シチュエーション
―――花芽は恥辱に震え田村の息がそこにかかる度、その奥濡れそぼった秘裂 から牝の匂いが沸き立つ。小百合はもうたまらないというように懇願した。 「やっ、め…なさ、ぃ…やめてぇ…!」 「ああ、お嬢様お嬢様」 醜い容姿に似合いの槍が、誰も踏み入れたことのない花園を蹂躙してゆく。 「いやあああ!やめてぇええ・・!」 美しい少女の尻を醜男の芋虫のような指が這っていた。小百合はこみ上げてく る胃液をどうにか嚥下する。 田村は自身の欲望を叶えたのだ。あの、窓から物鬱気に温室を臨んでいた少 女を手の中に。 土臭い小屋に田村の荒い息と小百合の叫び声が満ちる。―― ・・・で、閣下?何故このような本を?」 眩暈がする。テーブルに置いてあった文庫本を数行読んだからだ。少々マニアックなエロ本でも誰も恥ずかしくないし怖くも無い。まあ、恋人とかに見つか ったら最悪かもしれないが。 だが、残念なことにここは閣下の部屋だ。齢十八の女性が読むものじゃない。 おおらかな民族だっているだろうが、少なくともこの国はそーゆーの推奨しな い。 『女とは、森であり水であり獅子である』 こーゆー女性像をどっちかつーと望んでいる。誇り高き魔術師である閣下が持 つには疑問を抱くシロモノである。だって恋愛小説じゃないんだぜ?オヤジ向 の『庭師の背むし男が深窓の令嬢に襲い掛かる』小説なんて少なくとも十代向 じゃあない。コアすぎる。 元々ベットにいた閣下は深くシーツを被ってしまった。きっと中で赤くなるか 頬を膨らませているのだろう。くつくつと笑いながら膨らみの近くに腰を下ろ した。 「ねえ、これ読んだんですか?」 「…!バカイヌめ!」 畜生、と漏らすところでそれなの? やっぱり真っ赤な顔をした閣下がシーツの下から現れてもごもごしながら俺に 言う。 「私とて知らなんだ!義父上に渡されたの!犬に読み聞かせなさい、って… だれがこんな内容だと思う!思わないだろう?義父上のスケベ!スケベだっ て知ってたけど!まだ三十の癖に!さっさと嫁獲れ!てかガルム名前で呼べ よ!うわあああああああん」 俺の名前を呼びながら抱きついてくる。嗚咽を漏らす真似をするのでそれに倣 って背をさする。あ、また下着つけてない。 どれもこれも閣下の義父の(偏った)教育故か。美形だけど破滅的と名高い貴族 の顔が浮かんだ。以前ご挨拶したときは本当に大変だった。 『(ベッドデハ)ナニシテルヒト』って質問初めてだった。 「アレ会うと昨日はしたのか?って訊くんだぞ…。用事で三日連続実家にいる とするじゃないか、すると毎朝訊いてくるんだぞ!だれとするっていうんだ!」 「何をです?」 「………せっくす」 恥ずかしい!というようにぎゅっと身を寄せた。閣下からはなんだか落ち着く 香りがする。護衛なんだから緩みきるのもだめだけど。 抱き返すとダッコちゃんみたいに閣下は納まった。 ほんのり赤い耳に息を吹きかけると大げさなまでに震える。何回かしたけど敏 感すぎやしないかこの人。 「ひとりでもできますよ」 「何を…」 「セックス」 電流が走ったような顔で閣下は固まった。戦のたんび地割れや雷落とそうとす るくせに、怯えたような表情で俺を見上げる。 「……どうやって?」 「こうやって」 指が充分に余る手首をそっと掴んで自身の胸に触れさせる。閣下の指がそっと 先端に触れるよう導く。その小さな手を覆うようにして動かさせると、空いた 手で俺を小突いた。全然いたくない。 「バカイヌ!」 「いたいですよ〜それに閣下じゃないですか訊いてきたの。それでですね…」 小突いた方の手も合わせて下のほうに持ってゆく。両手で同じ様に円を書く。 怪訝な顔の割に何も言わずに俺の手に沿う。ぴったり付けて前後に動かしたり 爪の先ではじいたり。しばらく上から合わせているうちに閣下も要領を掴んだ ようで自ら動き始めた。はまっちゃったらどうしよう。およびでないよな… 「ふっ…」 「あっ!……んっ……」 「ああ…ぅっ、あんっ!………んぅぅ」 閣下の堪えた嬌声に思考はずぶずぶと降下してゆく。 教えなきゃよかった。訊かなきゃよかった。読まなきゃよかった。バカ俺。 「んぅ。…ガルム、やっぱりなんか足んない」 「…かっか!」 「バカイヌめ。名を呼べといったろう」 バカ俺。抱き潰すくらいに腕の中の人を抱いて倒れた。スプリングのよいベッ ドにふかふかのシーツ。それにいい匂いのする恋人。 「ニーズさんだいすきです」 「……ばかいぬ」 SS一覧に戻る メインページに戻る |