シチュエーション
隣町で、祭りがあるのだという。季節柄か、最近はよくその手の話を聞く。 たいそうな縁起が在る訳でもない社に、幾つかの提灯がくくりつけられ、申し訳程度に祭り囃子が響き、あとは出店ばかり、といった、つまりは極在り来たりの祭りであった。 大抵の者が家族や知り合いと来るであろうこの場で、一人でいる者は一際浮いて見えた。 互いに。 狐がこちらを向いていた。 年の頃は十代中頃か。 長い髪を、髪留めでまとめていた。 藍色の浴衣には、紫陽花か何かの花が描かれていた。 狐……の面を被った娘、だった。 遠くから、立ち止まってこちらを向いていた。 声を掛けようと近づくと、踵を返して社の石段を登っていった。 狐の片耳に付いた鈴が、ちりんと音を立てた。 気づけば、娘を追うように石段を登っていた。 娘は一度振り向いて、こちらが追いかけて来たのを確かめると、再び走り始めた。 祭りの人ごみを掻き分け、娘を追った。 どれ程速く足を動かしても追い付くことはできなかったが、見失いそうになる度に、娘は足を停め、こちらを待つように見つめていた。 まるで鬼事のようだった。 娘に導かれるように走り続け、次第々々に参道から離れ、山中に入っていた。 最早帰り道も分からず、暗闇で足元すらおぼつかなくなっていた。いつの間にか娘も見失ってしまったが、自棄になって前に進んだ。 どれ程の時間が経っただろうか、ふと耳を澄ませてみると、鈴の音が聞こえていた。 その音を頼りに、ただひたすら走った。 気が付くと、社の裏手まで戻って来ていた。 そこに娘はいた。 相変わらず面を被ったまま、逃げるでもなく、じっとこちらを見ていた。 間近で見る娘の肌は、夜の月に照らされ、青白く光っていた。幻のようだった。 恐る恐る手を伸ばし、娘の肩に触れた。娘は逃げなかった。 娘を組み敷いて、浴衣をはだけさせ、躰じゅうに触れていった。 どこもひんやりと冷たかった。 自分の熱を移すように乳房を揉み、腿を撫で回し、首筋を貪った。 面越しにくぐもった吐息が聞こえた。 髪留めを外し、手櫛で髪をとかしてやった。 長い髪からはほのかに柑橘系の匂いがした。 うなじを撫でてやると、息が少し荒くなった。 娘の存在を、幻などではないことを確かめたかった。 後ろを向かせ、社の壁に手をつけさせると、逸物を娘に突き入れた。 娘の中は、表面とは違い、煮えたぎるように熱かった。 溶けてしまいそうな感覚に酔いしれ、遮二無二腰を振った。 娘の躰が糸繰り人形のように震え、鈴が何度も音をたてて揺れた。 より深く娘を確かめようと激しく打ち込むと、面に隠れた口からあ、あ、とか細い悲鳴が漏れた。 肉の擦れる感触と、娘の嬌声と、鈴の音。 それ以外の感覚も思考も全て消え失せ、意識が闇に落ちるまで幾度となく娘の中を汚し、果てた。 目が覚めると、すでに御天道様が登った後であった。 娘は、消えていた。 辺りを見回してみても、自分以外の足跡は一つも見当たらなかった。 髪の毛一本落ちていなかった。 まさしく狐につままれたようだった。 仕方なく、帰ることにした。 とぼとぼと社の表に出て、参道を歩き、石段を降りた。 最後の一段を降り切った時、上から鈴の音が聞こえた。 石段の上に、娘がいた。 狐の面を被りながら、どこか淋しそうに手を振っていた。 《了》 SS一覧に戻る メインページに戻る |