秘密W(最終話)
シチュエーション


いつかの記憶――
思い出すのは日だまりと、そして少女の笑顔



軽い足音がして青年は微笑む。

「北都…仕事は終わりましたか?」

かすかに甘い匂いのする少女を掻き抱く。

「…北都?」

突然抱きしめられて彼女は少し戸惑っているようだった。
腕に大人しく抱かれたこの少女は何度も如月と…

(…麗葉…)

だがそれを裏切りだとは思わない。
なぜなら彼女は自分との想いを貫くために己の身体を犠牲にしていたのだから。

「なに…?」

黙りこくってしまった彼を不思議そうに麗葉が見上げた。
腕の中のぬくもりが首を傾げる。愛らしい仕草に胸が詰まる。

『…これからも麗葉様とつき合っていきますか?』

ふと如月に尋ねられた言葉を思い出す。
その時北都はこう答えた。

『何があろうと私たちの関係は揺らぎません。――ただ俺ははあなたを許さない』
『そうですか…。貴方ならそういうと薄々思っていましたよ』

麗葉を決して責めはしない。
彼の真意はわからないが責められるべきなのは如月なのだ。

「北都…、どうかしたの?」

かすかに不安そうな揺れた声に北都はなるべく安心させるように微笑んだ。
いつかの麗葉は自分を失いたくないそう言った。

(…許してください…)

北都は今まで気づかなかった自分自身が情けなかった。
だがそれでも彼もまた彼女の側にいたいのも事実だ。

「…俺はあなたの側を離れません」

背中に華奢な腕が回りそっと二人の顔が重なった。


麗葉は北都のいつになく情熱的な抱擁と接吻にくらくらと酔っていた。
しっかりと両腕で抱き寄せ顔を寄せあい呼吸すら貪り尽くすような口付け。
彼は合わさった口の中で麗葉の舌を絡めて吸い出そうとする。

「……ん……ふ……ちゅ…」

ようやく解放されると二人の唇の間から濡れた唾液の音がした。
腰に力が入らず思わず北都に寄りかかる。

「…本当にどうかしたの?…なんだかいつもと違うみたい…」

胸に頭を預けたまま感じた違和感を口にする。
北都はそれに答えず黙って彼女の黒髪を撫でる。
麗葉が自分の力で立てる頃になると北都は静かに身体を離した。

「北都…部屋に、部屋に行きたいです…貴方の…」

こく、と北都は了承した。彼女を横抱きにして抱え上げる。
彼の首に手首を回す。
麗葉の胸はせわしなく鼓動が早鐘を打っていた。

艶やかな髪の束がシーツの上に広がる。

「…はぁ…」

首筋を軽く噛まれて麗葉は切なげに吐息を零した。
はだけられた胸元の柔らかな膨らみに北都が口付けを落とす。

「北都…愛してます」

率直で純粋な気持ちを彼に伝える。すると身体に加えられる愛撫に熱がこもる。

「…私もです。この先、なにがあろうと誰にもあなたを渡したくはありません」

彼の言葉に麗葉は胸が針で刺されたように痛んだ。この身体はすでに汚されている。
できるなら彼にこそ自分の全てを捧げたかった。
痛む心を隠して彼の愛撫に答えて甘い呼吸を繰り返し彼に捧げる。

「…ん…やぁ、北都…」

あまりの恥ずかしさに顔に血の気が昇っていくのがわかる。
白い肌に新しい朱を刻み北都の舌が下腹を下っていく。やがてたどりつくだろうその先への
期待とも不安ともしれぬ感情に麗葉は身を震わせていた。
薄暗い闇の中で浮かび上がる細い肢体。

「綺麗です…麗葉」

いつの間にか浮かんでいた涙を目元から軽く拭われる。優しい仕草が心地よい。

「…あ…っ」

下着の上から秘部をつぅ…と指でなで上げられる感触がして思わず声が漏れる。
布越しからでもきっと濡れてしまっている。そう思うと羞恥から北都の視線から逃れたいような気さえしてくる。
決して強引ではないその仕草。軽く触れてくる指先の感触。

(やだ…私…何を望もうとしているの)

麗葉はいつしかむず痒いような焦れったさを感じ始めていた。
もっと刺激を…強い刺激を待っている。それに対して麗葉は自らを叱咤する。
この身体、如月に何度も慰み者にされたこの身体。
弱い刺激になれてはおらずもどかしさに頬の内側を噛む。

…あの男が憎い―

「……俺に触れられるのは嫌…?」

きっと悔しそうな顔をしていたのだろう、北都が顔をあげこちらを見ていた。

「ち、違うんです…!…その緊張してしまって…」

驚いて目を開き頭を振る。

「嫌でないんですね…良かった…」

北都は安堵するように息を吐いた。
純粋で思いやり深い北都。せめて今は彼のことだけを考えていたい。

「嫌なんて、そんなことないです。私が貴方を望んでいるのですから…」

飛び出してしまいそうな心臓の鼓動のなか愛撫する彼の手を掴みもう一方の手で
麗葉は自ら下着をずらし始める。
絹でできた小さな下着は寝台の下に音もなく落とされる。

「…私に、ふれて…」

耳をすまさなければ聞こえないような麗葉は小さな声でお願いした。
北都に食い入るように見られた彼女は顔を真っ赤に火照るのを感じた。

「……麗葉…」

その時北都の咽が微かに動いたような気がした。

「きゃっ…!」

片足を持ち上げられる。開かされた脚の間に北都の頭が割り込む。

「え?…んっ…あぁ…っ…」

遮るものがなに一つないそこはしとどに潤み、北都の精神を揺さぶる。
蜜を滴らせた秘裂をなぞるように舐めあげる。
ぴちゃぴちゃと湿った水音が部屋の空気を震わす。

「…はぁ…ぁん、…北都、私…どうにかなってしまいそう…」
「どうして…?」
「恥ずかしいから…こんな格好…で…貴方に……」

麗葉の恥じらう姿に愛おしさを感じる。くすりと笑う。

「もっと俺に見せてください。すべてを、貴女のいやらしいところをすべて」

そう言って、ぷっくりとした肉の芽を啄む。同時にびくんと麗葉の身体が跳ね上がる。
軽く歯を立てれば泣き声が麗葉の唇が零れ出す。それは甘さを含んだ泣き声だった。
髪の毛に細い指が差し込まれる。どうやら本当に嫌がってはいないようだ。

「…あまり、見ないで…恥ずかしいの…本当に」

言葉とは裏腹な彼女の身体の反応に北都は苦笑する。
もっと、もっと彼女の泣き顔を見たい。声を聞きたい。

「……北都…ぉ…っ」

余裕のない声で名を呼ばれると熱い血が駆け巡り更なる欲望が身の内で膨れ上がる。
溢れた蜜壺に指を差しこみ熱いその中を掻き回す。

「そこっ…は、…ぁああん」

ある一点に指が触れた時、麗葉の身体が跳ねる。そこが弱点だったとでもいうように。

「やだ…そんなに、したら…ぅぅん…」

見つけたその場所を何度もこづいては彼女の反応を楽しんだ。

「…は…ぁ……、ぁ…ぅうんんん……っっ」

指に絡む肉が収縮する。麗葉の背中が反り返り、胸に浮かんだ汗が零れた。

「もしかして、…麗葉…?」

くったりとして麗葉は熱っぽい息を繰り返し吐いている。
潤んだ麗葉の瞳を覗くと恥じらいをみせて軽く頷いた。

「では、いいんですね。本当に」

北都が硬くなった先をあてがわせ、もう一度確認をとる。

「もう、何度も言わせないでください…」

麗葉は北都にちょっと怒ったような言葉を吐息と一緒に吐く。
次ぎの瞬間には照れたように口付けをかわす。
これ以上ないくらい心臓が高鳴っている。

「…はぁぁ…っ…ぁ…あぁあんっっ」

硬く猛った尖端が秘部を割り中へそして奥へと入ってくる。
下腹部に昇ってくる感覚にシーツを握りこらえる。

「…っ…はぁ…。動いていいね?」

彼女の様子を見ていた北都は息を整えると動き始めた。

「ぅっ…はぁっ…あん…ぁあん…」
「…苦しくない?」

首を横にふる。
処女のそれとは違う反応を示す自分に北都はどう思っただろうと今更ながら思った。
痛くて、苦しくてそして恐ろしかった…
あの時のことは思い出したくなくて心のそこに封印していたのだ。
初めてがどうだったとかは今までの気持ちだけで一杯一杯だったため失念していたといっても過言でない。

「麗葉…っ」

徐々に早くなるなる呼吸、切なげな甘い声。
男の情欲を煽る甘美な誘惑。
それが今、自分に捧げられている。
北都は猛りを露わにし彼女の内部を己の異物で埋めていった。
何度も何度も往復を繰り返せば痺れるような背中を駆け昇っていく。

「…ぁはぅ…んんっ…、…北都…の…、あ…熱い…あぁんッ…」

汗ばんだ身体を何度もぶつける。
衝撃に彼の身体から伸びたすらりとした二本の脚が幾たびも跳ね上がる。

「…はぅっ…あん…私…ぃ」

自らも腰を揺らし北都に快楽を与える麗葉。身をくねらして北都の雄を刺激する。
内部の秘肉が妖しく蠢き収縮をする。北都もはち切れそうな己を最後までうち振るう。

「…もう…だめ…ぇ…いちゃぅ……はぁんッ…」

窮屈な膣中で今まででないほど強く引き絞られる。

「…ッは…ぅっ…」

北都は堪えきれず精を吐き出す。

「あぁーーっ…」

感極まった声が麗葉の唇から溢れ出す。自らも何度も精を彼女の下腹へ飛び散らせていた。

「…はぁ…は…ぁ…」

二人は情交後の甘い余韻を噛みしめる。
顔にかかった髪を北都が背中へと流す。
麗葉は息が整うのを待った。

(…北都、もしかして知ってしまったの?)

口に出さず心の中だけで問いかける。行為の前から何となく感じていた。
どんな気持ちだったのか聞きたい気もした。だが怖くて聞けなかったけれど。

それから数日後
麗葉はいつかの上着を返しに如月の部屋へ訪れた。
戸を叩くが反応はなかった。この時間になら部屋に居ると思ったのだが…
しかたなくまた後にしようと踵を返す。
窓から外をみながら廊下を歩いていた。…その時、正面玄関の向こうに男の背中を発見した。

「…――如月?」

足を止めて目を凝らす。間違いない!

「如月っ!待って…っ」

気が付けば駆けだしていた。彼の上着に皺を作るのもかまわず胸に抱きしめ走る。

「…麗葉様」

彼は玄関先の門で待っていた。もしかして気づかずに行ってしまっていたかもしれない。
というか気づいてもらえる方が奇跡な距離であった。

「如月、これを返しに私…」

走ってきたため息を整わせるのに時間がかかった。
ここ数日、彼とは顔をあわせてはいなかった。
如月の方も以前のように麗葉の部屋へ訪れなくなっいたのだ。

「…何処かへ…?」

長身の彼を見上げて訊ねる。
いつもの見慣れた服装ではなかったため何か予感めいたものがあった。
食い入るように如月を見つめる。

「ええ。故郷へ帰ろうと…」

静かな声音。麗葉は目を見開く。

「そう…なの。…お父様から許しをもらって?」

なぜだろう、声がかすれてしまう。

「ええ」
「そう…。…じゃあ、これはもう要らないのね」
「屋敷のお仕着せですか?」

以前、物置部屋で交わった際、彼女は疲れ果て寝入ってしまったのだ。
その時、彼女の肩に被せられていたものだ。
如月は頷き背を向けようとする。

「待って!」

彼の服を引っ張る。迷惑そうに彼は麗葉を見下ろした。

「まだ何か……――」

言葉が不自然に途切れたのは彼の唇になにか柔らかいものが接触したからだ。
瞳を閉じた麗葉の顔が間近にある、臥せられた長いまつげが微かに揺れている。

「……なんのつもりですか?」

唇を離されると如月はすぐさま言葉を返す。
麗葉は首を振っている。わからないとでもいうように。

「やっぱり、これを持っていって。私が持っているのはおかしいでしょう?」

上着を胸に押しつけてくる麗葉。顔は下をうつむき残念ながら見えないがその耳は赤く色づいている。
形容しがたいなんともいえない感情が胸の奥で疼いている。

「餞別にもらっておきます、先ほどの口付けと一緒に」

麗葉の旋毛が揺れる。まだ赤みを帯びた耳朶につい吹き出しそうになるのをこらえる。
咽の奥をくっくっと鳴らすと麗葉が顔を上げ睨みつけてくる。

「すみません、驚いたんです。貴女から私に口付けたのは初めてだったものですから」

彼女の髪を一房掬い視線を絡ませる。艶やかなそれに口付ける。

「ここに立つと初めてこの屋敷の門をくぐった時のことを思い出します」

遠い記憶をたどりあの日へ想いを馳せる。

「日だまりの中で笑顔を振りまく貴女。そして貴女に付き添って同じように笑っていた北都を見ました」

――ほくと、大好きよ。

甘い声、幼なじみあり恋人である北都にだけ捧げられる言葉。
それを受ける青年は穏やかな笑みで彼女を見つめていた。

「あなた方が羨ましかった、ひどく…妬ましいほどに」

如月の瞳が陰りを帯びる。麗葉は目を見張り彼を見つめる。

「…だから、私を犯したの?」

鈴の音のような声がか細く震える。

「それでもとうとう貴女と北都を引き離すことは叶わなかった…」

如月はそれ以上は何も言わなかった。
麗葉も何も言わずにいた。

「…お別れです」

沈黙した麗葉の額に唇を落とす。そして彼は去っていった。


ひとり残された麗葉。
その頬に透明な雫が滑っていく。
もう如月にもうこれ以上、身体を汚されることはなくなった。
北都を裏切ることもない。
安堵するべきなのに、解放されたはずなのに…

「…如月」

この名前を呼ぶことももうないと思うとなぜだかひどく寂しくて…
溢れる涙。切ないなんて感じることはあるはずないのに…

「ばか…こんな顔してたら北都が心配するでしょ…」

顔を拭って自分自身を窘める。
麗葉はその涙を止める術を知らなかった。
彼女はその場に涙が止まるまでひたすら留まっていた。
庭の風はそんな彼女を慰めるように優しく通り過ぎていった。
彼の冷たい指のようだと麗葉は思った…






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