私たちは、一つ
シチュエーション


・百合です。初めて書きました
・オーソドックスなシチュしか書けない奴なので察して下さい
・結構うつになる終わり方で私もうつです


「失礼しまーす」

病室に入るとすぐ、看護婦さんとすれ違った。
そして目の前には、見慣れた幼馴染の顔。

「常夏、元気にしてた?」
「あら真冬。…ううん。あまり元気じゃないわ」

見て分かった。この前よりも、また痩せた。

「検診、終わったんだ」
「ええ。薬も飲んだし――ちょっと眠たいけど」

私はイスを持ってきて座った。
パジャマ姿の常夏をこうして間近に見るのも、もう当たり前になった。

「ここのところ、ずっとじめじめだね」
「ふふ…でも、バケツをひっくり返したような雨よりは、風流があって良いわ」

外は雨。病院の庭に人の姿は見当たらない。

「ねぇ、元気出してね常夏。病気が治ったらまた二人で一緒に――約束だからね」
「……」

私は絶対、常夏に悲しい顔は見せない。
普段通り、明るく元気な自分で接する。不安にさせたくないから。
どうしても悲しい時は、顔が見れないように、彼女と抱き合う。

「真冬――?」
「常夏…好き」

もう、常夏が長くないことは私も分かっている。
来る度に私は、こうして甘えるように彼女に埋まる。
辛いよ――こんなことしか出来ないなんて。

「はぁ…真冬は、昔から甘えん坊さん」

そう言って常夏は、私の髪を撫でた。

しばらくそうしていた。声は絶対に出さない。
泣かない。どんなに悲しくたって、私は――。
気持ちは収まった。私はそっと、体を離す。

「……やっぱり常夏の体って、ふかふかで気持ち良い。胸の肉、少しは私に分けてよ〜」

私は笑顔で、口から冗談を放つ。

いつもなら、下らない話にも付き合ってくれる常夏。
だけど今日は軽く笑って、溜息をつくだけ。

「真冬…私――」
「そんな顔は似合わないって。あーもしかして私に愛の告白とか?どーしよー」

嫌だ。何も言わないで。

「ねぇ、それよりさ――」
「好きよ――私も真冬のこと」
「――わあっ。じゃあ、相思相愛だね。よーし、またぎゅーっとしちゃおうっと」
「……ええ、ぎゅーっとして」

気持ちを抑え込むのは、もう限界に近かった。

「ん…真冬ったら、そんなにきつく抱かなくたって、私は何処にも行かないわ」
「うん……はぁ…」

常夏はそっと体を離して、私の顔を見た。

「どう…したの?私の顔に…何か付いてる?」

私は今、どんな表情をしているの?

常夏の手が、私の頬に触れる。

「ごめんね。私――真冬だけは泣かせたくなかった」

常夏の手が触れたのは、涙だった。私は自覚もなく、泣いていた。

「な、何?ほら、好きだから…嬉しくて…私――」

もうダメ。何で?私のバカ。こんなの嫌っ。

「は…はぁっ…うわあぁぁー」

涙が止まらない。抑えきれない。
抑えたくない。このまま泣いてしまいたい。
何で、何で常夏がこんな目に遭うの?何で私――?
神さま、何でよ!?

気が付けばずいぶんと長い時間、そこで泣いていた。
私は常夏の胸の中に、顔を埋めていた。
体をしっかりと、常夏が抱いている。

「…常夏…くすん」
「……私の為に、泣いてくれてありがとう」

私は泣き疲れて、放心状態だった。
常夏はただ私の体を抱き、髪を撫でていてくれた。

「常夏…好き…」
「私も…真冬、好きよ」

そう言って、私の顔を持ち上げた。

彼女は私にキスをしてきた。
昔悪ふざけから始まって、それから何度かやった。
けど、こんなに心を締め付けるキスは、初めてだった。

「うん……」

嬉しくて、そして悲しくて、また涙が零れた。

「ん…ふ…」

大人しい彼女が精一杯、私と舌を絡ませる。
まるでとろけるような感覚で、私も無意識に応じていた。

「ぷ…は…」

常夏の舌と私の舌に、糸が出来ていた。

元気だった時よりも確実に弱い力で、常夏は私をベッドに引き入れた。
私の服をゆっくりと脱がすその手つきが、信じられずに茫然としていた。

「んっ――」

常夏の手が優しく私の胸に触れ、撫でるように揉み始めた。
気持ち良くて、何よりも常夏に触れられるのが、嬉しい。

常夏も片手でパジャマのボタンを外し、胸元をさらけ出した。
その大きな胸を、私は恐る恐る触れる。

――温かい。

そしてまた、顔を埋める。いつだって私を受け止めてくれた、この場所に。
横になったまま、私たちはまた抱き合った。

常夏の手が私の腕を掴み、下半身へと誘導した。
ズボンを下ろし、下着の中に。大事な部分を触れさせられる。
熱かった。そしてじっとりと、湿っていた。
指が思わず、動いてしまう。

「はぁっ…ああっ…」

苦しそうに悶えながらも、私に見せる常夏の表情は、何だか優しかった。
声を出されるたびに、指に思わず力が入る。

「あんっ…あはぁっ…!」

そして、中の何かに触れた時、常夏の体がびくん、と強く反応した。
気が付いたら、常夏のが指を、シーツを濡らしていた。

常夏は今度は私のスカートを下ろし、下着越しに触ってきた。

「やぁ…んっ――!」

体に快感が、電気のように伝わった。
常夏はきつそうな表情を浮かべながらも、私には笑顔のまま。
下着を下ろし、直に触れてくる常夏の手。

「い、い…やっ…!」

思わず口に出してしまったけど、全然嫌じゃなかった。
ただ、気持ちが良くて、嬉しいだけ。
思えばずっと、自慰をしていた。漠然とした何かを思い浮かべ、ただ気持ち良くなりたくて――。
私が欲しかったのは……常夏だった。

指を中に入れ、段々と激しくなる動き。
下半身が今までの経験にないくらいに、強く疼く。

「やっ…はあっ…ああうっ…!」

常夏はその体勢のまま、またキスをしてきた。
さっきよりもずっと、舌が――ううん、頭も体も、全部とろけそうになる。

「いっ…あっ――!!」

私の体はとろけて、弾けた。そんな感覚しかなかった。
ただ頬に涙が伝っていたのは確かに分かり、常夏がキスで拭いてくれた。

「はぁ…はぁ…常夏、私――!」
「ずっと…一緒よ、真冬」

その後も私たちは病室を締め切り、夢中で体を交え合った。
今日で全ての思いを、気持ちを――吐き出す為に。
常夏も涙を流した。死ぬのが恐いと、別れるのが辛いと。
私も枯れるまで泣いた。感情を全てぶつけ、ぶつけられて。
そして愛した。好きだったことを、未来永劫忘れたくないから。

「真冬…大好き。誰よりも、何よりも好き。ありがとう」
「常夏――私も大好き。世界で一番好き。だから――!」
「私、幸せ……最後の最後に、一番心強い支えが出来たわ」
「私も…幸せ…」
「そう。だって私たちは二人で一つ。だからもう、何にも恐くない」

その後一ヶ月を待たずに、常夏は息を引き取った。
やっぱり涙が出た。悲しかった。思い出が、心を締め付けた。
でも、気持ちを偽ったまま別れていたら、多分私も常夏も、幸せにはなれなかった。
常夏は、今も私の記憶と体にずっと生きてる。
ずっと一緒。――私たちは、一つ。


おしまい






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