シチュエーション
聖夜は生憎の悪天候に見舞われた。 特注のオーナメントで飾られた庭のツリーも、雨垂れを落とし佇む姿は寒々しい。 濡れた敷地に吹く風は一層の冷気を孕み、皆を身震いさせる。パーティーが終わるなり大人達は早々とベッドに潜ってしまった。 いまだに明かりを灯すのは、サンタクロースを心待ちにする子どもの部屋のみだった。 「サンタさん遅いなぁ…」 ハート型のカウチの上で少女が呟く。大人びた肢体をローブで包み、毛布を被ってしどけなく寝転んでいる。 部屋はトランプの柄やチェスをモチーフにした家具で揃えられ、さながらおとぎの国のようだ。 様々な家具の中、ドレッサーとクローゼットからは賑やかに小物が溢れ、使い込まれているのがありありと分かる。 それに対し、壁際に置かれた本棚の中はすっからかんである。 本は一冊も入っておらず、棚の最上段にクマのぬいぐるみとその衣装がディスプレイされているだけだ。 つまりこの少女、アリスさん満16歳は本などまるで読まない、ついでに勉強も大嫌い― ついでのついでに、脳を酷使せず体に栄養を送っているためか、見た目だけはかなり可愛い女の子である。 「ふわ〜ぁ…」 その可愛い顔を歪めアリスは盛大にあくびをした。拍子に金髪がハラリと顔に掛かる。ショートカットの髪は大分伸びてボブに近い。 アリスは髪を払う気力もなく眠い目をモゴモゴ擦る。 今まで粘って起きていたが、やはり眠い。アリスは見る間に糸目になっていった。 「ねむぅ…。でも今年のプレゼントは現品でちゃんと確認しなきゃ…」 しかし、自らの欲望に正直なアリスは眠気にあらがえず、うつらうつらと意識がとろけだす。 ミノムシのように毛布にくるまれ完全に寝る体勢となった。 (プレ…ゼン……ト……ぐう…) コンコン― アリスはぱちっと瞳を見開く。 今の物音――。ともすれば聞き逃しそうな微かな音だが、確かに部屋の戸をノックする音だった。 「もうお休みでしょうか?」 そして、ドア越しに囁く聞き慣れた声に、アリスの眠気は粉砕した。 毛布からスポンッと離脱して全力で扉に突っ込む。 バタンッ 「起きてまーす!」 鳩時計のように飛び出たアリスの前には、果たして待ち焦がれていた人物が立っていた。 「深夜です。お静かに」 騒々しい出迎えに、彼は眼鏡の奥の目を冷やかに細めた。 アリスが8つの頃からの腐れ縁、住み込みの家庭教師エドガー先生である。 常に身だしなみに気を配る彼は今宵もスーツだ。しかし深夜とあって髪はセットせず下ろしており、普段より若々しい印象だった。 「うん!!静かにするよ!!いらっしゃ……もぎゅっ」 顔面をわし掴みにされ、アリスはそのまま部屋に押し込まれた。 「姑息な根回しをしたものですね」 エドガーの嫌味にアリスはニヒヒと悪い笑みを浮かべた。エドガーのスーツをハンガーラックに掛けると、手を引いてベッドへ誘う。 「姑息じゃないよ。パパに『クリスマスのプレゼントは何が欲しい?』って聞かれたから素直に答えただけだもん」 そう、アリスがプレゼントにリクエストしたのは「エドガー先生」である。エドガーはアリスの物となってしまったのだ。 「権力を盾にする馬鹿に未来はありませんよ」 ベッドに腰掛けたエドガーがギロリと睨む。しかしアリスは怯まない。 「ふーんだ、何とでも言えです。…それより、ジャーン!この日のために新調したんだよ」 ローブをパサリと脱ぎ捨てる。中は透け透けのキャミソールと白いレースのショーツ一枚だ。 辛うじて胸やお尻がレースで隠れるような危ういデザインだが、エドガーは興味なさそうに一瞥する。 「この寒い中…。体感機能が狂っていますね」 「う…。駄目!今日から私への悪口厳禁!さ、さっさとズボンを脱ぎなさい!」 「淫売な。何をする気です」 「ほら、私がちっちゃい頃にやったアレのリベンジするの。おちんち…コホン、をアレするやつ」 エドガーは頭痛を覚えた。 昨日教えた方程式は即座に忘れるくせに、8年前の不祥事は鮮明に記憶しているアリスである。 「私あれから練習したんだよ。特訓の成果を体感して下さい」 アリスの言葉にエドガーの鉄面皮が凍り付く。 「――どなたと練習をしたんですか?」 険しい声で尋ねるエドガーに、アリスはあっけらかんと、 「アイスキャンディーと」 「……」 そういえば、毎年夏に口の周りを赤くして「づべだい〜」とベソをかいていた気がする。 安堵の息をつきながら、エドガーは、言われた通りベルトを外した。 アリスはエドガーの股の間で猫のように丸く屈んでいる。 まだ萎えた男性器に小さな舌を伸ばし、ちるるっと舐め上げた。 ――苦ッ!クシャッと顔をしかめて身を離す。 「なぜ学習していないのですか」 まったく成長していないアリスに呆れるエドガーだが、アリスは「でも今年は平気〜」とサイドラックから何かを取り出した。 「ちゃんと傾向と対策を練ったんだもん。ジャーン」 「……」 アリスが得意気に見せた物は、どう見ても生クリームの絞り袋だ。 「ねぇ先生、これ塗っていいよね」 「……好きにしなさい」 ようし。アリスは真剣な表情で陰茎にクリームをトッピングし始めた。袋を絞り、ウニウニとクリームの線を引いていく。 「…うー…よし、上手にできた。ケーキみたい!そう、これはケーキ。マズくないマズくない」 アリスは自分に暗示を掛けながらドキドキと顔を埋めた。生クリームにまみれた先端をチゥッと吸ってみる。 甘い! アリスは安心して幹を頬張った。口中に柔らかな生クリームが一杯に広がり、何とも美味だ。 「はむ…うちゅっ…うに」 「くっ…」 激しい口内の愛撫に耐えかね、エドガーの快楽は容易く起立する。 アリスの技巧は確かに上達しており、小さい口を一杯に開いて上手く男性器をくわえていた。 裏筋を舐め、亀頭をついばみ、幹を横向きにくわえて愛撫する。 前髪や鼻の頭にクリームを付けて奉仕をするアリスは愛らしく、エドガーの下半身は強くうずいた。 「ふぅぐ…んぐっ…ちゅっ…――うっ!?うびゃっ!」 頑張ってあむあむしていたアリスだが、急に陰茎を吐き出した。 「ぺふ、けふっ…な、なんかいきなりマズくなった…」 当たり前だ。あれだけしゃぶれば生クリームもはげるし液も溢れてくる。 生クリームの甘ったるさにしょっぱさと苦味と青臭さが入り混じり、奥深い不味さを構築したのだ。 「うっ…、この味口に残る…。駄目、もう無理。気持ち悪い…」 オエーッと舌を出すアリスに、エドガーは冷たく言い放った。 「続けなさい」 「え!?」 アリスはまんまるに目を見張る。 「私は馬鹿の中でも食べ物を粗末にする馬鹿が一番嫌いです。これは全部貴方が舐めなさい」 「そ、そんなのやだ!何で急に偉そうにするの?先生は私の物になったんでしょ!」 すると、エドガーは枕元の時計を指した。 「今は何時でしょうか?」 「え?えーと、12時」 「つまり日付が変わりました」 「う、うん…」 何のこっちゃと首を傾げていると、頭をガシッと掴まれた。 エドガーはもう片手で眼鏡を直しながら淡々と告げる。 「私が旦那様から頼まれたのは、クリスマスプレゼントとして1日のみ、アリス様の我が侭に付き合って欲しいという事だけです」 アリスは一瞬ポカンと固まってしまった。 ――大人って汚い!1日だけ!?何それ?詐欺だ! 「やだやだ!ふぎゃっ、やだようマズいのやだ!」 火が付いたように暴れだすアリスだが、頭をエドガーの股間に力づくで押し込まれた。 口にグイグイと陰茎を突っ込まれる。 「うぎゅ、い、息できない、死にゅ〜!」 「喋れるなら息もできます」 「…う…、ちぅ…、じゅぷ…」 アリスは涙目で渋々と舌を使い出した。膨張を増した陰茎で口の中はパンパンで、頭を動かす余裕もない。 必死に先端を舐め続けると口中で陰茎がビクンと波打った。喉に勢い良く射精される。 「つっ…!」 「んぐっ!!ケホッ!ゲホッ、んっ……ごくん…」 アリスがしっかりと飲み干したのを確認し、エドガーはやっと手を離した。 アリスはぽてっと力無く伏せる。 「…うう…ぐすっ。パパも先生も酷い…。人間不信になりそうだよ…」 「どうぞご勝手に。これに懲りたら二度と下劣な真似はしないように」 エドガーはさっさと股間を拭うとベッドから降りた。ハンガーラックから自分のスーツを取り出す。 自分だけすっきりしてもう帰るつもりなのだろうか。アリスは本気で泣けてきた。 「ああん…プレゼントが消えて無くなった…ぐすっ」 しかし、エドガーはベッドへと戻って来た。 「まったく、卑しい人間ですね。プレゼントならありますよ」 スーツの内ポケットから小さな箱を取り出し、涙でボロボロのアリスの前へと差し出す。 「え…、これは本当?本物のプレゼント?」 「はい。旦那様から預かりました」 アリスパパは娘のリクエストを冗談だと思い、別な品をちゃんと用意していたらしい。 さすが16年間アリスのサンタさんをしているパパである。アリスは涙を吹いて歓喜した。 「やったー!やっぱりパパは大好き!早く、早くちょうだい」 エドガーからプレゼントをひったくると、アリスは夢中で包みを破る。 「何かな何かな…、わぁっ、リング!可愛い〜!」 一人で盛り上がるアリスにばれぬよう、エドガーはそっと本棚に歩み寄った。 空っぽの棚に、赤いリボンを掛けられた一冊の本を差し入れる。 「ねえ先生、ここでお泊まりするでしょ。もう寝ようよ。なんかホッとしたら眠くなったよ」 「不衛生ですが仕方ありませんね」 エドガーはいつもの鉄面皮で無愛想に答えた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |