唯一3
シチュエーション


「……何をなさりたいのか?」

寝台に手を押さえつけられてのしかかられながら、椅子に座ってこちらを眺める王にファリナは静かに問うた。
押さえつけてのしかかってくる男達の、目を血走らせて欲に歪んだ厭な笑みを見れば聞くまでもないことはわかっている。
状況を理解しているからこその、確認の問いかけだった。

「なに、あれが身籠って退屈なんでなぁ…其の方で楽しませてもらおうと思ってな?」

くだらぬ、という言葉を飲み込み、ファリナは王を見やった。

「泣き叫んで…よがり狂って、でも構わん。余を楽しませてくれ?」
「……好きにするがよかろう……」

拒否は許されていないのだと諦めにも似た心境でそれだけ言い、ファリナは瞳を閉じる。


ファリナが纏う薄い夜着の胸元に手をかけ、力任せに引き裂く。
派手な音を立てて引き裂かれた夜着から、ぷるん、と弾力のある白い乳房がまろび出る。
それは、横たわっていながら美しい形を保っていた。
手入れの行き届いた滑らかな白磁の肌と、文句の付けようもなく形を保つ豊かな乳房に、男達は、ごくり、とのどを鳴らす。
見ているだけではつまらないとやわやわと揉みしだけば、張りのある柔らかなそれは、柔軟に淫靡に形を変える。
ひくん、とファリナの身体が震えるが、声は上がらない。
声を上げさせようと柔らかな乳房をしつこくこね回し続ければ、刺激にその中心が立ち上がってくる。

「声を上げねぇようにしたって、身体は正直なもんだよなぁ」

ぴんと立ち上がったそこを指の腹で捏ねながら一人の男が嘲るように、くつくつと楽しげにのどを鳴らす。
聞きたくない、とばかりにファリナは眉根を寄せ、ゆるく首を振る。

「いいねぇ、その顔!もっといい顔させてやりたいねぇ」

腕を押さえる男がファリナの耳に唾液を乗せた舌を這わせ、ぴちゃぴちゃと音をさせて嘗め回す。
それに押されるように胸を捏ね回していた男が反対側の耳を甘噛みし、首筋に舌を這わせる。
ときおり悪戯に吸い上げ、鬱血を残していく。
ファリナは嫌悪に顔を歪めてきつく瞳を閉ざし、唇を噛み締める。

「頑張るねぇ」

くつくつと嘲笑いながら胸の頂に舌を伸ばし、舐め上げる。
刺激によって硬く尖るそこを、執拗に舐り回す。
負けじともう一人がもう片方の頂を口に含み、尖らせた舌先で捏ね回してやんわりと噛む。
執拗に胸を弄られ、びくん、と大きくファリナが反応する。

「へぇ…王妃サマ、これ好きなんだ?」

嘲りを含んだ声音で問い掛けながらしつこく攻め立てる。
悔しそうにするファリナからの返答は、当然のことながらない。
無論男達は端から返答は期待していないし、必要としていないので構うことはない。

「つーか王サマよぅ、ホントいいわけ?」
「構わん。遠慮するな」
「んじゃ、こっちも剥いじまいましょうかねぇ」

嬉々とした声音と共に更に夜着が引き裂かれ、清楚な下着が現れる。
ヒュゥ、と口笛を吹き、その下着に手をかけるとわざとらしくゆっくりと時間をかけて下していく。
下着が足から引き抜かれ、柔らかな太腿に手がかかる。
ファリナはこれから起こることに堪えるために、きつく唇を噛み締めた。

不意に扉がノックされた。

「しばらく待て」

そう言い置き、王は扉に歩み寄る。
王がわずかに開けた隙間から、アルスレートが見える。
中にある複数の気配を感じ取ってか、その顔は緊張を帯びていた。

「来たか、アルスレート・イスクル。待っていたぞ?」

にやり、と口元を歪ませ、王はアルスレートを招き入れた。
室内に入ったことではっきりと感じ取れる、ファリナの嫌悪。
そして、寝台がある方向に目の前の王以外の気配。
それは、アルスレートに一つの予想をたてさせるに十分だった。

「余興を用意したのでな、其の方も楽しむがいい」

ざぁ、と蒼褪めたアルスレートを楽しげに見やり、来るように言い置いて背を向ける。
僅かに躊躇ったが逆らうわけにもいかず、アルスレートは王の後を追う。
追った先に広がった、予想に違わぬその光景に、アルスレートは息を呑んだ。
一人が腕を押さえた上でファリナの胸にむしゃぶりつき、舐り回していた。
片方の乳房は開放されていたが、その頂は唾液に濡れ光り、長い間弄られていたことは容易に知れた。
一人は閉じ合わされたファリナの太腿を撫で擦りながら、腹部にいくつも鬱血を残していた。
突き込まれてはいないが、それは慰めにはならない。
アルスレートが来たことがわかっているだろうファリナは、顔を背けてアルスレートの方を向くことはない。

「どうか、おやめください」

ようやく絞り出した声は、震えていたかもしれない。
それには気付かなかったのか、王はなんでもないことのように答えた。

「何を言う。これからが面白いんだろう?…なぁ?」
「そうそ。俺達だっておさまりつかねぇし?」

それがどうした、と思いながら、アルスレートは追従する男の言葉を無視する。

「このようなことが露見すれば、御名にかかわります。その者達が吹聴して回らないとも限りません」

すでに地に落ちた名などどうでもいいが、何とかしてやめさせるためにアルスレートは慎重に言葉を紡いでいく。

「……ふむ…」

王は僅かに考える素振りを見せる。
まだマトモな頭は残っていたか、とアルスレートは思う。
だが、次に発せられた王の言葉は暫しの間、アルスレートから思考を奪った。

「ならば、其の方がやれ」
「な…何を仰いますか…」

半ば呆然としつつ問うアルスレートに、にやりとしたまま王は言い放った。

「こやつらが口を滑らせるかも知れんのなら、其の方がやれ。其の方なら、吹聴しないだろう?」
「それは、しませんが…そんなことはでき」
「できないというなら、こやつらに任せるしかないな」

できません、とアルスレートが言い切る前に王は畳み掛ける。
ここで拒否すれば、即座に王は再開を言い渡すだろう。
そうなればファリナがどんなに惨い目に遭わされるか、どんな光景を見せられるかわかったものではない。
王の首を刎ねてやりたい衝動に駆られるが、それはできない。今はまだ。

アルスレートは選択肢ともいえない二つのうちの一つを、選び取った。

「……………わかりました」
「おい、俺達どうすんだよ」

王妃を犯すことができなくなったと不機嫌になった男が問いかける。
アルスレートはしばらく考え込み、口を開いた。

「………王妃には劣りますが、部屋の外にいる侍女で我慢していただけますか?
名門貴族の娘で…おそらく、処女だと思いますので」
「へぇ!処女かよ」

アルスレートが示した案に、男達は飛びついた。
王妃という高貴な女を犯す機会を失ったが、処女を犯せるならそれでもいい、という結論を瞬時に導き出したためだ。

「確かめたわけではありませんから、保証はできませんが」
「そりゃ俺達が確かめてやらぁ」
「……よろしいですか?」

アルスレートは王に向かって問いかける。

「かまわんのか?その侍女とやらは王妃の侍女だろう?」
「王妃の御為ならば、喜んでその身を差し出すでしょう」
「ふむ…よかろう」

アルスレートの言葉に、王は鷹揚に頷いて許可を与える。

「それでは、しばらくお待ちください。……貴方方はこちらへ」

優雅に一礼し、アルスレートは男達を促して扉へ向かう。
処女を犯す楽しみに厭らしい笑みを浮かべた男達がゆっくりとアルスレートの後を追った。
追った先で、ちら、と男達を見た侍女が怯えて震えるのが目に入った。
アルスレートに言い聞かされたのだということはすぐにわかった。
顔を蒼くさせて怯える様は男達の苛虐心をいやというほどに煽る。

「へ…、そいつかよ。なかなかいい女じゃねぇか」

下卑た笑みを浮かべてじろじろと侍女を嘗め回すように見る。
王妃のように豊満ではないが、均整の取れた侍女の身体は十分に魅力的だった。
不躾なまでの視線に侍女はさらに怯え、カタカタと震える。
そんな侍女に、アルスレートは容赦なく言い放つ。

「いいですね?…丁重にお相手して差し上げるのですよ?」
「は…は、い…」

怯えながらも了承の意を示した侍女に頷き、アルスレートはその耳元に唇を寄せた。

「―――いいですね?」

顔を蒼褪めさせて震えたまま、侍女は頷いた。
囁く内容は男達には知れなかったが、話が付いたことを感じ取って近付く。

「話は決まったんだな?」
「はい。どうぞお連れになってください」
「嬢ちゃん、行くぞ!」

侍女を引き摺るようにして去っていく男達の背を見送りながら、アルスレートは笑みを浮かべた。
その笑みは獰猛な肉食獣を思わせる、残忍で冷酷な笑みだった。

「きちんと…できるだけ長く苦しめて殺すんですよ、セフィラ」

ふ、とその笑みを消すと、アルスレートは片手で顔を覆った。
その顔は苦渋に満ちている。
ぎゅ、と手を握り締めて苦渋に満ちた顔を消し去ると、アルスレートは室内へ戻った。

「遅くなって申し訳ありません」

心にもない謝罪を口に乗せながら、アルスレートは寝台に近寄った。

「待ちかねたぞ」
「申し訳ありません」

顎をしゃくって促す王に、アルスレートはもう一度心にもない謝罪を重ねながら、寝台に乗った。
その間、ファリナは身動ぎ一つせず、顔を背けてきつく瞳を閉じたままだった。

「続けろ」

短く王が命じる。
アルスレートはファリナに覆い被さり、頬から首筋まで撫で下ろしてその手に嵌る指輪を押し当てる。
ちくりとした痛みにファリナは顔を逸らしたまま小さく声を上げ、眉を寄せた。
小さな動作であったため、王がそれに気付いた様子はない。
美しく滑らかな肌に散る鬱血痕を一つ一つ辿りながら愛撫を重ねていく。
辿り着いた秘裂に指を這わせると、微かに潤んでいた。

「ゃ…」

小さく声を上げて逃れようと身動ぎしたファリナの身体の自由を奪うと、秘裂の形を確かめるように撫で回す。
そして密やかに息づく小さな肉芽を捏ね回す。
アルスレートがそこを捏ね回すたびに、ひくん、ひくん、とファリナが震える。
そうしながら、慎重にファリナの様子を探る。
早く効き目が出るようにと、そればかりを願いながら。
いい加減焦れたのか、早くしろ、と王が言う。

「……まだ早いと思いますが」
「早くしろ」

アルスレートは舌打ちしたい思いに駆られた。
薬物―主に毒だが―に慣れたファリナの身体に、先程の薬が効いてきた感じはない。
わざと愛撫に時間をかけて、挿入前に失神させるつもりだったのだ。
力なく投げ出されたままのファリナの足を大きく開き、その間に身を置いて怒張を取り出す。
自分の精神状態を如実に表すそれに、思わず苦笑が零れた。
ファリナの秘裂に怒張を宛がい、アルスレートは一気に刺し貫いた。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ほとんど濡れていない秘裂に突き入れられ、苦痛に仰け反ったファリナの可憐な唇から絶叫が迸った。
一度しか経験がなく十分に濡れていない処女同然のそこは、いきなりの挿入に傷付き血を流す。
しかし、アルスレートはそれに構うことなく奥まで突き入れた。
大きく目を見開いて仰け反り、苦痛に喘ぐ身体。
苦痛に顔を蒼褪めさせ、声を上げることすらままならず戦慄く唇。
それはアルスレートにとってそそるものにはなりえず、むしろ苦痛だった。
しかし、やめるわけにはいかなかった。
ファリナが衝撃を遣り過ごす暇さえ与えずに、腰を動かす。
それはおよそアルスレートらしくない、荒々しいものだった。
苦痛に声を引きつらせ、逃れようともがくファリナの両腕を押さえつけると、腰の動きを更に激しくしていく。
そんな中、アルスレートのほうをファリナが見た。
ファリナは表情を浮かべることなく自分を犯すアルスレートの瞳を見つめ、その瞳に宿る、喩えようもないほどの悲痛を感じ取った。
泣いているわけではないが、泣くより嘆くより深い悲しみが覆っているのがわかる。

―――なんということ…泣くな、アルスレート…

そう言いたいのに、言葉は生まれない。そのことを、ファリナはもどかしく思った。
苦痛しか受け取っていないとはっきりとわかるファリナとアルスレートの視線がしっかりと交わる。
その瞳には、アルスレートに対する嫌悪も非難も浮かんでいなかった。
むしろ、この行為全てを許容し、アルスレートを案じ労わる色さえ浮かんでいた。
アルスレートは泣きたくなった。
この後、冷静になったファリナが自分を非難したとしても、もう、それだけで十分だと思った。

ファリナは、びくん、と全身を硬直させ、ぎゅぅ、とアルスレートを締め付けると寝台に沈み込んだ。

「どうした?」

にやにやと厭らしく笑い、ワインを呷りながら陵辱劇を眺めていた王は身動ぎ一つしなくなったファリナを不審に思い、アルスレートに問いかけた。

「……気を失ってしまったようです」

ようやく薬が効いたのだと思いながらそう答え、押さえていた手を離す。
細心の注意を払っていたため、その手首に拘束痕は残っていない。

「つまらんな」
「そうは申されましても王妃は慣れていませんし、苦痛に意識を手放しても仕方がないのでは?」
「ちっ、しくじったな。……つまらん。興がそがれた」

そう言い捨て、王は立ち上がる。
その際にワイングラスが倒れ、ワインが零れたが気にすることもなく扉へと歩を進める。

「もう、よろしいのですか?」
「この後は其の方の好きにするがいい」

それだけ言い置いて、王は部屋を立ち去った。

ずるり、とファリナの秘裂から引き抜くと、血に塗れた雄が目に入り、シーツに視線を移せば、血痕が目に入った。

「―――っ!!」

アルスレートは慟哭した。ファリナに苦痛を与えた自分が、疎ましかった。
あえかに戦慄く唇が、無意識に謝罪を紡ごうとして、アルスレートは唇を噛み締めた。
いかに命令とはいえ、ファリナを護るためとはいえ、それはアルスレートが言っていい言葉ではない。
もしもあの、ファリナと視線が交わった一時がなかったら、この苦痛は今の比ではなかったろう。
ファリナの視線一つがそれほどの効果を齎したのだった。

寝台の傍らに跪いて項垂れるように俯くアルスレートのその姿は、断罪を待つ罪人のようだ。
その姿をちらりと横目で見やり、ファリナは溜息をついた。
びくり、とアルスレートの身体が強張る。

「アルスレート」

呼びかけながら、痛む身体を宥めつつゆっくりと起き上がる。
応えはない。

「アルスレート」
「……はい」

先程よりも少し強めに呼びかければ、小さいながらもようやく応えが返った。

「面を上げよ」

しばらくの沈黙の後、ゆっくりと顔が上がる。
いつもは笑みを浮かべているその顔は、悲痛に歪んでいた。

「そなたの方が泣きそうだな」

ファリナは苦笑しながら、そっと手を伸ばしてアルスレートの頬を撫でる。
細く繊細な指先に頬を撫でられ、アルスレートはびくり、と怯えるように身を竦めた。

「そなたが罪悪を感じる必要はない。あれが最善だったのであろう?」
「っ、それでも!」
「泣くなアルスレート。たしかに身体は痛むが、私の心は傷付いてなどおらぬ。むしろあの馬鹿王に礼を言うてやりたいくらいよ」
「我が姫?」

涙が零れたわけではないが、目尻を撫でながら意外なことを言うファリナに、アルスレートは瞬く。
女性があのようなことをされて傷付かないはずはない。

「あの男はな、そうとは知らずに我が謀への助力をしたのよ」

くつり、とファリナの唇が妖艶につり上がる。
その笑みを、かつて一度だけ見たことがあった。
アルスレートがファリナに跪き、全てを捧げるきっかけとなった出来事。
そのときと同質の笑みだった。

「…寵があったほうが上手く運ぶと思っておったが……まぁよい。私の望みは果たされる」
「それは一体…?」
「そなたの子を孕むことよ」
「我が姫!?」

アルスレートは驚愕に声を上げる。
まがりなりにも一国の王妃たるものがなんということを言うのだ。

「私はな、アルスレート…そなたが思うほど優しくもなければ慈悲深くもない。そして唯々諾々と従うほど従順でもないのだぞ?」
「それ、は…」

知っている。出会いがそうであったのだから。
だが、民に注がれる、母親の無償の愛と等しく思えるほどの優しさと慈悲も、知っている。

「国力で敵わぬものならば、謀略をもって落とせばよい。…そうであろう?」
「……はい」
「そのために、私が出向いたのだ」
「………」
「リファやルーイでもよかったのであろうが…脆弱だからな。仕方あるまい」
「ですが、我が姫とて…」
「私が多少なりと萎れておれば、そなたは勝手に動くだろう?」
「!」
「実際、そなたはこの国を潰すつもりで動いておる……そうであろう?」
「全て、計算のうちだったのですか?」
「概ね、な。………まさか、あのような者達に襲わせる、などとは思いもしなかったが」
「それはそうでしょう。私もあんなことをさせられるとは思いもしませんでしたから」

ファリナを苛まなければならなかったなど、思い出したくもない。
できるなら、忘れ去ってしまいたい。
そんな思いを滲ませて苦々しく、吐き捨てるようにアルスレートは言う。

「予想以上に馬鹿であるか…あるいは私を身籠らせて処刑なり追放なりする心積もりであったのか…まぁよいわ」
「よいのですか?」
「構わぬ。仮に私が身籠ったとて、それが露見する前に滅ぼしてしまえよう?」
「勿論です。後は機を待つだけですから」

今しばらく機を待てば、そう遠くないうちにこの国を消し去ることができる。
そのまま、新たに国が作られるだろうが、そこからはアルスレートには関係ない。知ったことではない。

「ならば構うまい。そのときは十分に礼をしてやればよかろう」
「恐ろしい、方ですね…」

多大の恐れと少しの呆れをもってアルスレートは呟いた。
全てはファリナの手の内だったというのか。
しかしそれをいやだとは思わない。
それでこそ。それでこそ己が主に相応しい。

「誰がだ?」
「貴女様です、我が姫」
「ふ…そなたが言うか」

くすくすと楽しげにファリナは笑う。
純粋なものではないが、久しぶりに見る楽しそうな笑みだった。
ひとしきり笑うと、ファリナはアルスレートの頬に手を添え、その顔を覗き込んで囁くように告げる。

「だが…この腹は、空のままだ。……それでは少々具合が悪い。呪を施した我が身にはな」
「……私に、どうせよと仰せなのですか……?」
「わからぬか?」
「……わかりません」

わかっているだろうに、わからないと言うアルスレートに苦笑しながら、手を引いて寝台に座らせる。
寝台に座らせたアルスレートの足の間に腰を下ろし、背を預けた。
アルスレートの方も心得たもので、ファリナの腰に腕を回す。
ファリナは回された腕に触れ、アルスレートの指に自分の指を絡める。
されるがままのアルスレートの指を玩びながら、ファリナは口を開いた。

「そなたの子が産みたい」
「いけません。それは、望んではならないことです」

アルスレートにとってそれは、叶うなら、と、切に願う自らの望みでもある。
ファリナが嫁す前であったなら、あるいは、全てに片が付いた後であったなら、ではあるが。
無論、ファリナを守り愛し慈しむ、相応しい男が現れるなら、アルスレートはその望みを捨てる。
アルスレートにとって最優先するべきことは、ファリナが心安く幸福であること、なのだから。
故に、ファリナの願いならば全て叶えたいと思っていても、その願いだけは、聞き入れられない。

「いけません」

アルスレートはもう一度言い、さらに言葉を口にする。

「貴女様は王妃です。王妃が産む子は王の子以外、ありえてはいけません」

ファリナの瞳が哀しげに揺れるが、それが一瞬であったためにアルスレートは気付けなかった。
どうあっても聞き入れてもらえないのか、切り札を出さなければならないのか、とファリナは思う。

「…――従わせるにも誘惑するにも、全身全霊を懸けるのです、であったか……」
「我が姫?」

小さな囁きにも似た呟きであったために、聞き取れなかったアルスレートが問いかける。
聞こえていないのならそれでよい、と思い、ファリナは薄く笑んだ。
今度は聞こえるように、しかし、違う言葉を口にする。

「間違うな、アルスレート。そなたの子『なら』産んでもよい、ではない。そなたの子『を』産みたい、のだ」

誰でもいいわけではないのだ、と、ファリナはそう強調する。

「わかるか?……私が産みたいのは、アルスレートの子だけだ」

「愛している、アルスレート。…愛して、いる」

すり、と、アルスレートの手のひらに頬を寄せながら告げる。
そのファリナの艶を帯びた声は、甘くアルスレートを冒した。
それでも答えないアルスレートの掌に、ファリナは唇を寄せる。
ちゅ、と、小さな音。
ファリナは何度も何度も、小さな音を立てて柔らかな口付けをアルスレートの掌に落とす。
乞うように、願うように。


終わりなく続けられるその仕種にアルスレートは愕然とした。
アルスレートにとって、ファリナがこんなふうに希うなどありえない。
ファリナはただ、命じればいい、望めばいい、そうであることが当然だと思っているのだから。
だからこそ、こんなファリナの姿など、信じられなかった。

「我が、姫…」

愕然とした思いのままに零れた呼びかけに、ファリナは身動ぎして体の向きを変えた。
アルスレートの首に腕を回して見つめるファリナの瞳に、狂おしいほどの恋情を見た。
この方は、本当に私の主なのか?
こんな、恋焦がれる眼差しを自分に向けるなど、まるで…――
そこまで考えてアルスレートは、ああ、と思う。
そうだ。
仕えるべき主であり姫で、そしてなにより女性なのだ。
自分が騎士であり男であるのと同じように。
そんなアルスレートの思考を破るように、ファリナが微かに震える甘い声で呼んだ。

「…アルスレート…」

これ以上女性に言葉を重ねさせるなど、男としてあってはならない。
ファリナに対するこれ以上の拒否も拒絶もまた、侮辱に他ならない。

「……後悔、しませんか?」

その問いかけに、こくり、と、ファリナは頷いた。
アルスレートが為そうと思っていることへの障害になるかもしれなくとも、何も言うまい。
現状、これから為すことを考慮に入れた上でなお望まれるなら。
唯一人と定めた相手に切なるほどに求められる…これ以上の喜びがあろうか。
喜びが胸を満たし、溢れてどうにかなってしまいそうだ。
瞳を潤ませ愛しげに見つめてくるファリナに笑みかけると、共に寝台に沈み込んだ。

唇を柔らかく触れ合わせて頬を撫でると、ファリナは嬉しそうに頬を緩めた。
アルスレートはそれにつられるようにもう一度唇を触れ合わせ、その唇を甘く噛んだ。
きゅ、と、回されていたファリナの腕に力がこもる。
宥めるように頬を撫で、舌先で唇を辿る。
ファリナはあえかに唇を戦慄かせ、唇を開いた。
あまりにも従順なそれに、アルスレートの心は歓喜に震えた。
舌を差し入れて口内をくまなく弄ると、ファリナから鼻にかかった甘い声が零れた。

「…っん……」

アルスレートが舌を絡めれば、ファリナはたどたどしいながらも応えてくる。
舌を絡めるような口付けは、一度あるかないか、という程度だろう。
どうすればいいかわからない、と戸惑っているのが手に取るようにわかる。
それでも何とか応えようと、眉を寄せながら応えてくれる。
それがとても愛おしい。
煽られるように舌を絡め続けるが、ファリナが苦しさに身を捩れば唇も舌も容易く離れた。

「っは……し、死ぬ、かと、思う、た」
「死にませんよ。このくらいでは」

くすくす、と、小さく笑いながら色付く頬に口付ける。

「くすぐったい、ではないか」
「すみません」

笑いながら何度も口付けを落としていては、謝罪になっていない。
馬鹿者、と、詰る口調は甘える響きを持っている。

ふ、と、アルスレートが頬に口付けるのをやめた。
瞳を閉じてその口付けを受けていたファリナがアルスレートを見上げる。
見上げた先で、アルスレートはひどく真剣な顔をしていた。

「?」

アルスレートは疑問に思うファリナの頬に手を添えて顔を覗き込み、触れ合わせるだけの口付けを一度落とした。

「大切なことを、まだ言っていませんでしたね」
「大切な、こと?」

肯定するようにアルスレートの顔に苦笑が浮かぶ。
本当なら、告げるべきではないと思う。
けれど、ファリナの心を思えば―自分のため、というのも多分に含まれるが―……。

「――愛しています、喩えようもないほどに」

甘い微笑と共にアルスレートがそう告げたときのファリナの顔を、どう表現したらいいだろうか。
ぽろり、と、細められた瞳から涙が零れ、次いで現れるのは綻ぶ花のような麗しい微笑。
しかしそれだけではなく、甘く濡れた女の色香も窺える。

「……名を呼べ」
「御名を?」

意味を捉えかね、アルスレートは問いかけた。
嬉しくて仕方ない、と、如実に告げる微笑のまま、ファリナは尊大に告げる。

「さすれば、そのことは許してやろう」
「………ファリナ様?」

ぺちん。

「った…痛いです」
「嘘をつけ」

音からして痛そうではないではないか、とファリナはくすくす笑う。
くすりと笑い、痛まない頬を押さえながら、アルスレートは問いかける。

「では何と?」
「わからぬか、アルスレート?」
「……ファリナ」

恐る恐るそう呼べば、良くできた、と言わんばかりの笑み。
ファリナは、ぐ、と腕に力を入れて引き寄せた。
引き寄せられるままにアルスレートが顔を近づけると、ファリナはそっと唇を触れさせ、囁いた。

「こういうときは、名を、呼ぶものであろう?」
「そうですね」
「ならば、私の名を。……呼ばれたい、アルスレート」
「……はい」

そう願われて、拒否する理由などない。
この世に唯一つの、美しい響きを持つ尊い名を、囁くように音に乗せる。
嬉しい、と、目を細め、笑みを作る唇に、自分のそれを合わせた。
応えるように、薄くファリナの唇が開かれる。
その誘いのままにアルスレートは舌を差し入れ、絡めた。
頬に添えていた手で一度優しく撫で、首筋を撫で下ろす。
くすぐったいのだろう、ぴく、と、絡め合ったファリナの舌先が震える。
もう片方の手で、しがみ付くファリナの腕を緩めさせる。
そうしてできた隙間に撫で下ろした手を滑り込ませ、夜着の上から豊かな胸に触れた。
触れるか触れないかの強さで、やんわりと撫でる。
ちゅぷ、と音を立てて唇を離し、唇と唇を繋ぐ糸を拭い去る。
荒い息を繰り返すファリナの頬に口付け、耳へと舌を這わせていく。
食んで、舌を滑らせる。形を辿るように。

「っあ…?」

驚いたような、声がファリナの口から漏れる。
ほとんど力を入れずに胸を撫でながら、耳に唇を触れさせたままでアルスレートは問いかける。

「どうしました?」
「ぁ…い、いや…」

本当にわからない、というような声でファリナは答える。

「……いいんですよ」

アルスレートの許しにファリナは、こく、と、頷いた。
何がいいのかわかってはいないのだろう、と思いながらもそれ以上は言わず、かり、と、耳朶を甘噛みする。
それと同時に乳房を包み込み、感触を楽しむようにやんわりと揉み、撫で上げる。
何度か繰り返すうちに、その中心が夜着とアルスレートの掌とに擦られ、徐々に立ち上がってくる。
立ち上がってきたそこを転がし擦りながら、首筋に舌を這わせる。
重ねて付けてはいるが、忌々しい鬱血が目に入る。
その鬱血に吸い付いて更に色を濃くしながら、肌を下っていくと、鎖骨まで下りたところで夜着に阻まれる。
編み上げになっている胸元のリボンを解いて引き抜くと大きく広がり、胸が露わになる。
ファリナが夜着を掻き合わせて胸元を押さえた。
恥じ入っているにしては、夜着に皺を作るファリナの指先に力が籠り過ぎている。

「ファリナ?」
「……あまり、見るでない。私は、穢れている」

疑問に思い問いかければ、ファリナの染まった頬が翳を帯びた。
ほとんど反射といっていいほどに、アルスレートは即座に否定する。

「馬鹿な。貴女ほど美しいものを、私は知りません」
「いくらでもあるであろう」
「いいえ。ありません。……貴女は、美しい」

言い聞かせるように、ゆっくりと囁く。
アルスレートにとって至上の存在であるファリナの、どこが穢れているものか。
ファリナが気に病む必要など、ありはしない。
こうして触れることを許され、アルスレートの心は狂喜に満たされているというのに。

「何度でも言います。貴女は美しい」
「っ、ぅ…」

どれほど耐えていたのだろう、とめどなく零れる涙が哀しい。

「貴女が貴女であることを失わないなら、貴女は美しいままなんです。貴女を穢せるものなど、存在しません」

強張る身体を、心を解すように、アルスレートは言葉を重ねながら唇で涙を拭う。

「私の目に映る貴女は美しい。……だからどうか、恐れないでください」

こく、と、頷きながらも、力が抜け切っていない夜着を掴む手に、アルスレートは口付けを落とす。
何度も繰り返すうちに力が抜けていくのを感じ、ゆっくりとその指を外していく。
指を外しても、夜着に胸元は被われたままだ。
外した指に指を絡めながら空いた手で夜着を開き、現れた乳房に口付ける。
ぴく、と、絡められたファリナの指が震える。
ファリナはまだ、気に病んでいるのだろうか。
あれほどの仕打ちを受けていれば、それも仕方ないか、と、アルスレートは思う。
気にするな、などとは言えない。何の意味もない。かえって傷付けることになりかねないのだ。
今ある傷を、抉るような愚を犯してはならない。

アルスレートは乳房の中心に向かって舌を這わせた。
ぎゅぅ、と、絡め合う指に力が籠る。
そのまま口元に引き寄せながら、もう一方の手は肌を滑り肩へ向かう。
ファリナの手の甲と指先に口付けを落とし、向かった先の肩に僅かにかかるレースの飾り袖を腕から引き抜いた。
絡め合った指を離し、ファリナの掌に口付ける。
つ、と、指先で腕を辿り、その肩から飾り袖を落として引き抜くと、アルスレートは身を起こした。
見上げるファリナを見つめながら、アルスレートは上衣を脱いだ。
いくつもの傷跡が残る、均整の取れた上半身が現れる。
傷跡が数多いのは、儀式や式典の時以外、その身を鎧うことがないゆえだ。
戦場に赴く時さえ、例外ではない。

「アルスレート…」

微かな呼び声と共に、ファリナの両腕が伸ばされる。
にこり、と、笑んでアルスレートが覆い被さると、その首にファリナが腕を回し、ぎゅぅ、と、しがみつく。しがみつかれて密着したため、押し付けられて形を変える乳房。
それに、どうしようもないほどに煽られる。けれど。その思いのままに攻めることはしない。
ファリナにとって、行為は苦痛でしかない。抱かれる悦びを知らない。
苦痛ではないことを、忌避すべきことではないことを、教えなければならない。

すぅ、と、ファリナの足を撫で上げ、いまだ下肢を覆う夜着の裾を開いていく。
リボンが引き抜かれているため、容易く左右に滑り落ちた。
曝された腹部を撫でて下着のラインに指を這わせると、アルスレートの指先がサイドのリボンに辿り付いた。

「これ、誰の仕業です?」

そのリボンの結び目に指をかけて軽く引きながら問いかける。
慌てたようにファリナがアルスレートの手を押さえた。

「ひ、引くでないっ」

さすがに恥ずかしいのだろう、かっと染まった頬が見える。
誘惑してくれたときとは大違いのずいぶんと可愛い反応に、笑みが零れる。

「わかりました、引きません。…それで、誰なんですか?」
「だ、誰でも、いいであろうっ」

ファリナは答えないが、予想は付く。恐らくセフィラだろう。調達したのは他の侍女かもしれないが。
渋るファリナに「こういうのが好きなんですよ」とでも言って身に着けさせたに違いない。
アルスレートがリボンから手を離しても、ファリナはしっかりとリボンを押さえている。
ファリナがリボンを押さえているために無防備になった腹部を撫で上げ、乳房へと指先を向かわせた。
包み込んでやわやわと揉みがら、ぷくりと立ち上がる箇所を指の腹で擦る。
ぴくぴくとファリナの身体が震え、アルスレートの手に震える手が添えられる。

「どうしました?」
「どうした、らいいか、わから、ぬ」

アルスレートは答えず、そこに唇を寄せた。ねっとりと舌で転がし、歯で挟んで扱く。

「ひゃぅっ!?」

ファリナから、艶めいた声が上がる。
アルスレートは一度顔を上げ、ファリナを見た。
よほど恥ずかしかったのだろう。耳まで赤くして、唇を両手で押さえている。

「そう、それでいいんです」

ファリナが初めて見る、男の顔で、アルスレートは笑った。

「感じるままに声を上げてください?」
「へ、変な声、だ」

ぷるぷると首を振り、唇を両手で覆ったまま、くぐもった声でファリナは答える。

「――その声が聞きたい」

命令調でありながら強制力はなく、むしろ願うような響き。
アルスレートのお願いなど、これまで、手で足りるほどしかない。
う、と、詰り、ファリナは顔を逸らした。ずるい、そう思う。
知っているのではないか、とさえ思う。
持てる全てを捧げてくれるアルスレートの頼み事は全て叶えよう、と、決めていることを。
だがそれは、ファリナの中で定めたこと。アルスレートは知るはずもない。
うぅ、と、小さく唸り、唇を覆う手を退かす。

「………わ、かった……」

嬉しそうに笑い、アルスレートは再び乳房に唇を寄せた。
片方を含み、歯で扱き甘噛みする。もう片方は、掌で、指の腹で捏ね回し、摘む。

「あぁッ!あっ、あ!」

声を上げながら、何故、と、ファリナはぼんやり思った。
何故こうも違う。
あの時は、あんなに気持ち悪かったというのに。せめてもの抵抗に声を上げなかったのに。
今は、たとえ願われなかったとしても、声を耐えられそうにない。
これが、望む相手に触れられる、ということか。

快感を引き出すために熱心に愛撫しているアルスレートの手が、ファリナの身体の線に沿って下りていく。
それにすらびくびくとファリナは身悶える。

「可愛い方ですね」

手を追うように乳房から離れたアルスレートが肌に吐息がかかる距離でくすりと笑み、囁く。

「な、にを、っ!」
「褒めているんですよ、ファリナ」
「う、ぁんっ」

きゅ、と、摘まれ、嘘を言うな、と言いかけたファリナは背を撓らせて甲高く啼く。

「ほらね?ここをちょっと摘んだだけでこうなんですから」
「ゃ!」
「いや、ではなく、いい、っていうんですよ?」

くすくす、と、笑みを零してそう言い、アルスレートは滑らかな腹部に口付けた。

「っ」

ちりっ、とした小さな痛みに、小さく声を上げた。アルスレートが吸い付いたのだと理解する。
何度も腹部に吸い付かれ、胸に残る手に突起を捏ね擦られ、摘まれる。
じん、と、身体の奥深くが、甘く痺れる。初めてだった。
もっと、と強請りそうになる。それはなんだか悔しくて、ファリナは口を噤んだ。
下着を通り過ぎたアルスレートの手が、ファリナの太腿を撫で下ろして片足を立てさせた。
そうしてそのまま、足を持ち上げる。
恭しく両手で包み込んで捧げ持ち、そのつま先に舌を這わせた。
ちゅ、と、口付けて、そのうちの一本を口に含み舐る。
驚いて起き上がりかけたファリナの足が、びくん、と、震えた。

「んぁっ!」

ぴちゃぴちゃと一本一本丁寧に舐られ、ファリナは信じられない思いで身悶えた。
足を舐められて気持ちいいと思うなんて、と。
けれどそれも、もう片方の足も同じように舐られる頃には、消え失せていた。

「あ、ぁ……ん…」

素直に快感を得ていると知れるファリナの媚態を見ながら、これならば、と、アルスレートは思う。
肝心なところに触れていないのに、甘く蕩けるこの反応なら何も問題はないだろう。
は、と息を吐いて、アルスレートは早く押し入りたいと思う心を落ち着ける。

ファリナの足の間に身を置いて、太腿へ、更にその奥へと舌を這わせながら向かう。
太腿をぺろりと舐めながら、指先で下着の上から触れる。
ぐ、と力を入れれば、濡れた感触が指に伝わった。
何度か擦るうちに、下着の内側に隠された肉芽を探り当てた。

「ひぁっ!」

びくん、と、ファリナの身体が仰け反る。

「濡れて、気持ち悪いでしょう?取ってあげますね」

言うが早いか、アルスレートは肉芽をぐりぐりと押したまま、両サイドのリボンを口で解いた。

「あ、は…あぁっ」

下着を取り去ると、びくびくと身体を跳ねさせるファリナの秘裂が露わになる。
そこはしとどに濡れ、アルスレートを誘っているかのようだ。
たまらず、指を滑り込ませた。くちゅ、と、音を立てる。

「あっあぁっ!」
「こんなにして…」

滑り込ませた指先で探りながら、舌先で肉芽を暴き出す。

「きゃぁんっ」

大きく身体を波打たせたファリナが、アルスレートの頭を押す。
しかし悦楽に解けきったファリナの力では、添えられているようなものだ。

「あ…ん、はっ……やぁ!」

びく、と一際大きく体が跳ねた。とろり、と、更に蜜が溢れてくる。
見つけた。ふ、とアルスレートは笑う。
見つけたそこを、指を増やし、擦り合わせるようにしながら攻め立てる。
そうしながら肉芽を甘噛みしてやると、きゅぅ、と、指がきつく締め付けられた。
悦んでいる。肉芽を食まれ、指を差し込まれ、掻き回されて。
耳を打つ淫靡な水音が大きくなった。

「ア…ルス、レ…ト」

途切れ途切れに名を呼ばれ、アルスレートは顔を上げた。その口元は蜜で濡れている。

「どうしました?」
「へ、変、にな、る……怖、い」

アルスレートの指を咥え込み、蜜を零しながらひくひくと蠢くそこが、絶頂を迎えようとしている。

「変になるというなら、なってください。大丈夫、全て受け止めてあげますから」
「ゃ…だ……な、にか、く…る……こ、わい」
「それが普通なんですよ。それにそれは、いく、っていうんです」

言いながら、く、と、指を折り曲げ、肉芽を擦り上げた。

「っぁ、あぁぁぁっ、い……くぅ!」

ファリナが仰け反り太腿を痙攣させ、咥え込んだアルスレートの指をぎゅぅ、と、きつく締め上げた。
アルスレートが指を引き抜くと、泡立った蜜がどぷりと零れた。

「見てください、ファリナ。貴女はこんなにいやらしい身体をしているんですよ」
「ぁっ…だ、だが…」

蜜が滴るほどに絡む指を掲げ、それを舐め取りながらアルスレートは言う。
しかし、ファリナは快楽に瞳を潤ませ頬を紅潮させながらも、悲しげに顔を逸らした。

「あの方の言うことなど、戯言に過ぎません。こんなに蜜を溢れさせる身体のどこが不具ですか」

指を這わせれば、くちゅり、と、音を立てる。

「ね、聞こえるでしょう?……それとも、まだわかりませんか?」

ファリナは答えない。なんと言っていいのかわからないのだろう。
アルスレートは秘裂に顔を埋めた。
じゅ、じゅる、と、音を立てて蜜を啜る。舌を差し入れ、絡めるように掻き回す。
微かに血の味を感じ取る。先程蹂躙したときに傷を負ったからだろう。
だが、これほど濡れているなら、さしたる苦痛はないはずだ。
ファリナは身を離そうと捩るが、がっちりとアルスレートに太腿を押さえ込まれていてままならない。
喘ぎ仰け反るたびにアルスレートの頭に置かれたファリナの手に力が入り、より押し付ける形になっていることに気付いているのだろうか。
「貴女は私に触れられて、こんなに悦んでいるんです」
「あ、も…も、ゃめっ……お、かし、くな、るぅっ」

一度絶頂を迎えた秘裂から伝わる快感に、ファリナの気が狂いそうだ。

「そう、ですか」

す、と、アルスレートは身を引いた。
打って変わり、あまりにもあっさりと引いたアルスレートを疑問に思い、ファリナは快楽に潤む瞳を向ける。
アルスレートは、下衣を脱いでいた。

「っひ!?」

初めて直視した男のモノに、ファリナは悲鳴を上げた。

「そ、そんな…無、無理…」
「大丈夫、ちゃんと入ります。一度は入ったんですから」

そう言われても納得できるものではない。が。

「ファリナ」

覆い被さるアルスレートに名を呼ばれ、観念した。太腿に、熱く硬いモノが当たる。
くちゅり、と、秘裂を掻き分け、熱い塊がゆっくりと押し入ってくる。

「ぁ、あぁっ!」

ず、ず、と、奥まで満たされる。
痛みは、なかった。ぞくぞくとした快感が、ファリナの身体を駆け巡る。

「いやらしい顔、ですよ」

ちゅ、と、頬に口付け、悩ましげに眉を寄せたファリナの顔を覗き込む。
ファリナは顔を両手で覆った。やはり恥ずかしいのだろう。
そう思いながらもアルスレートはその両手を掴み、自分の背に回させた。

「私にしがみついていてください」

ファリナがしがみついたのを確認して、ゆっくりと律動を始めた。
熱く蕩けたファリナの膣は、アルスレートを歓迎して締め付ける。
悦ばせることを忘れてしまいそうなほど、強い快楽をアルスレートに与えてくる。
いけない、と、アルスレートは熱く息を吐いた。

そして、ひとつのことを思い出す。

「ファリナ」
「ぁ、っん……な、ん……」
「約束を、果たしましょう。……あの、遠く幼い日の」
「っぁ、ほ、んと、うか……?」
「ええ。ですから、待っていて、くれますか?」
「っう、れし………っん、ぁ!」

嬉しい、と、喘ぎながら微笑んで告げるファリナに愛しさが込み上げる。
ぐ、と、突き上げると背を撓らせ、アルスレートの背に爪を立てた。痛みは、感じない。
そしてねだるように、ファリナが顔を近づける。

「まだ、ダメです」
「な、っぜ…?」

突き上げられて、息を詰めながら問いかける。

「まだ、貴女の味がします」

ふ、と、荒い息でアルスレートは答える。
味?、と微かに首を傾げるファリナに苦笑する。

「貴女の、蜜の味、ですよ」

言い直すと、快楽を得て染まっていた頬が、さっと、さらに赤みを増す。

「どうします?」

うぅ…と、しばらく悩んで、ファリナは唇を寄せた。
して、という無言のおねだりを受けて、唇を食み、舌を差し込む。
それと同時に突き上げる動きから、腰を回し、掻き回す動きへと変える。

「ん、ぅぅ…」

もしかしたら抗議したのかもしれない。
そう思い、アルスレートが唇を離そうとすると、力のあまり入らない腕で、なんとかすがり付いてくる。
差し込まれた舌に、何とか応えようとファリナが懸命に絡めている。
愛しい。どうしてこんなに愛しいのか、わからない。もう、疑問に思うことさえ愚かな気がする。

「ん、んぅ……んふ、ぅ」

苦しそうな息遣いに、すぐに離してやる。そう長くはない口付け。

「っはぁっ……はぁ、は…」
「した、でしょう?」
「んっ……へ、んな、あ、じ……ふぁっ!」
「そう、ですか?私には、最高の美酒の、ようですが」

そういって、また突き上げる動きに切り替える。緩急を、強弱を、つけて。
乳房を揉みしだき、摘み、捏ね回す。
そうしながら肉芽を剥き、擦り上げる。

「あ、ぁっ…あぁっ!」

びくびくとファリナの膣が痙攣し、強くアルスレートを締め付けた。絶頂が近い。
子が欲しい、と言ったことは忘れていない。
けれど、やはり…と思い、身を離そうとしたアルスレートをファリナは弱々しく抱き締めた。

「ゃ…あっ!……は、なさ、な………ぁう!」

もう、耐えられなかった。
思いのままに強く突き上げる。応えるように締め付けが強まった。
肌がぶつかる音と、互いの荒い息遣い。そして、ぐちゅぐちゅという淫猥な水音が響く。
数度強く、奥まで叩きつけられる。

「ぁっ……はぁ、あぁぁっ!!」

ぴったりと合わされた身体の奥深くで、アルスレートのものが爆ぜた。
どくどくと熱いものが注がれるのを感じ、びくりと震えてファリナの意識は闇に沈んだ。

「っ、はぁ……ファリナ?」

アルスレートは顔を覗き込んだ。ファリナは気を失っていた。いく筋も涙の残る頬を撫でる。

「……やりすぎてしまいましたか。…困りましたね…」

いまだ硬度を保つそれを引き抜きながら苦笑する。
一度でなど、満足できない。しかし、だからと言って叩き起こすなど出来るはずもなく。
仕方ない、と、アルスレートは諦め、大切な宝物のようにファリナを抱き締めて横になった。

「ん…」

温かな何かに包まれ、ファリナは目を覚ました。
まず先に、逞しい胸板が目に入る。そのまま視線を上に向けると、アルスレートの顔があった。
包み込むように抱き締めているのは、アルスレートの腕だ。
そういえば、と、ファリナは思い出す。
意識を失う直前、途切れ途切れに、離さないで、と願ったことを。
そして、腹の奥にアルスレートの精を注がれ、満たされたことを。
下腹部を撫でる。この奥に――。
かっ、と、頬が火照る。恥ずかしい。願ったことなのに。

ぷるぷる、と、小さく首を振り、意識を切り替える。

―――やることが、ある。

アルスレートを見る。まだ、寝ている。だが、もう起きるかもしれない。
起きないように、強制的に深く眠らせるための呪を、小さく小さく唱えた。

「……」

腕を解き、半身を起こす。そっとアルスレートを仰向けにした。
身体をずらし、体制を整えると、とろ…と、零れる感触がする。

「っぁ……」

切ない。その思いを、もう一度小さく首を振って振り切った。
しくじるわけにはいかないのだ。



紡がれる声は、高く低く。
力を音に乗せ、調べの如く。
ファリナが力ある言葉を紡ぐたびに、目を射ることのない柔らかな光が増していく。

「―――、為さしめよ」

最後の一言が紡がれると、それまでのことが幻であったかのように夜の闇に包まれた。
力の残滓さえなく、ただ、やんわりと月の光が射すばかり。

「……」

強制的に深く眠らせたアルスレートの身体の上に、自分の身を乗せた。
逞しい胸元に頬を寄せ、甘えるように擦り寄る。
とくとく、と脈打つ鼓動に耳を澄ませ、ひとりごちた。

「そなたが知れば、怒るであろうか、泣くであろろうか……それとも、嘆くであろろうか…」






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