シチュエーション
![]() 「宜しゅうございますか、暁香お嬢様。御身を容易く男に与えてはなりません」 「与える?」 「はい。もっと解り易く申し上げますなら、御身に触れさせてはなりません」 「でも、暁良は触れてるわ?それに氷雨だって…」 「私も暁良も、弁えております。残念ながら、私共のように弁えている男ばかりではございません。 女と見れば、あるいは穴さえあれば…という輩もいないわけではございません」 「穴?」 「少々、お勉強致しましょうか」 疑問顔の暁香に氷雨は苦笑を零し、ゆっくりと歩み寄った。 「あ、ぁ…や、やめて、こんな……」 「何を仰いますか、もうこんなにとろとろにして蜜を滴らせて……」 溢れる蜜をたっぷりと掬い、指に纏いつかせて暁香の眼前に持っていく。 てらてらと妖しく光る氷雨の二本の指から顔をそらそうとするが、顎を捉えるもう片方の氷雨の指がそれを許さない。 「御覧なさい。使用人に触れられて、はしたなくも零れたお嬢様の蜜ですよ?」 くすりとしつつ、ゆっくりと、揃えていた指を離す。 すると氷雨の指にまとわりつく暁香の蜜が、離れた指と指の間に糸を引いて橋をかける。 「あっ、あぁ…」 かぁ、と赤くなり、わななく桜色の唇にもう一度揃えられた氷雨の指が押し当てられる。 口を開くまいと口を閉ざすが、ついに唇を割られ、蜜に塗れた氷雨の指が進入を果たす。 「如何ですか、御自分の蜜の味は?」 「…む、ぅ…ん、んぅ」 氷雨の指は暁香の口内を我が物顔で蹂躙し、逃れようと縮こまる舌を撫で回す。 苦しげに寄せられた眉が氷雨の苛虐心を煽る。 「もっと、苛めてあげたくなります」 にぃ、と氷雨の口元が歪む。 その恐ろしい笑みを見ないように、暁香は強く目を瞑った。 それに薄く笑み、暁香の口内を蹂躙する指を引き抜く。 ようやく引き抜かれた指に安堵していると、ひんやりと冷たい指先が太腿に触れる。 はっとして身を起こそうとするよりも、ひんやりと冷たいのが自身の唾液によるものと気付くよりも早く、氷雨は暁香の脚を左右に大きく割り開く。 「い、いやぁぁぁ!」 誰にも見せたことのないそこが、氷雨の目に曝される。 「いやだ、やめて、と言いながらこれなんですから…まったく困ったものですね」 くすくすと笑いながら、氷雨はそこに指を這わせる。 何とか逃れようと暁香は脚を動かそうとするが、それは容易く氷雨に阻止される。 「さっきはここを苛めてあげましたからね……」 そう言いつつ、氷雨の指は花芯を弄り、弾く。 「きゃぁん!」 呼応するように暁香が甘い声を上げて身体を波打たせる。 声を上げてしまった屈辱から暁香は顔を歪め、氷雨を睨め付けた。 暁香にとっては精一杯のものだったろうが、氷雨にとってはそそるものにしかならず。 「中に、指を入れましょうか…そろそろ疼いてきたでしょうから」 つぷり、と暁香の内部に氷雨の指が滑り込む。 「ぁ……」 初めて受け入れる異物に、暁香は小さく声を上げた。 「さすがにこれだけ濡れていれば、指一本くらいなんともありませんか…もう一本、入れましょうか」 一旦引き抜き、もう一本添えて二本にし、もう一度内部に侵入する。 「や…ぃた…や、め…」 「大丈夫ですよ、すぐに良くなります」 苦痛に呻く暁香に薄く笑んだまま氷雨は告げる。 そして休みなく指を動かし、暁香の弱点を暴き出していく。 氷雨の指が弱いところを掠めていく度に、暁香の苦痛を訴える声は甘く蕩けていく。 「あ、あぁ…ん……ふ、ぁん…」 「もうすっかり気持ち良くなりましたね。ここも、美味しそうに私の指を咥えていますよ」 音を立てて掻き回していた氷雨が唐突に、く、と指を折り曲げる。 「あぁぁんっ!」 びくん、と暁香は身を躍らせ、無意識ながら氷雨の指を締め付ける。 「おや、いっちゃったんですか?」 ひくひくと蠕動する内部に今気付いたように、氷雨は問いかける。 しかし暁香には答えられるものではなく。 「…ふむ…まあいいでしょう」 もとより答えは求めていないが、氷雨はそう呟く。 そしてすでに猛り、怒張する自身を露にし、暁香の蜜を擦り付けるように何度も秘裂を行き来する。 暁香の蜜に塗れた自身を狙いを定めて押し当てると、氷雨はそっと暁香の耳元に囁いた。 「今度は私を満足させてもらいましょう」 「あ、い、いや…や、やめて……い、やぁぁぁぁぁ!」 めり、と―― 「あ…あの…」 恐る恐る暁良は瑶葵に呼びかける。 瑶葵は本から視線を上げ、暁良を見た。 「うん、どうしたんだい?」 「いつまで、お続けになるおつもり、なのでございますか?」 「いつまでって…これからがいいんだろう?」 いや、うんたしかにそうだけど、などと内心で暁良は思うがそれは言わない。 かわりにずっと疑問だったことをぶつける。 「何故、登場人物の名前が、暁香お嬢様と氷雨さんなのでございますか…」 「いやぁ、そのほうが面白いかと思ってね」 がくり、と脱力しそうになるが、そこは耐える。 「より臨場感を出すために使用人は氷雨に読ませたし、お嬢様は暁香が読んだし、その他は私が読んだんだけど…気に入らなかったかい?」 「いえ、そうではなく…勉強、なのではございませんでしたか?」 「勉強だろう?…嫌がるお嬢様を犯す、って辺りは」 「………」 何かが違う、と思わないではないが、暁良は口をつぐむ。 黙っておいたほうがよさそうな気がする。 「とにかく、世の中には嫌だと言っている女を犯すのがいる、っていうのはわかったと思うけど?」 いやうん、いるけどさ…でもこれ小説だし、というツッコミも飲み込む。 「でもお兄様…私、よくわからなかったわ?」 きょとり、と首を傾げて暁香は言う。 「そうなのかい?」 「えぇ、わからない言葉がたくさん出てきたもの」 「…まぁ、たしかに棒読みだったけどね……氷雨」 苦笑しつつ瑶葵は忠実な従僕の名を呼ぶ。 「はい、瑶葵様」 「父上と母上の意図がどこにあるのかは知らないが…無知では色々と困るし…男女のことを教えてやってくれ」 「はい、承知致しました」 「わかってるとは思うが、ヤるなよ?」 「心得ております」 「では、まずは男性器と女性器についてお勉強致しましょうか」 「そのあたりは学校で学んだけれど?」 「テキストで理解なさいましたか?現物もご覧になっておられませんのに」 「それは…」 口篭る暁香を見つつ、現物見せるのか?、と暁良は内心ツッコミを入れるが口には出さない。 言われていることもあるが、迂闊なことを口にすれば薮蛇になりそうな予感がひしひしとするからだ。 「まぁ、お見せしても構わないのでございますが…それはおいおい、ということに致しましょう」 「じゃぁ、どうするの?」 「教材を御用意致しました」 とんでもないものには違いないよな、と思っている暁良を尻目に、用意したという教材がテーブルに置かれる。 まずは本。医学書レベルのもののようだ。 氷雨はそれをぺらぺらと捲り、生殖器の項を開く。 暁良はろくでもない教本でなくてよかった、と胸を撫で下ろしたが、次にテーブルに置かれた物に目を剥く。 「!?」 「これ、なぁに?」 そのうちの一つを暁香は手に取り、氷雨を見る。 「なんだかふにゅふにゅしてる…」 「それは男性器を模しものでディルド、あるいはディルドーと呼ばれる玩具でございます」 「でぃるど?」 きょとりと首を傾げて目を瞬く様は可愛らしいが、その発言と手にあるものはいただけない。 「はい、左様にございます。それは男性器についての教材でございます」 「こんな手触り、なの?」 「そうでございますね、おおよそそんなものかと。人体に近い素材を使用してございますから、より本物に近いかと思われます。もっとも現物はそれのように冷たくはございませんが」 じぃ、と興味津々といった風情で見つめる暁香に、暁良はなんだか居た堪れない気分がしてくる。 「………ずっと疑問だったのだけど……」 「何でございましょう?」 「ここって、どうしてこんな形なのかしら?」 男性器のカリの部分を指先で撫でながら暁香は氷雨に問う。 「某州立大学研究チームによりますと、性行為時に他の男の精液を掻き出すために発達した、ということでございます」 「ふぅん?そうなの」 つーか、氷雨さんあんたどこからそんな知識入手したんだよ!?しかもそんな淀みなく答えたりとかして!?暁香お嬢様もそんな簡単に納得しないで疑問に思ってください! などと暁良が内心で暴走している間に講義は進む。 「陰嚢、陰茎、亀頭、亀頭冠…一般的にはカリと呼ばれる部分でございますね。それから、尿道口となります。とは申しましても男性の場合、ここから精液が出るのでございますが」 指で指し示しつつ氷雨は説明していく。 「ああ、それから、この形状は勃起している状態でございますので。常の状態とはやや異なってまいります」 「そう、なの?」 「常にこの状態ならば、動き難くて仕方ありませんでしょう」 じぃ、と氷雨の股間を思わず注視し、暁香は頷く。 「……そうかも?」 「私の股間をそう注視されても困るのでございますが」 苦笑しつつ氷雨は言う。 しかしそれほど困っている、といった風情ではない。 「じゃぁ、暁良ならいいの?」 「や、やめてくださいませ!?」 ぐるぐると脳内を暴走させていた暁良だが、悲鳴のように叫ぶと、暁香が暁良のほうを見るより早くしゃがみこんだ。 「……だめなの?」 慌てっぷりに一瞬驚いたものの、暁香は氷雨を見上げて問いかけた。 「通常は恥ずかしいものでございますからね」 「氷雨は?」 「恥ずかしがっていてはこのような講義などできませんでしょう」 たしかに、と納得し、暁香は先を乞う。 「勃起の経緯については後ほどDVDでお勉強することに致したいと存じます。玩具では理解できませんでしょうから」 こくり、と暁香が頷くと、氷雨は筒状のものを取り上げる。 「それは?」 「これは女性器を模したものでホール、あるいはオナホールと申します」 「ほーる…」 「はい。内側は男性が快感を得やすいように作られておりますので、参考にはなりませんが。多少の誇張はございますが、これならば外性器のほうの勉強になりましょう」 いやいやいや、そうじゃなくて!そんなの暁香お嬢様に見せないでくださいよ!? などとしゃがみこんだまま暁良は内心で悶える。 無論そんな暁良を氷雨はしっかりきれいにスルーする。 暁香に至っては気付いていないが。 「こう見ますと、女性が仰向けになっている時と同様の状況でございます」 こう、と示しつつ暁香の目の前に差し出す。 「外から大陰唇、小陰唇でございます。大陰唇は体の他の皮膚と同様の色をしておりますが、小陰唇のほうは血管が多いためにピンク色をしております。 性的刺激を受けますと充血して膨らみ、更に刺激に敏感になってまいります」 「それでえーと…これが、くり…くり、とりす?とかいうの、よね?」 「そうでございますね。陰核、という言い方もございますが。クリトリス、のほうが一般的でございましょう。…ところで暁香お嬢様?」 「なぁに?」 「どこでそのようなお言葉をお知りになられました?」 そうですよ、どこでそんな言葉をお知りになったのですか、暁香お嬢様ー!? 本当は問い詰めたいが、開始前に氷雨に口出ししないように言われているので口を挟めない。 当然、薮蛇を恐れたものでもあるが。 「えぇ?お友達が言っていたの。気持ちいいって」 「なんとも素晴らしいご友人でございますねぇ…」 いやいや素晴らしくないから!誰か知らないけど暁香お嬢様に変なこと吹き込まないでー! 暁良の悶絶は続くが、それを気にする氷雨ではないし、暁香は気付いてすらいない。 ので、ある意味放置されたまま、更に講義は続く。 「ここが膣口でございます。この内側に処女膜、というものがございます」 「えぇ…と…初めての時に破れる、とかいう?」 「一般的にはそう言われておりますが、運動をしたり、タンポンなどを挿入するときにも破れる場合がございます。 また、始めから完全に塞がっているものではなく、穴が開いておりますから、膜、というのも語弊がございますが。 ですので、破る、破れる、には、実は該当しないのでございます」 「へぇ…そうなの」 初めて知った、と暁香は目を丸くする。 「便宜上、破れる、と表現致しますが…破れれば、多少の出血を致します。出血をしても、十分に濡れて潤っていれば痛みを伴わないこともございます。 また、激しい性行為によって膣内部が傷つき、裂けて出血する場合がございます」 「難しいのね」 「あまりそう認識されておりませんが、大変デリケートな器官でございますから」 つかなんでそんなに詳しいの氷雨さん!貴方男だよね!? 会話の一つも聞き漏らさないように躾けられている暁良は、悶絶しつつも全て耳に入れてしまう。 若い暁良には辛いが、哀しい使用人の性である。 「膣の内壁は口の中と同じような粘膜でできており、粘膜をたぐり寄せたように沢山のひだがございます。 また、子宮からの分泌液や膣自身からの分泌液で常に湿って潤った状態になっております 」 「おりものとか?」 「はい、一般的には体外に排出された分泌液はそう呼ばれておりますね。 ですが、性行為の際は十分に愛撫して興奮させ、愛液を分泌させる必要がございます。 これは性感を高める、ということのみならず、保護という役割も兼ねております。でなければ、大変痛い思いをなさるかと存じます」 「痛いのはやだ…」 眉を顰め、嫌そうな顔をしつつ暁香は言う。 「それが普通でございます。……子宮は…学校で学ばれた通りでございますから、割愛致したく存じますが、如何致しましょう?」 「えぇ…と…ええ、いいわ」 こくり、と頷きつつ暁香は頷き、手に持ったままだったものをテーブルに置いた。 「宜しゅうございますか、暁香お嬢様。伴侶には配慮のできる男性を選ばれませ」 「ではDVDを再生致します」 少々ノリがあれではございますが…と、ぼそりと呟き、氷雨は再生ボタンを押した。 大型スクリーンに、ベッドに腰掛ける男女が映し出された。 「きゃー、緊張しちゃうー」 「どこがだよ」 「いやん、だってひーちゃんがビデオ回してるもん」 「……ノリノリだろーが」 緊張とは程遠い興奮を塗した女の声に、男が呆れたように呟く。 そこに、氷雨の声がする。 「はいはい、さっさとしてくださいね」 「じゃ、ちゅーして」 女が男の膝に乗り、首に腕を回して甘くねだる。 「ちゅーして」 「もぉう」 キスをねだった自分と同じ口調でねだってきた男に怒ったふりをした女が、男の頬に手を添えて唇を重ねた。 ちゅ、ちゅ、と軽く唇を合わせるだけのキスを何度も交わす。 お互いの唇を甘噛みし、舌を絡める。 ちゅ、ちゅく、と卑猥な水音を立てて舌を絡めたまま、お互いの服を肌蹴させていく。 「んーっと…先に私がやった方がいいのよね?」 「だろ?テーマは勃起と挿入だし?ついでにフェラチオ付いてもいいだろ」 「ひーちゃん、それでオッケー?」 「ええ」 わかった、とでもいうようにカメラに向かってにっこりと笑い、女は男にもう一度キスをすると耳へと舌を滑らせた。 耳の形を辿るようにゆっくりと舌を這わせ、ぱくり、と耳朶を甘噛みする。 そしてそのまま首筋へと舌を這わせていく。 舌を這わせながら肌蹴た服に手をかけてゆっくりとボタンを外し、シャツを滑り落とす。 そうして現れた均整の取れた身体に舌を這わせ、更に下に向かう。 女が男の乳首をぺろりと舐め、舌で押しつぶすようにしながら愛撫を重ねていく。 そのまま手で腹を撫でるようにして下ろし、ズボンの上から撫で擦る。 女が脱がし始めると、男は心得たように脱がしやすいようにしてやる。 「はーい、お嬢様。これが男です、雄です、ペニスです。今までのでちょーっと大きくなりかけてたりするけど」 「しかたねぇだろ」 「うん、いいよ。お嬢様、これ、おっきくしますねー」 ベッドに座る男の脇に座ると男の太腿を擦り、女は立ち上がりかけた雄を両手で包み込む。 「えっと、一応流れだけね。感じ方に個人差があるから。これはこの人のやり方だから、お嬢様のお相手とは違ってくると思うしね。 わからなければ、どうしたら気持ちいいか聞く、ってのも手だよ」 言いながらも手は休みなくペニスをしごく。 ツボを心得た女からの的確な刺激を受けて、すぐに大きく硬くなっていく。 「ん。お嬢様、このくらいになったら咥えて、口と舌と手でで愛してあげるのね。フェラチオが嫌いな男って、まずいないから。 上手にできなくても、一生懸命すれば嬉しいらしいし」 「してるときに上目遣いでちら、っとか見られるとイイな。あ、歯は立てんなよ?触れるくらいならかえっていいけどな」 「だってさ?……なんかもう、入れたくなっちゃったから、ちょっと急ぐね」 しばらく舌で亀頭や陰茎を舐め、ぱく、と亀頭を咥えつつ手でゆっくりとしごき出す。 舌を広げてを包み込むようにして上下にピストンしつつ、時折裏筋を刺激していく。 そうしながら、もう待てない、とばかりに女は着ている服を脱ぎ出す。 更に大きく硬くなったところで、女は口を離した。 「んぁ、もうだめ。今すぐ入れたい」 「ちょい待てって」 そう言いながら男は女を抱え上げ、自分に寄りかからせるようにして膝の間に座らせた。 そして大きく脚を割り開き、秘裂に指を這わせる。 そこはすでにしとどに濡れ、もはや慣らす必要もないほどになっていた。 しかし中に指を滑り込ませ、そのことをわからせるようにぐちゅぐちゅと大きな水音をさせて掻き回す。 しばらくそれを続ければ、もうたまらない、とでもいうように女が声を上げた。 「あ、あぁ…ね、はやく、はやくぅ」 「おう、俺も堪んねぇ……お嬢さん、しっかり見てろよ?」 そう言うなり、怒張した雄を秘裂に宛がうと、上にいる女の腰をゆっくりと下ろさせ沈めさせていった。 そう、入っていく過程を見せ付けるように。 「はぁ、ん…あ、きもち、い…」 男で満たされるとと、女は歓喜の声を上げた。 男は女の項に口付けると、律動を開始した。 突き上げたり、腰を回すようにしたり、と単調になってしまわないように複雑に。 それに合わせるように女は腰を動かす。 「あ、ぁん…も、もっとぉ」 女の喘ぎに促されるように、男は花芯に触れた。 びくんと一瞬強張るが、男が花芯を捏ね回すと身を震わせて甘く啼く。 その手を休めずに更に激しくしていく。 「あ、あぁぁぁぁぁ――!」 ぎゅ、と締まり、弛緩する。 「あ…わり、氷雨。これだとしばらく起きね。他のは今度でな」 「……仕方ありませんね。それで、今回の報酬は?」 「えーと…あ、そだ。友割で『シャイン』のベリータルトをホールで、とか言ってたっけな」 「わかりました」 ………なんつうお友達ガいるんデスカ……つかこれハ一体なんの拷問なんデスカ、氷雨サン… 動揺のあまり可笑しなイントネーションになってはいるが、暁良は内心で氷雨にツッコむ。 連日の教本朗読―エロ小説朗読、と言って良い―を聞かされるせいでただでさえ欲求不満なのに、無修正のDVD観賞。 これは本当に暁香への教育なのか、はっきり言って疑問である。 ちらり、と暁良が暁香に視線を移す。 するととんでもないものが暁良の目に飛び込んできた。 暁香がディルドを、ぱくり、と咥えたのだ。 っぎゃーーーーーーー!!! 叫べるものなら叫びたかったが、声は出ず、絶叫は心の中で発せられた。 硬直している暁良の前でそれから口を離した暁香が困ったように言う。 「よく、わからないわ…」 「暁香お嬢様、御手をお貸し頂けませんでしょうか?」 にこりとしつつ問いかける氷雨に疑問顔をしたまま、暁香が両手を差し出す。 左手を取って暁香の前に跪くと、氷雨はその指先に唇を近づけた。 ちゅ、と軽くその指先に口付け、唾液を乗せて指をねっとりと舐めあげる。 ぴくん、と、頬をかすかに染めて暁香が震える。 「暁香お嬢様。私が致します通りになさってみてくださいませ」 「わかったわ」 氷雨がしたようにディルドの先端に口付け、唾液を乗せて舐めてみる。 「もっとたっぷり唾液を乗せたほうがやりやすいかと存じます。試されてみては如何でございましょう」 言われた通りにたっぷりと唾液を乗せ、氷雨の舌の動きを真似るようにして舐めしゃぶる。 唾液が潤滑となり、だんだんとやり易くなってくる。 「ん、ぁん…べたべた…んちゅ…なっちゃ、んぅ」 「それでようございますよ。そのようになっておりますほうが受け手も気持ち良いというものでございます」 一生懸命、DVDで女がしていたようにしつつディルドを舐めしゃぶる。 「実物をして慣れていけばようございますから、まずは手順を覚えてくださいませ」 つかナニ言ってんの、氷雨サン! もーどこにツッコむべきかわかんないよ…つーか、色々イッパイイッパイなんですけど!! お願いもーやめてー!!! 内心で行われる暁良の切実な主張は当然受け入れられない。 というよりも、氷雨によって綺麗さっぱりスルーされる。 早くこのとんでもない講義が終わるように、と念じつつ、暁良はただただ、ひたすらに耐える。 ひそり、と氷雨が暁香に囁きかけると、暁香は暁良の方を向いた。 苦しさゆえか瞳を潤ませて頬を紅潮させながらも、唾液に濡れ、てらてらとしたディルドを咥えたまま。 好きな女が、擬似とはいえ雄を咥えて自分を見ている。 その、視覚的暴力に、ついに暁良は屈服した。 「っ!!し、失礼致しますっ!!」 ぎゃー!もう無理もう限界!!うわぁん、いじめだー!!! などと内心絶叫しつつ暁良は部屋を飛び出した。 ばん、ばたばたばたばた… 「んちゅ……暁良、どうしちゃったの?」 暁良が出て行ったことで、ようやくディルドを口から離した暁香が氷雨に問いかける。 それにくすりとしつつ、氷雨は答えた。 「男にはいろいろあるのでございますよ」 「んー…氷雨は平気なの?」 「それなりに経験を積んでおりますから、この程度ではどうということもございません」 「ふぅん?」 よくわからないが、涼しい顔をした氷雨が言うからにはそうなのだろう、と暁香は納得した。 「氷雨さん!」 もういい加減にして欲しいと思い、暁良は氷雨に呼びかける。 「どうしました?」 「どうしたもこうしたもありません!いつまであんなことするんですか!?」 「あんなこと?……あぁ。あれはもう終わりです。実際は多少のことを教えればよかったんですから」 メイドたちが驚いていますよ、中で話を伺いましょう、と、氷雨は暁良に部屋の中に入るように促す。 室内に入り、椅子に腰掛けると暁良は俯いて床を見たまま問いかけた。 「どうしてあんなことをしたんですか…」 「教えるついでに、テストをしましたから」 「テスト?…暁香お嬢様にですか?」 「いいえ、違います。暁良、貴方にですよ」 「は?」 暁香ならばともかく自分が対象となるテストだなど、見当も付かない暁良は目を丸くする。 椅子に座り、足を組み替えながら氷雨は静かに告げる。 「貴方は、暁香お嬢様を好いている…いえ、愛している、と言ったほうがいいでしょうか」 「っ!?」 隠していたつもりだったのに! 知られていることにぞっとして暁良は氷雨を窺った。 「そうと知ってしまいましたから…試しました」 「私が誰を好きだろうと愛していようと、いいではありませんか!」 試される謂れなどない、と暁良は声を荒げる。 それを軽く受け流し、涼しい顔を崩さぬままに氷雨は言った。 「そうですね、本来、そういったことに口出しするものではないでしょう」 「なら!」 「ですが、その相手が暁香お嬢様だと、また違ってくるんです」 「想うだけがどれほどの罪になりますか!?」 想う心すらも咎められたくない、と暁良は強く言う。 その暁良の剣幕に苦笑を零し、遠くを見ながら氷雨は静かに告げた。 「……暁良、私はね、ある人を殺そうとしたことがあります」 「え、でもそれは…」 仕事ではないのか、と問おうとする暁良を遮るように氷雨は言う。 「仕事として、ではなくて、私個人の感情で、です」 「え!?」 「その人は、私が唯一愛した……恋人でした」 「恋人…」 「でも、彼女は生まれ落ちたその時から、夫となる人が決まっていました。泊瀬家には及ばないまでも、名家のお嬢様でしたからね」 「それじゃ…」 「ええ。秘密の恋、というヤツでした。まぁ、瑶葵様はご存知でしたが。というより、瑶葵様に色々と便宜を図って頂きました。 もともと泊瀬家と交流がある家のお嬢様でしたから、その跡継ぎである瑶葵様と会うことも、贈り物のやり取りをすることも、不自然ではありませんでしたし。 瑶葵様と彼女には共通の趣味もありましたからね」 「初めて会ったその時に、恋に落ちました。…一目惚れ、ですね。彼女もそうだった、と言っていましたけど。 唇が触れることも身体を重ねることもない、ただ会って寄り添うだけの関係で…そりゃ欲求はありましたけど、話をして見つめ合うだけで満たされてしまう程度のものでした。 会えるだけで、幸せだったんですよ」 ――それが儚く尊いものだとわかっていたから… 「……」 「でも、ついに彼女が結婚してしまう時が来て…最後に会ったとき、彼女は私への愛を抱いて生きる、と言いました。私は愛を貫いて結婚しない、と告げました。 彼女には、わたくしより好きな人ができたらいいのよ、と言われましたけど…今まで、そんな人に出会えていませんね」 「それはわかりましたけど…」 それが、と、問いかけようとする暁良を遮り、氷雨は続ける。 「…彼女が身籠ったことも、子供を産んだことも、瑶葵様から聞きました。会いには行きませんでしたし、会うつもりもありませんでした。 会わないようにしていたんです。会ってしまったら自分が何をするか、わかったものではありませんでしたから」 でも、会ってしまった。一番会いたくて、一番会いたくない人に… 会いたくて会いたくてたまらない人に会えた、という一瞬の狂喜。 その次に訪れた狂気と呼ぶに相応しい、衝動。 「瑶葵様が彼女を探しにおいでにならなければ、間違いなく彼女を殺していましたよ」 「その人は…」 「彼女は抗いませんでした。むしろ望むようにその身を私に委ねていました」 「どうして…ですか?」 「疲れていたのかもしれません。…後で知ったことですが…彼女はただ、子を生すための道具、と見なされていたようですから」 「そんな…」 あんまりだ、とでも言いたげに暁良は呟く。 「名のある家の方同士の結婚ではよくあることです。そう珍しいことではありません。 ……そのことに疲れて、死ぬことも」 「亡くなった、んですか?」 ずっと過去形で話されることに、もう亡くなっているのだと感じながらも暁良は問いかける。 「自殺か他殺か、はっきりしないままだということですが…私にとってはどちらでも大差ありません。 わかっているのは、死んでも会えない、ということだけ」 「死んでも?」 「そうでしょう?私の手は、血に塗れていますから―彼女と同じ所に逝けるとは思えません」 「暁良、貴方はどうですか?」 「どう、とは?」 「暁香お嬢様は貴方を手放さない。どこへでも連れて行くでしょう。…たとえ嫁ぎ先であったとしても。 そうなれば、夫である男に抱かれているときの声を聞くかもしれない。絡み合っているところを、見る気がなくても目撃してしまうかもしれない。 その経験は私にはありませんが、想像したことはあります。……耐え難い、そう思いました」 そうではありませんか?、と見つめてくる氷雨から逃れるように視線を外すと、苦しげに吐き出した。 「そんなこと…想像したくもありません。………あれは警告でもあったのですか?」 暁香の、勉強と言えるか甚だ怪しい、あの時間は。 あえて同席させて、問い詰めるさせか、考えさせるために仕向けたのか。 氷雨はそれを否定も肯定もしない。 「…酷なことを言っているとはわかっていますが、覚悟をしておいたほうが貴方のためです。 暁香お嬢様は、もういつ嫁ぎ先が決まってもおかしくありませんから」 それはずっと考えないようにして、目を逸らしていた問題。 いつか、を先延ばしにしたくてそうしていた。 どんなに目を逸らしても、いずれ訪れるというのに。 どんなに好きでも愛していても、それが成就する可能性は低かったというのに。 あらためて、突きつけられた気がした。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |