吸血鬼 吸血編(非エロ)
シチュエーション


エドガルドがゆっくりとユーリエの元へと近づいてくる。
月の光がかえって闇の色を深くしながら、ユーリエの目の前へと迫っていた。
華奢な体を恐怖に震わせながら、ユーリエは必死に叫んだ。

「いやっ、近寄らないで!」

そして魔物相手にさして意味はないであろうに、少しでもエドガルドから
距離をとろうとじりじりと後ずさっていった。

エドガルドは目を細めると、その奥に愉快そうな色を溶かし込んで
ユーリエの様子を見つめていた。

彼女の戸惑いと、恐れが甘く重い粒子となってユーリエの周りを取り巻いている。
ふ、と息を吐いて顔を笑みの形に歪めると、エドガルドはユーリエの恐怖さえも『喰った』。

「……生きながら死に通ずる甘美な苦痛を与えてやろう」

そして低く喉の奥で笑うと、エドガルドはユーリエに紅い瞳を向けてひたと見据えた。

その瞳の光を受けて、ユーリアは一歩も動けなくなっていた。
恐怖で身がすくんでしまっている、という事もあるが、エドガルドの瞳の魔力、
人あらざる魔性の力にユーリアは捕らえられてしまったのだ。

「いや……嫌……」

夜の眷族を前に人の子はあまりに無力。たわむれに鼠を玩ぶ猫のように、純粋で残酷な心持ちを
持ってエドガルドはユーリアの傍へと一歩一歩近づいてくる。

その途中、ふとエドガルドは頬の辺りにちりちりしたものを感じ片眉をあげた。
何かと思えば目の前のユーリアが動けないながらも必死の様子で、
エドガルドを睨みつけ、小さく主への祈りを呟いていたのだ。
それは聖なる文句。魔物を祓い、場を清める祈りの言葉だ。
不快な気持ちでエドガルドは眉の間にしわを寄せた。

「……小賢しい真似をするな小娘。矮小な魔物ならいざしらず、

俺をそのくらいの聖句で追い払えるとでも?」

「きゃ……」

あごを掴まれ上向かされて、ユーリアは悲鳴をあげた。
襟元からしなやかに伸びる喉元が月明りに白く浮かび上がる。
その喉から、こくんと嚥下する音が聞こえた。

「酷くされたくないのならばおとなしく従え」

ユーリエは逃げようと身じろぎをするのだが、魔力で拘束された身ではそれも叶わない。
エドガルドがゆっくりとユーリエの震える首筋を下から上へと撫でていく。
その奥の、温かい血の流れが指先で感じられるようであった。

「あ……っ」

途端、甘い感覚がユーリエの喉元から、全身へと痺れのように伝わった。
吸血する相手を魅了する、吸血鬼の能力の一つだ。
エドガルドの指がもたらす不思議な甘美さが喉元から、触れられた唇から、
ゆっくりと全身へ浸透していく。
どうしようもなく恐ろしいのに悲鳴すらあげられない。

ユーリエの唇からかすかに息が漏れた。

エドガルドはそれを見てにぃっと笑ったかのように見えた。
だが、それは違う。彼の口の両端から銀色の牙がむき出される。
牙は一瞬光を弾くとユーリエの喉元へと深く喰らいついていった。

「―――っ!」

声のない悲鳴が夜闇にこだまし、誰聞くものも無くそのまま闇に消えていった。

紅い紅い血がエドガルドの口を染めていく。それを器用に舐めとりながらエドガルドは
更に深くユーリエの喉元に口付けた。どくんどくんとユーリエの鼓動が高鳴るたびに
エドガルドの力は高まっていく。
不思議なほどに魔力が高まり、それに乗じてあらゆる傷がふさがっていく。

(――良い獲物をとらえた)

エドガルドは強くそう感じていた。今ひと時、多少の力を回復する場つなぎのつもりで
彼女を獲物にする事を決めたのだが、思っていたよりもずっと力が回復していく。
生娘か。聖職者か。あるいはそのどちらもか。

「あ……、ああ……」

その当のユーリアは空気を求め、喘ぐように声をあげていた。
エドガルドが邪視を少しばかり解いてやると、膝をがくがくと震わせながら
その場に崩れ落ちそうになった。そんな少女を抱きすくめると、エドガルドは
優しく口付けるように深く牙を突きたて血を啜る。

「んっ、んん……」

拒絶するために伸ばされた手は、ふとエドガルドにすがり付くように肩に置かれた。

血を吸われる瞬間の甘美な痺れはユーリエの全身を支配していた。
頬を紅潮させ、浅く息を繋いでいたが、哀れな少女は遂に吸血鬼の腕の中で意識を失った。

彼女の喉元には赤い痕が二つ残っている。
それは、痛々しいまでにくっきりと浮かび上がっていた。






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ