怪物お嬢
シチュエーション


丘の上に建つ洋館には、とある名がつけられていた。

その洋館は赤煉瓦が積まれてできた欧州風の作りで、元はさぞ優美な雰囲気を
持っていたのであろうと思われるような大きな屋敷だ。
元は、というのは久しく住まう主のないままに時を過ごしたせいか、
灰緑の蔦が壁の全体を覆っており、屋敷は一種異様な様相を呈していたからであった。
その屋敷を守るかのように巡っている金属の柵は、館とは逆に年月も風雨も関係なしに
黒光りしており、正門には翼の生えた怪物、ガーゴイルを模した飾りが物々しく飾られていた。

屋敷は、その姿のせいか門に鎮座しているガーゴイルのせいかこう呼ばれていたのだ。
すなわち――『怪物屋敷』と。

*******

夜の帳が空を覆い、藍色の闇がその彩(いろ)を深めていた。
ざあっ、と生暖かい風が吹き怪物屋敷の門扉が耳障りな音をたてる。
どこかこの日は屋敷の雰囲気が違っていた。
それもそのはず、ふと見れば屋敷から灯りが漏れ見えていた。
二階の一部屋に明るく灯がともっている。
何年ぶりか、何十年ぶりか屋敷に住人がやってきたのであろう。
その住人は、きしむ音を立てながら年を経て開きづらくなった窓を開けようとしていた。

がしゃっ、と窓を開けたのは年の頃は二十四、五ほどの男だった。
黒髪に黒目、着ているものも黒、と黒ずくめの青年で、名をセレムという。
彼は何やら浮世離れした雰囲気の礼服を身につけており、それがどこか
この屋敷には良く似合っているように思えた。

セレムはしばらく窓から、空を穿ったような白い月を見ていたかと思うと
ふと目をすがめて独り言のように呟いた。

「勝手に飛び出したりして……全くもう、どこに行ってしまったんですかね」

そして落ちつかなげに窓枠を指で叩く。
誰に問うでもない呟きは、当然のごとく答えるものもなく冴え冴えとした
月光の中に吸い込まれていった。
セレムは唇を引き結ぶと優雅な動きで向きを変え、部屋の中に戻った。
眉を寄せて部屋の中央に据えてあるテーブルに手をつくと、そこに置かれたグラスを手に取った。

その中には、なみなみと赤い液体が注がれていた。
部屋の灯りに揺らめくその輝きを、セレムは闇色をした瞳を一瞬、血のように赤く光らせて眺めた。
それは人ではありえない眼差しであった。
薄く開いた唇から異常に鋭く尖った左右の犬歯がのぞく。

彼は人間ではなかった。その瞳も牙も魔物のもの。

セレムはグラスを手に取ると、その、独特な匂いのする赤い液体の入ったグラスを傾けた。
馥郁たる香りが彼を誘う。一気に喉をならして中身を飲み切ると、突然セレムの
背後から彼に声をかける者がいた。

「驚いたな。吸血鬼が血ではなく、トマトジュースで喉をうるおすとは」

よく響く高い声。その声は二階の窓の外からであるのに、セレムは驚いた様子もなく
振り向いて、声の主の姿を認めた。
月光を弾く金色の髪。それをベルベットのリボンで可愛らしく二つに結わえた少女が
セレムの部屋の窓の桟に腰掛けていた。その髪と、黒いワンピースからのぞく裾のフリルが
窓からの風でふわりと揺れる。少女の青い瞳が愉快そうな光を宿しながらセレムを見つめていた。

「……レティシア様。あなたが私に言ったんでしょう。ここに住む間は人の血を吸うなと」
「そうだった?」

少女――レティシアは、くすくすと笑いながら言葉を返した。
彼女もまた普通の人間ではない。吸血鬼が敬称をつけて扱う存在であり、そもそも
窓から突然現れる、というその行動だけで普通ではありえないものであった。

「夜のお散歩はどうでしたか?」

セレムが腰に手をあててそう問うと、目の前の少女は細い指を当ててあごをすっと引いた。

「悪くない。この街、わたしはなかなか気に入ったな。そうだ、セレム。お前のしもべの友達もいたよ」

そう言ってレティシアは手のひらをくしゃりと握った。そのまま、ぱっと開いた手のひらから
羽根をばたつかせたコウモリが現れる。
レティシアはちぃちぃ鳴くコウモリの黒い羽を掴んだまま、ほら、とそれをセレムに差し出した。

「小さな子供みたいな真似をなさらないでください」

セレムは額に手をやると小言めいた口調でそう言い聞かせた。
その言葉にレティシアは、ふん、と鼻を鳴らして唇を尖らせると、掴んだ手をしぶしぶ離した。
ようやく解放されたコウモリは羽を勢い良く羽ばたかせながら、あっという間に
窓から外へと逃げだしていった。

「何だ、人がせっかく見せてやろうと持ち帰ったのに」
「見慣れていますから結構です」

コウモリは吸血鬼第一のしもべだ。セレムも自分の意思一つでコウモリを呼び出して使役することができる。

「つまらないの。初めて人間界に来たのだからお前も目新しいものでも探せばいいのに。
お前はわたしの教育係なんだから、わたしに人間界のものを教える義務があると思うなぁ」
「おやまぁ、ずい分と勉強熱心になったものですね」

足をぶらぶらとさせながら言った言葉にセレムは腕を組みながら冷ややかに答えた。
その返答から、何やら不穏な雰囲気をレティシアは感じた。

「……妙につっかかるな。お前、何か言いたいことでもあるのか?」

ふと疑問に思って尋ねただけが、レティシアは言った瞬間後悔する事となった。

「言いたいこと? もちろんありますよ。お散歩をしてきていいと、誰が言いましたか?
魔界から人間界(こちら)に来るのに扉を開いたばかりでこの辺りの魔力磁場が安定できてないって
言いましたよね。今の段階で人間に見られたら、魔力を使っても記憶を操作できなくなるから
困ったことになるって言ったの覚えてます?」

笑顔でそうまくしたてながら、セレムは一歩一歩窓辺に腰掛けるレティシアへと近づいていく。
その迫力にさすがのレティシアも途端に顔色を変えて言い募った。

「だ、だって……暇だったんだもの……。お前はこの屋敷に来てすぐ何か一人で
やってて相手してくれないし……」

その答えにセレムは思わず脱力した。

「仕方ないでしょう。魔界から来たばかりで色々人間達の情報を操作しなきゃ
いけなかったんですから……。私の魔力だって無尽蔵じゃないんです。
そもそもあなたが協力してくれれば……いや、もう分かりました。過ぎたことです、良いですよ。
……ところでレティシア様、人間には見られていないですよね?」

その質問に、レティシアは金色の髪の毛をくるくる指に巻きながら目線をそらした。

「レティシア様?」

*******

今から約一時間前、レティシアは『怪物屋敷』から人間の足で大体20分ほどかかる距離の場所にいた。
そこには集合住宅――彼女は呼び名を知らないが『アパート』と呼ばれる建物があった。
そこに来る前からレティシアは、セレムの言いつけを破って屋敷を飛び出し、夜の空を飛び回って
街のいたるところを見に行っていたため、やや疲労を感じていた。
すると、アパートの近くに生えた大きな木を見つけ、レティシアは良い場所があったとばかりに
枝に腰掛けていた。そこの先客であったカラスがいなければ、彼女とて静かにその場にいるつもりであったのである。

鳥の羽音と、枝がざわめく音。それはアパートの中で木に一番近い部屋に届いてしまったようであった。

「な、に……うるさいなぁ……」

目をこすりながらガラッと窓を開けたのは、見た限りレティシアと同じくらいの年齢の少女であった。
小さな柄のついたクリーム色の、ゆったりとした服を着ている。
その少女が、アパートの一室からレティシアの姿を見つけ、思わずといった様子で硬直している。
レティシアの方もいきなり事でうろたえてはいたものの、すぐに気を取り直した様子で胸を張りながら言った。

「よく聞け人間の小娘! わたしはレティシア・ガーラント。魔界の帝王が直系の王女である。
この度は王位を継ぐための勉学の一環として人間界に遊学に参った。そなたが望むなら
この人間界のことをそなたに教わってやってもよい。……さぁ、我が言を受け入れるならば
そなたも名乗るがよい」

「はぁ……市村ヒロコといいますけど……」

半分寝ぼけているのか、少女は素直にそう名乗った。だが、それは寝ぼけているというより
現在の状況が処理できていないだけのようにも見えた。

「相分かった、ではヒロコ。これよりはそなたはわたしのこの世界での学友とでもいうべき存在。
名誉に思え」
「……それはどうも、ありがとうございます。それでは」

そのまま市村ヒロコは部屋の窓をからからと閉めた。そして締め切ると部屋の中でふと我に返り
激しく動揺した。ずるずるとその場にしゃがみこんで呟く。

「な、何だったの……今の……」

次に彼女が勇気を総動員して窓を開けたときには、そこに外国人めいた居丈高な少女の姿はなく、
ヒロコは先ほどのことは夢だったと思うしかないと自分に言い聞かせたのである。

*******

「めちゃくちゃ人目についてるじゃありませんか!!」

レティシアから一部始終を聞いてセレムは思わず怒鳴っていた。
彼にとってレティシアは主筋にあたる娘だ。
だが、教育係として彼女に仕えていたため、なまじ幼い頃より知っているせいか
セレムはレティシアに容赦がなかった。

「……大丈夫だって。わたしの直感は当たるんだ。あの娘は悪い人間ではないぞ」
「またそんな事を言って。小娘とはいえ、記憶を操作できない人間がいるのは
我々にとって都合が悪いことですよ」

ひらひらと手を振るレティシアをセレムは眉間にしわを寄せてたしなめた。
だが、レティシアはさほど堪えていない様子で笑みを作ると、セレムの眉間に
ぴっと指を当てて言った。

「そんなに苛々すると長生きできないと思うな」
「……あなたが困らせるからでしょう」

そう言ってセレムは困ったようなため息をついた。だが、レティシアは構わず
腕を伸ばしてセレムの襟元をつかむと、それをぐっと引き寄せた。
そして、近づいてきた従者の首筋にレティシアはそっと唇をつける。

「ちょっ……、レティシア様。言っておきますけどまだお説教は終わってないんですよ」

そう言いながらセレムはレティシアを引き剥がしにかかった。だがレティシアは
悪戯っぽく舌を出すと、猫のようにそれをセレムの首筋へと這わせた。

「もう……、誰がこんな事を教えたんです」

そう言いながらも既にセレムはレティシアの腰へとその手をまわしていた。
レティシアはふふっ、と笑顔を見せるとそのままセレムの首に手を伸ばして彼に体を預ける。
そして彼の耳へ、そっと囁いた。

「お前が教えたんだろう?」

その言葉は魔力を持っていたかのように、セレムの耳朶を熱くさせ、彼を押しとどめる
理性の最後のかけらを砕け散らせた。

セレムは窓の桟からレティシアを抱き上げると自分の寝台へと運び、とすんと座らせた。
覆いかぶさるように抱きしめて、額に、頬へと口づけを繰り返す。
背中に手を伸ばしてレティシアの服のホックを外すと、セレムは器用に彼女の体から服を
はがしていった。同時に自分の上着をも脱ぎ捨てる。

レティシアは、自身の乳房をさらしてしまうと一瞬羞恥のためか頬を赤く染め、顔をそらした。
彼女は自分の胸は小ぶりだと、やや気にしていたのだ。
だが、セレムはレティシアの困惑に構わず彼女のあごを掴むと、その顔を強引に自分の方へと
向けさせた。そのまま唇を重ね、中へと舌を差し入れていく。

「んっ、……」

鼻にかかった声でレティシアは小さく抗議の声をあげた。
今日はずい分性急すぎる。
ぐいと肩を押して唇を離すと、レティシアは自分をかき抱く男にこう尋ねた。

「……まだ、怒ってるの?」
「怒ってませんよ、別に。……ただ、次からはきちんと私の言いつけを守ってくださいね。
私が出歩かないようあなたに言ったのは、何も人間の事だけじゃないんです。
今はさすがに鳴りをひそめてますがね。あなたを狙う輩がこちらまで来ないとも限らない。
……お傍にいなくてはあなたをお守りする事だってできません」

レティシアは魔界の次代を担う女王候補だ。そして現在の魔界の主である祖父王に一番
目をかけられているのは彼女だ。それ故にいらぬ恨みと妬みをかう。
彼女を弑して自らや、自らが冠する者を王の座へと近づけようとする不逞の輩は
闇にまぎれて確かに存在していた。

セレムはレティシアの手を掴み、引き寄せるとその甲へとそっと口付けた。

「わかった……、気をつける」

神妙にうなずきながらレティシアは言った。だがセレムはそれを見ても、ただただ苦笑した。
喉元過ぎれば何とやらで、レティシアはいつでも自分の好奇心を優先させてしまうのだ。

「それでは次からはきちんと約束を守るよう、今日はちょっとおしおきをしましょうか」

冗談めいて言ったその言葉にレティシアは吹き出した。

「おしおき? だったら今日はひどくするの?」
「そう、だから手加減してあげませんからね」

宣言してセレムは再度レティシアの唇を奪った。口内に侵入してくる質量をレティシアは
迎え入れると、おずおずとそれに自分の舌をからめていく。
あごを支えていた手をずらしていき、セレムはレティシアの乳房を手のひらですっぽりと包んだ。
唇を吸いながら小さなふくらみを緩急つけながらもみしだいていくと、腕の中の少女が
眉根を寄せて呻いた。

「ふ、う……」

セレムは、手のひらの中央に段々と小さく尖った感触を感じ始めていた。

「レティシア様」

熱のこもった声音で名を呼んで勃った乳首をつまみあげると、レティシアは
セレムから唇を離して背をのけ反らせた。

「やぁっ」
「逃げないで」

セレムはレティシアの腕を掴んで引き寄せ、華奢な肩に力をかけてゆっくりと押し倒した。
白い胸がセレムの手のひらに押し上げられて形を変えていく。

「ふ……あぁ、……っ」

くりくりと乳首を刺激するとレティシアが何事か小さく呟いた。その声には艶やかな色が混じっている。

そして仰向けになったレティシアのほっそりとした足をセレムは掴むと、ぐいと強引に開かせた。

「…………っ」

膝を割られ、秘すべき花弁をさらしてしまうとレティシアは手のひらで顔を覆った。
羞恥のために、その頬は真っ赤に染まっていた。
セレムが内腿に触れると、反射的に力が入り、レティシアは抵抗のつもりはないのだろうが
足を閉じようとした。
誘うような真似をしてみても、レティシアは未だ艶事に慣れておらず、組み敷こうとすれば
生娘のような反応を見せていた。それがセレムには愛おしい。
優しげにセレムはレティシアの内腿をなで上げた。

レティシアの反応はどうあれ、その肉体は既に快感を覚えさせられている。
快楽への期待半分、その訪れへの恐怖半分がレティシアの中でうずまいている。
彼女の白い喉がこくりと鳴った。

セレムはレティシアの割れ目へと手を伸ばすと、その入り口に指を押し当てた。

「あっ……」

まだ、触れられているだけなのにレティシアは思わずといった様子で声をあげる。
だが指は執拗に入り口のみを刺激して、中へ入ろうという気配を見せなかった。
レティシアは眉を寄せ、首を振るとセレムの腕を掴んだ。その腕の力が、彼に『お願い』と訴える。
セレムはそれを受けてレティシアの陰唇を広げると、指先を中へ差し込み変則的な動きで中を刺激した。

「あうっ、……はぁっ」

レティシアの嬌声を聞きながらセレムは指先の感触を楽しんでいた。
生暖かい、むしろ熱いほどのレティシアの内部がセレムの指をくわえ込む。
ねっとりとした愛液が奥から湧き出て彼の指の侵入を助けていた。

「まだ指だけだというのにこんなに濡れて……」

愛しげにそう呟くと、顔を紅くしたレティシアが身を起こしてばしっと彼の頭をはたいた。

「そ、そういう事をいちいち口にしなくていい!!」

必死に訴える様が愛らしくてセレムは思わず笑いをこらえてしまった。
それを見てかっとなったレティシアは、更にセレムをぶとうと手を振り上げたが
その手を逆に絡め取られ、目を見開いた。

「……人をそう何度もぶつものじゃありません」
「お前がそういう事をさせるからじゃないか」

レティシアは握られた手の感触にうろたえていた。セレムのその手は生暖かく、湿っている。

「あなたのですよ」

けろっと言われた言葉にレティシアは眉を吊り上げた。

「だから――」

言いかけてレティシアはぎゅっと唇を噛みセレムの腕へとすがりついた。
そのまま小さく息を吐いて、レティシアはびくっと体を震わせる。

「あ……」

レティシアの中を、セレムの指が蹂躙していた。
細長い指が器用に動いて粘膜を刺激する。

「ふ……、あああっ、んんっ」

淫靡な音をたてながら、セレムはレティシアの花芯から湧き出る蜜を掬い取り、それを
また彼女自身の花弁へと擦り付けた。
それを繰り返して更に深くレティシアの中を抉っていく。

「ああんっ、あっ、あっ」

絶え間ない指淫によって、レティシアは追い上げられていた。

「やぁっ、セレム、セレム……もうむり……っ」

導かれるままに高みへと連れて行かれながらも、開放されるその一瞬で
セレムはレティシアを導く手を離してしまう。
目尻に涙を浮かべながらレティシアは訴えた。

「も……だいじょう、ぶ……。だから早く……っ!!」

だが、セレムはわざと更に指でレティシアを翻弄すると彼女の耳にそっと囁いた。

「早く? 何ですか?」
「……いじわる……! ばかっ、変態!」

罵り言葉に苦笑しながらも、涙目で睨みつける様が可愛らしくてセレムは彼女をじらすのをやめにした。
自身の屹立をあてがうと、セレムはゆっくりと深くえぐるようにレティシアの中に侵入した。

「あ、あああ――っ!」

質量を受け入れかねてレティシアは喉をのけぞらせて叫び、セレムの肩を強く掴んだ。
レティシアの内部はとても狭く心地よくセレムを締め付ける。肩の痛みさえもセレムには好ましかった。

「こ、れが……欲しかったんでしょう? レティシア様……」

名を囁いてぐっと更に深く差し入れると、レティシアは悲鳴をあげた。

「ちがっ、……ああ、いや……っ」
「嫌? ならやめましょうか」
「やだ……、やめないで……」

レティシアは甘やかな声音で呟くとセレムの体に抱きついた。
柔らかな乳房が裸の胸に当たりセレムは何ともいえない感触を感じていた。
主へのせめてもの気遣いで、できる限りゆっくりと、セレムは腰を動かし始めた。

「ああぅっ、んっ、ううっ……」

突き入れるたびにレティシアは艶を帯びた鳴き声をあげた。
密着してくる体を抱きしめると、レティシアは安心したようにセレムの喉元にそっと唇を寄せた。
触れられた場所から、じん、と燃えるように欲望が広がっていく。
今やセレムは目の前の少女の一挙一動に欲望を煽られていた。

セレムの瞳に情念の光が灯り、一瞬血のように紅い光を帯びた。
悪戯心を起こしたセレムはレティシアの首筋に、彼女と同じように口付けた。

「…………?」

その唇の思わぬ冷たさに、レティシアは怪訝そうに視線を向けた。
するとセレムの唇の端から尖った牙がのぞいていた。レティシアの顔にさっと焦りの色がかすめる。

「や、やだ……っ、血を吸うのはやだっ!」

そう叫ぶと、レティシアは慌ててセレムの顔を掴み、自分の首元から引き剥がそうと力をこめた。
だが再びセレムに奥へと差し入れられて、深く繋がる事を要求されると、レティシアの
手足は途端にその力を萎えさせてしまった。
セレムの顔を掴んでいた手は力なく落ちて、されるがままに体を揺らされていた。

「う――」

瞬間、レティシアは首筋に甘美といえるほどの痛みを感じた。
その場所から魔力が抜けていき、同時に体中の感覚が鋭敏になる。

「はっ、あ……っ、ううっ……ん」

首筋に歯をたてられ、舌を這わされ、強く吸われながらレティシアはゆるゆると首を振った。

「血を……吸わない、と約束したのに……。嘘つきっ」
「“人間の血は吸わない”という話だったでしょう?」

セレムがレティシアから唇を離し、にっと笑った。その顔は小面憎いほど愉快そうだ。

「第一、いつもトマトジュースじゃいくらなんでも身が持ちませんよ。
たまには……血を吸わせて頂かないと。ああ、あなたの血は特別極上でしたよ」

捕食者の目をしながらセレムはレティシアの首の傷跡をぺろりと舐めた。

「うっ、ううっ……」

そして、そのまま鋭敏になった体中に口付けをされて、レティシアは身を震わせた。
セレムが身動きするたびに、自分を貫く肉の存在をはっきりと感じてしまい、
息も絶え絶えにあえいでいた。
中を擦られて、耐えられないほどの愉悦が電流のように身のうちを走る。

「あっ、あああああ―――っ!」

許しを請う唇は、セレムによって塞がれた。
引き抜かれ、再び挿入されてレティシアは腰の辺りから全身へと広がる快楽の波に身を任せていた。
腰をつかまれ、数度目の抽送が始まってレティシアは足でシーツを突っ張らせた。
再び波が高まっていき、レティシアは今度こそ解放される予感を感じていた。
叩きつけられる度にその波は高まっていく。
セレムもまた、レティシアの中で張り詰めた欲望を解き放とうとしていた。
自分が吸血した痕をセレムは再度舌で辿っていく。

「う……」

するとレティシアが小さく息を吐き、その内部がきゅう、と動いた。
セレムは身震いするほどの吐精感に勢い良く欲望を吐き出し、レティシアは
声なき悲鳴をあげてそれを受け止めた。

「……大丈夫ですか?」

しばらくの間、二人ともぐったりとしていたが、セレムは呆然としているレティシアを
抱き起こすと、首を傾げて尋ねた。

「い、嫌だっていった、のに……。血を吸うのはやだって……」

小さく呟いたレティシアの姿に、セレムは思わず居住まい正して謝った。

「その……申し訳なかったです。ちょっと悪ノリしたというか……」
「いつも好き勝手するんだから!!」

ぐーで殴られたセレムの肩が小気味の良い音をたてる。

「すみません……」
「……次にあんな事したら、お前としてる最中に『変化の術』で

お前自身の姿になってやる……」

「私が悪かったです……ホント許してください」

恐ろしい復讐方法の提案に本気で謝りながら、セレムは主の顔色を窺った。
夜が明けるまでにはまだ時がある。
だがセレムは、レティシアの機嫌を直すまでは眠りに落ちることは許されなさそうであった。






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