討魔士と使い魔
シチュエーション


辺りに人の影はなく、しんと静まり返っていた。もしも道行く人がおり、尚且つその者が空を見上げていたならば煌々と照らす月と音もなく飛び回る大形の鳥の姿が見えたことだろう。
月明かりを頼りに飛んでいた鳥は一軒の宿屋へと降り立った。正確には宿屋の横に生えた大きな木の枝に。鳥は羽根をしまいこむと途端にその形状を変化させた。ぐにゃりと鳥の付近の空間が歪む。
暫くの後、枝に立ち尽くしていたのは一人の青年であった。青年は器用に枝を移動し、一つの部屋へと入り込んだ。
青年の入り込んだ部屋は無人ではないようで微かながら誰かの寝息が聞こえてくる。青年は迷うことなく寝台へと近づき、跪いて眠りこけている人物へ顔をよせた。
窓から差し込む月明かりがその人物を照らし出す。年の頃は十五、六といったところか。緩くウェーブのかかった淡い桃色の髪、月明かりにさらされた肌は白く、柔らかそうな唇は誘うように開かれている。
対する青年は二十といわれても四十を越えているといわれても納得がいくような不思議な姿をしていた。姿形は若く見えるが、纏う空気に若々しさはない。跪けば床に広がるほど長い黒髪、切れ長の瞳は鋭く冷たい。

「……また眠っておられる」

ぽつりと呟く声は低く、呆れと落胆の色が濃く現れていた。

「眠らずに待っていてくださると約束したのに仕方のない方ですね」

柔らかな頬を指先でつつくとぷにっと音がしそうな感触がして、青年はふっと表情を和らげた。
少女の名はエルカ。半年前に討魔士を始めたばかりの未熟者だ。そして、青年の名はギィ。本当はもっと長々とした名があるのだがエルカがギィと呼ぶので今の彼の名はギィだ。ギィはエルカが初めて従えた魔物である。
眠るエルカを起こすような真似はせず、ギィはあいている寝台に横たわり朝を待つことにした。


翌朝、エルカが目を覚ました時にはギィはすっかり身支度を整え、エルカのための朝食を用意しているところだった。

「おはようございます、主殿」

眠たげに目をこするエルカにギィは笑顔で声をかける。エルカに近づき、乱れた夜着を整えながら頬に口づける。

「主殿、そろそろ燃料補給が必要かと」
「ねんりょうほきゅー……?」
「はい。村を出てからずっといただいておりません」

ギィの唇が耳に触れ、短い髪をかき分けてうなじに到達する。軽く首筋に噛みつかれてエルカは慌ててギィの胸を強く押した。

そこまでされてようやく目覚めたようだ。

「ま、また、あれを?」
「嫌ならかまいませんよ。私も他の者と同じく印となりましょう。主殿の世話もできなくなりますが一人でも平気ですね」

エルカの従える魔物の数は三。ギィを除く二つはエルカが幼い頃より親しくしていた低位の魔物で戦闘力の足しにならないばかりか完璧な人の姿をとることもままならない。
討魔士は魔物と契約を結び使い魔とする。基本的に契約は倒した魔物と結ぶもので、友好的に結ばれることは少ない。そもそも討魔士とは荒ぶる魔物に苦しめられた民を助けるために魔物を倒し、二度と人に危害を加えぬことを誓わせるために従える。いわば正義の味方なのだ。
使い魔は普段はここではないどこかで過ごしており、主の呼びかけに応えて召還される。エルカの手の甲には使い魔の名を記した印が模様のように浮かんでいる。強い討魔士ほどその数が多く、複雑な模様を記しているものだ。
はっきり言ってしまうとエルカは弱い。使役された魔物は具現化するために主の魔力を使う。強い魔力をもつ討魔士ならば必要のないことだが、魔力の弱いエルカの場合は魔力が足りないと言われれば血か肉かそれに変わるものを与えねばならない。
エルカはぎゅっとギィのシャツを掴んだ。

「快楽に溺れてしまいそうで恐ろしいのですか?」

ギィはエルカ自身を欲しがる。血を吸われるのをエルカが怯えて嫌がるからだと言うが、行為自体が好きなのではないかとエルカは疑っている。

「すぐ終わる?」
「求める間隔が狭まってもかまわないのでしたら手早くすませてもかまいませんよ」

村を出る前にエルカはギィと契約した。なぜかそう至るまでの子細は覚えていないのだが、契約後にギィに抱かれてしまったことだけははっ
きりと覚えている。ギィに教えられた新しい感覚を思い出し、エルカはごくりと唾を飲み込んだ。

「朝からでは主殿もお嫌でしょうから今夜までにご決断ください。さあ、朝食にしましょう」

あっさりと体が離され、エルカはほんの少しがっかりした。そして、がっかりした自分に驚いてエルカは顔を赤く染めたのだった。


食事を終えてからエルカたちは宿を出た。
討魔士は旅をしながら魔物退治に精を出す。しかしながら、エルカの手に負えるような魔物は少なく、畑を荒らす小さな魔物を捕まえてお説教したり悪戯好きな妖精を捕まえてお説教したりとそんなことばかり。

エルカの夢は遙か遠くに居城を構えていると噂される魔王を倒すことなのだが今の調子では何度生まれ変わっても叶うことはないようにみえる。
今日もエルカは歩きながら仕事を探していたのだが今朝のギィとのやりとりが頭から離れず心ここにあらずといった様子だ。ギィはそんなエルカに気づいていながら何も言わずにエルカの後ろを歩く。
エルカに危機が訪れればギィは命を賭してエルカを守る。エルカ一人では三日と続かなかったであろう旅が半年も続いているのはギィが側にいてくれたからなのだ。暴漢や盗賊の類を軽くいなすギィを見たのは一度や二度ではない。
結局、その日はただ歩き回っただけで何の仕事もせずに新しい宿屋へたどり着いた。
部屋へ着いてすぐにエルカは風呂へ直行した。汗を流しながら、エルカは高鳴る胸を押さえきれずにそわそわと落ち着かない様子だ。時間をかけて念入りに体を洗い、湯船にもいつもの倍近い時間浸かっていた。
風呂からあがったエルカは肌をタオルで拭いながら溜め息をついた。ギィに触れられるのだと思うと恥ずかしくて死んでしまいそうになる。
ちらりと自分の体を眺めれば、エルカの小さな手ですっぽり覆い隠せてしまう胸と必要以上に肉がついているわけではないがぷにぷにとした腹や足が見える。どう贔屓目に見ても大人の女性の体とはいえない。エルカは再び溜め息をついた。
洗面台についた鏡を覗き込めば落ち込んだ表情の自分が見えた。エルカはふるふると首を振って雑念を追い払う。ギィに抱かれるのは魔力補給に必要な、いわば儀式だ。体の成熟度などギィには関係ない。行為自体が重要なのだ。
エルカはなんとか自身を奮い立たせて衣装に手を伸ばした。しかし、そこではたと気づく。今から抱かれるとわかっているのにわざわざ服を着る必要があるだろうか。かといって裸ではあまりに恥ずかしい。
うんうん唸りながらたっぷり十分は悩み、エルカは大きなタオルを素肌に巻き付けて部屋へ戻った。
ギィは寝台に腰掛けて本を読んでいた。エルカの編んであげた長い髪を前に垂らし、真面目な顔で分厚い本のページをめくる。
ギィの姿を見た途端エルカの胸がぎゅっと締め付けられた。ギィを見つめているといつもそうなる。自分にはよくわからないけれど、ギィには特別な力があってそのせいなのかもしれないとエルカは思っていた。

「覚悟を決められましたか。よかった。主殿を一人で旅立たせるなど不安でたまりませんから、拒絶された場合の対策を練っていたのですが要らぬ心配でしたね」

エルカに気づいたギィが安堵の表情を浮かべて近づいていく。

「ギィは前に言ったでしょ。討魔士は一番信頼できる使い魔を常に側に置くものだって」
「ええ。ボディーガードのようなものです」
「ライもデュカも大好きだけどギィみたいに上手に人になれないし」

もじもじと胸の前で手をいじりながらエルカは喋るのをやめない。

「ギィでないとダメなの。ギィが側にいてくれないと、私……」
「大丈夫ですよ。主殿のお気持ちは承知しています。さあ、恥ずかしがらないで。怖がらなくていいんです。私を信じて」

ギィの腕が伸ばされてエルカの剥き出しの肩に触れる。身を屈めて触れるだけのキスを落とし、ギィはエルカの体を抱えあげた。

「あ、あのね、ギィ」

そっと寝台に横たえ、ギィは額に口づける。

「あんまり胸大きくないの。おなかもキュッとしてないし、それから」

早口にまくしたてるエルカの口を塞ぐようにギィは口づけた。

「ん…ぁ……」

ギィの腕を掴み、エルカはギィの口づけに酔わされていく。優しく口腔を弄る舌におずおずと自らの舌を絡めてみた。徐々にエルカも口づけに夢中になり、ギィの髪に指を差し入れてしがみつく。

「そんなことは主殿を愛する喜びに比べれば些末なことです。体の形など問題ではありません。私は主殿の魂に触れたい」

二人の唇を銀糸が繋ぎ、数秒でそれは消えた。
ギィに見つめられただけで身動きがとれなくなる。触れられると泣きたくなる。ギィに抱かれるのは怖くないのになぜか泣きたくてたまらなくなるのだ。
エルカは肌を這うギィの指に意識を集中させる。ギィの指が胸の頂に触れると甘い感覚が沸き上がる。強く摘むような真似はせず、あくまでも優しくギィは指で先端を撫でている。それだけでも慣れないエルカにしてみれば強すぎる刺激だ。

「ん、ぁ……ギィ、あっ」

脇に流れた肉を集めるようにしてギィは胸を揉む。小さいながらも柔らかく、少しの刺激にも敏感に反応してくれる。

「主殿、目を開けてください」

エルカはぎゅっと目を閉じ、唇に拳を当てていた。ギィの呼びかけに応えて、ゆっくりと目を開く。葡萄色の瞳がギィを映す。

「愛しています、我が主。あなたを選んでよかった」
「ギィ……あッ、だめっ」

ギィの指が下腹部へ滑り、茂みに隠された陰核へ触れる。指で軽く押さえただけでエルカの体はびくびくと震える。感じやすい主の体を愛おしげに眺め、ギィは微笑む。

「可愛いですよ、主殿」

片手で陰核を撫で、片手で乳房を揉み、唇で胸の先端を愛撫してギィは少しずつエルカの体を溶かしていく。
陰核を撫でていた指を下へずらして割れ目をなぞる。そこはシーツを濡らすほどの蜜を溢れさせてとろけきっていた。慎重に指を差し込むとエルカの体は思いの外簡単にギィの指を受け入れた。

「あっ、ん……ああっ、ギィ…ひゃっ、あッ」

慣らすように指を増やして出し入れを繰り返す。エルカの口から漏れる声に苦痛の色はない。ギィは安心して指を引き抜いた。

「あん、ギィ」

無意識だろうが不満げに見上げてくるエルカにギィは満足そうに微笑みかける。

「心配しないで。これからが本番ですから。堪能させていただきますよ、主殿」

腹につくほどに反り返った欲望を取り出し、ギィはエルカの足を開かせた。足首を掴み、踝に口づける。

「少し痛いかもしれませんがすぐによくなりますからね」

割れ目に先端を当てる。ギィが少し力を込めると存外簡単にのみこまれていった。異物の進入にエルカが少しだけ表情を歪めたがそれも一瞬で、ギィが陰核を摘むと愉悦に変わった。

「ギィ、熱っ…ああ、あ、んうっ」

腰をぴたりと寄せてギィは一旦動きを止める。じっとしているだけでもエルカの内部の蠢きがギィに快楽を与えてくれた。ギィはその感覚を楽しみながら、エルカの呼吸が整うのを待った。

「とても気持ちいいですよ、主殿。きついのに滑りがよくて温かくて」
「やっ、いわな…でぇっ」
「恥ずかしがり屋さんですね、主殿は。褒めているのに」

真っ赤になって顔を隠すエルカをギィはくすくすと笑いながら眺める。

「そんな主殿も好きですがね」

抜けそうになるまで腰を引き、再び根元まで差し込む。それを数回繰り返しただけでエルカは快楽に我を忘れる。甘い声で喘ぎ、ギィにすがりついてくる。
気をよくしたギィはエルカの腿を撫でながらリズムをつけて腰を揺らす。結合部からはとめどなく蜜が溢れ、淫らな音が奏でられている。

「ギィ、あッ、ギィっ!あ、あん、あッ、あっ!」

喘ぎに混じってギィの名前を呼ぶ声が繰り返される。エルカが名を呼ぶ度にギィは満たされるのを感じた。
腿を撫でていた手が腹を伝い、乳房に触れた。

ぴんと尖った先端を弄りつつ、ギィはさらに深く中を抉ろうと体重を前に落とした。往復するギィの体が先ほどよりも強く最奥を抉る。叩きつられる度にエルカは歓喜の悲鳴を上げて仰け反った。

「く、っ…主殿、もっと力を抜いて、ください。とてもきつい」

ギィの囁きはエルカには届かず、エルカの襞はギィの欲望に絡みつき意志を持っているかのようにきつく彼を締め上げていく。
だんだんとギィの動きは激しさを増していく。エルカはちかちかと目の前が光りだしたのを感じた。
全身の感覚が研ぎ澄まされ、ギィに触れられた場所がありえないほどの熱をもっていく。

「あ、ん…くっ…ひぃっ、あッ、あぁん」

自分の体が弾けてなくなってしまいそうな気がしてエルカはギィの体にしがみつき、その背に爪をたてた。しかし、そうしていてもギィの与える快楽はエルカをどんどんと高みへ追いやっていく。
唐突に体が強ばり、電流が走った。稲妻は全身を駆け巡り、エルカの体を支配していく。あまりの快楽にエルカは悲鳴をあげたが、口からこぼれでたのは絶頂の喘ぎに他ならなかった。
エルカが達したことに気づき、ギィは動きを止める。吸いつくようなエルカの締め付けに射精感がこみあげてきたが、それをなんとかやり過ごす。まだ達するには早い。

「ふぁ…ギィ……」

虚ろな瞳で見上げるエルカの唇に吸いつき、ギィは体の線をなぞるように優しく撫でてやる。
素直に口づけに応えるエルカの体から力が抜けたのを確認し、ギィは再び腰を揺らし始めた。

「もっと見せて。もっとあなたを感じさせてください。愛しています、我が主」

まともにものを考えることなどできなくなったエルカの耳にギィは何度となく愛と忠誠を囁き続けた。



エルカの瞳と同じ色をした葡萄を膝に乗せ、ギィは器用に皮を剥いていく。そうして皮を取り去った葡萄をエルカの口元へと運ぶ。

「はい、主殿。口を開けてください」
「あの、ギィ」
「ほら、汁が垂れてしまいますよ」

促されて仕方なくエルカはギィの指ごと葡萄を口に含む。ギィの指にエルカの柔らかな舌が触れ、ゆっくりと離れた。

「葡萄くらい自分で食べられるわ」
「主殿は私から楽しみを奪う気ですか?それに、今は体がつらいでしょう?ゆっくり休んでください」
「……わかった」

にっこりと微笑まれ、エルカは頬を染めて頷く。

定期的に与えればそうでもないのだろうが、ぎりぎりまで我慢させたせいでギィはエルカの体を思うままに貪った。初めての時の数倍は凄かったとエルカは思う、いろいろな意味で。ギィの言うとおり、体は重いし、だるさが抜けない。今日一日は休む必要がありそうだ。

「はい、主殿」

新しく剥いた葡萄を差し出され、エルカは素直に口を開く。
すっかり魔力を吸い取られて体はつらいが、それでも不思議と気分はよかった。それはギィが優しかったせいかもしれない。温もりも指も声もギィはすべてが優しかった。
不意に甘く低く掠れた声で愛を囁くギィの声が耳に蘇り、唇に触れるギィの指と連動してエルカの体温を一気に上昇させる。

「主殿?」
「な、なんでもない!」

耳まで赤く染めたエルカの顔を不思議そうに覗くギィから顔をそらし、エルカは寝台に倒れ込んで布団を頭まで引き上げた。

「私はもう寝るから、ギィは本でも読んでて!」

くつくつと笑うギィの声を聞きながら、エルカはギィの香りの残る布団を体に巻き付けて、落ち着かない様子でごろごろと寝返りをうつのだった。






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