シチュエーション
待つ。という行為がこれほどまでに苦痛を伴うものだとは思わなかった。 薄暗い待合室の突き当たり。重く閉ざされた手術室の扉の向こうで、今、彼女は必死に戦っている。 扉の上に設置された『圧縮中』の赤いランプが、あたかも強固な封印であるかのように灯されていた。 …私、本当はね、全部知ってたんだ。 …病気の事とか、危ない手術だって事とか。 …あと、私も先生の事、好きです。 …あれ? 何で涙が出るんだろ? …違う。本当は泣きたかったの、怖かった。 …お願い…もっと、ぎゅうって抱きしめて。このまま消えちゃいそうだから… 小刻みに震える彼女の華奢な身体、苦しそうな吐息、年相応のふくらみからパジャマ越しに伝わる鼓動。 ありのままの彼女を受け止めた感触が、まだ両腕に残っている。 どれだけ時間が経ったのだろう。 相変わらず扉の向こうからは何も伝わってこない。 そして、この待合室も、相変わらず無音に包まれている。 …もし、手術が無事終わったら、…ううん、絶対無事に終わる。 …そしたら、外泊許可貰って、先生と一緒に… 手術が始まる前に彼女が残した言葉が、ずっと頭の奥で響いていた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |