シチュエーション
![]() 光に満ちた庭園の中央にある東屋。 その壁の影になる部分で一人の少女が、傍らの少年にびっと指を突きつけていた。 「あんたってホント駄目ね! どうしてそうやってすぐ泣くのよ」 その少女は、ひらひらとしたワンピースが良く似合う人形のように愛らしい少女だった。 指を突きつけられた少年は、少女よりも二つ、三つほど幼いような 細い首がいたいけな少年であった。 彼は、少女と変わらぬほど大きな瞳にうるうると涙をためている。 少年は一人屋敷を抜け出した少女を追いかけてきたのだが、途中で 転んでしまったらしく膝の所に泥がついていた。 必死にしゃくりあげながら少女へと訴えている。 「だ、だっておじょうさまが……い、いなくなっちゃうと思って……」 「もー、ほら。泣かないの」 栗色の頭をなでながら、少女は少年の涙を袖で拭いてやった。 すると泣いたカラスがもう笑う、とばかりに少年はにこにこと満面の笑みを向けている。 「ぼく、ずーーっとおじょうさまのそばにいますね!」 その言葉に少女もまた、嬉しそうに微笑んだ。 ******* あの庭園での思い出は今はどこにいったのか。 彼と共に過ごした光の日々はどこまでも遠かった。 女は、精一杯の憎しみをこめて男をにらみつけた。 あまりの怒りに一瞬意識が白く飛びそうになる。 女の家はかつての使用人である男によって崩壊し始めていた。 「あんただったのね……」 「申し訳ございません、お嬢様」 その言葉はあまりにも静かだった。 見つめ合う男女の間に緊迫した空気が流れていく。 すると、男がふと唇を歪めて苦笑した。 「こうするしかなかったのですよ、お嬢様」 そう言うと、男は女の傍へゆっくりと近づいてきた。 「な、何よ……何をするつもり!? きゃ…」 男は女の体を抱え上げると寝台に向かって歩いていった。 彼が何を考えているかを察して、女は顔色を変えた。そして力の限りに暴れる。 「ちょっと、離しなさい! いや、いや、嫌っ!」 だが、それでも男の腕を振りほどくことは叶わなかった。 男はどさりと女の体をベッドへと横たえると、その上にのしかかっていった。 そして微笑んだまま女の唇にそっと指を当てる。 その指は昔と変わらぬ優しさを持っていて女は泣きそうになる。 「お嬢様、僕だっていつまでも貴女の後を追いかけていた泣き虫のままでは ありません。こうやって貴女を組み敷くことだってできる」 「…………」 何かを口にしたら泣いてしまいそうで、女はただ唇を引き結んだ。 その唇に男が熱く口付けてきた。舌が強引に割って入り込んでくる。 服が脱がされ、肌が夜気にさらされるのを感じる。 次いで彼の唇を感じ、指を感じ、そのまま女は快楽の海にたゆたいながら 遠い過去を回帰するのであった。 (続かない) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |