セラスとルゥ
シチュエーション


「エシェンバード!」

広い屋敷の中、少女は一つの名を連呼しながら扉という扉を開け回っていた。
タートルネックのセーターとプリーツのミニスカート、ニーソックスにローファー。身につけたものはすべて黒で統一されている。
鳶色の髪は高いところで一つに括られ、肌の色は白い。同じく鳶色をした瞳には怒りの炎が燃えていた。

「エシェンバード!」
「……やあ、セラス。そんなに情熱的に呼ばなくても私には君の気持ちを受け止める覚悟があるよ。心配しなくても逃げたりしないんだけどなあ」

白衣を着た長身痩躯の青年が場にそぐわぬ笑顔を見せた。
セラスは眉間に皺を寄せ、鷹揚に腕を組んだ。

「そう。覚悟はできてるわけね」

言うが早いかセラスはエシェンバードに殴りかかった。
すんでのところで拳を受け止め、彼はアイスブルーの瞳を困惑に揺らした。

「君の気持ちを受け止める覚悟はあっても、拳を喰らう覚悟はないんだけど」
「うるさい!」

両手を掴まれた状態でセラスが喚いた。彼女が酷い興奮状態にあるのは一目瞭然だ。
エシェンバードは溜め息をついて彼女に問いかける。

「君の機嫌を損ねるようなことしたかな?」

セラスの顔が一気に怒りに染まる。

「私のルゥに何したのよ!」

エシェンバードは首を傾げる。

「ルゥっていうのは君の愛玩動物のことかい」
「それ以外に何がいるのよ!」
「うーん、心当たりは皆無だな」

彼が嘘をついているようには見えず、セラスはようやく体から力を抜いた。
それに気づいたエシェンバードも彼女の腕を解放した。

「前に実験したいとか言ってたからあんたが勝手にルゥを弄りまわしたのかと思った」
「君の許可なく触れたりしたら私はあれに八つ裂きにされるだろうからそれはないね」

セラスは大きく溜め息をつき、倒れ込むようにして近くの椅子に腰掛けた。

「ルゥが変なの」

ぽつりとセラスが呟く。

「部屋に閉じこもって出てこないのよ。散歩もしないし、ご飯も食べないの」
「ふーん」
「時々呻き声は聞こえるし」
「そう」

気のない返事を返すエシェンバードをセラスはきつく睨みつける。

「私が診察してあげようか、くらい言ったらどうなのよ!」
「あのねえ、確かに私はあれに興味があるけど、君は私の実験に非協力的だからね、データがない。どこに異常があるかなんて私にはわからないよ」
「とにかく! 一回診てよ。わかんなくても怒んないから……お願い。心配なの」

エシェンバードはあからさまに嫌そうな顔をしてセラスを見下ろす。

「嫌だなあ。見返りのない労働って嫌いなんだよね」
「エシェンバード。ルゥに何かあったら一生恨むわよ」
「怖い顔しないでくれよ。ああ、災難だなあ。私ってどうしてこう不幸なんだろう」

渋々といった様子でエシェンバードは棚から鞄を取り出し、怪しげな器具をあれこれ詰め込みはじめるのだった。



「いやあ、春は恋の季節だからねえ」

パタンと後ろ手に扉を閉めてエシェンバードはしみじみと呟いた。

「はあ?」

腕組みをして彼を待っていたセラスは不機嫌な声を上げる。
嫌がるルゥを扉越しに説得し、エシェンバードだけが入るという約束で扉を開けさせた。
一緒に中に入るつもりだったセラスは、分娩室の外で待つ夫のように落ち着きなく歩き回っていたのだった。
やっとのことで現れたかと思えば、エシェンバードはわけのわからないことを言う。
セラスは非常に苛立っていた。

「前も言ったと思うけどあれは人間じゃないからね、我々の常識は通用しないんだよ」
「わかってるけど。だから、何だってのよ?」
「セラス。君は発情期って知ってる?」

ぽかんと口を開けてセラスはエシェンバードを見た。

「人間は万年発情期だけど、大体の動物はそうじゃないだろ。求愛する季節が決まってるものだ」

彼が何を言い出したのかセラスが理解するまでに多大な時間を要した。
エシェンバードの言いたいことを理解してかあっと顔を染めたセラスを見て彼は満足げに頷いた。

「まあ、そういうこと。時期が来るまで放っておくか、そこらの雌犬もしくは娼婦でも買って放り込めば事態は解決だね」

とんでもないことを淡々と語り、エシェンバードは鞄を担いで立ち去ろうとする。

「待ちなさいよ! 放っておくなんて可哀想だし、犬や娼婦を放り込むなんて問題外だわ」
「じゃあ、君が相手する? 相当な体力が必要だと思うけどね」

絶句するセラスを置いて、エシェンバードはさっさと屋敷から立ち去っていくのだった。



セラスは迷っていた。
ルゥを拾って三年半、よもやこんな事態に遭遇するとは夢にも思っていなかった。
拾ったばかりの頃はセラスよりも小さくて弟のようだったルゥがここ一年あまりで平均的な成人男子以上の逞しい体に成長した。
中身は子どものように甘えん坊のままなのに体ばかりが大きくなってしまい、最近は少しだけ扱いに困っていたのも事実だ。

大人の男に抱きつかれて頬をすりよせられたり、舐められたりというのは変な感じがするものだ。
セラスは深々と溜め息をこぼす。
発情期だなんて、これで名実ともに大人になってしまったわけだ。

「ルゥ?」

セラスは扉越しにルゥに声をかけた。
何はともあれ、まずはルゥと話し合う必要がある。
もしもルゥが女性を欲したなら不本意だが娼婦を買うぐらいのことはしてもいい。それも飼い主の義務だ。

「入るわよ」

ドアノブに手をかけた瞬間、中から拒絶の声がした。

「ルゥ、顔が見たいわ」

扉にぴたりと体をよせ、セラスは訴えかける。

「お願いよ、ルゥ」
「だめだよ、セラス」
「どうして。私のこと嫌いになったの?」

言いながらセラスはいいようのない不安に襲われた。
ルゥに本当に嫌われてしまっていたら──

(そんなのはいやっ!)

ルゥからの返事はいつまで待っても返ってこない。
セラスは痺れを切らしてもう一度ドアノブに手をかけた。
しかし、ドアノブをひねるとルゥが悲痛な声でそれを拒絶する。

「セラス。僕はセラスの顔見たくない」
「ルゥ!」
「僕、変なんだ。体が熱くて、胸が苦しくて、セラスのことばかり考えてる」

ルゥの声は震えているようだった。

「ドクターが言ってたよ。僕はセラスに近づかない方がいいって。側にいるとセラスをめちゃくちゃにしちゃうから。僕もそう思う」
「ルゥ、あんな奴の言うこと真に受けちゃだめよ」
「僕はセラスが大好きだ。セラスは僕に名前をくれた。たくさん、いろんなこと教えてくれた。セラスは僕の大事なご主人様だ」

ルゥの声を聞いているとセラスまで胸が苦しくなってきてしまう。
我慢できなくなったセラスは部屋へ押し入った。

「あ……セラス!」

想像以上に部屋は荒れ果てていた。
ベッドはずたずたに引き裂かれて中身の綿や羽根が散らばっており、柱や壁は爪でひっかいた跡だらけだ。隣の浴室もおそらくは悲惨な状態になっているに違いない。
部屋の真ん中にルゥは座り込んでいた。
ズボンだけを身につけた格好で、髪はくしゃくしゃに逆立ち、瞳は涙で潤んでいる。耳と尻尾は力なく垂れ下がっており、すっかり元気をなくしている。

「セラス、だめだ、来ちゃ嫌だ」

ぎゅっと自分の膝を抱えてルゥは小さく丸まる。
その姿を見ているとルゥは痛いほどに胸が締め付けられた。
体が大きくなっても、やはりルゥは初めて会った時の小さなルゥのままなのだ。

「ルゥ、大丈夫よ」

セラスは膝をついてルゥの体を抱きしめた。

「怖がらなくていいの。大丈夫」
「セラス……」
「一人で苦しむなんて、ルゥはおばかさんだわ」

ちゅっとルゥの旋毛にセラスはキスをする。

「やだ、あっちにいって」
「嫌よ。私だってルゥが大事なんだから」

いやいやと頭を振り、ルゥの尻尾がセラスの太ももを叩く。

「私が何とかしてあげる」

ルゥがおそるおそる顔を上げる。

「こういう時は出すもの出すとすっきりするって聞いたことがあるわ」

ルゥを安心させようとセラスはにっこりと笑んだ。

「ご主人様のいうことには従うこと。大丈夫だから、私に任せて。ね?」

不安な面持ちながらルゥはこくんと頷いた。
セラスはルゥの正面に座り込み、彼のズボンに手をかけた。
チャックを一気に下げ、前をくつろげるといきり立つ欲望が現れる。

「あ、やだ」

ルゥは恥ずかしそうにうつむいて尻尾をせわしなく動かす。
それでもセラスを突き飛ばしたりしないのは任せると約束したからだろう。

「あ、あの……ごめんなさい」

だらだらと先走りをこぼすものをまじまじと眺めているセラスにルゥは謝る。

「いいのよ。ルゥはなんにも悪くないんだから」

そう言いながらもセラスは想像以上の大きさに動揺していた。
しかし、これも可愛いルゥのためと覚悟を決めて、セラスはそれに手を触れた。

「んっ……」

ぴくりとルゥの体が反応し、先走りがより一層溢れた。
セラスはその粘液を絡めるようにして根元から先端を握りしめて往復していく。
セラスには陰茎に触れた経験などなく、力加減もよくわからなかったがルゥの反応を見て加減を調節する。
少し強めに握り、激しく上下させるとルゥが気持ちよさそうに呻いた。

「ルゥ、気持ちいいの?」

くちゅくちゅと濡れた音がする度にルゥは恥ずかしそうにぎゅっと目を閉じる。

「ねえ、ルゥ」

セラスは胸がドキドキしてくるのを感じていた。
自分の行為がルゥに快感をもたらしているのだと思うとなぜだか酷く興奮した。

「ルゥのすごく大きくなってるわ」
「んっ……そんな、うあっ」
「ほら、びくびくしてる」

恥ずかしそうに顔を振るルゥを見ていると少しだけ虐めたくなり、セラスは顔を耳元へ近づけて声低く囁く。

「いってごらんなさい。セラスの手が気持ちいいって」
「ふっ……いい、きもちい…セラスの手、やわらかくて…あっ、すごく、いいっ」

次第に我慢できなくなったのか、ルゥは自分からセラスの手に擦りつけるように腰を動かしはじめる。
セラスは手の中でどんどん質量を増す陰茎に驚きながらもスピードは緩めずにルゥを追いつめていく。

「セラス! なんか、出る。だめっ……あ、うあああっ」

大きく脈打ち、大量の白濁をルゥは吐き出した。
白濁はセラスの手だけではなく、髪や衣服までもそれは汚していく。
長い射精を終え、ルゥは深々と息を吐く。
そして、自らの欲望に汚されたセラスを見て慌てふためいた。

「あ、あ、ごめんなさい。きれいにするから」

呆然としているセラスに顔を近づけ、ルゥは頬についた白濁を舐めとる。
自身の精液を舐める嫌悪感よりも、セラスを汚した罪悪感の方が強かった。
顔についた白濁を舐め終え、ルゥは髪を舐めはじめる。

「あ、ルゥ」

ようやく我にかえったセラスはくすぐったそうに身をすくめた。
それでもかまわずにルゥはセラスの髪を熱心に舐める。
セラスは自身の手にまみれた白濁を眺める。
そして、未だ猛ったままのルゥの欲望へと視線を移した。

(まだ、あんなに……)

大人しくさせるにはあと何度出すもの出せばいいのかとセラスは眉をしかめる。

「ごめんなさい、セラス」

髪を舐め終えたルゥがセラスの手を掴んで舐めはじめる。
ルゥの舌が指を這い、ぱくりと咥えて吸いつく。
ぞくりとセラスの背筋を何かが走る。
青臭い雄の香りとルゥへの愛情、触れてくる舌の感触がセラスの欲望を僅かながら刺激しはじめていた。

(やだ。なんだか私……)

高鳴りはじめた胸に気づき、セラスは動揺していた。

「セラス、大好きだよ。だから、嫌いにならないで」

必死に訴えかけるルゥの切実な眼差しにセラスの中の何かが弾けた。

ルゥの顔を両手で挟み、セラスは唇をよせた。
そして、そっと唇を離して重ねるだけだった口づけを深めるべく角度を変えて再度唇をよせた。

「ん…ふっ」

舌を絡めるキスの合間に吐息が漏れる。
自分の口から漏れたとは思えないような甘い声にセラスは恥ずかしそうに唇を離す。
口の中には先ほどルゥが舐めとった精液の味が広がっていたが、セラスはそれを不快に思ったりはしなかった。

「ルゥは私にこういうことしたかったんでしょ」

図星をつかれたとばかりにルゥは目を見開いてセラスを見下ろした。

「それとも、もっといやらしいこと考えてたの?」

そっと猛った陰茎に手を触れれば、ルゥは切なげに目を細めた。

「ごめん、ごめんなさい、セラス」
「……私だけ?」

ゆっくりと手を上下に動かしながらセラスは問う。
質問の意味がわからないようでルゥは首を傾げた。

「他の女の子のいやらしいとこも想像した?」

ルゥは首がちぎれるのではないかというほどに激しく振って否定する。

「せ、セラスだけ…セラスだけだよ。僕、セラスが好きだ。セラスじゃなきゃいやだ」

抱き寄せられ、セラスはルゥの大きな胸に押し付けられる。
陰茎から手を離し、セラスもルゥの背に両手を回した。

「ルゥ、優しくしてくれる?」
「え? あ、でも、あの……い、いいの?」
「優しくしてくれるの?」

セラスの肩に手を置き、ルゥは少しだけ体を離した。
そして、真剣な顔でセラスを見つめる。尻尾も耳もぴんと逆立っている。

「が、頑張る! 頑張って優しくする。セラスを壊したりしないよ」

本当なら本能に身を任せて目の前の女体をめちゃくちゃに貪り尽くしたいに違いないルゥがセラスへの愛情だけを支えに理性を保っている。
その愛情の深さにセラスは感動を覚えるのだった。

「愛してるわ、私のルゥ」

ルゥは髪留めを外してセラスの髪を下ろしてしまう。
そして、セーターの中に手を差し入れた。
唇を重ねながら初めはおそるおそる触れていたルゥだが、口づけに夢中になるにつれて手の動きも荒々しさを増していく。
ぐにゃぐにゃとルゥの手のひらの中でセラスの胸は形を変える。

「ん…ふぅ……あ、あっ」

ルゥに体重をかけられてセラスは床に倒れ込む。
セラスの足を開かせ、ルゥはその間に体を割り入れる。
唇を離す度にルゥはセラスの名を繰り返し呼び、そうしていなければ息ができないとばかりにセラスの唇を奪い続ける。

陰茎が太股に触れ、セラスの体がびくりと跳ねた。

「セラスのここ、おいしそうだ」

唇を離して体を起こし、ルゥはセラスの股間を撫でながら呟いた。
胸を愛撫する手は休めずに、ルゥはゆっくりと体を後方にずらした。
ルゥが何をしようとしているのか察したセラスは慌てて両手でスカートを掴んだ。

「だめだめだめだめ! 絶対だめ!!」
「でも……」
「それだけは絶対いやっ!」

しゅんと耳を垂らし、ルゥは残念そうにしながらも頷いた。

「セラスがいやならしないよ」

目標を乳房に変え、ルゥは身を屈める。
赤く色づいた頂を口に含み、舌で転がしたり吸いついたりと思うままに愛撫する。

「やっ……あん、ルゥ」

唇に拳を押し当て、セラスは熱い吐息を漏らす。
ルゥが触れた場所がことごとく熱を持ち、セラスの体を溶かしていく。
ルゥの舌は乳房から臍へ移動し、舌先でそこをつついた。

「ああん、や…ああ……」

蕩けきった場所に指を挿入され、セラスはきつく目を閉じた。
ルゥが指を動かす度に淫靡な音が響く。

「すごい。セラス、どろどろだよ」
「やあ……いわな、で…んんっ」

すっとルゥが指を引き抜き、セラスの腰を抱え込む。
太股でセラスの足を跳ね上げ、次の段階へ進む準備を整えた。

「僕、もう……セラス、我慢できないよ」

荒々しく口づけながら、ルゥはセラスの中へと侵入を試みる。
陰茎の先端が触れ、蜜を絡めながら狭い場所へと潜り込んでいく。
挿入とキスの刺激でセラスの思考は完全に麻痺していた。
陰茎がすべて収まりきるとルゥはおもむろに腰を振り始める。

「んっ、あっ、あっ、ああっ、あっ」

痛みはさほどなかったが、体を抉られるような異物感がセラスを襲う。
抉るように奥まで突き上げて、襞をひっかけるようにして引いていく。
ルゥの動きに合わせてセラスの口からは絶え間なく喘ぎが漏れていた。

「セラス、セラス! あっ、きもち…いっ……いいっ!!」

すっかり快楽の虜になってしまったようでルゥはより深くセラスを犯すべく苦心していた。
本能のままに突き上げるスピードを変えてみたり角度を変えたりしていたが、それでも足りないとセラスの足を掴んでより大きく開かせてみたりする。

「ああっ、だめ……あっ! ルゥ…ルゥ!! あああっ! はげしっ……ああん!」

くるりと体を反転させられ、セラスは腰だけを突き出す格好にさせられる。
獣が交わる時の格好なのだとセラスは薄れる意識のどこかで気づいた。

セラスの腰を抱き込み、覆い被さるようにして乳房を揉みしだく。
譫言のようにセラスの名を呼び、時折低く呻きながらルゥは快楽だけを追い求める。
乱暴に、荒々しく抱かれているというのに、耳元で名を呼ばれる度にセラスの襞は陰茎をきつく締め付けた。
セラスもまた快楽に溺れつつあったのだ。
ルゥの動きに合わせて無意識に腰を揺らしながら、セラスは悲鳴に近い嬌声を上げてルゥの求めに応えた。

「だめ…だ、ああ、セラス!」
「や、あ…あ、ああああああっ」

獣の咆吼をあげながらルゥは二度目の精をセラスの胎内に吐き出した。
自分の中に異物が吐き出される感覚にセラスもまた生まれて初めての絶頂に達した。
ぐったりと力なく床に突っ伏したセラスだが、腰はルゥに掴まれたままだ。
ぶるぶると体を震わせて射精を終えたルゥは再び腰を揺らし始める。

「ひっ……あ、ああっ!」

達したばかりで敏感になっている内部を遠慮会釈なしにかきまわされてセラスは再び悲鳴を上げて仰け反るのだった。



気がつけば自室のベッドに横たわっていた。
体が酷くだるい。エシェンバードが相当な体力が必要だと言っていたのをセラスは今更思い出した。

「セラス……よかった」

床にぺたりと座り込んでベッドに頭を乗せていたルゥがほっとしたように呟いた。

「ごめんなさい。優しくするって約束したのに」
「いいの。覚悟はしてたもの」
「体、大丈夫?」

あまり大丈夫ではなかったが、ルゥを安心させるためにセラスは微笑んだ。

「ルゥは? もう平気?」

こくんとルゥは頷く。

「セラスのおかげで大丈夫になった」

セラスは腕を伸ばしてルゥの頭を撫でた。
ぱたぱたとルゥが尻尾を振ったようで床を叩く音がする。

「よかった」

二人は暫く顔を見合わせて微笑みあう。
ふと何かを思い出したようにセラスは動きを止めた。

「そうだわ。ルゥの部屋を直さなきゃ」

散々な状態の部屋を思い出したのだ。

「部屋が直るまでは客間を使うといいわ」

セラスの提案にルゥは物言いたげな視線を送る。

「なあに?」

しばし迷ったあげくルゥは意を決したように口を開いた。

「僕、セラスと一緒の部屋がいいな」

可愛いルゥのわがままをきくか否かセラスは小一時間ほど頭を悩ませるのであった。






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