シチュエーション
「いくよ」 「・・・うん」 目を閉じる美里。 僕も覚悟を決めて、性器を侵入させた。 「──・・・・・・っ!ぁ、ぅ、〜〜っ!」 痛そうだ。まだ途中だ。止めることは許されない。 女の子の部分が応戦している。必死に、そのままで居たいと。 ごめんね。僕はその先の関係に進みたいし、美里だってそう言っているんだ。 幼馴染はもう十分だ。想いを寄せ合う恋人同士でも満足できない。 男と女の関係に、なるんだ。 もぎ取られるような締め付け。その中でも僕の性器は行為を止めず、 最後の抵抗も貫く。 そして、美里自身も触れたことがない場所に辿りついた。 「ぃ・・・っ!ぁ、っ!・・・は、ああ!」 気を抜けばすぐにでも果てそうだ。 熱いぬめりがぎゅうぎゅうに絡んでくる。それこそ自慰なんて子供騙しの 快感にしか過ぎないだろう。 美里は──痛そうだ。眉が歪んで、呼吸すらも上手く出来ていない。 「美里、大丈夫?」 「・・・、う、ん。何とか、・・・っ」 無理をしてる声音だ。やっぱり、今日はここで終わらせるべきかもしれない。 「はぁ・・・いいよ、ひろちゃん」 その身体を走り抜ける痛みを堪えて、美里は言ってくれた。 「解った」 その痛みが消えることなんてないだろうから、少しでも慣れて欲しい。 ちょっとずつ動かそう。 「くぅ・・・ん、ん!」 声を噛み殺す美里。何か、痛み以外に気を引きつける方法。 この姿勢じゃ、唇を重ねるくらいしかない。 「ひ、ん・・・はむぅ・・・っ!──ん、んん!」 舌を伸ばし合って、性器と同じく密着させる。 じゅぶりと音を立てて、性器の動きは滑らかになる。 美里の中も、微かではあるけど僕の動きに合わせるように収縮を始めている。 膣内を満たすと拒むような締め付け、引き抜くとそれを阻むように掴まれた。 一往復させる度に、理性が蒸発しそうになってしまう。 本能の暴発はすぐそこまで来ていた。 美里は痛そうに喘いでいる。 早く終わらせたいけど、これ以上激しくするのも気が引けるし。 「・・・っ、く、あぁん・・・ん、ふ、ぅん」 その声に理性の大半が揮発した。 僅かではあるけど、快楽の声が混じっている。 ・・・くそ、滅茶苦茶に動きたい。もっと美里の悦声を響かせたい。 「ひろちゃ、あぁん・・・」 「美里?」 一見して無理やりだと解る笑みだ。 「そんなに、我慢しなくても、っ、いいんだよ?」 「そう言うけどな、・・・」 「そんな苦しそうなひろちゃんなんて、見たくない」 自分がどんな顔なのか解らないけど、美里が嘘をついているとは思えない。 苦痛の中での艶声も、嘘じゃない。 なら、 「どうしても痛かったら、言えよ。止めるからな」 「うん、言うから、・・・続き、しよ」 薄皮一枚の理性を総動員して深いキスをする。 「あん、・・・ん、んん、・・・ん!、ぅん!」 口付けながら、僕の腰は信じられない強さで美里に打ち付け始める。 半ば他人事のようで、そのくせ快感だけは脊髄を駆け上がってくる。 「い、──っ!ああ!きゃ、あああん!」 勝手に動く腰。邪魔だぞ本能。美里を抱いていいのは僕だけだ。 僕の美里なんだ。 支配権を奪い返して、先端が抜け出る寸前まで腰を引いて、叩き付けた。 「はぁ、っ!」 短い喘ぎを僕は受け止め、もう一回。 がくん。 「〜〜っ!ん、ああ!」 苦痛で歪む顔が、僅かに快楽の色を増していく。 僕の拙い行為で美里が変わっていく様子に、際限なく昂ってしまう。 とっくに出そうだけど、その最後を拒否してしまう僕。 …理由は明確だ。 「はぁあああん!っは、…っ!は、あ!」 何度も何度も、気持ちをこめて打ち付けた。 はじめて見る女らしい美里。ずっと見ていたいけど、こっちが限界だ。 一番奥の所を小刻みに愛撫しながら、言う。 「美里、…っ!出すよ!」 僕の言葉に、美里の膣内はぐんぐんと締まってくる。 「うんっ!うんっ!いいよぉ!」 背中を反らせて、ぐいぐいと膨張しきった性器を押し付けた。 美里の締め付けも今までで一番きつくなる。背骨が反り返って、僕の性器が より深いところまで埋まっていく。 「く、う!」 「っく、ふぁああああん!」 性器が潰れそうに狭くなる膣内で、射精する。 どくん。どくん。 一回一回に味わった事がない快楽が伴う。精液が尿道を通る快感が、美里の締め付けで 普段より数倍もはっきりと自覚出来る。 「は、──っ!、くぅ…っ」 精液の勢いはもう失われているけど、尚も性器を押しつけ続ける。 一滴だって外にこぼしたくない。全部、美里の中に入れるんだ。 「ん、…ぅ、ん」 美里が僕のを全てを受け入れたのを確認して、脱力。 どくどくと心臓の音が聞こえる。美里を見ると、放心状態だ。 目は半開きで、焦点はどこにも合っていない。 ・・・とにかく、一度離れよう。このまま身体を重ねてしまいたいけど、美里の負担を 増やすわけにはいかない。 やや力を失った性器を引き抜く。美里の秘蜜で光り、先端には粘つく精液が糸を引いている。 じわじわと秘所からも精液が溢れ出している。 その、自分でも信じられないくらいの量だったと思う。恐らくは濃さも。 しかもコイツは今だにやる気を失っていないし。ちょっとした刺激で一気に機能を回復 するんだろうな。 シーツには赤い点が幾つかあった。血が出るくらいの損傷。痛かっただろうな。 仰向けの美里に添い寝する。髪を撫でながら、丁度いい言葉を思いつけない。 痛かったか、なんて言えないし・・・それを謝るのもおかしいだろうな。 とりあえず、頬に口付ける。 もう苦悶の様子は殆どない。 と、半眼の黒目が僕に向き直す。 「・・・ひろちゃんは、大丈夫?」 僕の身体を気遣う問いだ。普通なら反対だろうけど、それも仕方ない。 「うん、何とかな」 本心を言えば、こういった行為に耐えられるか疑問だった。 運動で発作を起こす人だっている。僕も何度か運動中に起こった事はあるけど、 それは本当に限界まで動いての場合だ。そうは理解していても、不安はあった。 美里を抱いて、その不安がなくなった。歳を重ねた分だけ少しは軽くなってるのかな。 「よかった・・・」 言いながら僕の腕にしがみ付いてくる。 「じゃあさ、ひろちゃん・・・」 かと思いきや、僕の上に這い上がってくる。 「み、さと・・・?」 「私が、動く番だよね」 未熟ながらも、妖しい笑み。胸に当たる柔らかさと重複して、僕の 性器はあっという間に硬さを取り戻す。 ぶるんと振り上がり、美里の丸い尻をかすめた。 「・・・あは」 胸に顔を載せる美里。やけに嬉しそうに、恥ずかしがる。 続けるつもり、みたいだけど。 「美里、・・・その、痛くないのか?」 「痛かったけど、ちょっとは気持ちよかったんだよ」 囁くような声だけど、何だか──背筋がぞくぞくしてしまう。 「ひろちゃんと私って、身体の相性、いいんだよ」 「・・・ばか、そんな事言うなって」 恥ずかしくて美里を見ているのがつらい。 だからね、と美里は続けて言った。 「次は、もっと気持ちいいと思うよ」 妖艶な微笑みで腰を浮かせ、僕の性器に指を絡める。 「──っ!」 ぎこちない指使い。だけど、がちがちに性器が充血してしまう。 美里がそんな事をしているという事実が、余計に僕を興奮させる。 「ん・・・っ」 ずぶずぶと秘所に性器が埋まる。さっきよりは随分と楽に入っていく。 締め付けも弱く、でも視線は熱いままだ。 突き上げようとする本能を固めて、待った。 美里は自分から動くって言った。ちゃんと待ってあげないと。 「は、あん・・・こう、かな?」 僕の胸に両手をついて、腰を振り始めた。 目は閉じてない。とろんと下がった目尻が、身に渦巻く快感を示しているのか。 「ん、ん、やっぱり、・・・いいみたい、ひろちゃん・・・」 その呼吸はだんだんと浅くなっていく。その合間に色めいた声が混じり始めた。 「ぅん、…あ、んん…ね、知ってる?」 ひどく妖しい顔で美里は言い出した。 「私にこういう事していいのって、ひろちゃんだけなんだよ」 その妖しさは薄れていって、真剣な面持ちになっていく。 「ひろちゃんにこういう事していのは、私だけなんだよ」 ぎしぎしとベッドを軋ませる美里。 視線は強くて、振るう腰にも感情がこもって、 熱にうなされるように僕の名前を呼んでいる。 ひろちゃん。ひろちゃん。ひろちゃん、ひろちゃん。 …思い出す。 美里をいじめっ子から助けた後、僕はひどい発作を起こしたんだ。 動くに動けなくて、ただじっとしてるしかなかった。 ひろちゃん。ごめんね。ひろちゃん。ごめんね。ひろちゃん、ひろちゃん。 何回も僕に謝る美里。答える余裕なんて全然なかったけど、 それでも美里は僕を呼び続けた。美里は全然悪くなんかないのに、謝り続けてくれた。 次の日からは見違えるように明るく振舞うようになった。 おとなしい子が、それこそ人が変わったように明るくなる理由。 自分の為にそうするなら、僕と二人っきりの時でもそうする筈だ。 なのに、そうしない。僕にだけ、おとなしい、本来の自分を見せる。 僕にだけは。 …こんな時だっていうのに、胸がいっぱいになる。 美里が他の人に明るくなった理由。 僕をあの時のように苦しめたくないから、なのか。 いじめられないような明るさを演じているのは、その為なのか。 あんな昔からずっと続けてきたんだ。僕にだけ特別な感情を持っていた、ということだろう。 何で気付けなかったのか、僕は。 「ごめんな、美里」 「…ひろ、ちゃん?」 もっと早く気付くべきだった。 小さい頃からずっと見ていた美里。もっと早くから、報われるべきだった努力。 僕以外に誰が報いてやれるんだ。 「ごめん。気付けなくて、ごめんな」 離れていた美里の身体を引き寄せて、今度こそ正面から言った。 「好きだよ、美里」 「…っ!ひろちゃん…うん、私も、好きだよ」 そのまま唇を触れ合わせて、ベッドの弾みを利用した突き上げを始める。 もう止まっていられない。これまで気付けなかった分を、返そう。 「ん、あ!く、あ、あぁ!」 悦声がひとつ漏れる度に、上体が起き上がって背筋が伸びていく美里。 かたちのいい乳房が上下に揺れて、快感の水かさはどんどん高くなる。 性器と密着している膣も、僕の射精を促すようにきりきりと搾り始めた。 ただきつかった最初の性交とはまるで違う快感。 美里にもちゃんと感じて欲しい。熱っぽい声を浴びながらひたすら突き上げて、 時には尻を掴んで入り口を擦る。 「はぁ、あ、あ、ああ!」 一層美里の声が高まって、それと同調するように射精感も強まっていく。 次も全部注ぎ込む。それには、なによりも勢いが必要。溜めて溜めて、一気に全てを 解き放つんだ。 ありったけの体力を使って美里を踊らせた。 「ひろ、ちゃ、あぁん!こわ、れ、んああ!」 そんなのは僕だって同じだ。溜まりきったのが、今にも爆発しそうだ。 「ひ、あ…っ!──っ!〜〜〜〜っ!」 美里は肺の空気を出し切って、声を出せないまま絶頂した。 僕にも限界が訪れ、放出。 「っ!ふ、ぅ…!」 僕の精液を受け止める美里。全身がわなわなと緊張しながら震えて、数瞬してから くず折れた。胸と胸が重なって、美里の興奮ぶりがよく解る。 とくとくとくとく。鼓動が全く同時だ。 心拍数が時間と共に落ちていく。二人一緒に。 肩口にあった黒い滝が流れて、美里の笑みになる。 何も言わないけど、それだけで美里が満足してるのが伝わってくる。 温かい身体。いい匂い。離すのが勿体無い。もう少しこのままでいよう。 ひとつの布団の中で向き合って、意味もなくじゃれ合う。 きれいな髪を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じる美里。 しばらくすると僕の手を掴んで頬擦り。うっとりとした表情が可愛い。 何となく掴み返して僕の胸に押し当てた。年相応の、小さい手のひらが温かい。 それを追うように胸に顔を埋めてくる美里。 と、布団に入って初めての声。 「あ、凄い」 「何が?」 僕にやや驚きの表情を見せて、続けた。 「ひろちゃんは解らない?」 何だろう…特別してることなんてないけどな。 「うん、解らない」 「意識してないのに腹式呼吸してるよ。私は、出来ない」 言われてから気付いた。確かに腹だけが動いて、胸は全く動いていない。 意識して胸を膨らませて呼吸。しかし。 「なあ、何でこんな苦しい呼吸してるの?」 本当に疑問だ。僕にとっては苦しいだけの胸式呼吸だけど、美里はこれを自然にしている。 普通はこうなんだろうな。 美里の表情が曇る。 「そうだよね、昔からだもんね…」 何か言いたそうな顔だ。 「どうした?」 「訊きたい事、あるんだけど…」 「何?」 「うん、…答えたくないなら無視していいからね。気分悪くしたらごめんね。 …、ひろちゃんは、ご両親を、恨んだことはないの?」 ……?何でだ? 「いや、ないよ」 「本当に?私、今でも思い出せるよ。小さい頃、夜中にひろちゃんの家にタクシーが来て、 すぐに走っていくんだよ。あれって、発作だったんでしょ?」 あー、その話か。 「らしいけど、一回も覚えてないんだ」 母さんや親父から何回も言われた事だ。あんなに連れていったのに覚えてないのかって。 思い出せないんだからどうしようもない。 「何回もあったんだよ?何日も続いた時だってあったんだよ?…本当に覚えてないの? …そんな身体で産んだご両親に、そういう感情は本当にないの?」 僕の喘息はアレルギー体質によるものだ。 間違いなく遺伝によるものだろう。母さんも親父もそういった症状は少しはあったみたいだ。 美里がそんな事を思うのは当然とも言える。 けど。 「恨むなんて、これっぽっちもないよ」 これについてはまず間違いなく断言できる。 「小学の運動会の、マラソンは覚えてる?」 「…何となく」 だろうな。 美里や他の人にとっては、面倒で疲れるだけのプログラムに過ぎないだろうけど、僕は違った。 「あの時は僕も走った。体力ないのにな。…で、当たり前だけど一番最後にゴールしたんだ。 前にゴールした人の、十分以上も後にね」 途中で何回も歩いたけど、足を止める事はなかった。 「母さんがね、いつでもしつこく言うんだよ。時間がかかってもちゃんと最後までやれって。 やれない事なんてないんだってね」 「……」 美里は黙って聞いている。 「走ってる最中はそればっかり頭にあった。やれない事はない。それを守りたかった。 守ったところを見せたかったんだよ」 ゴール前の拍手。どんな気持ちなのか解らないけど、いらない。僕が欲しかったのはそんなものじゃない。 「で、運動会が終わって家に帰ってから、思いっきり褒めてくれたんだ」 マラソンが終わった直後は普通に振舞ってたけど、それは他人の目があったからだろうな。 子供心にもそのくらいは解った。家に帰ってからは凄かった。 「何ていうか、うん、あれがあったから、こうしていられるんだと思うよ」 やってよかった。諦めなくてよかった。とても、嬉しかった。 苦労する事に価値があるって確信したのは、あれが初めてだと思う。 「母さんがいなかったら、こういう性格にはなってなかっただろうし、 親父がいなかったら、そもそも生活だって出来ていない」 ──あ、そうだ。思い出した。 「言うの忘れてた。…ありがとうな、美里」 美里は呆けたような顔だ。どうやら本人も忘れているらしい。 「…?」 「僕の病気、調べてただろ」 「あ、・・・うん、そうだけど、ひろちゃんはさ、」 すこし苦しそうな美里。そのままでいいのか、と続けるのだろうけど。 「…何もしなかった訳じゃないよ」 それなりにはやった。あれこれと試して、効果はあまりなかった。 これからも付き合う覚悟はもう出来てる。治らないと確信さえしている。 それに、 「何もかも損ばっかりって訳でもないよ」 不思議そうな顔で僕を見つめる美里。 まあ、理解するのは難しいか。 「そりゃ、発作は苦しいけどな。…治まった後なんかは『生きてる』っていうのを 本当に実感出来るんだよ。思い通りに頭も身体も動く。当たり前の事なんだけど… うん、気持ちいいんだ。 友達はいなかったけどな・・・ 思考の快楽なんていう簡単には得られない感覚が身についた。 単純な計算だけじゃなくて、普通とはちょっと違う方向の発想もしてくれるし。 多少の寒いのやら厚いのやら、痛いとか苦しいなんて発作と比べれば何てことない。 損ばかりじゃないんだよ」 改めて向きなおして、僕は言う。 「それと、美里とこういう仲になれたし、な」 一番の人が出来た。こんなにも早く。 美里はというと、恥ずかしそうに顔を隠してる。 絶対に守りたい人。これから迷う事はない。僕は、この人を守るんだ。 恩返しなんかじゃない。僕がそうしたいからそうする。 美里だから、そうするんだ。 胸元からのちろちろと窺うような視線に、声が重なる。 「…言ってて恥ずかしくない?」 ぐあ、それを言うか。 なら反撃してやろう。 「言わせた方はどうなんだよ?」 また顔が見えなくなった。照れてるんだ。 それでも背中にまわってくる腕。嬉しさの表れだよな。 少し経ってからそろそろと顔をあげる美里。 「ね、ひろちゃん」 「何?」 「ちょっとだけ、眠ってもいい?」 初めての体験への緊張が解けたのだろう。 忘れていた疲労が噴きだすのも無理はない。 「いいよ。時間になったら起こすから」 「うん、ありがと」 すぐに静かな寝息が聞こえるようになった。 僕も眠いけど美里を起こすまで我慢だ。 過度の熱が冷めて、温かい静謐で満ちる部屋。 同じ布団の中には大事な人がいて、無防備な寝顔を見せてくれている。 ・・・きっと、そうだ。 勝手な思い込みだろうけど、 これは間違いなく『幸せ』のかたちのひとつなのだろう。 SS一覧に戻る メインページに戻る |