シチュエーション
―― そう言えば内にレヴィが来たのはいつだったろう ―― マリアンヌはレヴィに香油を塗ってもらいながら考えていた。 まるで少女のような優しい手が、マリアンヌの背中を滑って行く。 「んう、 あ、あぁぁ……」 心地よい感覚が全身を支配してゆく。 湯浴みが終わった後のこの儀式が、マリーにとって最も至福の時であった。 「いい……、すごくいいわよ、レヴィ……」 「ありがとうございます、マリアンヌ様」 ごく一般的に、このように体に香油を塗らせる役を担うのは、 大体は女性であるのが普通であった。 男がこう云った事をやるのは、 近親者か、 さもなくば、 恋人であるか。 「ふふふ、誰かがこの光景を見たらどう思うのかしら?」 「召使に香油を塗らせてると思うでしょうね」 何の感慨もなくレヴィは答える。 「……ええ! そうでしょうとも!!」 レヴィのモノ言いに腹を立てたマリーは少年を怒鳴る。 「肩の所!! 塗りなおしなさい! なにもたもたしてるの!」 「はい、お嬢様」 白魚のような手が香油壷の中の液体を掬い、 ポタり 少女の肩に生暖かい油が垂れた。 そして 少女は少年との初めての出会いを思い出した。 「この者が……」 マリアンヌの父親であるルドルフ公は感心したように呟く。 その少年は鎖で厳重に縛られていた。 「はい、ヴィレーヌ伯、ゴードン男爵を打ち倒し、 わが聖騎士団団長ヴィルヘルム様と互角に渡り合ったと」 「ふむ、『地を走る稲妻』が、こんな幼い少年とはな」 その少年は喉笛を噛み破らん勢いで、 目の前に立つ敵の総司令官である、ルドルフ公を睨みつけている。 「お前の姉上には非常に残念なことをしたと思っている」 ルドルフは重々しく口を開く 「!!」 「姉のかたき討ちをしたいか?」 「……いや、姉上は、エステルは武人としては優れていた、 だが将としての才覚は、貴方の方が上だった、それだけだ」 少年もまた重々しく口を開いた。 ―― エステル・プライム ―― ロウムに在りて、知らぬものなしと言われた勇将である。 女性の身でありながら、甲冑に身を固め、数々の武功を立てる彼女を、 『飛将軍』 恐怖と尊敬で皆はそう呼んだ。 「私は、主家であるタイレルに身を捧げている、 主家が滅びたというのに、生きながらえ、この様に縄目を受けるとは」 唇を強く噛み身を震わせる少年。 「ふむ、『地を這う稲妻』よ、――」 じっと眼を、 ルドルフは少年の目を見つめ、ぽつりと言った。 「アンリエッタの死体は見つかっておらぬぞ」 「!! 本当か!!」 ルドルフの言葉に傍にいた重臣たちは驚きの声を上げる。 タイレルに連なる最後の血族 アンリエッタ。 そのものが生きているかも知れぬと、なぜ敵に教えるのか? 否、皆は思った。 死に行く少年へのルドルフ公最後の慈愛なのだと。 「セバスチャン、お主、子がいなかったな」 ルドルフは傍らに立つ男に声をかける。 「!? はい……」 「ふむ、よし、『地を這う稲妻』よ、お主セバスチャンの 養子とならんか?」 「「な!!!」」 周りにいただれもが声をあげて驚いた。 無論、少年も。 「ル、ルドルフ……、お前何を考えている?」 鎖につながれた少年は唖然とした顔で、 目の前の男の真意を汲み取ろうとした。 「ふむ」 低く唸った後、ルドルフは口を開いた。 「娘が、遊び相手を探していてな」 そう言うとハハハハ、と、 笑った。 ( こいつ、私と初めて会った時、私に挨拶もしなかったんだっけ ) マリーは初めて会った時のことを思い出していた。 ( どこの誰だか知らないけど、なんでコイツこんなに反抗的なんだろう ) などとぼんやりと考えていると、 「……お嬢様、後ろは終わりましたよ」 不意にレヴィの声で、現実に引き戻された。 「あっ……そう、じゃぁ」 クルリ、 体に何も纏っていない状態でマリアンヌは仰向けになる。 「こっちも、しっかり塗りなさい」 「はい……」 先ほどと同じように手に油をつけると、 ヌルリ マリーの体を擦り始めた。 「あっ! ぁぁぁぁ」 先ほどとは比べ物にならない快感が体を駆け巡る。 脇腹を、腰を、そして、マリーの慎ましやかな胸を、 レヴィの手が滑ってゆく。 つつましやかな胸の一番頂上に手がさしかかったときに、 「ああ!! あぁぁぁん!」 自分でも思ってないぐらいの声をあげてしまう。 ( うう、今日は声を出さないようにって思ってたのに ) みっともない所をレヴィにまた晒してしまった。 そう思い目を閉じ、体から力を抜く。 その間も手は全身を滑って行く。 香油の塗られたマリーの体は、甘い香りを放ち、 ヌラヌラと輝いている。 ( 気持ちいい ) そう思った時、レヴィの手が、 すっと上にあがり、 肩の上までくると、 急に、首に巻きついてきた。 「!? なに!? えっ!?」 手にだんだんと力が入る、 「いや!! なにしてるの!?」 両手を使い、レヴィの手を放そうとするが、 マリーの力では引きはがすことができない。 レヴィの両手にマリーの手が食い込んでゆく。 ( 殺される!! 私レヴィに殺される!!! ) 暴れまわり必死に手を放そうとするが、ぴくりとも動かない。 完全にマリーはパニックに陥っていた。 「お、お願い、レヴィ、殺さないで……」 マリーの瞳から、恐怖のために涙がこぼれる。 その途端すっと、手が離れる。 「う、ぅぅうう」 マリーは低い悲鳴を上げる。 「な、なにするの!!」 じっとマリーはレヴィを睨みつける。 「……お嬢様こそ何をするんですか、 今のは全身の緊張をほぐして、血行を良くする、東洋の業ですよ」 そう言うと、レヴィは自分の手をさする。 二人はじっと見つめあう。 「そう……、じゃあ、これからはもう、しなくていいわ」 「はい」 「下手糞なあんたのせいで疲れが一気に出たわ、もういい下がりなさい」 「はい」 レヴィは頭を下げると部屋を出て行こうとする。 「待ちなさいレヴィ!」 「はい?」 「今度こんな真似したら、本当に殺してやるからね!!」 「……はい、お嬢様」 パタン ドアがしまる音がして、 少女はそちらを向く、 ―― マッサージ? ―― 成らばなぜ、少女が泣いて懇願したときに、 ―― はっとした顔で、レヴィは手を放したんだろうか? ―― だがそれよりも重要なことがマリーには有った。 レヴィに首を絞められていたとき、 それでも尚、 レヴィの手が とても気持ち良く感じていたのだ。 「絶対にユルサナイ、絶対に許さない!!」 そうベットの中で少女は叫ぶと、 そっと濡れた自分の秘所に手を差し伸べた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |