シチュエーション
![]() どれだけ無理をしてきたのだろう。 未だ幼さの残る少女の寝顔を見ていると胸が締め付けられた。 触れてしまう前に側を離れるべきだった。 嫁いだ少女についていくのでなく、国に残るべきだった。 こうすればよかったという後悔はとめどなく湧き上がる。 しかし、その時に戻れたとしてもきっと離れたりはできなかっただろう。 少女の手を掴んで離さないのは自分自身だ。 艶やかな黒の瞳に涙が浮かび、溢れ零れて少女の頬に落ちた。 青年の存在が少女を不幸にしていると思う。 出逢わなければ一国の王女としての幸せを掴むことができただろう。 なぜ愛した人は皆不幸になるのか。 青年は理不尽な仕打ちの意味を神に問いかける。 細い首には赤い痕が残っている。 他人のつけた所有の証。 少女は他の男の妻だ。 「姫様」 涙が溢れて止まらない。 「姫様」 そっと少女の首に手を添える。 このまま力を込めてしまえば、少女は自分だけのものになるだろうか。 僅かに力を込めた瞬間、少女の目がゆるりと開かれる。 「……姫様」 少女は一瞬で青年の意図を理解したようで、優しく微笑んだ。 「姫様、私は……」 弾かれたように少女の首から手を離し、青年は少女に覆い被さって唇をよせた。 舌に吸い付き、呼吸すらも困難になるほどに激しく貪る。 夜着を引き裂くほどに荒々しく少女の肌を露わにしていく。 青年は少女の足を掴んで開かせ、一気に体を沈めていった。 唇を離すと少女の口からは苦痛の呻きが漏れた。 数時間前に抱き合ったばかりでまだ中は僅かに潤いを残してはいたが、いきなりの挿入に体は苦痛を感じる。 青年は少女の体をきつく抱きしめる。 律動を開始するわけでもなく、青年は少女を抱いたまま微動だにしない。 少女は気遣わしげに青年の様子をうかがい、宥めるように背を撫でた。 「私はあなたの側を離れるべきかもしれません」 首筋に唇をよせ、青年が言葉を放つ。 「これ以上あなたを苦しめたくはない」 肩に噛みつき、青年は少女の腰を抱いて緩やかに動き出す。 言動に行動が伴わない。 離さなければ思えば思うほどに、強く結びつこうと体は動く。 「お前など不要だと仰って下さい」 「んっ! きさま、は…ばか、か……あッ、あっ」 「仰っていただかなければ、私は」 少女の体に残る所有の証に唇をつけ、証を塗り変えていく。 「いわな、ければ…んッ、はな…られないならっ! はなれ、るな……ふ、ぁっ」 体ごと腰を叩きつけて少女の最奥を抉る。 愛おしさが溢れて零れだしてしまいそうだった。 涙の伝う青年の頬に触れ、少女は何度も涙を拭う。 「愛しています。……愛してる、姫様、愛してる……愛してる」 再び唇を塞ぎ、青年は少女の存在を確かめるように体を撫でていく。 その夜、青年は少女の中に幾度も精を放ったのだった。 「どこにも行くな」 事後、身仕度を整える青年の背に少女は言葉を投げた。 「頼むから、どこにも行かないでくれ」 縋るような言葉に青年は曖昧な表情を浮かべる。 否定も肯定もせず、少女の頭を撫でる。 「私も、私もお前を」 少女の唇を青年は塞ぎ、言葉を吸い取ってしまう。 「私はあなたのことだけを思っています。いつだって、いつまでも」 「約束して。離れないと、約束してくれ」 「離れません。側におります」 青年が約束すると少女はようやく安堵の息をついた。 「私に嘘はつかない。そうだな?」 それでも念を押す少女に青年は苦笑を返す。 横になった少女の手を握り、髪を撫でながら青年は少女が眠りに落ちるのを辛抱強く待った。 「姫様、側におります。私の心は常にあなたの側に」 眠る少女の額に口づけ、青年は寝台から離れる。 扉前から少女の寝姿を見つめ、青年はぎゅっと手を握りしめた。 「あなたをこれ以上苦しめたくはないのです。どうかお許し下さい」 恭しく頭を下げた青年の脳裏に浮かぶのは、出逢った頃の少女の手の優しい温もりだった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |