シチュエーション
美しい娘がうちに入院した。 図らずも担当となった俺はすぐにやられた。一目ぼれだった。 彼女の病、それは、目が見えないことだった。 彼女は兄を愛していた。 その兄に婚約者ができた。 彼女は困惑した。受け入れようと努力した。だが無理だった。 狂おしいまでの情熱を抑えるうち、無意識のうちに婚約者を傷つける事件が起こった。 精神衰弱を治療するため、という名目でここへ入れられた彼女に変化が起きた。 目が見えなくなったのだ。 いやこう言った方が正しい。婚約者だけが見えなくなったのだと。 彼女にとって婚約者は、存在しないものになっていた。 彼女は精神の均衡を取り戻す。 兄夫婦も安心。ハッピーエンド。 なワケはない。 身近な人間を理想の男性に祭り上げることで社会を知った気か? 世界はもっと広い。 俺は今日も目の前に腰掛けている。恐れている目を開けてくれるようにまで。 SS一覧に戻る メインページに戻る |