ジン×姫君(出逢い編)
シチュエーション


摘んだ指輪を日にかざすときらりと中に星が見えた。石の中に傷があると光線の加減でそう見えるんだよと博識な兄が教えてくれたのを思い出す。
背中のすべてを覆い隠すほどの豊かな黒髪と同じく夜の闇のような円かな瞳。白い肌を惜しげもなく晒した衣装はともすれば情欲をかき立てるものになりかねないが、アイーシャの生まれもった気品がいやらしさを感じさせない。
アイーシャは指輪をくるくると回しながら、星の煌めきを不思議そうに眺める。

──いいかい、アイーシャ。この指輪にはジンが宿っているのだそうだよ。指輪の持ち主を主と定め、一言命ずればどんなことでも叶えてくれるという。
──まあ、素敵だわ。私、ジンを見てみたい。
──アイーシャは怖いもの知らずだね。ジンは魔物だ。人の自由にはならない。
──でも、指輪の主には従うのでしょう?
──さて、どうだろう。見返りに何を求められるか。魔物に魅入られた者の末路はいつだって死だよ。

アイーシャは先日の兄とのやりとりを思い出す。

──だからね、アイーシャ。もしジンが現れたとしても決して願いを口にしてはいけないよ。可愛いお前の魂を魔物などにくれてやりたくはないからね。

「この星がジンなのかしら」

古い御伽噺にすぎないけどねと最後に兄は笑っていたが、アイーシャはジンが宿るという不思議な指輪を眺める度に胸が躍った。
血のように紅い紅玉の指輪。一体どんな物語が秘められているのだろう。
いつまででも眺めていたかったが、そろそろシェーラの元へ行かねばならない。年頃のアイーシャには覚えねばならぬことがたくさんある。花嫁修業も大変だ。
宝石箱に指輪をしまいこもうとして、アイーシャはふと思いついた。
指輪はアイーシャの指のどれにも合わないほどに大きかったから今までは眺めるだけだった。けれど、その石が指で煌めく様が見たくなり、アイーシャは左の人差し指にそれを通した。

「……え?」

確かに指輪は緩かった。それなのに、指の根元にたどり着いた途端に指輪はアイーシャの細い指にぴたりとはまった。
そして、押しても引いても動かない。

「……抜けないわ」

とりあえず、兄に相談してみよう。アイーシャはそう思い立ち、寝椅子から立ち上がった。
それは一瞬の出来事だった。紅玉が紅く煌めいたかと思うと目の前には見覚えのない青年がいた。それも宙に浮かんで。

「やあやあこれはこれは。ふむ。なかなか悪くない」

月の光を溶かしたような銀髪と紅玉と同じ色をした切れ長の瞳。醸し出す雰囲気が人のものとは明らかに異なる美しい青年。
くるりと辺りを見回して、ぶつぶつと何かを口にしている。
ジンだとアイーシャが理解するのにそう時間はかからなかった。

「さて、麗しの姫君。自己紹介が必要ですか」
「ジン、なのね」
「いかにも。さあ、姫君。あなたの望みは?主の望むことならなんなりと、あなたのためならどんな無茶な願いでも叶えて差し上げよう」

アイーシャへずいと顔を近づけ、ジンは妖艶に笑む。
紅い瞳に吸い込まれてしまいそうで、アイーシャはぎゅっと拳を握った。

(いけないわ。お兄様と約束したんだもの)

アイーシャは少しだけ残念に思いながらも、小さく首を振った。

「私、あなたに叶えていただく望みがないの。今の生活には何の不満もないし、大きすぎる欲望は身を滅ぼすわ」

ずいぶんと近い場所にあったジンの顔がさらに近づく。アイーシャは本能的に後ずさり、寝椅子に座り込んだ。

「それは違う。よろしいですか、姫君。あなたの中にも欲望は必ずあるはずだ。それを叶えられる好機が巡ってきたというのにあなたはそれを無碍にしてしまう気なのですか。金銀財宝、名誉に地位、美貌の伴侶。あなたが望むならば何だって用意できるというのに」

ふわりとアイーシャの周りを飛び回り、ジンは低く甘い声音で囁き続ける。

(そういえば、殿方がいつもよりも低く甘く囁きだしたら下心を疑えとシェーラが言っていたわ)

人間離れした美しさを惜しげもなく振りまいてジンはアイーシャを誘う。

(やはりお兄様の言うとおり、私の魂を求められるのかも)

アイーシャは指輪をぎゅっと右手で押さえた。

「そうして私の願いを叶えてしまったら、あなたは見返りに何を求めるの」
「それはまた無粋なことをお尋ねになる。見返り?それは願いによって変わります。望みが大きければ大きいほどに私もあなたに多くを望む」

ふわりとジンはアイーシャの隣に腰掛ける。

「しかし、姫君。何も不安に思うことなどないのです。私はあなたが持ちうるものしか求めません。あなたの無理はききますが、私はあなたに無理をいわない」
「……ジン。まずはあなたの名前が知りたいわ」
「ふむ。いいでしょう。私の名はアルジャジール」

ジンはアイーシャの髪を一房手に取ると恭しくそれに口づけた。

「さあ、姫君。見返りにあなたの名をお教え願いましょうか」
「アイーシャ」
「アイーシャ。麗しいあなたに相応しい名だ。美しい」

柔らかく優しく笑むジンには悪意など欠片も見当たらない。それどころか好ましくすらある。
アイーシャの頭の中では兄からの忠告とジンへ抱いた好意がせめぎあっていた。

「アイーシャ。あなたの望みを教えてほしい。あなたの喜ぶ顔が見たいのです」
「アルジャジール……」
「ほら、思い出してごらんなさい。あなたの中の欲望から目をそらしてはいけない」

いつの間にかジンの胸に顔を寄せ、アイーシャは目を閉じて彼の口上に聞き入っていた。

(欲望?私は……)

──魔物というのは恐ろしい姿をしているか美しい姿をしているかのどちらかだ。人を誑かそうとする時は美しい姿をしているものだよ。だからね、アイーシャ。美しい魔物の言葉に惑わされてはいけない。彼らは総じて人を騙すのが上手いんだ。

(ああ、お兄様)

アイーシャの脳裏を兄の言葉がかすめる。

(お兄様はいつも私を守って下さる)

ふるふると首を振り、アイーシャは誘惑に負けてしまいそうな自分を叱咤した。
ふと気がついてみればいつの間に脱がされたのか、露わな乳房にジンの手が包み込むように触れていた。

「な、何をするのです!!」

慌ててジンの腕を掴むと、肩に口づけていたジンが緩慢な仕草で顔を上げた。

「む。これは驚いた。醒めるのが早いな」
「手を離しなさい。無礼者!」

ジンが手を離すとすぐにアイーシャは立ち上がって衣服の乱れを直す。

「やはりあなたは魔物なのですね。私としたことが騙されてしまうところでした。さあ、今すぐ私の前から消え失せなさい」

王女らしい風格と威厳を持ってアイーシャはジンに言い放つ。通常の人間ならばその気品に気圧されて逃げ出しただろうが、彼はあくまでも魔物。面倒くさそうに頭を掻くだけで寝椅子から立ち上がろうともしない。

「あーあ、これだから聡い姫君はいやなんだ。予備知識が多すぎる。素直に俺に従えば願いは叶い、快楽に溺れ、夢見心地で死ねたものを」
「なんですって……!」
「ふん、ああだこうだと喚いたところでお前の運命は指輪を手にした時に決まったんだ。お前のすべては俺のものだ。魂も血肉もなにもかも」

先ほどまでとは打って変わって尊大に言い放つジンを眺め、アイーシャは驚きに目を瞬かせる。

「その代わりに願いを叶えてやる。幸せの最中で死ねるなら文句はあるまい」

ぐいっとジンに腕を引かれ、アイーシャは寝椅子に逆戻りする。

「幸い、俺はいい女には優しい。お前は綺麗だ。特別可愛がってやる」

ジンの腕の中に捉えられ、アイーシャは呆然と眼前の美貌を見つめた。

「アルジャジール」
「なんだ?」
「私はあなたに望みを叶えていただく気はありません。他の方を探した方が早いでしょう」
「それは無理だ、アイーシャ。お前の左手に指輪がある限り。……ああ、先に言っておくがそれは外れんからな」

やわやわと腰を撫でるジンの手を感じ、アイーシャは身を捩る。

「離しなさい!」
「逃げても無駄だぞ。役得は思う存分味わうと決めてるんだ」
「役得?何の話ですか!?」

言うが早いか軽々と担ぎ上げられ、アイーシャは寝台に放り出された。

「時間はたっぷりあるんだ。命をかけた願い事、ゆっくり考えるんだな」

寝台の上で身を起こし、アイーシャはにやりと笑むジンを見上げた。

「さあ、楽しもうじゃないか。麗しの姫君」

彼の言う役得が何を指すのか、気がついた時にはすでに逃げ場などなかった。

「先に聞いておくが……アイーシャ、お前は当然生娘なんだろうな」
「アルジャジールっ!!」

頬を叩こうと振りあげた手は絡めとられ、叫ぼうと開いた口は唇で塞がれ、アイーシャはジンと縺れあうようにして寝台へと沈んでいったのだった。

触れるだけの口づけすら経験のないアイーシャにとってジンの口づけは未知のものでしかなかった。
強引に歯を割られ、舌が侵入する。ぬるりとした他人の舌の感触に嫌悪感で総毛立つ。せめてもの抵抗にとジンの舌を押し返せば皮肉にもそれは口づけを深めていくばかり。
唇が離れ、アイーシャは濡れた唇をごしごしと手の甲で拭う。噛みついてやればよかったとにやつくジンを見上げながらアイーシャは悔いた。

「やはり高貴な姫君ともなると違うな。これだけ美しく魅惑的でありながら手つかずとは」

いそいそとジンはアイーシャの腰紐を引き抜いた。
ぐるりと視界が反転し、アイーシャはうつ伏せにされる。何が起こったのかとアイーシャが瞬きを繰り返している内にジンはアイーシャの手首を後ろ手に固定した。

「多少の抵抗はなければつまらんが、暴れられては手間だからな」

強い力で手首を握られ、アイーシャは慌ててジンから逃れようとする。しかしながら、力の差は歴然でアイーシャの手首を固定していた腕は腰紐にとって変わられた。

「こんな……」

あまりの辱めにアイーシャは言葉が出なかった。

「そういう顔もできるのか。俺を殺してやりたいと顔に書いてあるぞ」

ぐいっと引き起こされ、アイーシャはジンの膝に座らされる。
再度重ねられた唇にアイーシャは思い切り噛みついてやった。

「ふん。じゃじゃ馬め。だが」

僅かに血の滲む唇を舌で舐め、ジンは不敵に笑う。

「落としがいがあるというものだ」

アイーシャの肌を隠す柔らかな衣服をジンは躊躇うことなく引き裂いた。布の裂ける音が室内に響きわたる。

「い、いや!やめなさい」

アイーシャが身を捩っても腰に回されたジンの腕はびくりともしない。そうこうしている内に寝椅子の上には衣服の残骸がどんどん散っていく。

素肌のほとんどを晒す形になり、アイーシャは伏せた睫を震わせた。心なしか体も少し震えているようだった。

「もう諦めたのか」

頬に口づけ、耳朶を噛み、ジンの熱い吐息が肌にかかる。
アイーシャは怒りと屈辱と恐怖の混ざった複雑な感情に胸を揺らす。

「……好きにすればよいのです。それであなたの気がすむのなら」
「ふむ」
「こんなことで私があなたに屈すると思っているのならばそれは間違っています。例え体を汚されようと私はあなたに従いはしません」

きっぱりと言い切るとアイーシャはそれきり口を噤んで俯いてしまった。
ジンはそんなアイーシャをしばらく眺め、唐突に笑い出した。

「面白い。では、姫君のお言葉に従って好きにさせていただこう。己の言葉には責任を持てよ?気のすむまで堪能させていただくからな」

ジンの噛みつくような荒々しい口づけにアイーシャは翻弄されるばかり。今度は抵抗すらできない。舌を吸われ、溢れる唾液を飲み下し、されるがままだ。
ジンの手の中でアイーシャの乳房は形を変えていく。時に強く時に優しくジンの指は動き、アイーシャは初めての感覚に呻いた。その呻きさえもジンは飲み込んでしまう。
湧き上がる不快感にだけ意識を集中させ、アイーシャはひたすらに耐えた。
太股に跨るようにアイーシャを座らせ、その体にジンは舌を這わせはじめる。
口づけの合間の呼吸に慣れていないアイーシャはようやく解放されたと深々と呼吸を繰り返した。
ぬめった舌が項を伝い、鎖骨を辿って濃い桃色の頂に触れる。他人に体を舐められるなんて想像したこともなかった。
アイーシャはジンが動く度に体を震わせ、しかし声だけは絶対にあげるまいと唇を噛んだ。好きにしろと啖呵を切った手前、やめてくれとも言えない。アイーシャにできるのは耐えることだけだ。

「知っているか、アイーシャ。女がどこで男を受け入れるか」

ジンは黙って愛撫を続けながらアイーシャの答えを待つ。
促すように強く乳首を摘まれて、アイーシャは頭を振って答えた。

「……し、知りません」
「では教えてやろう」

ジンの指が腹を辿って下ろされる。そうしていまだかつて誰も触れたことのない茂みの奥へと潜り込ませた。

「ここだ」

閉じきった割れ目をなぞり、ジンは低い声で囁く。

「ほら、まだまだ足りないとはいえ少しは濡れてるだろ」

ゆるゆると指でこすれば自己防衛から蜜が溢れはじめる。
鼻歌交じりのジンが懐から小さな瓶を取り出した。

「ま、最初は手っ取り早くすましちまうか」

アイーシャはジンの手のひらにどろりと零された怪しげな液体に見入る。
ジンは甘ったるい香りのするそれをあろうことかアイーシャの秘所にたっぷりと塗り付けた。

「ひゃっ」

冷たくぬめった感触に思わず身震いしアイーシャは慌てて唇を噛む。声だけは絶対に出したくない。
まんべんなく液体を塗り付けた後、ジンは人差し指を挿入させた。内部にまで液体を塗り付けようとするように指を動かしていく。
指の与える不快感にのみ集中し、アイーシャは時折沸き上がる甘い感覚には気づかないふりをする。

「さて、それじゃあそろそろ」

寝台の上に倒され、ジンの体から一時的に離される。アイーシャは深い呼吸を繰り返して自身を落ち着ける。
しかし、その試みはすぐに失敗した。ゆっくりとアイーシャの体にのしかかり、ジンが深い口づけを落としてきたからだ。
足の間にジンの体が割り込まれ、太股に熱いものがあたる。それがなんなのかアイーシャはなんとなくではあるが理解した。

「アイーシャ」

ジンが足を抱えあげると腕が体で押しつぶされて痛んだ。

「あなたなんか大嫌いです」

睨みつけてそういうことだけが精一杯の抵抗だった。

「それは結構だ。いつまでも虚勢を張っていればいい」

熱いものがあてがわれ、ゆっくりとアイーシャの中へ潜り込んでいく。先ほど塗り付けられた液体のせいか、痛みはさほど感じなかった。
しかし、強烈な異物感を与えながらジンはアイーシャの奥へとその身を埋めていく。

「痛くはないだろう?直に自分から腰を振ってねだるようになる」

ジンは焦って腰を振りたてるような真似はしなかった。深々と挿入しながらも動かず、アイーシャの与える締めつけを楽しんでいるようだった。
アイーシャの背に腕を回し、ジンは再びアイーシャの体を抱き起こす。縛られた腕が僅かに痺れているようだった。

「俺の名を呼んでみろ、アイーシャ」

燃えるように紅いジンの瞳が鏡のようにアイーシャを映し出す。そこにいる自分は目を背けたくなるほど哀れで惨めな姿をしているというのに何故か艶めいて美しく見えた。
先ほどまでとは打って変わってジンは宥めるように優しくアイーシャの背を撫でる。そうしながら額や瞼、頬や項と羽根が触れるように優しく口づけを落としていった。
不快感だけに意識を集中させようとしてアイーシャは戸惑う。乱暴に力で奪われるならばそれも可能であったかもしれない。先ほどまではそうできていたのだから。
しかし、アイーシャに触れるジンの指は慈しみに溢れている。無理矢理に体を繋げられているというのに優しさを感じてしまう。
アイーシャは僅かながら変化を始める自らの体を持て余した。じんわりと深い場所から甘美な感覚が沸き起こりつつあったのだ。
体の奥が熱い。それがジンの塗り付けた液体のせいか、ジンから感じる優しさのせいか、アイーシャにはわからなかった。

「アルジャジール、私…私は……」
「考えるな。思考は放棄してしまえ」

それでもまだ何かを口にしようとするアイーシャに舌打ちし、ジンはその体を抱き寄せた。緩やかに下から突き上げられアイーシャは呻いた。
ジンが動く度に粘膜が擦られ淫靡な感覚が湧き上がる。アイーシャはジンの肩に頭を預け、頭を振って啼いた。

「ああ、お前は啼き声まで美しい」

ジンの掠れた声が耳に届き、アイーシャの体に悪寒に似た何かが走る。

「あ、あっ…ゃ……」

噛みしめていた唇は緩み、堪えていた声は溢れる。自分は負けてしまったのだと理解した途端、大粒の涙が零れた。
けれどもそうした確かな意識を保っていられたのも数瞬でアイーシャはジンの与える新しい感覚に瞬く間に呑まれていったのだった。


***


微睡みから覚め、まず目にしたのは浅黒い肌。
アイーシャは驚いて半身を起こした。あろうことか、アイーシャはジンの胸を枕に眠っていたようだ。

「気分はどうだ」

ジンの体からのろのろと退き、アイーシャはその隣に座り込む。

「……最低だわ」

体を隠すものがないかと辺りを見渡しながらアイーシャはぽつりと呟いた。
残念ながらアイーシャの身につけていた衣装は布切れに変わっていたし、手の届く範囲には何もなかった。

「そうか?俺にしがみついて快感に咽び」

手近にあった枕をジンに投げつけるとそれは顔面を直撃した。

「に、二度とあんな真似は許しませんから!覚えておきなさい」
「……言われなくとも姫君の痴態は覚えておくさ。ああ、忘れませんとも」

悪びれなく言ってのけるジンをきつく睨みつけるが、さっぱり効果はない。
アイーシャは溜め息をついてうなだれた。これから先どうなるのだろう、と。まったくもって前途は多難だ。






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