌を滑り彼女の首筋に顔を埋める。 彼の髪の毛が顔の側まですり寄って吐息が首を撫でる。 首筋に彼の舌が這う感触がして息を鋭く吸い込む。 「…ほ、北都…」 「できることならあなたの喜びも苦しみも…全てあなたと共有したい」 首の皮膚に彼の湿った舌の熱を感じ、吸いつかれてジン…と痛みが広がる。 「…っ」 鎖骨を舌先でなぞられ身体が甘く疼く。 常は穏やかでわりと物静かな青年が狂おしいまでに麗葉を求めてきた。 そんな彼は麗葉に少し意外にさえ感じさせるほどだった。 ずるずると背もたれから滑り落ち背中がソファーに埋まる。 押し倒されたような形に麗葉は戸惑いがちに北都を見つめる。 「…麗葉、抵抗してください」 「え…?」 前髪に隠されたうえ、彼女の視線から逃れるように臥せられた彼の顔は伺い知れない。 「このままだと本気であなたを奪ってしまいそうです…」 呻くような彼の呟きに麗葉は驚きに目を開かせる。とくとくと胸が早鐘を打つ。 「かまいません。あなたが望むなら…」 麗葉はそう告げる。掻き抱く腕が緊張に強張る。 …なのに するりと腕がほどけ麗葉はソファーに背中を預けた格好のまま、北都は離れてしまった。 理由もわからず言いようのない不安に麗葉か駆られる。 「北都…?…どうして」 泣き出しそうな瞳で北都を見上げる。北都は痛ましく表情をうかべ彼女から顔を背ける。 「…すみません」 部屋から出ていこうとする彼を麗葉が追いすがり背中に抱きつく。 「いやっ…行かないで…ください」 すると麗葉は胸に伸ばされた腕をほどかれ胸の中に抱き寄せられる。 「…北都…いかないで」 彼の胸のなかで籠もった声で懇願する。 顔を上げると額、頬、両目蓋に唇が落とされる。 「――…仕事がありますからまた今度」 子供を宥めるような彼の言葉。彼女の良く知る人当たりのよさそうないつもの顔に戻っていた。 これ以上引き留めたら彼を困らせるだろうと判断した麗葉は了承して彼を見送った。 部屋を出た北都は後ろでに扉を閉めた。 彼女の滑らかな首筋に吸いついた時見てしまった無数の小さな内出血の跡。 「…下手な嘘ですね」 声が掛けられるて北都は正面を厳しい目つきで睨む。 鏡越しに見えた薄く開いた閉めたはずの扉の隙間。 不審に思っていたら…男の影が見えたのだ。すぐに検討はついた。 「……いつも、そんな風にして俺達を覗いていたんですか?」 低く唸る北都。ふっと笑い声が如月から吐かれる。 「失礼。いつか、同じようなことを麗葉様に言われましたのを思い出しまして」 笑みを刻んだ彼の口の端は傷がありそして頬は若干赤く腫れているように見える。 「ですが、貴方も昨日の夜に同じように私達を覗いていたではありませんか」 「…なっ…、ふざけたことを…誰が貴方と同じだと!」 激しい怒りの気配にすら如月は動じた様子はない。ただ冴えた笑みを浮かべるだけだ。 昨夜、北都は最近どことなく沈んだ様子の麗葉を気にして彼女の部屋へ出向いた。 そして見てしまったのだ。麗葉と如月が身体を交えさせる、あの… 月の晩、重なり合った男女の影。 『…ぁあん…如月ぃ…』 自分ではない男の名を呼び嬌声をあげる少女。 彼女は肌に何も身につけず男の身体の上で月の光に青白く染めたその肢体を揺らしていた。 そそり立つ男の欲望を胎内に受け入れるその少女は紛れもなく麗葉であった。 『麗葉様…』 酔いしれたような男の声を聞いたときは怒りよりも驚愕を感じた。 いつもつかみ所なくまたどこか冷えた雰囲気を漂わせる青年…如月である。 『…あぁっ…あっあっあっ…』 ほんのり頬を朱に染め恍惚とした声を聞いた時は、すぐさま扉を開け放ってしまいたかった。 そして二人の身体を引き離し麗葉の前で如月を殴りとばしてやろうと思った。 …それができなかったのは― 麗葉はどんな態度をとるかわからなかったからだ。 「いつから…麗葉と…貴方は」 絞り出すような呻き声。 「…麗葉様の肌は吸いつくように柔らかかったでしょう?」 北都の問いに答えることなく如月に顰めた声で囁く。 ガッ、と壁に如月が叩き付けられる。彼の胸元を掴みかかる。 「…北都。ここは麗葉様のお部屋のすぐ側です、お静かになさい」 沈黙が流れる。やがて口を開いたのは北都だった。 「麗葉は…あなたを愛していたんですか…?」 その瞬間、如月から嘲るような笑みは消えた。ごく静かな顔で告げた。 「いいえ。麗葉様は貴方を愛していましたよ…いつも最後には貴方のことを想っていたようです」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |