島津組10/涙雨恋歌 エピローグ(最終話)(非エロ)
シチュエーション


雨上がり


東征会本部での定例会議のため、辻井は島津と一緒に東征会本部事務所へ来ていた。
ちょうど昼頃に会議は終わるため、大体数人で連れ立って昼食へ行き、情報収集や交流を深めるのが常である。
この日も、島津と辻井は自分の兄貴分たちや兄弟たちと、一緒に昼食をとろうと話をしていた。


会議中は切っている携帯の電源を、島津が会議室を出てから入れる仕草をする。

「おっ、兄弟。結婚しても相変わらず女からか?」
「別れ話かァ?」
「女とは綺麗に切れろよ。それがお前の自慢だろうが」
「いや、もしかしたら、振られてるんじゃないのか」
「そいつァいい。だから今日は雨なのか」

そんな冷やかしをものともせず、ボタンを操作し、ふと動作を止め、まじまじと携帯のディスプレイを眺める。
いきなり島津が軽く吹き出し、肩を震わせて笑い始めた。

「おお?大丈夫か島津。女に振られて頭おかしくなったんじゃねえのか」
「まさか。一番大切な、可愛い女からのラブメールですよ。俺が女に振られることなんか、あるわけないでしょう、杉田の兄貴」

携帯電話をぱちりと閉じ、その機体に小さくキスをする。

「けっ、これだよ全く」

ゲラゲラと笑いながら島津たちは歩いていく。
その後ろをついて歩いていた辻井をいきなり振り向いて、島津は携帯電話を放り投げた。

「返事、お前がしとけ」

突然のことに驚きながらもキャッチする。

「なあ、辻井。俺が一番だってよ」

どうだまいったかと言わんばかりに、島津は勝ち誇ったように笑い、事務所から出て行った。


受け止めた携帯電話を開くと、辻井の視界にピンクのハートマークが飛び込んできた。
色鮮やかな絵文字がこれでもかと敷き詰められている。動くハート。ふたつ重なっているハート。大きなハート。ウィンクしている女。キスをしている男女。絵文字など普段使わない辻井には初めて見る絵が並んでいる。
スクロールしていくと、ようやく途中で日本語が見えた。

お父さんありがとう!大好き!世界一大好き!宇宙一素敵!せりな

「俺が一番」の意味がわかり、辻井も思わず吹き出した。

「宇宙一素敵な親父さんか。ハハハ。そりゃあ、敵わねえな」

外に出て空を見上げると、さっきまで降っていた雨が上がり、綺麗に晴れていた。冬の色素の薄い青空に太陽が白く輝いている。
今まで泣いてばかりいた瀬里奈の心の中の雨が、上がった証拠なのかもしれない。


辻井さんに抱かれた時みたいな音がするから、雨の音、好きだよ。
夕べ、うわ言で瀬里奈はそう言った。
雨があがった瀬里奈の心の中に聞こえる音は、どんな音になるのだろう。
願わくは、そこにまだ俺の音が聞こえていることを。そう、できるなら、死ぬまでずっと。


さてなんと返信をしようかと、辻井は考え始めた。






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