エステルとゲイル(やきもちやきな大佐編)
シチュエーション


扉の方から熱い視線を感じつつ、ゲイルは黙々と書類の整理をすることでそれに気づかないふりをする。
先日ユリシス・ハインツ中将の隊から転属となり今はマルグリッド・フィス大佐の隊にいる。
マルグリッド大佐の補佐官として働いているというわけだ。
どちらかというと文官に近い仕事をしているマルグリッドの元で働くことはゲイルにとっては新しい発見の連続でこれもまた楽しい。
しかしながら、マルグリッド本人を目の前にしてしまうと逃げ出したくなるのだから困ったものだ。

「熱心なのね」

一向に気づく様子のないゲイルに痺れを切らし、マルグリッドが口を開いた。
甘い、誘うような声音。
天気の話をしようが、仕事の話をしようが、ゲイルに向ける声はいつもそうだ。
脳裏にエステルのむくれた顔が浮かび、ゲイルは胃が微かに痛みだしたのを感じた。
近づいてくるマルグリッドを座ったまま出迎えるわけにいかずゲイルは立ち上がった。

「わからないことはない? 困っているなら手を貸してあげるわよ」
「お気持ちは有り難いのですが、今のところ大佐の手を煩わせるほどの疑問には出会っておりません。一人でなんとかなりますから」
「そう? さすがユリシス兄様の元にいただけあって優秀なのね」
「恐縮です」

恭しく頭を下げれば、マルグリッドがくすりと笑う。

「ねえ、少佐」

そっとマルグリッドの手が腕に触れ、ゆっくりとゲイルの腕を這う。
背中を変な汗が伝っていくのにゲイルは気づく。

「今夜、食事に付き合っていただきたいのだけど」
「申し訳ございませんが今夜は先約がありまして」
「そう。じゃあ、明日は?」
「明日も先約が」
「そう。きっと一年先まで予定で埋まってるのね、あなたのスケジュールは」

胃が痛い。
しかし、そんなことはおくびにも出さず、ゲイルは謝罪の言葉を口にする。
未だかつて女性──エステル以外──からこんなに熱心に口説かれたことはない。
マルグリッドが自分を誘う理由に気がついているからこそゲイルは頭を悩ませている。
どうやらエステルはマルグリッドのことがあまり好きではないらしい。
二人は従姉妹であり、昔からよく意地悪されていたのだと力説していた。
今までの言動その他から察するに、どうやらマルグリッドはエステルをからかって遊びたいがためにゲイルにちょっかいを出してくるらしい。

「エステルがそう言えって言ったの?」

その通りなのだが頷くこともできず、ゲイルは喉まででかかった溜め息を飲み込む。

「あまりあの方をいじめないでいただきたい。後で泣きながら八つ当たりされるのは私です」

転属初日にマルグリッドから食事をしながら隊の説明をすると言われて素直に食事に出かけたところ、それはムード溢れる高級レストランでディナーをとらされた挙げ句、
仕事の話など皆無で端から見れば親密に見えるだろう雰囲気を作り出されて困っていた場面にエステルが鉢合わせするという非常に手の込んだことをしてくれたのだ。
あの時のエステルときたら、思い出すだけで胃が痛い。
涙を目にたっぷり浮かべてマルグリッドに精一杯丁寧な態度で挨拶を交わし、ゲイルの手を引いてレストランを出た。
泣きじゃくるエステルを宥めるのにゲイルは凄まじい労力を使ったのだ。

「あら、あの子のむきになった顔ほど可愛いものはないじゃない」
「私はできれば怒らせたくありません」
「食事したくらいであんな顔をするんだもの。可愛いったらないわ」

これが直属の上官でさえなければどうとでもなるものを、無碍に扱うわけにもいかず、ゲイルはただただ心労を重ねるばかり。
おそらくはすべて承知の上で転属先を決めてきたユリシスを恨むことしかできない。

「ディナーが駄目ならランチはどう?」

懲りない上官を見下ろしながら、ゲイルは抑えきれずに深々と溜め息をこぼすのであった。







腰にタオルを巻いただけの格好でゲイルは髪を拭きながら寝室に足を踏み入れる。
一般兵の頃はシャワールームがついているだけだったが、士官になって浴室と寝室がついた。
ゆっくりと風呂につかれるだけ有り難いものだとゲイルは常々感じていたが、寝室も別でよかったと感じるようになったのはエステルが訪ねてくるようになってからだ。
寝台に横たわったエステルは布団にくるまってこちらに背中を向けている。
ゲイルは寝台に腰掛けてエステルの顔をのぞきこんだ。
待ちくたびれて眠ったようで、すやすやと寝息をたてている。
自分から訪ねてきたくせに機嫌が悪く、ろくに会話も交わせなかった。
とりあえず仕事帰りの汗を流してしまいたかったゲイルが風呂に入ってくると告げると何を勘違いしたのか顔を真っ赤にしてむくれていた。
寝台に潜り込んで眠ってしまうとは子どものようだと思い、ゲイルは苦笑して頬に口づける。
ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐり、そういえばここのところとんとご無沙汰だったと改めて思い至る。
気がついてしまうと欲求が沸き上がるもので、ゲイルは落ち着かない気分のまま立ち上がって書棚へ近づいた。
そこに置かれたウィスキーを手に取り、ついでにグラスを取りに行く。
再び寝台へ腰掛け、エステルを眺める。
目を覚ましはしないかと期待するが、どうやら夢の中にいるようで起きる気配はない。
ゲイルは仕方なくエステルの寝顔を肴にウィスキーを飲んだ。

(寝込みを襲うのは性に合わんしなあ)

ベッドサイドに置かれた箱から葉巻を取り出して火をつける。
葉巻をくゆらせてウィスキーを飲んでいるとたまには性に合わないこともしてみるべき気がしてくるから不思議だ。
葉巻を一本吸い終え、ゲイルはエステルをうつ伏せにする。
起きてもかまわないと思っているから動きに慎重さは感じられない。
背中のチャックを一気に腰まで引き下ろし、ついでにホックも外してしまって背中を露わにする。
久々に触れる肌は記憶通りの滑らかさでゲイルの劣情を煽る。
軽く肩に噛みつき、ゲイルは舌で背中を愛撫した。
エステルは背中が弱いようだから、うまくいけばこれで目も覚めるだろう。
しかし、吐息に甘いものが混じりはしてもなかなか目を覚まさない。
ゲイルは自らも横たわり、エステルの体を引き寄せた。
背中と腹がぴたりと密着し、ゲイルの勃ち上がりはじめたものがエステルの腰に当たる。

太股をエステルの秘裂に擦りつけるように動かし、乳房に直に触れる。
柔らかな感触に満足げに息を吐き、ゲイルはエステルの耳朶を口に含む。
次第にエステルが身をくねらせはじめ、甘い声をあげだす。
ぴんと尖った乳房の先端を指で押し潰すようにするとエステルが悩ましげに呻く。
下腹部へ手を伸ばし、下着の中へ差し込むとそこが既にたっぷりと濡れていることがわかる。
久しぶりなせいか我慢がきかず、今すぐ熱いものを突き立てたい衝動に駆られるがそんなことをしてしまえば目覚めたエステルに何を言われるかわかったものではない。
迷った挙げ句にゲイルはエステルを裸にして覆い被さり、軽く頬を叩いた。

「エステル」

ここまでして起きないとはいろんな意味で不安になる。
ゲイルはエステルの唇を塞ぎ、激しく咥内を弄った。
苦しげに身じろぐエステルを押さえつけ、熱い口づけを交わす。
程なくして息苦しさに耐えかねたエステルが目を覚まして、ゲイルの胸を力一杯押した。

「き、教官?」
「よし、目が覚めたな」
「え、ひっ……あああっ!」

エステルが目覚めたことを確認するが早いかゲイルはエステルの中へと身を埋める。
何がなんだかわからないまま、エステルはゲイルにしがみついて喘いだ。

「ああ、やはり君は素晴らしい」

感嘆の吐息をつき、ゲイルはエステルの額や頬に口づけを落とす。
そして、緩やかに腰を揺らし始めた。

「あっ、ま……待って、ひゃあっ」
「待てない。私は君が目を覚ますまで十二分に待った」

一方的かつ理不尽な言葉を口にしながらゲイルはエステルが与えてくれる快楽を思う様に貪り、それと同等の快楽をエステルに与えようとする。
乱暴とも思えるほどにゲイルは高みを目指して内部を激しく行き来する。
奥深くで粘膜が擦れ合う度に快感が増していく。
咽び泣くようでいて甘い喘ぎがゲイルを追い立てる。
堪えることをせず、ゲイルは一度目の精を呆気なく吐き出した。

「……ひどいです」

力を抜いてのしかかったままのゲイルにエステルが呟く。
寝込みを襲ったことか、エステルを置いて自分だけ上り詰めたことか、はたまた両方か。
エステルの言葉に込められた非難に対し、ゲイルは考えを巡らせた。

「何度も起こしたのに目を覚まさないからだ」
「だからって、こんな……」

エステルの肩に置いていた頭を起こし、表情を確認する。
やはり少し怒っているようだ。

「まだ達してないからか」

頬を舐めれば中途半端に高められた体が敏感に反応を返す。

「あ、ん……違います」

そう言いながらもエステルの態度は弱々しく、ゲイルの与える快楽を欲しているのは明らかだ。
ゲイルは愛撫を続けながらエステルに語りかける。

「見方を変えればいい。君以外の女性に触れていないからこそこんなに飢えているんだと思えば悪い気はしないんじゃないか?」

我慢できずに腰をくねらせるエステルに応えて律動を開始する。

「ん、くっ、ああっ! あっ、あっ、あっ」

一度達したゲイルには余裕がある。

「君の心配する浮気はしていないということだ」

エステルの一番いいところを擦るように動き、ゲイルは乳房をこねまわす。

「だから、今日のように拗ねるのはやめなさい」
「ああっ、ん、だって……ひっ、だめぇ」

赤く色づいた乳房の先端を摘むとエステルが悲鳴を上げてのけぞる。

「私には君だけだ。やきもちなんて妬かなくていい」

びくびくと体を震わせはじめたエステルを追いつめるようにゲイルはことさら強く腰を叩きつけはじめる。

「わからないのなら何度でもわからせてあげよう。君が理解するまで何度でもね」

エステルの耳に言葉が届かなくなってきたことに気づき、ゲイルはおしゃべりを止めてエステルを責めることに意識を集中させることにした。



「エステル。ほら、こちらを向いて」

結局四度も精を放ってようやく満足したゲイルと違い、エステルは終わった頃には息も絶え絶えになっていた。
体を離すやいなや布団に潜り込んで顔を出さない。
ゲイルは布団を突っつきながらエステルを宥めるのに必死だ。

「私が悪かった。謝りたいから顔を見せてくれ」

ぴくりとも反応を示さないエステルに困り果ててゲイルは深々と溜め息を吐いた。

「よし。エステル、君が観たがっていた芝居を観に行こう」

ぴくりとエステルが反応を示す。
しめたとばかりにゲイルはたたみかけるように続けた。

「明後日一緒に出掛ける約束をしていたな。それを芝居に変えよう」
「……本当に?」

むくりと顔を出し、エステルがゲイルを見上げる。
濡れた瞳、少し腫れた唇、乱れて顔にかかる髪、それらのすべてが収まったはずのゲイルの欲望を再び刺激する。

「ああ、約束だ。だから、許してくれないか」

ほんの少し躊躇して、しかしすぐにエステルは頷いた。

「じゃあ、仲直りをしよう」

エステルから強引に布団を引き剥がし、ゲイルは再び覆い被さる。

「や、もうだめ」
「エステル、愛してる」
「あっ……教官」

優しく愛撫しながら囁けば抵抗しかけたエステルも大人しくなる。
これでは十代の若者と変わらんなと自嘲しながらもゲイルは沸き上がる欲望に身を委ねていった。






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