シチュエーション
![]() 支えるように腕に手を添えられた瞬間、エレインの体に電流が走った。 それはエレインの体を甘美に焼き付くし、あっという間に欲望に火をつけた。 「大丈夫ですか、マダム」 低い声が顔のごく近くで聞こえた。 とろりとはしたなくも蜜が溢れはじめたことに気づき恐怖におののく。 自分は使用人に欲情している。 ただ、手が触れただけだというのになんという有様か。 エレインは羞恥に顔を赤く染めた。 「マダム?」 訝しげにかけられた声でエレインは我にかえる。 「離しなさい、スティング。無礼ですよ」 毅然とかけたつもりの声が震えていたことに自身でも気づく。 (アルフレッド……助けて) 謝罪の言葉とともにスティングの腕がエレインから離れる。 解放されたことに安堵しながらも、一方ではそれをひどく残念に思ってしまう。 「わ、私……もう休みます」 「食事はよろしいのですか」 「いりません。今日はもう眠りたいの」 スカートの裾をはためかせて、エレインは淑女らしからぬ早さで階段をかけ上っていった。 自室の扉を勢いよく開き、寝台へと飛び込む。 (絶対に変に思われたわ) ぎゅっときつくシーツを握りしめる。 スティングは階段を踏み外しそうになったエレインを助けただけだ。 どうして何事もなかったように礼を言うことができないのだろう。 スティングを前にするとエレインはいつも正常ではいられない。 (アルフレッドがいてくれたら) 今は亡き夫に思いを馳せ、エレインはシーツに顔をすりつけた。 頬が火照って仕方がないのだ。 (やっぱりだめ) がばっと起き上がり、エレインは窓へ歩み寄りカーテンを閉めた。 扉もしっかりと閉めて、ドレスを脱ぎ捨てる。 下着すら脱ぎ捨てレースの靴下だけになり、エレインは寝台へ横になった。 (アルフレッドはいつも) そっと乳房に触れてみた。 ゆっくりと揉んで感触を確かめる。 アルフレッドが触れたときのことを思い出しながら、指先で乳房の先端に触れた。 びくりと体が跳ねる。 「あっ……」 いけないことをしていると思いながらも指は止まらない。 弾くようにして刺激し、エレインは熱い吐息を漏らした。 両手を使って乳房を弄りまわしていると下腹部がきゅんと切なくなる。 ほんの少しの恐れと多大な期待を込めて、エレインは蜜を溢れさせるそこへ右手を伸ばした。 「ひゃん」 茂みをかきわける内に敏感な部分に指が触れた。 そこはアルフレッドが見つけ出したエレインの秘密の場所だ。 ゆっくりと撫でると快感が背筋を駆け上る。 ぼんやりとしはじめたエレインの意識の中にはいつしか黒髪の執事が見えていた。 エレインの指はスティングの指に変わり、秘めた場所をかきわけてエレインを溶かしていく。 「ん、あっ……や、はぁ」 ぐちゅぐちゅと淫らな音を奏で、スティングはエレインの秘裂に指を差し入れる。 二本の指を抜き差ししながら、親指で陰核を刺激する。 「気持ちいいのですか」 いつもの淡々とした口調まで聞こえてくる。 「あっ、あっ、いい…いいの、んっ、ああッ」 夢中だった。 エレインは恥も外聞も忘れてただただ快楽に夢中になった。 「あッ、ああ…スティング……あッ、あッ、ああああっ!」 アルフレッドと抱き合った時ですら見せたことのないほどに乱れ、エレインはあっという間に高みにのぼりつめた。 ぐったりと体の力を抜くと覆い被さっていたはずのスティングが消える。 それはエレインの欲望が作り出した幻なのだから当たり前なのだが、エレインは酔いから冷めたように急激に正常な思考を取り戻した。 (わ、私は……今、何を……) さあっと全身から血の気が引いていく。 あろうことか使用人を思い起こして自らを慰めた。 死んでしまいたいほどの後悔がエレインを襲う。 (ごめんなさい、ごめんなさい、アルフレッド!) ぬめった蜜のこびりついた手で顔を押さえ、それに気づいて慌ててシーツで指を拭う。 気だるい体も、噎せかえるような女の香りも、何もかもがエレインを追いつめる。 (私はなんて浅ましい女なの) エレインは自分を責めながら泣いた。 ぐずぐずと鼻を啜っていると、扉を叩く音がした。 びくっとエレインの体が強張る。 「マダム、起きておられますか? マダム」 スティングの声だ。 エレインは半身を起こし、シーツを手繰り寄せて胸元までを覆い隠した。 口を開きかけたその時、ドアノブが回った。 許可をした覚えはないのにとエレインが呆気にとられている内にスティングが部屋へ進入してきた。 手にした盆には湯気の立ち上るカップが置かれていた。 寝台に座り込んだエレインに気づき、彼はそちらへ歩み寄る。 「やはり起きておられましたか。先ほど部屋の前を通りかかりましたら啜り泣くような声が聞こえましたので。無礼は承知で失礼させていただきました」 エレインが口を開く隙を与えぬようスティングは流れるように言葉を紡いでいく。 「温かいミルクをお持ちしました。ブランデーが入っていますから体が温まります。気分も落ち着くでしょう」 差し出されたカップを受け取ろうにも手を離してしまうとシーツが落ちて肌が露わになってしまう。 エレインが躊躇しているとスティングはカップと盆とベッドサイドのテーブルへ置いた。 「それともあなたに必要なものはこちらですか? マダム」 唐突に腕を引かれ、唇が重なる。 強引に差し込まれた舌は遠慮もなしにエレインの咥内をまさぐる。 何が起こったのか理解できずにエレインはとっさの反応がとれない。 スティングはシーツを剥ぎ取るとエレインを寝台に押し倒した。 「男日照りが長いとつらいものですか」 スティングの口調に揶揄するような響きが混ざり、エレインの頬がかっと赤く染まる。 迷うことなく両膝を割り開き、スティングはその間に体を割り入れる。 「こんなにして。いやらしいのですね、マダム」 「は、はなして……」 ようやく口をついてでた否定の言葉は自分でも驚くほどに弱々しいものだった。 「あなたが悪いのですよ。欲情も露わにいつも私の姿を盗み見ていた」 「や、ちが…っ!」 「私が気づいていないと思っていたのですか」 自分では止められなかった。 スティングは言葉を止めずに、首元のボタンを外してベルトを緩めている。 体を押さえるものは何もないのだから逃げようと思えば逃げられるはずだ。 「あなたの様子がおかしかったから追いかけて中をうかがえば私の名を呼びながら自慰に耽っている」 スティングがいきり立つ欲望を取り出してもまだエレインは身動きがとれない。 それどころか期待しているかのように、こんこんと蜜が溢れだしている。 「私にも限界というものがあります」 エレインの腰を掴み、スティングが力任せに引き寄せる。 蜜を絡めるように陰茎をこすりつけ、勢いよく突き立てる。 「あなたが悪いのですよ、マダム」 「ああッ!!」 先ほど達したばかりのそこは前戯もなしに挿入されたというのに易々と陰茎を受け入れた。 待ち焦がれた刺激にエレインは軽い絶頂感を味わう。 「もうイッたんですか」 動きの妨げにならないほどに潤ってはいるがきつく締め付けてくる膣の感触を味わうようにスティングは挿入したまま腰を回した。 「吸いついてきますよ。きつく締めあげて喜んでいる」 「や、やめ…て……ああん! あッ、ひっ」 「ほら、いやらしい。こんなに濡れている。気持ちいいのでしょう、マダム」 律動を開始しながらもスティングはエレインを苛むのをやめない。 淫らだと蔑まれながらもエレインは内から湧き上がる快感に抗えない。 自らの欲望だけを追い求めるような荒々しい動きにも快楽しか感じられない。 アルフレッドの時には感じたことのない体のすべてを持っていかれるかのような快感にエレインは溺れていく。 「イッてもいいんですよ。ほら、イきたいんでしょう」 奥深くに力強く打ちつけられ、エレインの体が震え出す。 「だ、だめ! あッ、や、ゆるし…ああっ」 「だめですよ。逃がしません。さあ、私の名を呼んで」 容赦ない責め苦にエレインは呆気なく屈した。 スティングの名を呼びながら、絶頂へと駆け上っていったのだ。 体から力を抜いた瞬間、体の奥に熱い何かが打ちつけられる。 スティングが精を放ったのだと気づいた途端にエレインの瞳から大粒の涙が零れた。 「こんなこと、ゆるしません、から」 絶え絶えな呼吸を繰り返し、エレインは呟く。 頭上でスティングが皮肉っぽい笑みを浮かべた。 「許さない? ではどうしますか。使用人に犯されたと公言して回るのですか」 エレインは言葉につまった。 スティングはゆっくりと身を屈めて顔を近づける。 耳朶を噛み、声低く囁いた。 「使用人に犯されて達してしまうような淫らな女だと」 どろりと自分の中が濡れていくのがわかる。 くつくつとスティングが笑った。 エレインの中におさまったままのものはまだ萎えてはいない。 「あなたは私を手放したりはしない。欲望には勝てない」 スティングが腰を引くと、エレインの体は離すまいときつく吸いついていく。 「すぐに理解しますよ、マダム。私の言葉の意味を」 ぐっと腰を押しつけられ、エレインは悦びに啼いた。 きっとスティングの言うとおり自分は彼を手元に置いてしまうのだろうと考え、しかしその思考もすぐに快楽に染まり消えていく。 淫らな水音を奏でて重なり合う体は離れることなく一つに溶けていくのであった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |