玻璃の家
シチュエーション


※♂×♂あり

登場メインキャラ

御厨百合亜:富豪の孫娘、17歳
 大きな瞳とストレートロングの黒髪と数多くのコンプレックスの持ち主
須藤蒼雅(そうが):元使用人(役職色々)、24歳
 昔美少年、実はとても口が悪い。過去のシーンは10年前


ほんのいたずらのつもりだった。
いつも冷静で自分を翻弄する婚約者をやりこめてやりたかっただけで、深い
意味は無かったのに、何故こうなってしまったのか…。
向かい合うように座る体勢で繋がったまま幾度か頂点に追いやられ、既にま
ともでいられないと言うのに、未だ離して貰えない。
逃れようと腰を浮かそうとするが、大きな両の手がそれを許すはずも無い。

「…も…許し…許して……」

ぽろぽろと際限なく大粒の涙が零れるが、大きく美しい青年は更に深く抱き
込む。

「ひぃ…っ!!」

これ以上無いと言うほどきつきつの胎内を更に抉るように突かれ、喉から引
きつったうような声が出た。

「お仕置きだと言ったでしょう……それほど簡単に許されると思って貰って
は困りますね」

使用人としての口調で、使用人にはあるまじき行為を行ってる青年は、そう
言うと細腰を掴む片手をそのまま下に移動し、双丘の奥に指を潜り込ませる。

「や……いや…やだ!! そこは…」

ゆっくりと柔らかく後ろの排泄器官をさすられ、びくびくと背筋が震えた。
いやいやをするように頭を振る。その度に、絹糸のような漆黒の髪が揺れ、
白い肌を打つ。

「いつもと同じことではお仕置きにならないでしょう、お嬢様…」

にっこりと微笑む青年に、怒ってる、と確信してしまった。普段絶対にしな
い表情に冷たい汗が吹き出るようだった。

「つまらない…」

呟くと、百合亜は行儀悪く深い溜息を吐いた。
視線の先には、少し前まで使用人だった青年が見え隠れしている。昔は細身
の美少年だったのに、今では長身でゴツイと言う程では無いが均整の取れた
体躯の持ち主だ。
使用人だった、と言うのは現在青年は百合亜の婚約者になっている。
しかし、当主である祖父の命でまだ公にはしておらず、青年はこれまで通り
祖父の秘書として働いていた。
だからパーティは嫌いだ。あの男が他人に愛想良くするのを見せつけられな
ければならないのだから。自分には滅多に愛想良くなどしないくせに。

「…蒼雅の馬鹿…」

新しい薄紫のワンピースも、青年の名前と目の色と同じ色の石が装飾された
ピアスとネックレスも全て彼のために選んだ。
真実はともかく、幼い頃から実の母に容姿を蔑まれてきた百合亜は、今まで
自らを飾りたてるようなことは無かった。メイクすら、今日の為に懸命に友
人から指導を受けてようやく一人で出来るようになったのに、肝心の青年に
見て貰えないなら意味が無い。
おまけに、遠巻きに沢山の視線を浴びている気がする。
やはり慣れないことをしたせいでどこかおかしいのだろうか。そう思うと、
途端に羞恥が芽生え会場にいるのも嫌になってしまった。
そそくさとホールから立ち去るとき、横目に青年が相変わらずにこやかに、
美しい女性の相手をしているのが見えた。
早足でエレベーターに乗り込むと、涙が溢れて止まらなくなり、そのままホ
テルの割り当てられた部屋に駆け込み、声を出して泣いた。

一通り気が済むまで泣くと、惚けたようにバスルームに入る。
メイクを落とし顔を上げると、目だけが大きい貧相な自分と鏡越しに相対し
た。
母は同性から見ても素晴らしく美しいスタイルの持ち主で、なぜ自分はそれ
に似なかったのだろうといつも思う。母としても人としても好きでは無かっ
たし、これからも好きになることは無いだろうけれど。
今日何度目かわからない溜息を吐くと、手早く服を脱ぎ捨て急いでシャワー
を浴びる。
ベッドルームは別だが、この部屋には蒼雅も割り当てられている。泣いたこ
となど知られたくなかったし、パーティ会場の華やかな雰囲気が纏わりつく
のも億劫だった。
ドライヤーで髪を乾かした後、着替えようとドレッサーを開いて呆然とする。
何かの手違いか着替えが用意されていなかったのだ。運ばれた荷物を慌てて
探すがやはり入っていない。
頭を一振りすると先ほどまで身に着けていたワンピースに再度袖を通す。
ピアスを付け直す頃には、もうこのまま屋敷に帰ってしまおうと決心してい
た。
フロントに頼めばタクシーもすぐに用意して貰える、と振り向いた瞬間、部
屋の扉前の黒影にギクリとした。
まだパーティが終わる時間には早い、いるはずが無いのに。

「浴室を使われたようですが……化粧まで直して、このような時間にどちら
へいらっしゃるおつもりですか?」

慇懃無礼、と言うのはこういうものだろうか。
口調は柔らかで丁寧なのに、冷たい声音と酷薄そうな薄い青の目に湛えられ
た光がそれを裏切っている。

「…どこ…にも…。着替えが無かったから、下に買いに…。蒼雅こそ! こ
んなところに来て良いの? まだ…」
「ああ、パーティでしたら政史様がおいでになりましたので、お役御免です」

そう言うと、長身がゆっくりと近付いてくる。

「お兄さまが?」
「ええ」

腰をぐっと引き寄せられ、胸の中に簡単に収められてしまった。

「お寂しかったですか?」

耳のすぐ側で囁かれ背筋がぞくりとしたのと同時に、自分の思考まで見透か
されていたことに顔が熱くなる。

「そっ…んなこと…ない…」
「ではなぜ途中で会場を出るなどと、はしたない真似を? 『お嬢様』」

最後の呼び方にびくりとした。二人きりだと言うのに、何故そんな呼び方を
されなければならないのか。
ふつふつと沸いた怒りのまま、平手を打つ。

「あ……」

青年の頬から高い音が鳴った。

「ごめ…ごめんなさい…蒼雅、ごめんなさい」

痛いのは相手だと言うのに、百合亜の方が狼狽してしまった。絶対に当たら
ないと思っていたのに。
この鍛えた青年相手に、自分の抵抗など児戯に等しいことは嫌と言うほど知
っている。

「お気が済まれましたか? 百合亜」

再び顔を近付けて、耳元に囁かれる。
青年の低いこの声に酷く弱いことは、既に見抜かれて久しい。わかってやっ
てることだ。

「いじわ……! んう!」

強引な口接けは毎度のことだ。
いつもこうやって搦め取られて身動き出来なくなる。

「ふ…んん…」

懸命に引き剥がそうとするが、力で適うわけもなく、両手を捉えられ、口中
を熱い舌で蹂躙されるのを受け入れるしかなかった。
心の中で自分の全てを知り尽くすようなこの男を罵りながら、それでも執拗
な舌の動きに頭がぼうっとしてくる。
開放された頃には、足に力が入らず青年に支えられて立つ羽目になってしま
っていた。

「蒼雅、唇痛い……」

呟くと訝しげな顔を一瞬するがすぐ思い出したように、ああと息を吐く。

「そういえば、今日は殆ど何も口にしてませんでしたね。乾燥して痛かった
ですか?」

気遣うように指で唇をなぞられ、うっとりとしてしまう。

「私、紅茶いれてくるわ」
「それは私の仕事ですよ」

フラつきながら備え付けのキッチンに行こうとするのを片手で制され、近く
のソファに座らせられるが、逆にその長身の手を掴む。

「偶には良いでしょう? 今日は蒼雅の方が疲れているのよ」

上目使いでやらせてくれと頼むと、今度は苦笑して頷いた。

「持っていくから、私の部屋で待ってて」

カップに紅茶を注ぎながら、どうしても自分は、大好きな、でも憎らしいあ
の婚約者に一矢報いたい気持ちが湧いてくる。
こちらの考えも、行動も全てお見通しだけれど、気持ちまでは絶対にわかっ
ていない。もしかしたらわかっていて、更に追いつめているのかもしれない
けれど。
そっと、スカートのポケットから美しい細工の施されたガラスの小瓶を取り
出す。もういない母の寝室に残されていた眠り薬だ。
ちょっと、ちょっとだけ悪戯してみよう…。
片方のカップに小瓶から数滴、淡い虹色に輝く水滴を垂らす。
目印の為に、もう片方は普段自分が好んで飲むミルクティーにしてしまう。
蒼雅はミルクティーは殆ど口にしないから、これで間違うことも無い。

眠り薬と言うのはこんなに簡単に効くものなのだろうか……。紅茶を口にし
て10分も経たずにベッドに倒れ込んでしまった青年を見つめ、困惑してしま
った。
不安になって慌てて呼吸を確かめたが死んではいない。
きゅと唇を噛むと寝ている青年の両腕を背中に回しシーツでぐるぐる巻きに
し、端をベッドの両柱に結び付ける。
後は目が覚めるまで待てば良い。
ベッドの端に座ると、そっと青年の顔から乱れた柔らかい髪を払う。
改めて、美しいと見ほれてしまう。
こんな綺麗な男の人が、自分の相手で良いのかといつも悩んでる。でも他の
女の人、いや男女含めてこの人に触れるのは許せないと思ってしまう。
何て醜い嫉妬なのだろう。
自分はいつかその嫉妬に飲み込まれてしまいそうで、それが怖かった。

部屋の鍵をそっと外す音がして、天使と過ごした幸せだった俺の気分は最悪
になった。
またかよ…。
男は部屋にそっと忍び込むと明かりを付けて俺が寝てるベッドにやってくる。

「蒼、蒼雅」

名前を呼ばれて体を起こすと、手に小振りなバイブを持ったガウン姿の、こ
の屋敷の主人の息子、使用人から若旦那様と呼ばれている男が立っている。
容姿の作りは悪くないのだが、本人の性質が滲み出ているのか全体的に締ま
りが無い印象を与える。
その男が、俺から布団をはぎ取り、性急に下半身の着衣をずりおろし、体の
中心に顔を埋めて子供のペニスを舐め捲る。
富豪の次期頭首がみっともないと言うか、子供心に滑稽に映った。
俺は抵抗するのも虚しいので、男にされるがままにする。
肉付きの良い太い指でしごき、べちゃりとした大きな舌で舐め回し、口で何
度も吸う。片方の手がその下の袋をいじり回していた。
この男が俺を初めて襲ったのは暫く前だ。その時は無理矢理押さえつけて、
行為に及んできた。

こう言うのは正直慣れていた。
両親が事故死して、施設に預けられたがその施設が最悪極まりなかったから
だ。
院長はいわゆるペドフィリア、小さい子供であれば女子でも男子でもどちら
でも良かった。奴は子供を犯すのを、子供に見せる行為がお好みだった。俺
自身は、奴の妻のお気に入りだったから、奴には口で奉仕、しゃぶられる、
尻に指を突っ込まれる位で済んだが、奴のお気に入りの男子は奴の無駄にで
かいペニスを尻の穴に押し込められ、流血するのは殆ど日常茶飯事だった。
そんな環境だったから、両親と一緒にいた頃は神童と言われた俺は、無駄に
性の知識が身についてしまったのだ。
勿論そんなことがこの時代にいつまでも続くわけが無い。
やがて、一人の女子が壊れた。院長の一番のお気に入りだったが、お気に入
りすぎて、心も身体もおかしくなってしまった。
詳しくは知らないが、漏れ聞こえた大人の会話によると一生まともな生活は
出来ないと言う。
当然、施設は閉鎖になり俺達子供は精神鑑定を受け、まともと診断された子
供は新たな施設に移されることになった。
あんな行為をされて、見なくてもいいこと知らなくていいことを知った子供
が、数日の診断でまともとか、大人って馬鹿ばかりだろ、と思うしかなかっ
たが、それこそ子供の俺に何が出来るわけでもなかった。

「…くう…!」

呻くと同時に、俺は精液を放った。男はそれを丁寧に舐め取ると、今度はの
そりとベッドに上がり、俺を跨ぐと既に勃ち上がっている己のペニスを取り
出し俺の顔に突きつける。体躯に比して小さい気がするが、それは俺があの
院長のデカブツを見ていたせいなのか。
俺は、いつもどおり臭いのきついそれを両手で掴み舌と口で奉仕する。精液
を飲み込むのは気持ち悪いが、早漏のこの男はすぐに放つから、拘束されて
いる時間が短くて楽だ。

一発放つと、今度は俺を抱え上げ逆向きにして自分の上に座らせる。いわゆ
る背面座位と言うヤツだ。
一旦腰を下ろすが、すぐさま片手で両膝を持ち上げ、尻を浮かせる。
ブブブ、と聞き慣れた電動音がした。
空いた片手が浮いた尻に回り、尻の穴をほぐすようにさすり指を差し入れる。
流石にこの時ばかりは喉がひきつる。
指は浅く深く何度も動き、抜かれたと思ったら今度は規則的に振動するバイ
ブを挿し入れられた。
男はその時の俺の苦痛に歪んでいるだろう顔つきに満足するのか、喉を鳴ら
して笑い、膝裏から手を離し俺の身体を自らに落とす。
その振動の痛みで背がしなる。
バイブは俺の尻穴にペニスを突っ込む代わりだろう。万が一俺が病院に運び
込まれでもしたら、このいかがわしい行為がバレて一巻の終わりだからな。
その代わりに目の前には、俺のペニスと男のペニスがぴたりと並んでいる。
男は俺のシャツをまくりあげ、耳をしゃぶりながら俺の身体をさすり、乳首
を弄ぶ。ここまで来るとかなりの興奮なのか、いつもすさまじく息が荒い。
いい迷惑だ。

興奮した男は俺の腰を掴み、ペニス同士が擦り合うように俺を上下に揺さぶ
る。ああ、気持ちわりー。
俺自身はいたってノーマルだ。いや、この年にして、もしかしたらロリコン
じゃないのかと自分自身が心配になっているところだが、男より女のが興奮
する。むしろ男じゃ感じない。それもこの年でどうなのかと思うが。
だから、男との行為の最中は初めから最後まで、誰でもいい、女を想像する。
大抵、あの院長の妻の記憶だったのだが……。
そうじゃなきゃ、イクのに時間が掛かる。子供としてその思考はどうなのだ、
と冷静な時に心の中で突っ込むが、それこそ男との行為にそんなに長時間取
られてたまるものか。
俺と男は全く違うことに興奮し、高みへと昇る。殆ど同時に精液を放つ時、
俺の脳裏には幼い天使が浮かぶ。俺自身が俺達を弄ぶ大人と同じような行為
を頭で描いてイクことに罪悪感を覚え、毎度胸が痛む。
男はそれで満足するのか、ぐったりとした俺を置いてそそくさと部屋を出て
いく。手元に何枚か――多分いつも通り10万だろう――の札を置いて。
こういうのは、売春って言うんだったか。

そんなまともじゃない行為を繰り返していた日々の中、俺は気付いた。
男が、俺が天使と思っている少女、男自身の娘に向ける視線に。
劣情とも言うべき感情の色だった。
背筋に冷たいものが走る。
いつかこの男は、俺に向けた毒牙を目の前の幼い少女に向ける。いや、俺は
娘を襲えない鬱憤を晴らす道具だったんだろうと思い至った。
男が、気弱なくせに欲望に我慢の効かない性質だと言うことは俺が一番良く
わかっている。
悩む暇なんかなかった。
俺はそのすぐ後に、男の父親、つまり屋敷の主人の部屋に向かっていた。

「爺様、話がある」

当主に向かって、子供なだけに仕事はまださせられていなかったとは言え、
使用人の俺がこんな口調で話すのは、最初に出会った時、二人きりの時はそ
うしろと言われたからだ。

「若旦那、あんたの息子のことだ」

爺様は俺のこの言葉を聞いた途端、目を細めて溜息を吐くとこう言い放ちや
がった。

「やっと来おったか」

つまり、この糞爺は息子と俺とのことを知っていたってことだ。
胸くそ悪いってどころの話じゃない。

「何故、もっと早くに来なかった?」
「……来てどうする?」
「困ったら、子供は大人に助けを求めるものだろう…」
「へぇ……で、誰が俺を救ってくれるんだ?」

アンタか? そんなワケねーよな、言いかけた後半は自重する。
俺はガラにも無くケンカ腰になっていた。
例えどんなに親切にされようと、俺は誰も信じちゃいない。目の前の俺を引
き取ったこの爺もだ。
根本的なところで、俺を救う人間などいるはずが無い。所詮血の繋がらない
他人ばかりだ、俺を最後に救うのは俺自身だけだ。

「では何故今ここに来た?」

何言ってんだ? まるで俺が助けを求めてくるのが当然のことのような会話
と、爺の憐れむ表情にイラつく。

「あんたの孫、の話だよ」

車椅子の上で、老人の身体が傾いだ気がした。

「政史…では無いな……百合亜か…」

切れ者の老人は、少ない俺の言葉で何もかも理解したんだろう。
唯でさえ老けているのに、一気に10歳位老け込んだように見える。
当然だろう、息子が幼い孫を襲うぞ、なんて知らされたらどんな強心臓だっ
て冷静になんてなれるわけもない。
俺は流石に気の毒になってその場を離れた。

それから暫く夜の行為が行われないと思ったら、唐突に男の訃報を知らされ
た。死因は心不全だと言う。
正直、ここまでやるとは思わなかった。心不全など、病気でも何でも無い。
爺が自分の息子を殺すよう誰かに指示した、俺はそれを疑わなかった。
とは言え、気色悪い思い出しか無い男の死に、特別に何か思うこともない。
追求する気など毛頭なかった。これで、天使が穢されずに済むのだから、そ
れで構わない。

屋敷が喪に服すある日、爺に呼ばれた。

「蒼雅、お前にはこれから勉学の他に上流階級の教育と体術を叩き込む」

唐突に何言い出すんだこの爺は。しかもこのタイミングで。

「はぁ!?」

この裕福な老人は、引き取った俺を普通に学校に通わせてくれた。自分で言
うのも何だが、俺は頭が良い。少なくとも、この家に引き取られてまともに
学校に通わせて貰うようになって2年の間、学年トップを保っている。全国
でも成績上位の中学での優等生なんだから、なかなかのものだろう。
使用人としての仕事と言えば、可愛らしい孫娘の遊び相手をするくらいだ。
もっともここ最近はその孫娘に避けられているんだけどな。何か少女に嫌わ
れるようなことをしたっけか?

「否やは許さん、これは命令だ」

こないだまで憔悴していた爺は、いつの間にか生気を取り戻していた。
まぁ、命令と言われれば面倒を見て貰ってる俺が拒否する言われは無い。
しかし、酔狂な爺さんだ。

「蒼雅よ、お前は百合亜をどう思う?」
「は?」
「……いや、何でもない。早すぎる質問だな……」

爺さんはそう呟くと、車椅子を操って背を向けた。
俺は老人の気持ちがさっぱり理解出来ずに自室へと戻る羽目になった。
次の日から早速教育カリキュラムが組まれていたのは辟易したが、今となっ
ては爺さんの数々の手回しには感謝するしかない。
手の平の上で転がされる人生だったが、結果は上々だ。

嫌な夢だ。思い出したくも無い過去を振り返るなど、ある意味拷問だろう。

「くっ」

妙に熱い下半身に目を開けると、婚約者殿が不安気に覗き込んでいる。
喉がグビリと音を立てた。
たく、どうしちまったんだ。顔を見ただけで、押し倒して突っ込みたい、な
んてどこの発情期の獣だよ。

……いや、理性で抑えていないと普段の俺もあんまり変わらないか……。で、
その肝心の理性がききそうにないのはどうしたことだ。
箍が外れれば、俺も俺を弄んだ連中と同じか、下手したらそれより性質が悪
い自覚がある。

「…百合亜…、腕を外してくれませんか…?」

取りあえずお願いしてみる。自分の寝室に移ろうにも、両手を後ろ手にベッ
ドに固定されていて身動きが取れない。
普段ならこんな拘束など自分で外せるのだが、下半身に神経が行ってしまい、
腕に集中するのは無理そうだ。
そこまで思って、ピンときた。先ほど飲んだ紅茶に何か薬物を混入されてい
たと言うことに。おまけに、状況を鑑みると犯人は間違いなく、この目の前
の愛しい少女だ。

「ダメ……いつも蒼雅に……だもの。今日くらいは私が意地悪するわ」

ああ、もう勘弁してくれ。顔を赤らめながらそういうこと言うんじゃねーよ。
ただでさえ血液が集中している場所が、凶悪な可愛さに首を擡げるのがわか
る。くそ、後で覚えてろよ。

「…で、私に一体どんな毒を盛ったんです?」

本当を言うと、今の身体の状態に覚えがあった。だが、いくら何でもこのお
嬢様が持つような代物じゃない。持っていた女は既に日本にはいないのだ。

「そんなの使ってないわ! お母さまの眠り薬よ。部屋に残されてたの」

言いながら、目の前に出された小瓶は良く見知ったものだ。中に残っている
液体をガラス越しに見ながら、呆れて物も言えなくなった。
このお嬢様の世間知らずは今に始まったことでは無いが、それしたって、一
般的に処方される眠り薬に、液体のものは滅多に無いことくらい知ってて欲
しかった。
おまけにお嬢様ときたら、既に俺の服を脱がそうとしている。

「本気……ですか?」

顔の下で懸命な表情でボタンを外そうと四苦八苦している百合亜に確認する。

「…お父さまも…お母さまもしたのでしょう?」
「!!!」

なんてこと言い出すんだ、この女は……。
よりにもよって、そんな理由かよ!
絶対、後で思い知らせてやる。

「……百合亜…上は良いですから、下を…」

まだ上着のボタンを外しただけだが、このまま行けば一晩中ボタンにかかり
っきりになるような気がして、俺は懇願してみせる。
こうなりゃ毒を食らわば皿までだ。この、俺に取ってはトラウマのような状
況を楽しむ他は無い。なにより相手は、薄汚い男でも女でもなく、手に入れ
たくて仕方なかった俺の天使だ。
ベルトにすら手間取ってる百合亜を見つめ、腕が自由になったら、滅茶苦茶
に泣かしてやる、と心に誓った。






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