アリスの春の日(非エロ)
シチュエーション


「先生!助けてっ!」

長い廊下に悲壮な声が木霊した。
エドガーは、駆け寄って来たアリスの尋常でない様子に眉を寄せた。

「どうかしましたか?」
「先生っ…私、結婚させられちゃうよ!」

結婚――。エドガーの体が微かに硬直する。
アリスの顔を凝視すると、大きな瞳が溢れ落ちそうにうるうると濡れていた。
震える声でアリスは続ける。

「さっき…パパから大事な話があるって呼び出されて…私の結婚話が水面下で進んでたって明かされたの。
お仕事の都合で絶対破談には出来ないって…。わ、私…どうしたら…」

正に晴天の霹靂である。
エドガーは胸の奥に鈍痛を覚え、呆然と瞬いた。

「…とりあえず部屋で話しましょう。落ち着きなさい」
「先生…」

エドガーに肩を抱かれ、アリスは勉強部屋の戸を抜けた。


机の前に並んで座り、しばし沈黙する。
エドガーは空咳を一つすると、胸ポケットのハンカチーフをアリスにそっと差し出した。

「……相手の方は、どのような?」
「うぅ…グシュン…」

ハンカチーフで口元を覆うと、アリスは蚊の鳴くような声で語り出した。

「…すごく優秀な実業家で、こないだのパーティーで見かけた私に一目惚れしたんだって…。
街を歩けば老若男女誰もが振り向くほどのハンサムで、若干25歳で幾つもの会社を束ねる天才なの。
背が高くて足が長くて、スマートなんだけど決して細過ぎず適度に胸板もあって、脱ぐと意外に逞しいの。
もちろん頭脳明晰で大学は首席で卒業して、さらにスポーツ万能でテニスとフェンシングはプロ級。
女性に優しい紳士だけど、二人きりの夜にはちょっと意地悪な狼へと変貌するエッチな一面も持つの」

怒涛のような説明を終えると、アリスはわっと机に泣き伏せた。

「あぁ〜ん!きっとアリスを大切にしてくれるって思うけど…、好きでもない人といきなり結婚するなんてぇ〜」

「……安心しなさい」

アリスの背に温かな手が置かれる。
手袋越しにも分かる骨ばった長い指に、ドキンとアリスの体が跳ね上がった。

「私が旦那様を必ず説得します。アリス様は何も心配する事はありません」

エドガーの極めて真摯な声。

「…ぇ…ええと」

アリスは机にうっ伏したまま目をキョトキョトさせた。

「大丈夫です。私が守ります。…信じて下さい」

あれ――?
何だか思った展開と違うよう…?
何だかこのままじゃとってもマズイ……。

危険を感じたアリスはピョコッと机から顔を上げた。

「アリス様?」

驚くエドガーを見上げると、引き攣った顔でポケットから目薬を取り出して見せた。

「エ、エイプリルフールだよーぉ!!……ははは…」

――その後数分間、勉強部屋からは悲鳴と激しい物音が絶えなかった。


アリスはぐったりと壁にもたれた。

「お、お尻が熱いぃ…」

ミニスカートを捲り、パンティーを下ろして恐る恐る被害を確認する。
エドガーに強烈な尻叩きを食らった双丘はポカポカと熱を放って腫れていた。
むき卵のような肌にレースの凹凸がくっきり転写され、お間抜けな赤い模様を描いている。

「ふぎゃー……お、お尻が赤い…」

お尻をそーっと撫で、アリスは痛みにスンスン鼻をすすった。

「また目薬ですか?アリス様の涙は今後一切信用しません」

エドガーはいつもの冷たい調子でさっさと授業の用意を進めている。
アリスの唇がプンと尖った。

「エイプリルフールの嘘をこんな厳しく怒るなんて……先生、大人気な〜い」

パンティーを上げると、お尻を刺激しないようにゆっくりと椅子に座る。

「いだだ…ふぅ。……でも、あんなに本気で心配したり怒ったり。やっぱり先生はアリスが大好きなのね」
「まさか。私のあの反応もエイプリルフールのジョークです」
「まぁた〜!見事に引っかかったくせにぃ!あんな嘘くさい架空の人物を信じちゃって恥ずかしいなーっ。
わははははは……あ、嘘、嘘です!もうお尻叩きはヤ…んぎゃ〜!!」

アリスのお尻はサクランボのように赤くなり、すっかり春めいてしまいましたとさ。






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