青犬 大臣編(前半)
シチュエーション


眼前に呆けた様子の彼女がいた。片頬はほんのりと赤く、振り上げていた自分の腕に気がついて我に返る。
彼女を(身体的に)傷つけてはいけない。***は彼女を傷つけない、私は彼女
を傷、つけない。
浅く息を吐いて、彼女を見据える。怯えた、それでもこちらにむいた瞳とかち
合う。
ああ…この目は本当に、苦手だ。すべて投げ出して逃げ出したくなる。
だけれどそうする訳にはいかない。私にも役割がある。嫌々ながらに彼女が王
の席に着くように。
この事は予定外だったが、道筋からは外れてはいない。ならば私はそれを辿ら
なくてはならないだろう。
彼女に向けて手を伸ばす。その動きに一瞬彼女は安堵の色を瞳を浮かべる。知
っているだろうに、私があなたに与えるものが穏やかでないことくらい。

「馬鹿」

私は笑っていただろう。実際おかしくてたまらない。笑い声の代わりに言葉
を吐き出す。すると、彼女はガタガタと震えて涙をためて、後ずさる。
普段より派手な仕立てのドレスが揺れてほこりが舞う。私の三つ揃いもそうだ
が、彼女には似合わないドレスだと思う。広い襟ぐり流行からもアンティーク
からもずれたデザイン色光沢丈文様生地装飾ネックレスイヤリング、すべてす
べてすべて。

「あっあっあっあぁ、ごめんなさい!ごめんなさい!ねえ!やめてっ、ねえ、
ごめんなさい!」

何をやめろとこのこはいうのだろう?初めに求めたのはあなたの方だというのに。
わざとゆっくりと追って細い手首を掴む。少しばかり痩せたようだが、私には
関係のないこと。やや強く握って、彼女を引き上げて腕の中に抱え髪をなでる。

「私は貴女の兄上じゃあないんですよ。そんなに怯えることないじゃありませんか」

その言葉で更に震えが増した彼女に、キスをする。全身で恐怖を示しながらも
彼女は逃げようとしない。憎たらしいドレスを早々に剥がそうと首の周りを責
める。未だかつてこんなにも早く剥こうと動いたことがあっただろうか。
自嘲して彷徨った視線の先の、きつく結ばれ赤くなった唇がほんの少し、苛立
たしくて噛み付いた。
こんなに濃い化粧も、似合わない。

誘われるがままに首に手を掛けた。苦しそうな表情をもう少し見ていたいと
思ったのだろう、きっと。口付けに喘ぐ喉の動きのか細さに目を細めると、彼
女は私から少しでも離れようとして胸に手を当てて反抗する。私も動き辛いが
顎の付け根と喉を押しつぶすようにして閉じ込めた。ドレスの留具を全て外し
たころ、放した。真っ赤になった顔はお世辞にも可愛らしいとはいえないが、
充分だろうと長椅子に倒した。
激しく咳き込み肩で息をしながら、彼女は背を向ける。彼女の細い肩に手をか
け無理にこちらに向けると、何か口にした。だが良く聞えない。
もう一度赤くなった唇が動く。

「***」

何故こんなに私を苦しめるのだ、と。非難の響きを持って、その名を呼ぶ。
だけれど私は、それに応える術を持たない。

「そんな目で見ないで下さい・・・もっといじめたくなる。…ああ、あの時の彼のように抱いて差し上げましょうか?」

指の痕が残った箇所に爪を立て、瞳を覗き込む。ずっと、欲しかった色を。

兄上、と彼女が呼ぶ人物が彼女の兄でないことを認めるのはいつになるのだろうか。あの貴族然とした色味の、内容がそれに合わない彼が。

吐き気がした。それでも私は彼女の服と髪を直し、彼女を抱えた。向うのは
彼女の部屋だ。
扉を開けようと足を振り上げると中から開いた、部下がひたりと笑っている。
私が部下の名を呼べば部下はその笑みを隠して、広く扉を開いて内へと招き入
れた。

「***様、言付どおり用意ができています」

部下は私の腕に触れて、彼女を見遣る。女の手は生ぬるく、私の身体も冷えて
いた。

「そう」

それだけ答えて部下を顎で追いやる仕草を取ると、部下には珍しく反抗的な目
をし、問いかけてきた。

「したんですか」

問いかけより詰問というような目だった。私は部下を振りほどき彼女をベット
に横たえた。汗で前髪が張り付いている。気をやった顔はやはり幼く、昔を思
い出させる。
部下がもう一度小さく呟いた。その不安げな声音に私は噴出しそうになる。
彼女の髪を撫で付けて、幼い頃したように口付けた。

「最後まで?」

整えた衣服を脱がし、薄掛けをかぶせる。やはりあのドレスはだめだ。

「するわけないでしょう」

帰れ、と手を振れば部下は恨みがましげな目を向けて退室した。黒い纏め髪が
ほつれている。仕事狂いのくせになんという顔をするのだろうあの女は。
私は自然と肩をほぐしていた手を下ろした。これから彼を迎えに行かなくてはならない。

男は目隠しをされ、手足を拘束された状態で転がされていた。部下の配慮だ
ろうか、湯浴み後のようで髪がまだ乾いていなかった。私はその濡れた髪を掴
み、男の頭を上げ注意をこちらに向ける。

「…三階級特進おめでとう@@@。手荒な招待だったろうが、もうすこし辛抱し
てもらえないかな?君に、お祝いがあるのさ」

上体をおこし目隠しを猿轡の形にかえ、近くにあった車に蹴とばして載せる。
眩しげに眇められた目が私のほうを向き、不快気にそらされた。
少し肩を上げて私は苦笑する。さすがに私も、

「あからさまにされると傷付くんだけれど」

ぎょっとした顔の男を笑って布をかけた。力仕事は好きでないけれど、彼女が
待っているから。

「動くよ」

車を蹴って男を彼女の部屋に落とす。そのまま背を踏みつけ、懐から紙にく
るんだ針を取り出した。膝を落として余分に体重をかけるとうめき声が上がっ
た。針を腕にトンと刺す。

「五分。五分でよくなります」

男がとまどう気配が手に取るようにわかる。だが、効果がでるまでは時間が有
るだろうし、彼女もまだ眠っているようだ。手持ち無沙汰は否めない。

「私もね、人並みにセックスするんですけど。イけないんですよね。どうにも
ね、イけないんですよ。あ、射精なら出来ないこともないんですよ、でも気持
ちよくないというか…ねえ、君ちみどろの女性に勃ちます?」

なにか異変があったのだろう。男は緩やかだが反抗し始めた。でももう少し。
私だってこんな話してたくないんですけど。共通項も見つかりそうにないし。

「EDっていうんでしたっけ?これも、EDかな?でも、一応は勃つわけです。
むしろこう・・・奉仕している時の方が楽しいというか…舐めたりとか大抵嫌が
るんですけど、みんな口だけですし。挿入してもねえ、精神的にイけないから。
精神的に?気持いいと言えば気持いいんですけど…どうも」

真下の男の息が荒い。ああ、笑える。私の下らない話でなく、この男の置かれ
た状況が。暗に薬が塗ってあるように男には話したが、あれはただの針だ。
変態だ変態。ああ面白い。あんな話でこんなにもなるものなのか、明日の天気
の話でも良かったんじゃないだろうか。天気の話で勃起する男。いやだなあ。
男の反応は充分だが、まだ宣言した五分には何十秒かある。

「うーん。求める愛しかたが違うんでしょうねー?」

もとから筋も中身も無かった話を切り上げて立ち上がる。

「五分経ちました。君はベッドの女性を好きにしていいですよ。殺めるといけないので手枷は嵌めたままどうぞ」

男を解放して、ベッドの上の彼女を手でしめす。首はゆっくり動きその方向を
見たが、それ以上男は動かない。
悪いが、それじゃ見世物にならない。

「チャッチャッと入れて出した方がいいですよ。変に我慢すると脱水で死にますよ」

適当なことを言って促す。すると不承不承というように男は動き出した。とろ
とろと動き出した男を見て、私は椅子に座る。用意してあった水差しと酒瓶に
部下の顔を思い出した。あれを副官にしてよかった。
添えられたメモを手に取って、一口煽る。うん、好みの味だ。
視線を感じて顔をそのほうに合わせる。男が眉を吊り上げた表情でこちらを見
ていた。

「どうしたんです?辛いでしょう。ああ、酒はやりませんよ。まあ…薬入ってますから、ダメってこともないでしょうけど」
「違う。・・・このひとは、王ではないのですか」
「そうですよ。彼女はここの王です。それがどうかしました?」

呆然とした顔をして男は彼女をみる。そんなにじっと見ても他の女には変わり
はなしないだろうに。
メモを広げて読んだ。部下からの書置きで、下らないことが書いてあった。い
ない人間のことなんて捨て置けばいいのに。恋というのはこんなにも偏執的な
ものだったのか。しかし何故、わからないのだろうねあの女は。
私にも好意の示し方があるということを。

行為の終わりも近づいた頃思い立って窓を開ける。涼しいし、気持いい。
獣のように男は呻いて彼女を貪っている。こういうところが彼に似ているのだ。
道理でこの男にまったく好感が持てないわけだ。妙に立ち位置が安定しない喋
り方だとか、部分部分が吐き気がするほど似通っていてどうしようもなくなる。
ストレートを一息に飲んで二人をにらみつけた。
彼女が私の名を呼び、男は私を剣呑な瞳で睨み返した。けだものめ。

折り重なって意識を失ったふたりを離して、清潔なシーツをかけてやった。
改めてみる男は地味な色味で彼とは重なりようがない容姿だったが、彼と違い
健康そうだった。丸めた衣服を投げ置いた。
彼女はそのように放置できないのでシーツごと抱えて予備のベッドに寝かす。
抱えたままあざだらけの身体を布でふく。髪などはべたべたするだろうが、我
慢してもらわなければならない。そこまでは面倒みきれないし。指を彼女につ
っこんで中を掻きだす。他人の精液ってけっこう気持悪い。布で何度も拭うが
不快感はまだ残る。
頬にひたりと手が触れた。その手の先を追えば彼女がぼんやりとしながらも微
笑んでいた。

「あにう、ぇ」

彼女の瞼がしっかりと開かれて目が合う。自分とは違う濃い色の瞳に、たじろ
ぐ。その目に映った私はどれだけ滑稽であっただろうか。
汗で湿った髪が揺れて彼女は崩れ落ちた。
寝息を立てた彼女にちゃんと上掛けをかける。

「…なんだよ、ばか」






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