所有物
シチュエーション


「お前を買ってあげる」

それはつまりこの少女の所有物になるということ。

「お前がこの手を取るならば」

小さくて無垢な手は汚れを含んだこちらに差し出される。幼いながらに毅然とした凛々しい少女は可愛らしい唇をゆるりと細めた。問われたのは少女の隷属になるか、ならないかということであり、普通の駆け引きとは程遠い。
否、こんな奴隷市場にいることからして「普通」からかけ離れている。

「わたしはお前を助けてあげる」

見つめてくる少女の瞳は純粋さとどこか熱情を孕んでいた。
惑わす瞳、とはこの瞳なのだろうか。
ぼんやりとした思考の中、ふらふらと伸ばされた薄汚れた手を小さくて柔らかな白い両手が包む。そして少女は嬉しそうに少年に微笑みかける。

「契約せいりつね。ーーわたしのウィルド」

この瞬間、俺はこの少女に買われ、隷属になることが決定した。ご丁寧に名前まで頂いて。

物心ついた時から奴隷市場やら男娼として生きてきた俺には今更酷いことなどこれ以上に無いだろう。

「わたしの、ウィルド」

甘く微笑む少女の手は荒んだ心を溶かしていく気がする。口角が自然と持ち上がる。今更酷いことなど無いのならば、きっと期待していいのだろう。
少しだけの、幸福を。
小さなマスターが齎してくれるだろう、暖かさを。
だから唇からこの少女に伝えるのは本心だ。

「御命令を、マスター」


そして俺は、この少女の所有物にーー数年後には何故か執事というものにーーなったのだ。






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