エステルとゲイル(お見舞い編)
シチュエーション


外部からの侵略があるわけでもなく、民が反旗を翻すわけでもなく、国は今日も平和だ。
とはいえ、軍隊にいるからには実戦を想定した訓練は欠かさず行うわけで、ゲイルは部下たちの行う訓練を少し離れたところから監視していた。
そして、その様子を眺めながら先日のことを思い出していた。
首に回された腕、恐る恐る絡められた舌、息継ぎの度に漏れる甘い吐息。
熱病に似た何かがゲイルを苦しめる。
集中しなければと自身を一喝した直後に遠くで喚く声が聞こえた。
その声の意味を理解したのは飛んできた障害物の下敷きになった後だった。

(なんてざまだ。これが実戦なら死んでいたぞ)

思い切りよく障害物をはねのけて起き上がる。
左足の感覚がおかしい。

(油断したな。くそっ、不覚だ)

折れているかもしれないと思いながら、ゲイルは駆け寄ってくる部下に心配するなと右手をあげてみせた。



「少佐ともあろう方が訓練の監視ごときで負傷するとは」

ベッドに座ったゲイルを呆れ顔で見下ろしているのは部下のジェシカ。階級は中尉だ。

「言うなよ。自分でも呆れている」
「しっかりして下さいよ。少佐は平和ボケしてんじゃないかって噂になっちゃ困るでしょう」
「わかっているさ」

部下のくせに懇々と説教を続けるジェシカにゲイルは溜め息で答える。

「それにしても、たかが足の一本で入院なんてオーバーじゃありません?」
「足以外にも異常がないかどうか検査をするんだと。おかげで三日も拘束される」
「少佐ともなると扱いが違いますね」

ジェシカの疑問に曖昧に答えながら、ゲイルはエステルのせいだろうと思っていた。
軍事病院で手当をしてもらい、さて帰ろうかという時に唐突にこちらへ移された。
ハインツ家に縁の深い場所なのだから、エステルの影を感じずにはいられない。
一体どこで怪我のことを知ったのかとゲイルは不思議に思うのだった。

「まあ、休暇だと思ってゆっくり休むさ」
「これを機に煙草やめてはいかがです。院内は禁煙ですしね」
「冗談だろ。私の唯一の楽しみだぞ」
「酒も女も賭事も嗜む程度ですからねぇ、少佐は」

それのどこが悪いのかとゲイルは憮然としてジェシカから顔を背ける。

「煙草は体に悪いでしょう、お酒の方がマシですよ」
「一日に何本も吸わんのだから問題ない」
「ま、少佐の体ですからね。好きにして下さい」

くすくすと笑うジェシカの声にゲイルの眉間の皺は増す。

「じゃあ、私はそろそろ帰ります。何かいるものあったら言って下さいね」
「ああ、すまんな」

頭を下げて立ち去るジェシカの背を見送って、ゲイルはベッドに横たわった。
夕食の時間までまだしばらくある。
少し眠ろうかと目を閉じたが、すぐさまそれは控えめなノックの音で遮られた。

「どうぞ」

扉を開いて現れたのはエステルだった。
それも軍服ではなく私服で、ふわりとした髪は緩く編まれ、タートルネックのセーターにミニスカートといった装いだ。

「教官、お怪我の具合はいかがですか」

ひよこのような動きでエステルはゲイルに近づいていく。
彼は上半身を起こして左足に視線を向けた。

「大したことはありません。大佐にご心配いただくほどの怪我ではございませんよ」
「そうですか」

いつもならゲイルが戸惑うほどに真っ直ぐ彼を見つめるエステルが視線をさまよわせて目を合わせないようにしている。

(なんだ? 照れてるのか)

不思議そうにゲイルはエステルを眺める。

「ジェシカ中尉がいらしていたのですか?」

拗ねているように聞こえたのは気のせいだろうかとゲイルは訝しむ。

「ええ、あれは私の片腕みたいなものですから入院中の職務の引き継ぎなどがありまして」
「片腕、ですか」
「はい。ついでに必要なものを届けてもらいましたし」

照れているのだと思っていたが、どうやら機嫌が悪いらしい。
エステルの表情をまじまじと眺めていたゲイルはようやくそのことに気づいた。

(何を怒っているんだ?)

椅子を引きずり出してエステルはそれに腰掛けた。

「私にいってくださればよかったのです」

顔を赤くしたエステルが唇をとがらせる。

「そうしたら、私がゲイル教官の為に色々とお世話いたしましたのに」
「大佐にそのようなことはさせられません」
「やめてください!」

唐突に声を荒げたエステルをゲイルは眉をひそめて見下ろした。

「やめるとは何をですか」
「その話し方です。軍服を着ていない時はエステルと呼んでください。敬語も嫌です」

見上げてくるエステルの瞳は潤んでいる。
理不尽だと思いながらもエステルの涙に弱いゲイルはたじろぐ。

「上官に対してそのようなことはできかねます」
「でも、教官の方が年上です」
「大佐、年は関係ないのですよ」
「この前は」

エステルの頬が怒りとは違う意味で赤みを増す。

「呼んでくださいました。エステルって」
「あれは……その、気が動転して」

「二人きりの時だけでいいんです」

エステルの手がゲイルの右手をぎゅっと掴む。
ゲイルは溜め息混じりに肩を落とした。

「聞き分けのない子だ。あまり私を困らせないでくれ、エステル」

仕方なしに敬語をやめれば、エステルの顔が輝く。
花開くような笑顔を見せられると、眩しさに目を反らしてしまう。

「教官、約束しましょう」
「何をだ」
「お世話が必要な時は私を呼んでください。ジェシカ中尉を呼んではダメです」

ずいっと身を乗り出され、ゲイルは反射的に後ろへのけぞる。

「中尉に世話を頼む気はない。たかが三日の検査入院だろう。誰の世話も必要ない」

途端にエステルはしゅんとしてうなだれる。

「……ジェシカ中尉は綺麗ですよね」

突然話があらぬ方に飛び、ゲイルは頭上に疑問符を飛ばす。

「スタイルもいいし、性格もさばさばしていて、ああいう方を姉御肌というのでしょう?」

(こいつは何の話をしてるんだ)

「やっぱり教官もジェシカ中尉みたいな女性がお好きですか? 私ではダメなのですか?」

ゲイルは右手で額を押さえて、上体を折った。
どうしてそういう思考になるのか、ゲイルにはまったくもって理解不能だ。
そのまま転がって枕に顔を埋めて思考を停止して現実から逃げ出したくなる。
しかし、エステルがそれを許すはずもなく、肩に手を置いて更に問いつめる。

「エステル」

額に置いた右手を下げて、ゲイルは呻いた。

「ジェシカ中尉は部下だ。それ以上でも以下でもない。そういう邪推は彼女に失礼だろう。そうは思わないか」
「でも……いえ、すみません」

力ないエステルの返事を聞き、ゲイルは体を起こしてエステルの方へ視線を戻す。
すっかり元気のなくなったエステルを見ているのも何だか悪いことをしたような気がして具合が悪い。

「ああ、言うのを忘れていた」

手を伸ばして、エステルの頬を手の甲で撫でる。

「わざわざ見舞ってくれてありがとう」

それだけ言うのがゲイルの精一杯だった。
もっと近づけば抱き寄せて口づけてしまいそうだったし、突き放すにはエステルに好意を抱きすぎている。
一気にエステルの表情が明るくなっていくのを見ていると気恥ずかしくてたまらなくなる。
ゲイルはエステルの頬を撫でていた手を引き戻そうとしたが、それは途中でエステルに掴まれて彼女の膝の上で両手に包み込まれてしまった。
「教官」

好意を前面に押し出したエステルに見つめられ、目を反らすに反らせず、ゲイルは背中を変な汗が伝うのを感じていた。

「え、エステル」

何を期待しているのか、目を閉じてしまったエステルを前にゲイルは唾を飲み込んだ。

(どうしてこうなるんだ)

焦れたように手をきつく握られ、ゲイルは観念してエステルに口づけを落とした。

揃いに剥かれた林檎を一つずつ口に運んでいく。
エステルのナイフさばきは令嬢育ちにしては悪くなかったが、剥かれた林檎は少々歪だった。
しゃくしゃくと林檎を噛みながら、ゲイルはちらりとエステルに視線を向ける。
今日のエステルはシャツにカーディガンを羽織っており、下はやはりミニスカートだ。
どうしていつも短いスカートをはくのかとゲイルは少し不満に思う。

「もっと剥きますか?」
「いや、これで十分だ」

昨日、一昨日とエステルは毎日通ってきた。
現れてはあれやこれやと世話を焼きたがる。
万が一にもエステルの夫になるようなことがあれば尻に敷かれてしまうのかもしれないなどと考え、即座にそれを否定する。
万が一どころか億に一もない可能性だ。
しかし、想像するだけなら誰に咎められることはないとゲイルはエステルとの未来を少しだけ想像してみるのだった。

「明日はご自宅までお送りしますから」
「明日は中尉が迎えにくる予定だ」

途端にエステルが頬を膨らませる。
ゲイルは咳をはらって訂正した。

「……と思っていたのだが、やはり君にお願いしよう。よろしく頼む」

ぱあっと表情を明るくするエステルがおかしくてゲイルは小さく笑った。
この三日間でずいぶんと距離が縮まってしまったようにゲイルは感じていた。
軍部ですれ違いそうになれば通路を変え、ばったり遭遇してしまってもすぐさまその場を離れ、エステルと必要以上に親しくすることを避けていたのにそれもすべて無駄になってしまった。
こうしてともに時を過ごしていると距離を開けようとしていた理由を忘れてしまいそうになる。

「あ、そうです」

ぽんと両手を合わせ、エステルが立ち上がった。
そのままゲイルへ近づき、ベッドの脇に腰掛ける。

「……なんだ?」

訝しむように眉を寄せるゲイルの手から皿とフォークを取り上げてエステルはにっこりと微笑む。

「はい、教官。あーんしてください」

林檎を刺したフォークを口元に差し出され、ゲイルは反射的に口を開く。
もぐもぐと林檎を噛みながら、ふと我に返ったゲイルは顔を赤くして俯き、右手で額を押さえた。

(何をしているんだ私は)

ゲイルの苦悩を知らないエステルは再びフォークに林檎を刺す。
期待に満ち満ちた視線をゲイルに送り、彼が顔を上げるのを待つ。

「私は子どもではない」
「病人ですから」
「病気をしているわけではない。左足以外は健康体だ」

エステルの手から皿を奪い取り、ゲイルは残りの林檎を急いで平らげた。

「教官の意地悪」

手にしたフォークに刺さった林檎をエステルはつまらなそうな顔をしながら食べた。

「君のわがままには付き合いきれんよ。意地悪なのはどっちだか」

ゲイルの膝近くに腰掛けているエステルを眺めれば自然と露わな太股に目がいく。
愛らしい膝小僧と白い太股を眺めているとエステルの手がスカートの裾を引いた。

「教官?」

はっとして視線を上げると恥ずかしそうな顔をしたエステルと目が合う。

「少し短すぎはしないか」
「嫌いですか?」
「いや、好き嫌いの問題ではなくだな」
「教官がお嫌いなら次からは長くします。短いのは嫌いですか?」

ゲイルは返答に詰まって唸る。
短いのが嫌いなわけではなく、他の男の目に入るのが嫌なのだ。
さんざん迷ったあげく、ゲイルは溜め息混じりに答えた。

「嫌いではない」
「じゃあ、次も短いのにします」
「それはだめだ」

エステルは不思議そうに首を傾げる。

「あまり、その、見せびらかすな」
「はい?」
「よからぬ虫がついては困るだろう」

二度瞬きを繰り返した後、エステルは唐突に吹き出した。

「やだ、教官ったら」
「笑うなよ。私は君を心配してだな」

エステルは少しだけゲイルに近づき、彼の胸に頭を預ける。

「教官に会いに来るときだけですから」

ゲイルの体が強ばり、表情が固まる。

「わかります? 少しでいいから教官に女として見てほしくて」

頬を擦り寄せ、エステルは囁く。

「私の気持ち、教官はいつも気づかないのですね」

エステルの髪からは甘い香りが漂い、まるでその香りに酔わされたように眩暈を感じる。
喘ぐように名を呼ぶと、エステルがくすりと笑った。

「いいんです。それでも私は教官が好きですから」
「エステル。私は君の気持ちには答えられない。期待をさせるようなことをしてしまったのは本当に申し訳ないが」
「本当にわかっていないのですね」
「わかっているさ」
「いいえ、教官はわかっていません」

きっぱりと言い切られ、ゲイルは口をつぐんだ。

「教官が一言……そうです、たった一言でよいのです。愛していると仰ってくださるなら私は家も家族も名前すら捨ててかまわない」

顔を上げてゲイルを見つめるエステルの眼差しは真剣そのもので、ゲイルはごくりと唾を飲み込んだ。

「教官の気持ちを教えてください。あなたはいつだって私を慈しんでくださいました。眼差しで指先で唇で、あなたは伝えてくださったではありませんか」

エステルの幸せを思うならば身を引くべきだと理性が訴えかける。
だがしかし、エステルの幸せとは何だ。
家柄のつりあう男と一緒になるのが幸せか。
ゲイルの目の前で、震える手を握りしめて愛を訴えるエステルがそんなことで幸せになれるのか。
ゲイルの脳内を疑問が浮かんでは消えていく。

「私は自信がない」

ぽつりとゲイルが呟く。

「君を幸せにしてやれる自信がない。君の生まれは私からしてみればあまりに貴い。住む世界が違うとしか思えない」

ゲイルの腕をエステルが掴む。
その手に指を絡め、エステルはきつく手を握りしめた。

「触れているではありませんか。世界とは何です? 私は今こうしてあなたに触れています。それでも越えられぬものがあるのですか?」

エステルの瞳に涙が滲み、今にもこぼれ落ちてしまいそうになる。

「あなたが気になさるのであればハインツの名を捨ててもかまわないのです。私はただの女です。どこにでもいるただの女なのですよ?」
「エステル……」
「怖がらないで、私はあなたを愛しています。何があっても、ずっと、愛しています」

エステルの頬を涙が伝い、ゲイルは無意識にエステルに掴まれていない方の手でその頬に触れた。

「すまない」
「ゲイル教官!」
「いや、そうではなくて……君にそこまでいわせる自分が情けなくてな」

ゲイルは困ったように眉をよせながらも笑んでみせた。

「私も覚悟を決めよう。君を愛してはいけないと自分に言い聞かせてきたんだがそれで止まるようなものでもないからな」
「それでは」
「ああ、愛しているよ。私はずっと……たぶん、初めて会った時から君が好きだった」

はっきりと言ってやるつもりが声がかすれてしまう。
大粒の涙を溢れさせたまま、エステルはゲイルの胸にすがりついた。
エステルの髪を優しく撫で、ゲイルはエステルが落ち着くのを待った。
先のことを考えると胃が痛くなりそうだが、今は何も考えずにエステルの髪の感触を楽しむことにした。
しばらくしてエステルの涙も止まり、猫が甘えるようにゲイルの胸に頬を擦りよせてきた。

「もう一回」
「ん?」
「もう一回言ってください」
「そうそう何度も口にするようなことではないだろう」

甘えながらねだるエステルにゲイルは照れているのか冷たく答える。

それでもエステルは嬉しそうな表情のままだ。
冷たく言い放ってもゲイルの手は優しく髪を撫で続けているのだから。

「じゃあ、いいです」

ごそごそと体を動かし、エステルはゲイルの太股に跨るように座り込んだ。

「かわりに態度で示してください」

きょとんとしているゲイルの前でエステルはカーディガンを脱いだ。

「エステル?」
「こういう時は愛を交わすものではないのですか?」

シャツのボタンに手をかけたエステルをゲイルは焦って止める。

「どうしてそうなる」
「違うのですか?」
「違わないかもしれないが、もっと段階を踏んで、こう、心の準備とか」

ぶつぶつと小声で説明するゲイルの手を掴み、エステルは胸に押し当てた。

「心の準備ならできています」

服越しとはいえ柔らかな感触が伝わり、ゲイルの中の欲望が目を覚ます。
素直すぎる自身の欲望に狼狽しながらもゲイルはエステルを止めようと必死になる。

「せめて退院してから……っ、エステル!」

強引に唇を重ねてきたエステルの肩を引き離そうと掴んだが、結局ゲイルは欲望に屈してしまった。
口づけだけは会う度に交わしていたおかげかエステルは器用にゲイルの理性を崩していく。
ゲイルの教えたとおりに舌を絡めて吸いつくのだからたまらない。
ゲイルの手は自然とエステルの太股に触れていた。
肝心な場所には触れず、ただ撫でるだけ。
エステルの指がゲイルのシャツにかかり、ボタンを一つずつ外していく。
半ばまで外されてようやくそのことに気づいたゲイルはエステルの腕を掴んで唇を離した。

「す、少し待て」

とろんとした眼差しで見上げてくるエステルを眺めていると理性などかなぐり捨てて骨の髄まで貪り尽くしてしまいたくなる。

「教官……嫌なのですか」

エステルの手が開いたシャツの隙間から入り込んで腹を撫でる。

「嫌なわけがあるか! しかし、ここは病院だ」
「ナースコールでも押さない限り誰もきません。そのように言いつけてあります」

呆気にとられたゲイルにエステルはいたずらっ子のように笑う。

「だって、教官と少しでも長く一緒にいたかったのですもの」

エステルの腕を引き、ゲイルは荒々しく口づけた。
半ば自棄になったゲイルはエステルのシャツをたくしあげて胸に触れた。
意外と大きな胸はゲイルの荒っぽい愛撫で下着からこぼれだし、ゲイルはそれを直に触れて揉みしだいていく。

ゲイルの荒々しさにエステルは僅かに体を固くしたものの、すぐに緊張を解いてゲイルの愛撫に応えた。
求めてやまなかったものが腕の中にある。
逃げるどころか協力的で、むしろ積極的ですらある。
ゲイルを止めるものなどどこにも残っていなかった。

「……痛っ」

苦痛を訴えるエステルの呻きに気づき、ゲイルは顔を上げた。
エステルの胸の頂はゲイルの唾液に濡れて、てらてらと光っている。

「エステル?」
「あっ、だいじょうぶ…です」

エステルの中へ挿入していた指をゲイルは引き抜いた。
すっかり困惑した様子のゲイルにエステルは困ったような表情を浮かべる。

「まさか、初めて……なのか?」
「そうではないと思っていらしたのですか?」

悲しげな顔をしたエステルにゲイルは自分の浅はかさを呪った。

「いや、そうではないかと思っていたのだが君があまりに積極的だからもしかしたら初めてではないのかもしれないと」
「だって、私がお願いしないとあなたはいつまでも何もしてくれないような気がしましたから」

おそらくきっとその通りだろう。
ゲイルは返す言葉もないとうなだれる。

「エステル、力を抜いてごらん」

もう一度エステルの秘裂に触れ、今度は蜜を絡めながら入り口を撫でる。

「私だけよくなっても仕方あるまい。君にも感じてほしい」

敏感な頂を再度口に含み、舌で転がしたり吸い付いたりしてゲイルはエステルの感度を高めていく。
次第にエステルも甘い声を上げはじめ、もどかしい刺激に焦れたように腰を揺らし出す。
ゲイルは頃合いを見計らって再び指を挿し入れた。
先ほどよりは抵抗も緩く、エステルの痛みも和らいだように見える。

「ん…あ、教官! やっ、なんだか…へんなかんじ」

耳朶を噛み、愛を囁けばエステルの反応は殊更強くなる。
指の本数を少しずつ増やし、ゲイルはエステルの中が解れていくのを辛抱強く待った。

「あっ、あっ…ああッ」

敏感な肉芽を摘んでやるとエステルの体が大きく跳ねた。

「あっ、だめ!」

いやいやをするように激しく首を振るエステル。
ゲイルはかまうことなく陰核を撫で続けた。
執拗に愛撫を続けているとエステルの体がびくりと強張り、小刻みに震えた。
軽く達したのだと判断し、ゲイルは指を引き抜いた。

「君は本当に可愛いな」

濡れた指をぺろりと舐め、ゲイルは愛しげに呟く。
エステルはぐったりとしてゲイルの胸に寄りかかっている。

「疲れたろう。続きは私の足が治ってからにしないか?」
「でも、教官はまだ……」
「私は君と違って自分でどうとでもできるからね。そこは心配しなくていい」

指だけで痛がったエステルを片足が使えないような不自由な状態で優しく抱いてやるのは難しい。
初めてで上になれというのも酷な話だ。
エステルが初めてでないのなら最後までしてしまいたかったが、そうでないのなら我慢してもいいとゲイルは思った。
我慢するのはわりと得意な方なのだ。

「教官」

しばらく無言で考え込んでいたエステルが思い切ったように真剣な顔でゲイルを見上げた。

「ご自分でどうにかされるくらいなら私がどうにかいたします。手を使えばよいのですよね」
「エステル、それは」
「初めてですから上手くできるかわかりませんけれど、教官が教えてくだされば何とかなりそうな気がします」

服の上からエステルの手が欲望に触れる。
どうしていつも思い通りにならないのかと嘆きながらも、ゲイルはエステルに押し切られて呟いた。

「……わかった。とりあえずズボンのチャックを開けてくれ」
「はい!」
「あと、頼むからあまり強く掴んでくれるなよ」
「はい!」

まるで訓練に望むかのようなエステルの態度にゲイルは脱力してしまうのだった。






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