夢摘
シチュエーション


廃寺を抜ける風は周囲よりも心持ち生温く駆ける様に去ってゆく。
外れ掛けた天井や壁板を時折揺らして立てる音は、もしや誰かに見られているのや、と疑問を抱かせるが
いや、まさかあり得ない。
兼六は僅かに沸いた雑念を振り払う為に眼前に集中した。
自らの肉棒を突き入れ動かす先には彼を虜にさせた淫靡な柔襞と濡れた瞳があった。
女の唇から喘ぎの合間に微かな色が漏れるのを聞き取ると、兼六の世界は再び彼女に覆い尽くされた。

「紅(こう)……様、」

愛しい主人の名を呼ぶ。相手の耳に届いているかいないのか、初めて会った時から彼にはどうでも良かった。
傍に居ることを許されているだけで満たされた。
最初に肌に触れたときは嬉しさと緊張で、その美しい肢体の上に早々と射精した。
あれから何度も紅を抱く機会があったが彼女に対する戦きと恋慕、己の欲望をぶつけて汚した後悔は
一向に変わらずに兼六を支えていた。
張りのある乳房はまだ10代の少女の様に愛撫に震え、桜色の小振りな蕾が立ち上がると思わずしゃぶり付いた。
吸い上げ舐め上げ思うままに弄った後に唾液にまみれた固い乳首を指で弾く。
白い柔肌は吸い付く様な熱を帯び、朱く染まる首筋に幾本も黒髪が張り付く。
紅の吐息が兼六の顔にかかり更に彼を熱くした。
はだけた下衣の奥に手をやると既に別の生き物の如く淫らに開いていた。
花芯は膨らみ蜜を垂れ流している。
我を忘れた兼六は引き寄せられるままに怒張を引き出すと誘因の元にあてがい、一気に貫いた。
勢いに押されて背中が跳ね、組み敷かれていた体がずるりと動いた。

伏せていた睫毛が揺れ薄目を開いた紅は、一心に自分を求めて腰を振り息を荒げている相手を朧気に見つめた。
奥まで突かれる快感は背骨を奔り内側から鼓膜をぐらつかせ、幾度も波となって彼女を襲った。
こんなにも体は熱く意識も白みかけながら、どこか一点醒めた頭で眺めている。
兼六のことはもちろん快く思っている。
だが応えてやることは出来ない。体を開くことだけだ。
明日をも知れぬ物騒な世を渡っていくのに女一人では何かと煩わしい。
剣の腕も中の上で多少術の心得もある、寄ってくる男どもを蹴散らすのに何の躊躇いもなかったが
むしろ同性――母の様な慈しみの目で見られるのが辛かった。

『若い娘ひとりで、そんなとこに行くもんじゃないよ』
『あんたのまじない術、うちの子がえらく気に入ってねえ、……良かったらさ、ずっとここで――』

安らぎも平凡も自分には許されない、無縁な世界なのだ。
母親を、大事な人達を殺されて、のうのうと生きている自分。あの男を殺すためだけに生きていくのだ。
復讐を果たせず二度と剣を向けられずに野垂れ死んでもかまわない、ただ、その思いだけが。
なのに、あの慈愛に満ちた瞳がちりちりと奥底を刺激する。
兼六に出会ったのは、村から逃げる様に去り街道で飛び込んだ飲み屋でのことだった。
どこか冷静さを欠いていたに違いない、村で2,3度見ただけの少年にまんまと後を尾けられていたとは。

自分に付いてきたいと言われることは度々あった。
もちろん下卑な笑みと共に馴れ馴れしく肩を抱かれ、すかさず鼻先にまじない札、台の下に隠れて股間に隠しの切っ先を突きつけると
野暮用を思い出したと誤魔化して消えていった。

「僕、いろんな所を見たいんです。もっと世界を知りたいんです。連れて行ってください」

人懐こい子犬みたいに紅だけを見つめる熱っぽい瞳は恐れを纏わず、文字通り世間知らずな少年そのものだった。

「身の回りのお世話でも、雑用でもなんでもします」
「足手まといには……ならないように頑張りますから」

振り払うことなど容易かった。が。
汚れない瞳は、遠くに置いてきた遙か昔に思える姿を否応にも思い起こさせて、柄にもなく胸が痛んだ。

「――――
行く先々であれこれ言われるのは鬱陶しいんだ、連れがいれば幾らか誤魔化しも効くだろう」
「ありがとうございます。紅様!」
「紅でいい」
「はい! 紅…様っ!」

兼六の気持ちを利用した。いずれこの子は表の世界に帰してやらねばならない。必ず。
絶対に手に入らない心を知りながら、兼六は焦がれる思いを滾らせ、紅は罪悪感を上塗りして、体の穴を埋めた。
彼女の脚を押し広げ一層激しく腰を打ち付けた。
結合部分から絶えず沸いている卑猥な音と断続的な喘ぎ声が聴覚を麻痺させる。
甘酸っぱい汗の匂いと女の香りが鼻孔を満たし嗅覚を奪っていく。
床に広がる艶やかな黒髪と白肌が月明かりに照らされ視覚を射る。
己を銜え込み煽動する内壁と鷲掴みにした乳房の柔らかさ、互いの熱さを鋭敏に感じれば感じる程、
昂る熱が急激に頂点に達するのを悟る。
抜くと同時にびくびくと痙攣して精液を吐き出した。
受け止めた紅の体も一瞬ぴくりと手足の頂点を強張らせたのち、ゆるやかに呼吸を戻した。

「中に出して構わぬと言っているのに」
「それは出来ません。子を成しては……」

願いが叶わぬ。
言葉を呑み込む兼六には、彼女の瞳の奥に宿る一時も消えることのない青い炎が見えていた。
胸の谷間に散った欲望は色だけならば滴る母乳とも錯覚させ、紅は覚えず指先で掬って舐めた。

「紅様っ」

温く生臭い、生き物の味。
生への執着は死への距離をより縮める。
風のままに運命のままに奔り、追い、斬り、また追い、走り、駆けて、斃す。
性の激情より熱いものを知ってしまった自分は、もう溺れることも適わない、資格すらない。
死ぬまで、――死んでも、永遠に。
かたかたと軋む寺の蠢きは、まるで人あらざる妖かしに取り囲まれているようだ。
紅は空に懸かる月を見やると、誰にも気付かれぬ様に薄く嗤った。






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