KNOCK DOWN! 2(非エロ)
シチュエーション


2.トゥルーorアクト/真相


証言者Aの話。

「あれは舌まで入ってたな。舌」

証言者Bの話。

「いつどこで告ったんだろうな。俺はそっちの方が気になる」

証言者Cの話。

「うがー!藤沼許すまじ!このことは直ちに上に報告し、然るべき手段を取る
ので首洗って待ってろよ!」

なんて騒がしい外野の感想は置いといて、話の続きに戻る。
時間はえーとあれだ。俺が放心状態だったところから。特記事項は彼女との
接触。
深い意味は無いので注意。

柔らかいものが重なる。
ああ、唇って触れると案外いいもんだよな、いい匂いもするし。
む、しかし、何と言うかこりゃ息が続かん。ぅあっ舌まで入れてくるとはこいつ
慣れてるな。
手が宙に浮いたままどうしたらいいのかを迷い、上へ下へと喘ぐ。
仕方無く彼女の腰の脇っちょの制服を掴むと、その接触にびくりと彼女が震え、
唇が離れた。
銀糸は互いの唇から紡がれたが、敢え無く途切れた。
いろんな意味で助かった。思いっきり息を整える。
周囲が何やら騒がしいが、それ程気にならなかった。
ぴろりん、だの、かしゃ、だのあった気はするが、これと言ってもう後の祭りと
しか言いようが無い。腰が細かったとか、いい匂いがしたとか、そんなことが頭
の中を支配していたはずも無い。
歓声と怒号が遠くで渦巻く中、彼女が囁いた。

「7時間後、裏庭で待ってますから」

漆黒の髪は揺れ、ちょっと怒ったような笑顔で彼女は告げると、返事も待たずに
去っていく。
何が起こったのか総括を行う暇も無く、胸倉は掴まれ人だかりは出来、そして
チャイムが鳴った。

――それが、6時間と35分前。

未だ春の暖かさは残っているが、数時間もすれば冬の寒さの残滓が訪れるだろう。

今日は全く以って素晴らしい一日だった。
学校中の奴らが入れ替わり立ち代わり窓際で寛ぐ俺を観察に来るばかりか、
新聞部の連中はインタビューにまでおいでなすった。
そう。新聞部がすっぱ抜けなかった事実は、今や校内中を駆け巡っていた。
人が大勢いる廊下とか食堂とかであった出来事では無いのに、どうしてここまで
広まるんでしょうね。嗚呼、口コミとはあな恐ろしや。

事件の発端を語ろう。話はちょうど一週間前に溯る。
放課後、下駄箱近くで小さく「藤沼くん」と呼び止められる声に振り向いた。
この時点での彼女の選択は満点だったと言って良い。
先を行く友人らには気付かれないよう背後から呼び止め、俺だけを振り返ら
せることが出来たからだ。

「はい」

呼ばれて少々声の主を探すのに手間取り、1つ段差のある体育館に抜ける
横道に彼女はひっそりといた。
目が合うと、何故かまるで隠れるためにあるような、人ひとり分のスペースから
彼女は出て来た。後に告白待ちスペースと命名することになるが、取り敢えず
本筋に戻る。

「はい」

もう一度俺は何でしょう、の意味を込めて言った。

誰だか分からないはずも無かった。入学当時から有名なのだから、知っている
のは当然と言えば当然だが。
最初見た俺の感想は『動く日本人形』。所作のひとつひとつが美しく、何て絵に
なる人だろう、だった。
その後なんと言うか、色々あって『氷姫』と呼ばれるようになったのだ。
そんな訳で接点も無く、話したことも無かった彼女の用事を、特に気構えもせず
受け入れた。
上目遣いで俺を見る彼女を綺麗だ、とも思った。

「…好きです」
「は」

疑問系でもなく威圧でもなく、ただ他に言葉が出てこなかった。
さすがの俺も告白されるとは想定していなかったのだ。
被せるように、涼やかだが艶のある声で彼女が続ける。

「付き合ってください」

取り敢えずの感想は「何で俺?」だった。と言う考えも顔に出ていたかも
しれない。正に驚天動地。
え、だって何の話もしたことすらないのに何故。

「えーっと…」

俺が何かリアクションを起こす前に、

「藤沼ー!」

彼女がびくりと身を竦める。

「今行く!」

焦ったような彼女と目が合った。

「えーっと、返事はまた今度……」
「…はい」

お互いにタイミングがまずかったという顔をして、その場で別れた。

その夜、俺は考えた。
あれはからかわれたんじゃないかと。
隠れてこっそり、目は泳ぎ、告白は短く、人に知れると拙いというシチュエーション。
これで導き出される解は、どう見ても罰ゲームしか思いつかない。
彼女らしからぬおどおどした行動も、俺の推論を信じさせた。

翌日。
例え嘘でも返事はしておこうと上の階へ。
因みに彼女は2のCで、1フロアに6教室なため1のAから2のBまでが3階、
階を挟んで正反対の場所にいる――その場所へ行ってみた。
すると、その後俺が蹴散らした新聞部がインタビューを行っていた。
昼休みじゃ仕方ない、と諦めて放課後。教室を覗くといない。聞けば生徒会
とか。そこで俺は初めて生徒会に入っている事を思い出し、その日の返事を
諦めた。

翌々日。
別に急ぐことでもないだろうと掃除を終わらせ、2のCへ。不在。呼び出された
とかでその日も終了。

翌々翌日。
仕方なくもう一度昼休みに。何だか人だかりがあってその中心が彼女。これ
じゃあ呼び出すのも気が引ける。放課後。教室に帰って来ないだとかで終了。
その翌日と翌々日は休日。
どーしろっちゅーんだ。
それから俺は、あの告白が真正なものである可能性に付いても考え始めた。
本当に一瞬の隙を突いて彼女は告白をしたのではないかと。

翌週、つまり昨日。
週明けの報告も言うまでもない。
俺は飽きた。挫けたとでも言うべきか。
それにもう1週間ほっとかれたのだから、冗談だろうと思うようになっていた。
彼女と秘密裏に接触しようにも、どこにも彼女がひとりになる時間は見つから
なかった。
それでもって今朝、事件は起こった。

そして今俺は考えた。………キスの件は帳消しにしよう。返事を待たせて
しまった俺にも非はある。よし、その方向で行こう。

――随分と落ち着いていると思われるだろうが、もう告白された件については
今更としか言いようが無い。対処し切れなかったこっちが悪いのだ。起こって
しまった事も以下省略。
取り敢えず言えるのは、恐るべし乙女チック暴走パワー。この暴走には
黒幕が存在するのだが、機会があればいずれ語るだろう。
この頃、俺の主義が若干変更されているのだが、それにも気付くはずも無かった。

考えを固めた俺は、席から立ち上がった。
静かな教室の中に椅子の引かれる音が響く。
不自然なエージェント共が、一斉に横目で俺を捕捉する。
里居、お前隣のクラスだろ。何普通に席に着いてんだよ。
目が合ったひとりに穏やかな目を向けると、相手は憎しみの篭もった目を向けて
来るが、それ以上は何もしてこなかった。
本当にエージェントのつもりなのか。
そう言えば放課後の教室はどことなく室温が低かった。
鞄を持ち、忘れ物が無いか机の中を確認。よし。
行くか!

「じゃお疲れ」

ガタン

次々に残っていた10名程の男共の背が林立する。
マジでエージェントか。
昨日までの友も今日は敵……そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
着いて来る気だなこりゃ。
いい加減、俺も荷物を降ろしたい。

俺は時計を確認した。只今15時45分。






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